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ミルクプリン
しおりを挟む初のモフモンバトルの翌日。
ユウリは課せられた朝食当番のためにルーナに叩き起こされていた。
「ユウリさま、起きてください!」
「まだ、夜ですよ…むにゃむにゃ」
「昨日の一件で罰則を受けたことお忘れですか! いいから、起きるんですよ!」
「ぅぅ、おふとん、引っ張らないで…ください…ぐぬぬっ!」
かけ布団にしがみついて、意地でも離れないユウリ。
ルーナは仕方なく、かけ布団をちょっとめくり、なかでぬくぬく寝ているだろう猫を鷲掴みする。
「オニャあ!?」
「コペルニクス、協力してくださいね!」
紺色の毛並みをユウリの顔の前に差し出した。案の定、覚醒してコペルニクスを熱烈にモフり始めるユウリ。
すかさず、かけ布団をひったくるルーナ。
今朝の勝負のルーナが楽に勝ち越した。
(策士……っ! いつの間にかルーナが戦国の知将におとらぬ策士になってる!)
抵抗力をなくしたユウリは、寝巻きを脱がされ、体をホットタオルで拭かれていく。
「さあ、それでは朝食をこしらえましょう、ユウリさま」
「眠いですよ…まだ、フランが起こしに来てすらないじゃないですか」
「フランもきっとまだ寝てますよ。朝食係は早いんですから」
真白い制服に着替えさせられ、ユウリは渋々ながらも部屋を出た。
誰もいない静謐な廊下を歩いて、食堂へと向かう。
「静かですね」
「当然です。ユウリさまも朝食当番をするようになったら、この時間に起きるのですよ」
「絶対無理」
「オニャ」
「「……ん?」」
ユウリとルーナは変な声が聞こえて立ち止まる。
背後を見ると、紺色の毛並みを携えたコペルニクスがワクワクした面持ちで付いてきていた。
アウラ神父にバレないように、普段は部屋にいてもらうはずが、出てきてしまったらしい。
「こら、コペルニクス! ユウリさまの部屋で待っていないとダメですよ!」
「オニャ~」
「ふむふむ、扉が勝手に開いたからついつい付いて来ちゃったと。うーんっ、この、可愛いおにゃんこめ!」
ユウリはコペルニクスを抱きあげて、ふわっふわのお腹をモフる。
「ユウリさま、流石にモフモンを連れ込んでるのがバレたらまずいです! はやく、お部屋に戻されるべきかと……」
「オニャ」
「なになに、朝ごはんを作るお手伝いがしたい、ですって?」
「オニャオニャ」
「仕方ないですね。今日は特別ですよ」
「ユウリさまぁあ?!」
モフモンにとことん甘いユウリは、コペルニクスを連れたままキッチンへやってきた。
主人がこうなったら止まらない事を肌で知るルーナは、あたりの警戒に尽力し始める。
あの猫を神父に目撃されたら大変だ。
「さて、それでは、今朝のメニューは何にしますかね」
「オニャ」
本来はメニューは決まっているが、ユウリは初めてなので知らない。教えてもらったが、フランをモフッていたので聞いてない。
「オニャ!」
「ん? これは……ああ、もしかして、昨日いただいたモゥモウミルクですか」
冷蔵庫を開けて、愛猫が見つけたお宝。
欲しそうに目をキラキラさせるコペルニクスにたっぷりミルクを注いだ器を渡す。
「オニャっ、オニャ~♡」
「ふふ、本当にうちの子は可愛いです」
ぺろぺろミルクを堪能するコペルニクスを横目に、ユウリはメニューを思いついた。
「コペルニクス、シチューなんてどうでしょう? モゥモウミルクが余ってますし、昨日のみんなの絶賛ぷりから喜ばれると思うんです」
「オニャ~」
「そうですか、では、シチューに決まりですね」
(認めてもらえば、イジメもなくなるかもだしね)
最近、鼻息荒く近づいて来ては、いろいろな小物を渡す罰ゲームに自分が巻き込まれてると思っているユウリ。
本当は魔法の効果がついている貴重な品をプレゼントされてる事には気がついてない。
何せ、見た目が石が、布切れ、木の枝なので、地球育ちには価値あるかどうか、少々判別が難しい。一応、全部とっておいてるが。
「ルーナ、こっち来て手伝ってください」
「でも、ユウリさま、それでは見張りがいなくなってしまいます!」
「包丁を使います」
「ユウリさまあぁあああああー!?」
ルーナが飛ぶ勢いで、キッチンに乱入して包丁を取りあげる。
体に怪我がないか、ルーナに懇切丁寧に確認される。
「大丈夫ですって。さっ、ふたりで一緒に料理をしますよ」
「はぅ、ユウリさま、消して命に関わる危険な事だけはしないよう、お願いします! 危ない作業はすべてこのルーナがやります!」
包丁をくるくる振り回して、ルーナが凛とした顔つきになる。
銀髪の間からのぞく、キリッとした黄金の瞳がカッコいいが、この目を信用しすぎてはいけない、とユウリは自分に言い聞かせる。
「では、まずはコレとコレと、コレを切ってください──」
ユウリの的確な指示でルーナは華麗な刃物さばきで野菜を刻んでいく。たびたび指をシュパっといってる気がしたが、相変わらずな耐久力でまるで怪我はしていない。
(あれ、絶対にいま切ってなかった……?)
ルーナを心配して眺めるユウリは、心配すぎて集中する事ができなかった。
そうこうして、少女達のハラハラドキドキしたクッキングは進み、無事にシチューの原型が出来上がって来た。
「ところで、ユウリさま、これは何を作っているのですか?」
ルーナはたずねる。
鍋の中には、もう素人が見てもわかるくらい出来上がってるシチューが入っている。
実は異世界の食文化は、ユウリがいた地球より発展していなかった。
シチューの存在もルーナは、今日生まれて初めて目撃していた。
「シチューですよ?」
「しちゅー……ですか」
「もちろん、みんな大好きシチューです」
「すみません、ユウリさま、恥ずかしながら初めて聞きました……このルーナ、知識不足を恥辱をそそぐため今日からは野菜の切れ端として生きていきます」
「どんなそそぎ方……?」
(シチューを知らないと言うことは、もしかしたら地球産の食べ物を知らない可能性があるよね)
ユウリは思い至り、シチューを完成させたあとにもう一品作る事にした。
まだ時間はありそうだった。
「ルーナ、プリンって知ってます?」
「ぷりん……」
ルーナは悔しそうな顔をして、頭を抱える。出来の悪い記憶力からなんとか、その存在を引っ張り出そうと頑張る図だ。
「くっ、ぬっ! 思い出さないと! ぷりん、ぷりん、ぷりん!」
(あ、これは異世界にはない感じだ…)
「ぷりん! ぷりんって! ぷりん……っ」
「大丈夫ですよ、ルーナ。プリンを思い出さなくても仕方な──」
「あああっ、私の無能、役立たず、野菜の切れ端……っ、どうして、ぷりんを思い出せないのですか!」
ルーナは無念極まると言った様子で、キッチンの隅っこで丸くなってしまった。
「オニャ」
「っ、コペルニクス……慰めてくれるのですか?」
「オニャ~」
肉球でルーナの垂れ下がった頭を撫でて、コペルニクスは愛らしい笑顔をうかべる。
ユウリはふたりを微笑ましく眺めながら、ミルクプリンを作りはじめた。
「ゼラチンは無さそうだから、コーンスターチ? コーンスターチあるかな……」
棚をあさり、それらしい材料と、砂糖、モゥモウミルクを使う。
中火で温めたフライパンに、材料をミックスしたモノを投入して、ヘラで適度に混ぜていく。
混ぜ終わったら粗熱を取り除き、器に移して、冷蔵庫で冷やせば完成を待つのみだ。
──しばらく後
太陽の光に空が明るくなって来た頃。
「オニャ!」
「そろそろ、よさそうですね」
冷蔵庫からミルクプリンを取り出す。
「モゥモウミルクがたくさんあったら、十分な量作れましたよ。さあ、ふたりともどうぞ」
「オニャ!」
「ぐすん、こんな無能めにもユウリさまの料理を食べる権利があるのでしょうか……?」
うだうだ言ってるルーナの口に、ミルクプリンをスプーンでねじ込む。
「オニャ~っ♡」
「お、美味しい……ッ、なんですか、この美味しさは…!?」
ルーナもコペルニクスも、あまりの美味しさに思わず唸り声をあげてしまう。
「えっへん、わたしの腕もまだまだ捨てたもんじゃないですね」
(前世の晩年は料理なんて出来てなかったけど、また初めて見るのもいいかも)
ユウリは料理の楽しさを思い出した。
(誰かを笑顔にするって、気持ちがいいね)
もりもりミルクプリンを食べるふたり。
すぐにおかわりの注文が入り、ユウリは笑顔で応じてあげるのだった。
やがて、食堂に候補生たちの姿がやってくる。
「あ、コペルニクス!」
「オニャ?」
「ユウリさま、お任せください!」
ルーナは事情がわかってないコペルニクスを抱きかかえて勝手口から出ていった。
庭から自室にコペルニクスを戻す作戦だ。
「あ、窓が閉まってる! どうしよう!」
防犯のため鍵をかけておいたのが仇になった。これではお腹いっぱいで眠りはじめた猫を戻せない。
だが、ふと窓が勝手に開く。
孤児院という名のユウリ大好きモフモンの、粋な計らいだった。
こうしてルーナは無事にコペルニクスの存在を気取られずに、ユウリの部屋へ彼を送り届けたのだった。
一方そのころ食堂では……
「ユウリさまっ、ホシにもおかわりください……っ! お願いします、ユウリさま!」
この日、ユウリの謎の美食2品は嵐を巻き起こすほどの大絶賛を呼び、レシピが更新されて、孤児院のメニューローテーションに加わった。
この功績のおかげでユウリは、天才料理発明家としての才能があると、候補生や食堂のおばちゃん、アウラ神父などに認識されるようになるのだった。
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