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氷結魔術 中編
しおりを挟むこの数日の試行錯誤のすえ、俺はあの現象を解明し、ある程度自由に操れるようになったのだ。
俺の真白い波動は、空気を砕いて一瞬でひろがり、四足獣のモンスターを一撃で霜だらけにして凍らせた。
即死はしていない。
殺傷能力で言えば《スコーチ》のほうが高いだろう。
ただ、こいつを喰らうとまず動けない。
「あんた大丈夫か?」
俺は剣でモンスターにトドメをさして、木陰でまるまるソレに話しかける。
灰色のもふもふの隙間から、彼、いや彼女はこちらを見つめていた。
「アルウ、どうしてここに」
「うわぁ……」
尻尾と耳をすぼめていたアルウが、押さえていたそれらを解放してふわっとふくらむ。
ほうけた顔で俺を見上げてくる。
いまいち話を聞いてない気がする。
「アルウ、聞こえてるのか?」
「はっ! 聞こえてるよ、もちろん!」
「なんでこんなところにいるんだよ。森の深い領域には危ないんだぞ」
「ヘンドリックがどこ行ったのかなーって思って、臭いを追いかけて来たんだよ。ほら、ボクの鼻ってすごくいいからさ」
臭いだと?
アルウにそんな能力があったなんて……。
隠された特技に驚愕していると、彼女はにへら~っとだらしなく笑みを浮かべて、尻尾をパタパタふりはじめた。
「ヘンドリック~凄いね~、なにそれ~!」
「魔術のことか? ふふ、これは俺も自慢なんだ。たぶん、使える奴は少ないからな」
「ふーん、ふーん! いいなーいいなー!」
やけに魔術に興味ありげだ。
「えへへ、実はね実はね、魔術ずっと前から使いたかったんだ! でも、お父さんがボクにはまだ早いって言って」
「アランさんが?」
「うん! お父さんはね魔術師なんだよ!」
アルウは薄い胸をはって、尻尾を嵐のようにふりまわして自慢げに言った。
「そっか。アランさんがなぁ……。んで、あの人には内緒で俺に魔術を教わりたいと」
「うん! ねえねえ、いいでしょ、ヘンドリック。ボク達は同じ歳なのにヘンドリックだけ魔術を使えるなんてずるい!」
うーん、これは勝手に「いいよ」なんて言ってやれないな。
「保留。考えておくよ」
「ええー! 絶対にお父さんに言いつけるじゃん!」
「言いつけないって」
「いいや、絶対、言うね!」
「言わないって」
──ルベントス家へ帰宅後
アルウは羊を小屋に戻しにいった。
「それで、アランさん、アルウが魔術を習いたいとか言って来たんですけど」
俺は速攻でアランに相談していた。
「ああ……そのことですか」
アランはすこし気まずそうな顔をした。
「ヘンドリックくんはどう思いますか?」
「僕ですか」
「ええ、同い年としてアルウに魔術はあつかえると思いますか?」
俺は腕を組んで思案する。
俺のイメージとしては獣人のアルウには、どうしてもフォッコ師匠のことを重ねてしまう。
アルウ本人もそこまで子供という風には見えないし、別に魔術をならっても大丈夫な気はする。
「いいと思いますよ」
俺は深くは考えずにそう言った。
「そうですか。それじゃ、うちのアルウをお願いしてもいいですか?」
ん?
「あれ、オーケーなんですか?」
「炎の賢者であるヘンドリックくんがいうんですから、一介の魔術師にすぎない私がとやかく言うことなんて出来ませんよ」
アランは「いや、恥ずかしながら毎日練習はしてるんですが……」と頭をかいた。
これはうかつな事を言ってしまった。
魔術世界、つまり魔術師同士の意見や主張にたいして、こうも階位が影響を与えるとは思っていなかった。
炎の賢者の俺の発言力は、俺が想像しているものよりもずっと大きいのかもしれない。
「すみません、部外者なのに出しゃばったようなこと」
俺はぺこりと頭を下げた。
「ところで、どうして僕なんですか? その、こう言っちゃあれですけど、素人の教育よりアランさん自身が教えたほうが安心でしょう」
「いえ、それが実は、私は風属性の魔術を5つ使えるだけの、本当にたいした事ない魔術師なのですよ。ギリギリ魔術師を名乗れているだけの私と炎の賢者であるヘンドリックくんでは扱う神秘の質と規模はまるで違います。なので、娘の前では……」
アランは歯痒い、弱腰、卑屈そうに自分をさげてペコペコ頭をさげてくる。
彼のメンツを保つ為に、アルウにはしっかり言っておかなければな。
魔術師は階位だけじゃない、って。
「わかりました。わりあい暇なので時間を作りますよ」
「よかった、ヘンドリックくんに教えてもらえるなら安心です」
俺は頭をさげてくるアランを手で制して、「お気になさらず」とだけ言った。
″その時″が来たら勝手に出ていくつもりだ。
きっと、アルウの面倒は俺の最大値まで見てやることはないだろう。
彼女への思い入れは、あまり強くしないようにしよう。
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