30 / 49
オオカミ少女 後編
しおりを挟む──しばらく後
浮雲屋敷をはなれて畑道を歩く。
屋敷の玄関にあったトランクや剣や杖は全部回収して来た。
「ふくふく!」
「ラテナ、すごいお手柄だぞ。今日はたくさん撫で撫でしてやるからな」
「ふくふく~!」
まったく。
うちの子はどこまで優秀なんだろうか。
「ね、ねえ、ヘンドリック」
アルウが弱々しい声で言った。
俺はラテナにうなずき、しばらく近くの空を飛んでいてもらうことにする。
2人きりになり、俺は彼女へ向き直る。
「不安そうだな。安心していいよ、父さんはあれでいてめちゃくちゃ優しいから、どうせ脱走のことなんて見逃してくれる」
「その事じゃなくて……その」
「ん? 言いたいことがあるなら言っていいぞ。俺が元貴族とか遠慮しなくていいから」
「そ、それじゃ、ちょっとそこの物陰に」
アルウはこそこそして、俺の手を引っ張って畑道近くの水車小屋へ入った。
何をするのかトランクに肘ついて待っていると、彼女はおもむろにパッと服をめくって、俺にお腹をみせてきた。
顔は真っ赤になっている。
女子と知った手前、あまりにも破廉恥な行為におもわず「おお」と声をあげてしまう。
が、すぐに見てはいけないと気がつく。
「ななな、何してんだよ! 俺をまた地下牢に放りこむ気か、お前反省してないな!?」
見たい気持ちと、見てはいけない気持ちに、ダブルで精神を攻撃されながら怒る。
こいつめかつての知り合いリゼットと同じ類いの痴女なのか。
「だだ、だって、ヘンドリック、ボクのお腹が大好物なのでしょう……っ、貴族は好色家が多いって知ってるんだよ。さあ、好きなだけ見ていいよ…っ!」
「必死の顔でなに言ってるんだよ。やめろよ、いいよ、そんな柔らかそうなお腹なんかみても仕方ないだろ」
俺はアルウに服をおろさせる。
「そ、それじゃ、どうやって責任をとればいいの?」
「責任を取りたいのか」
「うん、ヘンドリックの名誉を傷つける、ひどい事をしちゃったから。貴族は名誉をなによりも大切にするってパパが言ってたもん」
そうかそうか。
ならば願いはひとつ。
「尻尾を触らせて」
「……へ?」
「だから、尻尾をこうやってもふもふさせてくれればいい。それで全部チャラだよ」
俺が要求すると、アルウは恥ずかしげにしながら「わ、わかりました……えい!」と灰色のふっさふさの尻尾を差し出してきた。
「おおー! これは凄いもふもふだ! 師匠は結局一回もモフらせてくれなかったからな、この日を待ってたんだよ」
「ぁあ……っ、ヘンドリック、あんまりモフモフされると……ぅう♪」
「オオカミ尻尾なのか? そういえば耳もピンとしてて犬っぽいよな。王都市場の野良犬はこことか喜んだけど……どうだ?」
「はぅん♡ だめですよ、そんな、たくさん触ったら……っ、ぁあ……っ♡」
口から熱い吐息をもらすアルウが面白くて、ついつい頭なでなでまでしてしまう。
彼女も満更でもないようで「もっと、ここら辺を……っ」と、ぐりぐり首の横あたりをこすりつけてくる。
その後も存分にモフりまくり「ああん! ヘンドリックもう、だめだよ……♡」とアルウが流石にしんどそうになって来たあたりでやめてあげた。
モフモフってされる側は辛いんだな。
覚えておこう。
「ごめんな、アルウ。つい気持ち良くてたくさん触っちゃったけど、平気だった?」
「はぁ…はぁ、い、いや、別に……よゆう、だよ……ふぅ」
アルウは頬を染めて、片肩をはだけながら言った。高揚した頬がやけに艶かしい。
ただ、これは俺の心が汚れてるからだ。
今のは単なるモフモフ行為にすぎない。
これが″現場″に見えた人間はみんな汚れているんだ。
「えっと、それじゃ、ボクの家に行く?」
アルウはナチュラルに手を引っ張って、家へ歓迎してくれるも言った。
「ごめん、あいにくと行くところがあって」
そろそろ時間的にもまずい。
俺は浮雲を捨てた者の新居となる、ブワロ村はずれの家へ向かわないと。
「そっか…ヘンドリックとはここでお別れなんだ……」
「今しばらくは、この村にいるよ。同じ村にいればまたすぐに会えるさ」
俺はそう言って、アルウの肩をたたく。
「元気でな。もうイジメなんかに負けるなよ」
「うん! ありがとう、ヘンドリック! ボク、君のこと忘れないよ!」
またすぐに会えると言っているのにな。
やれやれ大袈裟なやつだ。
──しばらく後
俺は地図を頼りに、数十分ブワロ村を放浪して、ようやく俺を受け入れてくれる、ありがたい家に到着した。
昼には到着する予定だったのに、もう夕方前だ。
「家畜を飼ってるのか」
すぐ横に併設された牧場から羊たちが俺のことを見つめて来ていたので「わっ!」と言って驚かしてみる、
誰も反応せず「何してんだこいつ」という冷たい眼差しを向けられた。
「入ろ…」
俺は玄関扉をノックした。
すぐに「はーい!」という声とともに、扉は開かれた。
中から灰色のモフモフが現れる。
アルウであった。
「ヘンドリック?! なんで、どうして!」
びっくりしておののくアルウの背後。
優しそうな壮年の男が出てくる。
「ようこそ、いらっしゃいませ、ヘンドリックくん。アルウとはもう会っていたんだね」
彼は呑気にそういい、家のなかへ招き入れてくれた。
俺の新居。
どうやらアルウの家だったらしい。
「ほらな、またすぐ会えるって言ったろ」
「それでも早過ぎじゃない?!」
尻尾をぶんぶんふって落ち着きがないアルウの頭をボンボンとたたき、俺は「人生なんだって起きる」と含蓄ありそうに、適当につぶやいておいた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした
セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。
牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。
裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる