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決別 後編
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「はぁ、はぁ、はあ……ヘンリー」
顔に泥をつけて、肩で息をするアルウは俺と馬を交互に見てそういった。
擦り傷のある手にはギュッと俺のあげた杖が握られている。
「ヘンリーの帰りが遅いから…追いかけてきたんだ…けど……」
「そうか」
「それに、様子も……おかしかったし、いつもは大事な杖だからって、絶対にボクにあずけないのに…」
アルウは俺の服装をみて、なにかを確信したようだった。
「ヘンリー、ねえ、どこへ行くの?」
俺は目頭をおさえる。
「言えない」
「ど、どうして?」
「お前には関係ないからだ」
「っ……なんでそんな事言うの! ボクはヘンリーの一番弟子なのに! いっしょの布団でいっぱい寝た家族なのに…」
アルウは酷く傷ついたように、耳をしゅんとさせた。
「アルウ、すこし出かけるだけだって。上手くいけばすぐ戻って来れる。ほら、俺って元貴族だからいろいろ秘密もあるんだ」
「嫌だよ……なんか、違うもん」
「なにが?」
アルウは目の端に涙をためていた。
堪えきれなくなり、ポロポロと頬をつたって落ちていく。
「ここで行かせたくないんだ。ヘンリー、帰ってこない気がするもん……っ」
アルウは今にも大声で泣きそうだ。
泣かれたら厄介だ。
それにあまりここに長居したくない。
俺は手首のチャームの位置をかるく直して、ラテナにすこし離れるように言う。
そして、右手で当たりの土から熱素を集めて、左手でその反作用で生成された冷素を収集する。
「ヘンリー、やめてよ…なんで、そんなこと……」
「最終試験だ。俺を倒してみろ」
俺はそういい《ファイアボルト》を発射する。
アルウはハッとした顔で杖をふり、腰についているランタン型の魔導具から炎を誘導して、壁とすることで軌道をそらした。
「おお、やるな」
「ヘンリー、当たったら死んじゃうよ、それ本気で撃ってるよね!?」
「本気? はは、まさかこの程度……。ああ、そうだ言い忘れた」
俺は弾かれた《ファイアボルト》に遠隔から操作をくわえる。
「言ってなかったが、ソレは良く曲がる」
俺はふわふわ浮く《ファイアボルト》を直角に2度曲げて、アルウの足元を爆破した。
「うわぁああ?!」
畑に頭からつっこみながらも、アルウは鋭い犬歯を剥いて「《ファイアボール》!」と打ち返してきた。
俺は放たれたアルウの《ファイアボール》それ自体を第二の術者として、エレメントをコントロールして、火炎を霧散させた。
練度の低い火属性魔術は俺には効かない。
「え…ずるいよ! そんなのボクに教えてくれなかったのに!」
「あと半年あれば教えてたよ。ただ、時間がなかっただけだ」
「やだやだ、ダメ! もう一回!」
「ダメだ。実戦に次はない」
俺は左手にキープしていた《フロスト》を放射して、周囲の畑ごとアルウの下半身ともふもふの尻尾を霜で覆い尽くした。
驚愕してアルウは杖を取り落とす。
決着はついた。
「ま、待ってよ、ヘンリー!」
「じゃあな。もう……いや、やめよう」
俺は言葉を残すことせず、そのまま馬にまたがって腹を蹴って合図をおくる。
そうして、振り返ることなくいっきにブワロ村を離れた。
「よかったのですか? アルウちゃん泣いてましたよ?」
「いいんだ。俺はダメなやつだからさ、うだうだやってるんじゃ、いつまでも居心地よくなってここを離れられなかった」
「でも……」
ラテナは言葉尻をよわくして、すっかり小さくなったブワロ村をふりかえる。
この晩、彼女がそれ以上の言葉を口にすることはなかった。
顔に泥をつけて、肩で息をするアルウは俺と馬を交互に見てそういった。
擦り傷のある手にはギュッと俺のあげた杖が握られている。
「ヘンリーの帰りが遅いから…追いかけてきたんだ…けど……」
「そうか」
「それに、様子も……おかしかったし、いつもは大事な杖だからって、絶対にボクにあずけないのに…」
アルウは俺の服装をみて、なにかを確信したようだった。
「ヘンリー、ねえ、どこへ行くの?」
俺は目頭をおさえる。
「言えない」
「ど、どうして?」
「お前には関係ないからだ」
「っ……なんでそんな事言うの! ボクはヘンリーの一番弟子なのに! いっしょの布団でいっぱい寝た家族なのに…」
アルウは酷く傷ついたように、耳をしゅんとさせた。
「アルウ、すこし出かけるだけだって。上手くいけばすぐ戻って来れる。ほら、俺って元貴族だからいろいろ秘密もあるんだ」
「嫌だよ……なんか、違うもん」
「なにが?」
アルウは目の端に涙をためていた。
堪えきれなくなり、ポロポロと頬をつたって落ちていく。
「ここで行かせたくないんだ。ヘンリー、帰ってこない気がするもん……っ」
アルウは今にも大声で泣きそうだ。
泣かれたら厄介だ。
それにあまりここに長居したくない。
俺は手首のチャームの位置をかるく直して、ラテナにすこし離れるように言う。
そして、右手で当たりの土から熱素を集めて、左手でその反作用で生成された冷素を収集する。
「ヘンリー、やめてよ…なんで、そんなこと……」
「最終試験だ。俺を倒してみろ」
俺はそういい《ファイアボルト》を発射する。
アルウはハッとした顔で杖をふり、腰についているランタン型の魔導具から炎を誘導して、壁とすることで軌道をそらした。
「おお、やるな」
「ヘンリー、当たったら死んじゃうよ、それ本気で撃ってるよね!?」
「本気? はは、まさかこの程度……。ああ、そうだ言い忘れた」
俺は弾かれた《ファイアボルト》に遠隔から操作をくわえる。
「言ってなかったが、ソレは良く曲がる」
俺はふわふわ浮く《ファイアボルト》を直角に2度曲げて、アルウの足元を爆破した。
「うわぁああ?!」
畑に頭からつっこみながらも、アルウは鋭い犬歯を剥いて「《ファイアボール》!」と打ち返してきた。
俺は放たれたアルウの《ファイアボール》それ自体を第二の術者として、エレメントをコントロールして、火炎を霧散させた。
練度の低い火属性魔術は俺には効かない。
「え…ずるいよ! そんなのボクに教えてくれなかったのに!」
「あと半年あれば教えてたよ。ただ、時間がなかっただけだ」
「やだやだ、ダメ! もう一回!」
「ダメだ。実戦に次はない」
俺は左手にキープしていた《フロスト》を放射して、周囲の畑ごとアルウの下半身ともふもふの尻尾を霜で覆い尽くした。
驚愕してアルウは杖を取り落とす。
決着はついた。
「ま、待ってよ、ヘンリー!」
「じゃあな。もう……いや、やめよう」
俺は言葉を残すことせず、そのまま馬にまたがって腹を蹴って合図をおくる。
そうして、振り返ることなくいっきにブワロ村を離れた。
「よかったのですか? アルウちゃん泣いてましたよ?」
「いいんだ。俺はダメなやつだからさ、うだうだやってるんじゃ、いつまでも居心地よくなってここを離れられなかった」
「でも……」
ラテナは言葉尻をよわくして、すっかり小さくなったブワロ村をふりかえる。
この晩、彼女がそれ以上の言葉を口にすることはなかった。
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