奴隷身分ゆえ騎士団に殺された俺は、自分だけが発見した【炎氷魔法】で無双する 〜自分が受けた痛みは倍返しする〜

ファンタスティック小説家

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ホット修練 前編

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 ──転生から2ヶ月が経過した

 相変わらず、俺はセレーナとともに、エーテル語と魔術の修練にはげんでいた。

 彼女はかなり苦戦している。いまだに自由に文を読むのはむずかしいようだ。

「じゃあね、お兄ちゃん! また夜にいっしょにお勉強しようねー!」

 セレーナが満面の笑みで退出していった。

 駄々をこねて「わからない!」と暴れたあとに、ああもご機嫌になれるものなのか、

 俺は妹へ手をふって扉をしめた。
 かわりに窓の外でじーっと恨めしそうに睨みつけて来ていた鳥を、部屋のなかへとむかえ入れてあげる。

「ごめん、間違えて鍵かけちゃった……」

 俺はラテナを腕にとまらせてあげながら謝罪する。

「ふん、もういいですよ、ヘンドリック。どうせ私なんて可愛い可愛いセレーナに比べたら、ただの鳥ですものね!」
「ごめん、本当に。でも、俺はラテナのことも大切に思ってるんだぞ。実妹と優先順位は付けたくないけど、お前はNo. 1だよ」

 俺はラテナの目と目の間、鼻の少しうえを指でなぞるように優しくなでる。
 彼女はとても気持ちよさそうにして「ふくぅー……」とつい鳴き声をもらしていた。

 ラテナはペットとして最高に可愛い。

「ふふん♪  仕方、ないですね! 今回はこれにて爪をおさめるとしましょう!」

 機嫌を治してくれてなによりだ。

「ふくふく、それにしても、もう2ヶ月経つんですね」

 藪から棒にラテナがつぶやいた。

「そうだな、はやいもんだよ、ほんと」

 復讐を誓ってから時間が過ぎるのがはやく感じる。毎日を全力で過ごしてるからか。

 アライアンスで最も強い騎士のひとり不死鳥騎士団長アイガスターを討つために、奴を確実に殺すチカラ──魔術は必要不可欠だ。

 ここのところの俺は、魔術の鍛錬に1分1秒を惜しんで費やしてきている。

「それじゃ、私はごはんもらって来ます」
「うん、行ってらっしゃい。たくさん食べすぎちゃダメだからな」
「ふふ、女神は自己管理もできて一流なんですよ」

 ラテナは部屋の外へとんでいき、母親であるカリーナにご飯をねだりにいった。

 俺は静かになった部屋で椅子に深く腰掛けて魔導書に目を走らせる。

 魔術の勉強にて、ただいま俺はある疑問にぶつかっていた。それを解決しなければ、俺はこれ以上魔術師として成長できない。

 直面する最大の問題。
 それは″現象″についてだ。

 魔導書にはこう書かれている。

 詠唱によって、必要な魔術式を満たせば、おのずと式にあみこまれた現象が、世界にうつしだされる──と。

 しかし、実際に魔術を唱えてみると、訳は違ってくる。

 たとえば《ファイアボール》の場合、

 『詠唱→現象』

 が、魔導書の指南で書かれている魔術発動までのプロセスだ。

 しかし、実際に使ってみると、俺はこれ以上に複雑な工程を、頭で処理しなければいけないことに気がついた。

 すなわち、

 『詠唱→集積→形成→威力指定→現象』

 これが俺の感じる《ファイアボール》の発動までのプロセスだ。

 基本的に魔術は『無から有を作りだす』ものではない。
 
 集積の過程で、近くから属性対応したエレメント──火属性の魔術ならば、ロウソクや松明などの火種から──をあつめて、再形成してカタチをつくり発動するものだ。

 俺の場合は、どこからエレメントを集めるかを決め、カタチも決め、威力も調整しなければならない。
 
 しかし、魔導書にはここのところの説明が詳しくされていないのだ。

 回復魔術の場合はもっとやっかいだ。

 『詠唱→除去→解析→集積→修復→現象』

 聖なる文言を口にしてから、傷口から余計なホコリや土を取り除く。
 そして、どのような怪我かを解析し、修復のため必要なエレメントを集めないといけない。

 俺の母親カリーナはよく薬草や、ポーション、丸薬などの回復アイテムと併用し″エレメントの確保″という問題を解消している。

 勉強はじめて2ヶ月目だが、俺はそうそうに回復魔術の習得を無理だと諦めた。

「回復魔術を使える人間が少ないわけだ」

 俺がまだリクだった頃、隣国から来た冒険者に「回復魔術師はめずらしい』といわれた記憶が蘇ってきていた。

 あの時は魔術自体さして見たことなかったので、言葉の意味がわからなかったが、今ならば骨身にしみて理解できる。

 俺は大きなため息をついた。

 母親が希少な回復魔術を得意とする神官系の末裔だと聞いたときは驚いたものだった。なのに息子の俺には才能がないとは。

 虚しくなってくる。
 俺が直面する問題はほかにもあるというのに……。

 ──コンコン

「ん? はーい」

 扉をノックされて開けてあげる。
 誰もいない。
 俺は視線を下方へとさげた。
 お腹を膨らませたフクロウが、冷や汗をかいた顔ではいつくばっていた。

「うぅ、助けてください、ヘンドリック……ご、ごはんを食べすぎました……」
「体調管理ができて一流なんじゃ?」

 やれやれ、仕方のない女神様だ。
 
 俺はたぬきみたいに丸くなったラテナをもちあげて、胸に抱っこして部屋のなかへ。
 そのまま、椅子に腰掛けて膝のうえに彼女を寝かせながら勉強にもどった。

「あーあ、なんでホット以外の魔術を使えないんだろうなあ」
「む。もしや、あの初等魔術以外、まだ習得していないのですか」
「ぅ……」

 ラテナの純粋な眼差しが痛い。
 
 これが俺の直面する壁。
 ホット以外使えない問題である。

「やはり才能限界なのでしょうね」

 ラテナはハッキリした声で断言した。

「才能限界?」

 俺は聞きかえす。

「残念ながら、ヘンドリックには魔術面の素養がないということです。魔術の素養を高めるよう、魔術師の家系のように″血の厳選″がされてないのですから当然ですけどね」
「優秀な魔術師になるには家系が大事、か」

 生まれですべてが決まるとでも?

「なんか腹立ってきた」
「ヘンドリック……最初に言うべきだったかもしれませんね。でも、わかってください、あなたの初めての″やりたい″を潰したくはなかったのです」

 敵わないな。
 ラテナには。

「ありがとな。お前が俺のやりたいを尊重してくれてすごく嬉しいよ」
「でも、険しい道にあなたを放り込んでしまいました……」

 間違いない。
 それは間違いないが、嫌ではない。
 これは命題だ。奴隷の身分に敗北した者が、またしても生まれに負けるか否かのな。

「俺、魔術師になるよ」
「ヘンドリック、私は止めませんよ」

 ラテナは黄色い瞳でじーっと見つめてくる。俺はその眼差しにうなずき「ありがとう」と礼をいった。

「強い覚悟を感じます」
「一度死んでようやく手に入れられる覚悟だ──素養がなくたって、ひとつしか魔術使えなくたって、それは俺が魔術師を諦める理由にはならないってな」

 俺は魔導書を手に庭へ飛びだした。
 ラテナは俺のあとをついてくる。

 庭に置き石を設置した。
 よくウィリアムが″試し斬り″してるものだ。

 俺は置き石をまえに精神を鎮める。

 いいだろう。
 《ホット》が俺の才能限界だって言うならいい。高位魔術なんて覚える必要はない。

 俺は日々の鍛錬で気がついてるはずだ。

 魔術発動までに細かなプロセスを頭で考えなくてはいけないことは、才能ある魔術師にくらべて不利なことじゃないと。
 
 彼らが無意識下で半自動的におこなっている″プロセス″は、ただひとつの初等魔術である《ホット》の可能性を高めてくれるはずだ。

「魔導書には″いっさい言及されてなかった″けど、魔術の威力を調整することは可能だしな」

 通常、魔術は切り替えるモノだ。
 どういうことか?
 例えば、火属性式魔術の場合。

 高位の炎魔術である《ファイアボール》を覚えていても「もっと火力は低くていいんだ!」という場面があったりする。
 その逆もしかりで「もっと火力が欲しいんだ!」という場面も当然のごとくある。

 このような場合は使用する魔術自体を切り替えて、より強い炎魔術、弱い炎魔術をつかって状況に対応する事がセオリーのなのだ。

 だが、俺の考えは違う。
 威力は使い分けられる。
 なれば最弱の炎魔術でも、極限までその威力をたかめれば鋼すら穿てる……かもしれない。

「不死鳥の魂よ、
  炎熱の力を与えたまへ──《ホット》」

 7歳の俺、現行使えるホットに最大の魔力をこめて置き石をあたためた。

 近寄ってさわってみると、長時間触っていれば低音火傷するくらいには熱かった。

 まだまだ温かくできる。

「極めてやる、この魔術を」
「悪くないアイディアですね、ヘンドリック。極めるならば1日1万回くらいやったら極致にいたれると思いますよ」
「結構、ハードなノルマじゃないか……?」
「そうですか? どこかの世界で同じようなことをしてる人を見たことありますから、きっとヘンドリックにも出来ますよ」

 ラテナの無邪気な期待が痛かった。

 俺はこの日より″1日1万回感謝のホット″を自身のノルマとして課すことで、狂気的なほどホットを鍛えまくることになった。


 
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