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590・ダークエルフ族の長(ファリスside)
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様々な魔導を展開し、敵兵を圧倒的な火力で制圧していたファリスは、自陣の最前線に向かって放たれた光線の出処を探る事にした。敵側の攻勢と同時に魔導を解除させ【アグレッシブ・スピード】と光線に注目が集まっている状況を利用して速やかに駆け抜ける。ダークエルフ族達の視線を上手く潜り抜けながら走り抜けるファリスは頭がくらくらして多少よろけ倒れそうになってしまう。
当然だ。そもそも人造命具を生み出す時はかなりの魔力と精神を消耗する。作り終えたと同時に倒れて何日も動けなくなるのが普通なのだ。それをファリスは気力で立ち上がり、新しい魔導をどんどん生み出しながら戦い続けている。もはや常人のそれではなく、エールティアですら可能かどうか怪しい状態だ。
その上、使い慣れていない魔導。【タイムアクセル】は【シックスセンシズ】と併用して発動させている。魔力の消費が尋常ではないのだ。それでも彼女は止まらない。自分が今ここで倒れてしまえば戦況は再び不利に傾き、圧倒的な力の象徴を失った軍勢は士気の低下を免れないだろう。
「【シャドウステルス】」
敵陣に飛び込む寸前に新しい魔導を発動する。イメージは暗い影に自身が溶け込み、誰にも気づかれなくなるといった感じだ。【アグレッシブ・スピード】によって常人の知覚ギリギリを走り、【シャドウステルス】で字bんに対する敵の認識を低下させる。それによってより敵に気付かれず駆け抜けられる。
(もう少し……あと……すこ、し……)
意識が徐々にかすみ、視界の端が若干白くなっているようにすら感じているファリスの身体は限界を迎えつつあった。それでもここで倒れてはならない。大きな光線を撃ちだす魔導の使い手となればかなりの実力者。近距離が得意なオルドやワーゼルでは混戦状態で近づく事は叶わないし、ククオルは魔導の打ち合いでは及ばない。ユヒトは近づければ仕留められる可能性があったが、敵陣真っただ中に切り込むような力強さが彼にない事は知っていた。他の兵士達もそれなりに強いのだろう。しかし、名前すら覚えていない者達に信を置くなど彼女がするはずもない。だからこそファリスは自分が駆け抜ける道を選んだ。
どれだけ時間が掛かろうとも脅威となる敵さえ排除すれば勝利は揺るがない。そう信じて走っていた彼女が見たのは現在ぶつかっている軍勢から一線を置いているように存在する集団の姿。巨大な砲をファリス達がいるところに向けており、それが先程の攻撃に使われた事を教えてくれていた。
「……っ、【フラム……ブランシュ】!!」
あんな砲撃を何度も喰らっては自軍が壊滅してしまう。そんな思いから放たれた一撃でファリスの足元は一瞬おぼつかなくなり転びそうになりながらもなんとか体勢を整える
いよいよ魔力も意識も限界なのか、いつ倒れてもおかしくない状態でも敵を葬るべく前進するが、ファリスの放った【フラムブランシュ】はあまり効果を及ぼしていないようだった。
巨大砲を守るように魔導による防御壁が展開され、無傷なのを視認したファリスは舌打ちをしながら次の作戦を考える。
(多分、他の魔導も同じように防がれる。最大火力をぶつけるには魔力に不安が残る。なら、敵を倒してあの砲台を壊す!)
単純ではあるが、遠距離から破壊できない以上それしか方法がなかった。覚悟を決めたファリスに向かって炎の雨が襲いかかり、彼女の剣はそれを黒ずみ消し飛ばす。弾幕とも言えるその量をたった一人でさばく彼女の姿は相対している者からすれば脅威以外の何者でもないだろう。
「ちっ、もっとだ! もっと魔力を注げ!!」
怒号が飛び、ダークエルフ族の兵士達は更に魔導を発動し続ける。もはや人単体に放つような数ではなく、軍勢に対し用いられるであろう魔導にファリスは怯むことを知らぬような顔で走り抜ける。
近距離の間合いに飛び込んだ瞬間に彼らは恐怖に染まり、逃げ出す者もいるが、それを許すような少女ではなかった。
「て、てった――」
「消えて」
散々鬱陶しいことをされたと言わんばかりに斬り捨て、仲間が黒く染まり塵のように消えていく様を見て敵は更に恐怖する。
「怯えるな! 相手は既に満身創痍だ! 押し込めば勝てる!!」
剣に魔力を吸われ、再びふらつく彼女の姿を目視した指揮官であろう人物――エディアスは配下の軍勢に檄を飛ばし、隣にいるクルダと共に魔導――いや、魔法を展開させる。
「【フレアスタンプ】!」
ファリスの頭上に炎塊が出現し、地面に吸い込まれるように落ちていく。それを人造命具による一振りで消し飛ばすも、更に同じ魔法が立て続けに襲いかかる。
目の前には炎の弾幕。頭上からは同じ炎塊が次々と落下してくる。
魔力の消費が一定であり、紡ぐだけで発動できる上、個々の違いが存在しない魔法の利点を最大限活かした攻撃方法。【フレアスタンプ】を扱える者が順番に発動させることにより間断なく襲いかかる炎にファリスの足は完全に止まってしまった。
「油断するな。絶えず攻撃を続けよ!」
笑みを浮かべる取り巻きの者達。その中で唯一無表情でその様子を見ていたエディアスだけがこの程度でくたばる訳がないと思っていた。故に徹底的に焼き払う。彼の指示に疑問を持ちつつも、長である以上従うのは当然と兵士やエディアスの取り巻き達は淡々とファリスがいるであろう周辺を焼き払い続けるのだった。
当然だ。そもそも人造命具を生み出す時はかなりの魔力と精神を消耗する。作り終えたと同時に倒れて何日も動けなくなるのが普通なのだ。それをファリスは気力で立ち上がり、新しい魔導をどんどん生み出しながら戦い続けている。もはや常人のそれではなく、エールティアですら可能かどうか怪しい状態だ。
その上、使い慣れていない魔導。【タイムアクセル】は【シックスセンシズ】と併用して発動させている。魔力の消費が尋常ではないのだ。それでも彼女は止まらない。自分が今ここで倒れてしまえば戦況は再び不利に傾き、圧倒的な力の象徴を失った軍勢は士気の低下を免れないだろう。
「【シャドウステルス】」
敵陣に飛び込む寸前に新しい魔導を発動する。イメージは暗い影に自身が溶け込み、誰にも気づかれなくなるといった感じだ。【アグレッシブ・スピード】によって常人の知覚ギリギリを走り、【シャドウステルス】で字bんに対する敵の認識を低下させる。それによってより敵に気付かれず駆け抜けられる。
(もう少し……あと……すこ、し……)
意識が徐々にかすみ、視界の端が若干白くなっているようにすら感じているファリスの身体は限界を迎えつつあった。それでもここで倒れてはならない。大きな光線を撃ちだす魔導の使い手となればかなりの実力者。近距離が得意なオルドやワーゼルでは混戦状態で近づく事は叶わないし、ククオルは魔導の打ち合いでは及ばない。ユヒトは近づければ仕留められる可能性があったが、敵陣真っただ中に切り込むような力強さが彼にない事は知っていた。他の兵士達もそれなりに強いのだろう。しかし、名前すら覚えていない者達に信を置くなど彼女がするはずもない。だからこそファリスは自分が駆け抜ける道を選んだ。
どれだけ時間が掛かろうとも脅威となる敵さえ排除すれば勝利は揺るがない。そう信じて走っていた彼女が見たのは現在ぶつかっている軍勢から一線を置いているように存在する集団の姿。巨大な砲をファリス達がいるところに向けており、それが先程の攻撃に使われた事を教えてくれていた。
「……っ、【フラム……ブランシュ】!!」
あんな砲撃を何度も喰らっては自軍が壊滅してしまう。そんな思いから放たれた一撃でファリスの足元は一瞬おぼつかなくなり転びそうになりながらもなんとか体勢を整える
いよいよ魔力も意識も限界なのか、いつ倒れてもおかしくない状態でも敵を葬るべく前進するが、ファリスの放った【フラムブランシュ】はあまり効果を及ぼしていないようだった。
巨大砲を守るように魔導による防御壁が展開され、無傷なのを視認したファリスは舌打ちをしながら次の作戦を考える。
(多分、他の魔導も同じように防がれる。最大火力をぶつけるには魔力に不安が残る。なら、敵を倒してあの砲台を壊す!)
単純ではあるが、遠距離から破壊できない以上それしか方法がなかった。覚悟を決めたファリスに向かって炎の雨が襲いかかり、彼女の剣はそれを黒ずみ消し飛ばす。弾幕とも言えるその量をたった一人でさばく彼女の姿は相対している者からすれば脅威以外の何者でもないだろう。
「ちっ、もっとだ! もっと魔力を注げ!!」
怒号が飛び、ダークエルフ族の兵士達は更に魔導を発動し続ける。もはや人単体に放つような数ではなく、軍勢に対し用いられるであろう魔導にファリスは怯むことを知らぬような顔で走り抜ける。
近距離の間合いに飛び込んだ瞬間に彼らは恐怖に染まり、逃げ出す者もいるが、それを許すような少女ではなかった。
「て、てった――」
「消えて」
散々鬱陶しいことをされたと言わんばかりに斬り捨て、仲間が黒く染まり塵のように消えていく様を見て敵は更に恐怖する。
「怯えるな! 相手は既に満身創痍だ! 押し込めば勝てる!!」
剣に魔力を吸われ、再びふらつく彼女の姿を目視した指揮官であろう人物――エディアスは配下の軍勢に檄を飛ばし、隣にいるクルダと共に魔導――いや、魔法を展開させる。
「【フレアスタンプ】!」
ファリスの頭上に炎塊が出現し、地面に吸い込まれるように落ちていく。それを人造命具による一振りで消し飛ばすも、更に同じ魔法が立て続けに襲いかかる。
目の前には炎の弾幕。頭上からは同じ炎塊が次々と落下してくる。
魔力の消費が一定であり、紡ぐだけで発動できる上、個々の違いが存在しない魔法の利点を最大限活かした攻撃方法。【フレアスタンプ】を扱える者が順番に発動させることにより間断なく襲いかかる炎にファリスの足は完全に止まってしまった。
「油断するな。絶えず攻撃を続けよ!」
笑みを浮かべる取り巻きの者達。その中で唯一無表情でその様子を見ていたエディアスだけがこの程度でくたばる訳がないと思っていた。故に徹底的に焼き払う。彼の指示に疑問を持ちつつも、長である以上従うのは当然と兵士やエディアスの取り巻き達は淡々とファリスがいるであろう周辺を焼き払い続けるのだった。
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