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上級騎士 対 炎の賢者 後編

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 頭の骨がきしむ音が耳の奥から聞こえた。

 死を間近に感じる。

「ァ、が……ッ、ぁ」

 手足が震えて言うことを効かなかった。
 自分がなんでこんな状況にいるのか、一瞬意識がとんでわからなくなる。

「はぁ、はぁ、炎の賢者の魔術がどんなモンか見るつもりだったが、予想以上にダメージをもらっちまった……はあ、はあ、様子見してる場合じゃなかったかな」

 ウィリアムは勝ち誇ったようすで、俺に背を向けて歩きだす。
 
 なぜだ、なんでウィリアムはまだ立てる。
 あれほどのダメージを負っているのに。

 執念の違い?
 いいや、俺の方がよほど執念深いはずだ。

「不思議そうだな、ヘンリー。どうして俺がまだ立っているのか、わからないんだろう」
「ぅ、なんで、ですか……」
「背負ってるモノが違う。浮雲の当主、騎士としての誇り、それぞれの流派での段位、父としてのプライド。こういう自負が戦いの最後の最後で人間を立ち続けさせる」

 なんだよ、それ。
 俺にはプライドがないって?
 俺になにも背負うものがないだって?
 
「うぐ、ふざけ…んな…」

 俺は師匠に言われたんだ。
 師匠が認めてくれたんだ『炎の賢者』だって。
 そして、もう二度と負けないという覚悟。
 
 俺にだって譲れないプライドがある。

「俺は、俺は炎の賢者だ……今この瞬間もあのクソ野郎どもが、平気な顔して、アライアンスには……のさばってんるんだ」

 俺は負けられない。
 負けたくない。
 
「ヘンリー、お前は優しいな」
「っ」
「でも、ここで沈めてやる」

 ウィリアムが拳を気で固めて近づいてくる。

 このウィリアム浮雲という男は強い。
 殺さないと止められないほどに。
 だが、殺したくはない。
 そんな矛盾を解決する手段があるはずだ。

 俺は『炎の賢者』なんだ。
 師匠にそう認められた。

 ならば出来るはずだ、不可能なんてない。
 《ホット》を信じて信じて、この2年間ひたすらに極めつづけて来ただろう!

「しばらく寝てろ、ヘンリー」
「ぅあああああ!」

 俺は杖を握りしめる。
 ウィリアムの拳が振り下ろされる。

 その瞬間、

 ──パキキ、ィ

 空気の割れる音がした。
 視界に青白い光が起こった。

「ッ、な、なんだこれは……?!」

 俺の体内の魔力がぐんぐん失われる。
 無意識のうちに体内の魔力がカタチをなしているようだった。

 俺はもうろうとする意識で顔をあげる。
 
「……こ、これは、氷…?」
「ヘンリー……お前、なにを……

 ウィリアムの身体は氷に包まれていた。

 それは未だかつて誰も知らない、冷たい冬の到来、新しい神秘の芽生えであった。





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