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オオカミ少年 後編
しおりを挟む灰色のけむくじゃらの髪。
ひょこっと生えた耳。
尻尾もふさふさで素晴らしい。
今は涙目で血のにじむ肩をおさえて、耳をしょぼんと寝かせている。恐いんだろう。
「ケモノに触られると、俺さまもモジャモジャにされるんだ!」
「ち、ちがうよ……髪に虫がついてたから、とってあげようと思って……」
優しそうな声で少年は言う。
「うるさい、俺さまに逆らうなよケモノ!」
また大将が、少年を枝でたたこうとする。
俺はその手首をつかんで止めさせた。
「他人の痛みを軽視するな。いつか返ってくるぞ」
俺は知っている、天罰などないことを。
虐げた連中はのうのうと生きて、被害者たちは忘れられ、泣き寝入りするしかない。
だが、そんな残酷を子どものうちから知らなくていいだろう。どこかに希望はある、悪い事したら、その分だけ帰ってくる。
そう思っていればいい。
虐げられたすべてを救えなくても、俺は俺のできる範囲の″正義″になればいいんだ。
「お、おまえは関係ないだろ、ひっこんでろよ!」
「お前がひっこんでろ。クソガキがあんまりしゃしゃってるとぶっ飛ばすぞ」
「ひぃ……ッ?!」
「き、貴族、こわい…!」
大将から枝をとりあげ、にらみつける。
「ぐぬぬっ、お、おまえもそいつと同じ目に逢いたいみたいだなッ! やっちまえ!」
大将と子分たちがむかってくる。
力量差がわからんのか。
俺はため息をつき、腰のホルダーにおさまっている杖に手をそえた。
不死鳥の魂よ、
炎熱の力を与えたまへ──《ホット》
心のなかで詠唱して子分たちのほっぺたに熱源を出現させた。50度くらいで十分か。
「熱いッ?! あ、あつ、あついよー!?」
「うぁぁああ?!」
突然の痛みに子分たちはのたうちまわる。
ひとりはあまりの恐怖に失禁して、俺を悪魔でもみるような眼差しで見てきた。
「身の程をわきまえろ、平民風情が。貴族への口の利き方には細心の注意をはらえ。場合によっちゃもっと酷い目にあわされるのが常だからな」
「……ッ! 魔術、魔術師……っ、アルカマジの術使いだぁー!」
「ひぃええ、ママぁああー!」
子分たちは凄いいきおいで逃げていった。
「さて、お前も痛みを知ってもらおうか」
ひとり残された大将を、さっき没収した枝で思い切りたたく。
剣術によって振られた枝はムチのようにしなり、大将のほっぺたに切り傷をつけた。
「うわああん、ママァァアアー!」
「やれやれ。……で、大丈夫? ひどい怪我だけど」
「ぁ、ぅ……君は、こわくないの?」
おびえた目で見てきていた。
俺はその目を知っている。
毎日を平穏にすごすため、できるだけ波風立てないよう日々を生きぬく日陰者の目だ。
昔の俺にそっくりだった。
「こわくないよ。むしろ、その耳も尻尾も羨ましいくらい素敵だと思うよ」
「け、ケモノなのに?」
「獣じゃないさ。俺は知ってるんだ、獣人が迫害されるようなひどい人間じゃないって」
少年はほうけた表情で見上げてくる。
俺は微笑み、彼の灰色の髪をなでた。
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