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決別 中編
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「……」
「? ヘンリー行かないの?」
「いや、行く。行くけど…」
やっぱり、失敗だったな。
弟子を取るべきじゃなかった。
別れをする事はわかってたのに。
「魔術は一日にしてならず」
俺はそうつぶやき振り返る。
「これからも練習に励むんだぞ。サボったらダメだからな」
「いきなりどうしたの、ヘンリー?」
「いや、俺もなにか言い残すべきだと思ってな」
俺は瞳を閉じて、師匠との別れの時を思い出していた。
「そうだ。お前、これ欲しいか?」
枯れ枝のような杖を持ちあげて見せた。
「え! くれるの?!」
「あげるなんて言ってない。欲しいかって書いてるんだ」
「もちろん欲しい、ボク杖持ってないもん」
アルウは手を開いてアピールする。
「そうか。それじゃちょっと預かっててくれよ」
「え? これから森に入るんじゃないの?」
「ばーか。俺は剣術も高めたいんだ。いざって時に魔術に逃げられるようじゃ、シリアスな闘争をできないんだ」
俺は枯れ枝の杖をアルウの手に握らせる。
9歳の子供の手にはイマイチ大きさがあわない。
でも、ずっと懸命にふってるところを見てきたからか、なかなかどうして悪くない。
「蒼ポルタの爪を芯に詰めた高級品だ」
「やったー、もらった……!」
「だから、あげてねぇって」
俺は腰の杖ホルダーもアルウに渡しておく。
「すぅー」
深く息をすい、橙色の空を見あげる。
これで黄昏の継承式はおしまいだ。
「んじゃな、ちょっと行ってくる」
「うん、がんばってねー!」
俺はご機嫌のアルウと分かれて森へ向かった。
──しばらく後
すっかり暗くなった森のなか、俺は木の根にかくしていた旅用の服装に着替え終える。
このままブワロ村を迂回して、村はずれの小屋に用意してくれている馬に乗る。
ミラー、ガレッド、クベイル。
この3人の詳細な位置などはつかめなかったが、3週間後に王都にて企画されている3つある騎士団の全団員がそろう場でなら、間違いなくすべての罪人たちがそろう。
もちろん、団長アイガスターもあの式典に出席するはずだ。
国家レベルで多大なる兵力が結集することになるが、別にすべてを相手取るわけじゃない。
浮雲家との縁も切っている。
多少手荒にやったところで、なんの問題もない。
「よし」
俺は旅用マントに身を包み、大きなトランクを片手に森を歩きはじめた。
夜闇のなか複数のモンスターに遭遇したが、問題なく斬り捨てた。
種類的にも戦い慣れているし、そもそもブワロ村近辺のモンスターは非常に弱い。
襲撃にそなえて夜目を鍛えてきた俺ならば、さしたる苦労なく対処できた。
森をぬけて村はずれにやってくる。
小屋はもうすぐそこだ。
俺は丘の上を見上げた。
浮雲屋敷の部屋の明かりがついている。
今頃は楽しく食事をしているだろうか。
「あるいはセックス。やれやれ」
俺は精神的にはもう15歳近くなのだ。
セックスくらいでは動揺しないのだ。
変な自信を取り戻しながら、小屋にたどり着くと女神形態のラテナがひょこっと現れた。
真っ赤な髪と、カラフルな羽のついた民族的衣装が実に麗しい、我が自慢の女神だ。
「ヘンリー、遅いですよ」
「ごめん、モンスターがたくさん出てさ。にしても珍しいな、女神形態はすぐ疲れちゃうって言ってあんまりならないのに」
「この姿じゃないと、キララちゃんが言うこと聞いてくれないのです」
ラテナはかたわらの艶々した毛並みの馬を撫でてあげる。
これは浮雲屋敷で飼われている騎馬だ。
俺は当主になる予定だったので、幼い頃から乗馬の訓練も済ませている。
というか、つい昨日も「ちょっと乗せて」というふうに、セレーナの乗馬にまぎれて練習をしてきた。
「それじゃ、荷物つけて置きますね」
「俺も手伝うよ」
ラテナはぽふんっという効果音とともに、いつものフクロウに姿を戻すと、トランクの中身をバラして馬にくくりつけはじめた。
鳥足だけで器用なものだ。
「手紙は」
「残して来ましたよ。『キララは借りていきます』だけしか書いてませんでしたけど、大丈夫ですか?」
俺は肩をすくめて「平気だよ」といい、荷物をくくりつけ終える。
「ん……ヘンリー」
ふと、キララの頭にとまったラテナが、森の方をみて顔をこわばらせた。
俺はそっとふりかえる。
気配はまるでなかった。
足跡もなかった。
けど、そうだった。
ステルスで俺を追跡できる奴がいたな。
「? ヘンリー行かないの?」
「いや、行く。行くけど…」
やっぱり、失敗だったな。
弟子を取るべきじゃなかった。
別れをする事はわかってたのに。
「魔術は一日にしてならず」
俺はそうつぶやき振り返る。
「これからも練習に励むんだぞ。サボったらダメだからな」
「いきなりどうしたの、ヘンリー?」
「いや、俺もなにか言い残すべきだと思ってな」
俺は瞳を閉じて、師匠との別れの時を思い出していた。
「そうだ。お前、これ欲しいか?」
枯れ枝のような杖を持ちあげて見せた。
「え! くれるの?!」
「あげるなんて言ってない。欲しいかって書いてるんだ」
「もちろん欲しい、ボク杖持ってないもん」
アルウは手を開いてアピールする。
「そうか。それじゃちょっと預かっててくれよ」
「え? これから森に入るんじゃないの?」
「ばーか。俺は剣術も高めたいんだ。いざって時に魔術に逃げられるようじゃ、シリアスな闘争をできないんだ」
俺は枯れ枝の杖をアルウの手に握らせる。
9歳の子供の手にはイマイチ大きさがあわない。
でも、ずっと懸命にふってるところを見てきたからか、なかなかどうして悪くない。
「蒼ポルタの爪を芯に詰めた高級品だ」
「やったー、もらった……!」
「だから、あげてねぇって」
俺は腰の杖ホルダーもアルウに渡しておく。
「すぅー」
深く息をすい、橙色の空を見あげる。
これで黄昏の継承式はおしまいだ。
「んじゃな、ちょっと行ってくる」
「うん、がんばってねー!」
俺はご機嫌のアルウと分かれて森へ向かった。
──しばらく後
すっかり暗くなった森のなか、俺は木の根にかくしていた旅用の服装に着替え終える。
このままブワロ村を迂回して、村はずれの小屋に用意してくれている馬に乗る。
ミラー、ガレッド、クベイル。
この3人の詳細な位置などはつかめなかったが、3週間後に王都にて企画されている3つある騎士団の全団員がそろう場でなら、間違いなくすべての罪人たちがそろう。
もちろん、団長アイガスターもあの式典に出席するはずだ。
国家レベルで多大なる兵力が結集することになるが、別にすべてを相手取るわけじゃない。
浮雲家との縁も切っている。
多少手荒にやったところで、なんの問題もない。
「よし」
俺は旅用マントに身を包み、大きなトランクを片手に森を歩きはじめた。
夜闇のなか複数のモンスターに遭遇したが、問題なく斬り捨てた。
種類的にも戦い慣れているし、そもそもブワロ村近辺のモンスターは非常に弱い。
襲撃にそなえて夜目を鍛えてきた俺ならば、さしたる苦労なく対処できた。
森をぬけて村はずれにやってくる。
小屋はもうすぐそこだ。
俺は丘の上を見上げた。
浮雲屋敷の部屋の明かりがついている。
今頃は楽しく食事をしているだろうか。
「あるいはセックス。やれやれ」
俺は精神的にはもう15歳近くなのだ。
セックスくらいでは動揺しないのだ。
変な自信を取り戻しながら、小屋にたどり着くと女神形態のラテナがひょこっと現れた。
真っ赤な髪と、カラフルな羽のついた民族的衣装が実に麗しい、我が自慢の女神だ。
「ヘンリー、遅いですよ」
「ごめん、モンスターがたくさん出てさ。にしても珍しいな、女神形態はすぐ疲れちゃうって言ってあんまりならないのに」
「この姿じゃないと、キララちゃんが言うこと聞いてくれないのです」
ラテナはかたわらの艶々した毛並みの馬を撫でてあげる。
これは浮雲屋敷で飼われている騎馬だ。
俺は当主になる予定だったので、幼い頃から乗馬の訓練も済ませている。
というか、つい昨日も「ちょっと乗せて」というふうに、セレーナの乗馬にまぎれて練習をしてきた。
「それじゃ、荷物つけて置きますね」
「俺も手伝うよ」
ラテナはぽふんっという効果音とともに、いつものフクロウに姿を戻すと、トランクの中身をバラして馬にくくりつけはじめた。
鳥足だけで器用なものだ。
「手紙は」
「残して来ましたよ。『キララは借りていきます』だけしか書いてませんでしたけど、大丈夫ですか?」
俺は肩をすくめて「平気だよ」といい、荷物をくくりつけ終える。
「ん……ヘンリー」
ふと、キララの頭にとまったラテナが、森の方をみて顔をこわばらせた。
俺はそっとふりかえる。
気配はまるでなかった。
足跡もなかった。
けど、そうだった。
ステルスで俺を追跡できる奴がいたな。
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