6 / 49
ホット修練 前編
しおりを挟む──転生から2ヶ月が経過した
相変わらず、俺はセレーナとともに、エーテル語と魔術の修練にはげんでいた。
彼女はかなり苦戦している。いまだに自由に文を読むのはむずかしいようだ。
「じゃあね、お兄ちゃん! また夜にいっしょにお勉強しようねー!」
セレーナが満面の笑みで退出していった。
駄々をこねて「わからない!」と暴れたあとに、ああもご機嫌になれるものなのか、
俺は妹へ手をふって扉をしめた。
かわりに窓の外でじーっと恨めしそうに睨みつけて来ていた鳥を、部屋のなかへとむかえ入れてあげる。
「ごめん、間違えて鍵かけちゃった……」
俺はラテナを腕にとまらせてあげながら謝罪する。
「ふん、もういいですよ、ヘンドリック。どうせ私なんて可愛い可愛いセレーナに比べたら、ただの鳥ですものね!」
「ごめん、本当に。でも、俺はラテナのことも大切に思ってるんだぞ。実妹と優先順位は付けたくないけど、お前はNo. 1だよ」
俺はラテナの目と目の間、鼻の少しうえを指でなぞるように優しくなでる。
彼女はとても気持ちよさそうにして「ふくぅー……」とつい鳴き声をもらしていた。
ラテナはペットとして最高に可愛い。
「ふふん♪ 仕方、ないですね! 今回はこれにて爪をおさめるとしましょう!」
機嫌を治してくれてなによりだ。
「ふくふく、それにしても、もう2ヶ月経つんですね」
藪から棒にラテナがつぶやいた。
「そうだな、はやいもんだよ、ほんと」
復讐を誓ってから時間が過ぎるのがはやく感じる。毎日を全力で過ごしてるからか。
アライアンスで最も強い騎士のひとり不死鳥騎士団長アイガスターを討つために、奴を確実に殺すチカラ──魔術は必要不可欠だ。
ここのところの俺は、魔術の鍛錬に1分1秒を惜しんで費やしてきている。
「それじゃ、私はごはんもらって来ます」
「うん、行ってらっしゃい。たくさん食べすぎちゃダメだからな」
「ふふ、女神は自己管理もできて一流なんですよ」
ラテナは部屋の外へとんでいき、母親であるカリーナにご飯をねだりにいった。
俺は静かになった部屋で椅子に深く腰掛けて魔導書に目を走らせる。
魔術の勉強にて、ただいま俺はある疑問にぶつかっていた。それを解決しなければ、俺はこれ以上魔術師として成長できない。
直面する最大の問題。
それは″現象″についてだ。
魔導書にはこう書かれている。
詠唱によって、必要な魔術式を満たせば、おのずと式にあみこまれた現象が、世界にうつしだされる──と。
しかし、実際に魔術を唱えてみると、訳は違ってくる。
たとえば《ファイアボール》の場合、
『詠唱→現象』
が、魔導書の指南で書かれている魔術発動までのプロセスだ。
しかし、実際に使ってみると、俺はこれ以上に複雑な工程を、頭で処理しなければいけないことに気がついた。
すなわち、
『詠唱→集積→形成→威力指定→現象』
これが俺の感じる《ファイアボール》の発動までのプロセスだ。
基本的に魔術は『無から有を作りだす』ものではない。
集積の過程で、近くから属性対応したエレメント──火属性の魔術ならば、ロウソクや松明などの火種から──をあつめて、再形成してカタチをつくり発動するものだ。
俺の場合は、どこからエレメントを集めるかを決め、カタチも決め、威力も調整しなければならない。
しかし、魔導書にはここのところの説明が詳しくされていないのだ。
回復魔術の場合はもっとやっかいだ。
『詠唱→除去→解析→集積→修復→現象』
聖なる文言を口にしてから、傷口から余計なホコリや土を取り除く。
そして、どのような怪我かを解析し、修復のため必要なエレメントを集めないといけない。
俺の母親カリーナはよく薬草や、ポーション、丸薬などの回復アイテムと併用し″エレメントの確保″という問題を解消している。
勉強はじめて2ヶ月目だが、俺はそうそうに回復魔術の習得を無理だと諦めた。
「回復魔術を使える人間が少ないわけだ」
俺がまだリクだった頃、隣国から来た冒険者に「回復魔術師はめずらしい』といわれた記憶が蘇ってきていた。
あの時は魔術自体さして見たことなかったので、言葉の意味がわからなかったが、今ならば骨身にしみて理解できる。
俺は大きなため息をついた。
母親が希少な回復魔術を得意とする神官系の末裔だと聞いたときは驚いたものだった。なのに息子の俺には才能がないとは。
虚しくなってくる。
俺が直面する問題はほかにもあるというのに……。
──コンコン
「ん? はーい」
扉をノックされて開けてあげる。
誰もいない。
俺は視線を下方へとさげた。
お腹を膨らませたフクロウが、冷や汗をかいた顔ではいつくばっていた。
「うぅ、助けてください、ヘンドリック……ご、ごはんを食べすぎました……」
「体調管理ができて一流なんじゃ?」
やれやれ、仕方のない女神様だ。
俺はたぬきみたいに丸くなったラテナをもちあげて、胸に抱っこして部屋のなかへ。
そのまま、椅子に腰掛けて膝のうえに彼女を寝かせながら勉強にもどった。
「あーあ、なんでホット以外の魔術を使えないんだろうなあ」
「む。もしや、あの初等魔術以外、まだ習得していないのですか」
「ぅ……」
ラテナの純粋な眼差しが痛い。
これが俺の直面する壁。
ホット以外使えない問題である。
「やはり才能限界なのでしょうね」
ラテナはハッキリした声で断言した。
「才能限界?」
俺は聞きかえす。
「残念ながら、ヘンドリックには魔術面の素養がないということです。魔術の素養を高めるよう、魔術師の家系のように″血の厳選″がされてないのですから当然ですけどね」
「優秀な魔術師になるには家系が大事、か」
生まれですべてが決まるとでも?
「なんか腹立ってきた」
「ヘンドリック……最初に言うべきだったかもしれませんね。でも、わかってください、あなたの初めての″やりたい″を潰したくはなかったのです」
敵わないな。
ラテナには。
「ありがとな。お前が俺のやりたいを尊重してくれてすごく嬉しいよ」
「でも、険しい道にあなたを放り込んでしまいました……」
間違いない。
それは間違いないが、嫌ではない。
これは命題だ。奴隷の身分に敗北した者が、またしても生まれに負けるか否かのな。
「俺、魔術師になるよ」
「ヘンドリック、私は止めませんよ」
ラテナは黄色い瞳でじーっと見つめてくる。俺はその眼差しにうなずき「ありがとう」と礼をいった。
「強い覚悟を感じます」
「一度死んでようやく手に入れられる覚悟だ──素養がなくたって、ひとつしか魔術使えなくたって、それは俺が魔術師を諦める理由にはならないってな」
俺は魔導書を手に庭へ飛びだした。
ラテナは俺のあとをついてくる。
庭に置き石を設置した。
よくウィリアムが″試し斬り″してるものだ。
俺は置き石をまえに精神を鎮める。
いいだろう。
《ホット》が俺の才能限界だって言うならいい。高位魔術なんて覚える必要はない。
俺は日々の鍛錬で気がついてるはずだ。
魔術発動までに細かなプロセスを頭で考えなくてはいけないことは、才能ある魔術師にくらべて不利なことじゃないと。
彼らが無意識下で半自動的におこなっている″プロセス″は、ただひとつの初等魔術である《ホット》の可能性を高めてくれるはずだ。
「魔導書には″いっさい言及されてなかった″けど、魔術の威力を調整することは可能だしな」
通常、魔術は切り替えるモノだ。
どういうことか?
例えば、火属性式魔術の場合。
高位の炎魔術である《ファイアボール》を覚えていても「もっと火力は低くていいんだ!」という場面があったりする。
その逆もしかりで「もっと火力が欲しいんだ!」という場面も当然のごとくある。
このような場合は使用する魔術自体を切り替えて、より強い炎魔術、弱い炎魔術をつかって状況に対応する事がセオリーのなのだ。
だが、俺の考えは違う。
威力は使い分けられる。
なれば最弱の炎魔術でも、極限までその威力をたかめれば鋼すら穿てる……かもしれない。
「不死鳥の魂よ、
炎熱の力を与えたまへ──《ホット》」
7歳の俺、現行使えるホットに最大の魔力をこめて置き石をあたためた。
近寄ってさわってみると、長時間触っていれば低音火傷するくらいには熱かった。
まだまだ温かくできる。
「極めてやる、この魔術を」
「悪くないアイディアですね、ヘンドリック。極めるならば1日1万回くらいやったら極致にいたれると思いますよ」
「結構、ハードなノルマじゃないか……?」
「そうですか? どこかの世界で同じようなことをしてる人を見たことありますから、きっとヘンドリックにも出来ますよ」
ラテナの無邪気な期待が痛かった。
俺はこの日より″1日1万回感謝のホット″を自身のノルマとして課すことで、狂気的なほどホットを鍛えまくることになった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした
セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。
牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。
裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
足手まといだと言われて冒険者パーティから追放されたのに、なぜか元メンバーが追いかけてきました
ちくわ食べます
ファンタジー
「ユウト。正直にいうけど、最近のあなたは足手まといになっている。もう、ここらへんが限界だと思う」
優秀なアタッカー、メイジ、タンクの3人に囲まれていたヒーラーのユウトは、実力不足を理由に冒険者パーティを追放されてしまう。
――僕には才能がなかった。
打ちひしがれ、故郷の実家へと帰省を決意したユウトを待ち受けていたのは、彼の知らない真実だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる