勇者に告られた殺人鬼ですけど、魔術学院の先生です。

ファンタスティック小説家

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第一章 殺人鬼の不幸

殺人鬼と勇者 その2

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 帰宅してまずやることは、精神衛生のための儀式だ。

 革手袋を外し、手を洗い、アルコール液で消毒。

 うがいをし、服を着替える。

 鏡を使い、毛のみだれを整えて、すべて後ろへ流す。

 綺麗なオールバックが出来上がった。

「完璧だ」

 ひと通りの儀式を完了して、準備にとりかかる。

 ーーカチッ

 懐から取り出したのは、機械仕掛けの懐中時計。

 時刻は16時46分。

 まだ早い。

 私の芸術家としての所見から言わせれば、創作活動は20時からはじまり、22時にピークを迎え、日をまたぎ宵を迎えて終幕する。

 それに、私は太陽が嫌いだ。

 誰が頼んだわけもなく、勝手に輝いてるアレだ。

 浴びれば灰になってしまうわけではないが、極力あんな身勝手極まりないものは見たくない。

 時が来るまでは作品を手入れしてすごそう。

 懐中時計をしまい、地下室へと移動する。

 いく重もの魔法結界を悪魔の力≪ドリームランド≫と照応させる。

 十分な時間をかけて魔法結界を解除した。

 この扉は悪魔の力が鍵となっている。
 ゆえに私以外には絶対に開けられない。

「すんすんッ……アァ、たまらない。前回のよりうまく加工できているね」

 幼い少女の陰部を剥がして作った、「作品」を鼻からゆっくりとはなす。

 保存された少女の柔肌は最高だ。
 嗅いでもいい、触ってもいい、舐めてもいい。

 衛生面でも、その点は保証されているから安全だ。

 アァ、腹の下のうずきがおさまらない。

 人は表面だけならこうも美しいのに、なぜ、皮ひとつ取り除いたら、醜い怪物になってしまうのだろう。

 化けの皮を剥ぐ、の本当のいみは人を最も綺麗な状態で、人間らしく保存することにあるのだと、私は考える。

「にゃお、にゃあ!」
「こら、いけないよ、チャーリオ。ここへ入ってきては」

 半開きの扉から侵入した子猫。

 腰から魔法の杖をぬいて、かるく振る。

「にゃお!?」

 子猫の体を得意の神秘魔法で浮かしてあげて、部屋の外へとすばやくほうり投げ退出させた。

 数ヶ月前まで私の家に通いつめていた野猫がいる。
 彼女はもう死んでしまったが、3匹の残った子どもはいまこうして私が飼っている。

 特に理由はない。
 ただの気まぐれだ。

 強いて言うなら、彼らの毛皮は柔らかそうだから。

 ふだんは毛玉類なぞ不衛生で、好みはしないが、彼らは特別に入居させている。

 さて、邪魔者は消えた。
 それでは、続きといこうか。

 私はゆっくりと手のひらを、下半身へと伸ばした。


 ⌛︎⌛︎⌛︎


 その晩、私は最高のモチベーションで夜の王都を歩いていた。

 私の住む街の名はエールデンフォート。

 大陸の大半を占める巨大な国土を誇る、ヨルプウィスト人間国が王都にして、繁栄の極みをむかえる街だ。

 背の高い建物、しゃれた時計塔、無尽蔵にひろがりつづけ、最外壁からはみだした居住区画。

 足の踏み場はすべてが石畳で舗装ほそうされ、とおりには魔力灯がないほうが珍しい。

 朝も、昼も、夜もーー人はこの街で営みをおこなう。

 屋台だってたくさんでている。

「ん、嫌なにおいがする……」

 鼻をつまみ、顔をしかめる。

 そうだ、いいことを思いついた。

 私は目についた屋台に歩みよった。

 そして、茶皮のレザーコートのポケットから、銅貨をひとつとりだして店主にわたした。

「あいヨッ、お待ち!」
「ありがとうございます。ご主人、これは美味しいですか?」
「あぁ! 最高に美味しいヨッ!」
「……そうですか。それは残念です」
「あいヨッ! え……?」

 店主から紙袋を受けとり、私は屋台を後にした。

 いかにも不味そうな、魚の焼き物を選んだわけだが……こんなものが美味しいのだろうか。

 海でも川でも、低脳な人間はすぐに水遊びをする。
 なかには水中で用をたす、とうてい同じ種族とはおもえない理解できないやからもいる。

 つまり、魚類とは、雑菌の宝庫とかした水の中で、長年にわたり汚れをたべて生きてきた生物の肉だ。

 美味いわけがない。

 何をしても笑顔のクリスに、最高にまずいものをプレゼントして、
 吐くのを我慢させながら懸命に「美味しいです!」と言わせたかったが……これではダメだな。

 歩いてきた通りをふりかえる。
 30メートル先の屋台に、さきほどの店主が見えた。

 右手の関節を鳴らし、大きく開く……そして手のひらにたしかな手応えを感じて、私はそれを強くにぎった。

 ーーハグリュッ

 悪魔の力≪ドリームランド≫は正常に作動した。

 遠くの屋台のなかで、膝からくずれ落ちる男を見届ける。

「あぁ……これで安泰だ」

 深く、深く、気持ちのいい深呼吸。

 私は紙袋をしげみに投げ捨てて、ふたたび歩きだした。


 ⌛︎⌛︎⌛︎


「いやぁ、先生びっくりしちゃったよ! まさか先生がこんな時間にうちに来てくれるなんて!」

 クリスはそう言いながら、台所へ。

 柔らかなポニーテールを揺らしながら、クリスはバケットに、パンとリンゴを詰めてもってきてくれた。

 居間の机に座らされた私のまえに、どんっとバケットがおかれる。

 目を見張り、私は赤い果実をそっと手にとる。

 うむ、みずみずしい。
 これは平気そうだ。

 パンは放置されていたものだな。
 こっちは食べないようにしよう。

「んっん、それで、えっと、その、エイデン・レザージャック先生……?」
「ん、なんだい、クリス。そんなに改まって」

 突如として頬を染め、もじもじとイスに座りなおし始めたクリス。
 赤色の髪の毛先を指でいじり、ふっくらした唇を開閉してパクパクさせている。

「えっと、私たちの……ほら、このまえ話したこと、です……考えてくれましたか?」

 チラチラと上目遣い。
 人差し指を突き合わせるしぐさが、なんとも愛らしい。

 たぎる衝動を抑えて、私はクリスのきめ細やかな金髪にそっと手をおいた。

「私とクリスのことだね。あぁ、もちろん考えたさ。前向きな答えをすると約束しよう」
「っ、本当ですか!? やったー! ありがとうございます、もう大好きです!」
「ッ!」

 緋瞳をきらっきらさせて、飛びついてくるクリス。

 とっさに避けようとするが、捕まってしまう。

 彼女の柔らかな双丘がひわいに形をゆがめ、私の薄い胸に押し当てられてくる。

 これはいけない。

 私は女性の体など見飽きているし、触りなれてもいる。

 だが、なぜか生きている人間との接触は苦手だ。

 特にクリスのように、スキンシップの激しい少女相手に、こんな事をされては対処不可能である。

 不快ではない、とは思うが……苦手だ。

「クリス、その離れてくれないか。子どもがこんな事するのはよくない」
「えへへ、先生ったら照れてるの~? 最近の子たちはこれくらい普通なのにっ!」

 やけに抵抗力の強いクリスを引き剥がし、シャツのみだれを整える。

 やれやれ、困ったものだ。
 最後の会話を楽しもうと思ったのにね。
 彼女は素敵だが、やはりそうそうに「作品」に仕上げたほうがいいかもしれない。

 席を立ちイスをもって、居間の広いスペースに移動

 イスを綺麗に設置して私はその前に立った。

 クリスは私がなにしているのか、不思議そうに見つめているだけだ。

「クリス、ここにおいで」

 かるく手招きをする。

「あ、わかった! 先生は楽しい魔法をいっぱい考える天才だから、なにか新しいものを作ったんでしょ!」

 クリスは無邪気にとびはねて、ニコニコしてイスに座ってくれた。

 私は彼女の頭をぽんぽん撫でて、イスの周りを歩きはじめる。

「クリス、先生はクリスのことが大好きだ」
「ッ、ふぇ!? い、いきなり、そんな……えっと、これ、どういう、ゲーム?」

 クリスは顔を耳まで赤くして、周る私を追うように見つめてくる。

「だけどね、クリス。先生にはひとつだけ不満がある。些細な不満ではない。致命的な不満だ。これがあるかぎり、先生とクリスはいっしょになれない」
「ッ、そ、そんな、先生、とうして、そんな事言うの……ぅぅ」

 クリスは、まん丸の緋瞳から滂沱ぼうだと涙を流し、顔をおさえて涙声を引きつらせはじめた。

「でもね、クリス。先生は信じてる。クリスなら先生のために変われる子だって」
「う゛ん゛、あたし、変われる、もん……ッ。先生が嫌なところ、変えてみせるもん!」
「いい子だ。やっぱり、クリスでよかったよ。うんうん、君は最高だ」

 イスをに座るクリスのうしろにつきーー杖をぬく。

 無詠唱の魔術。

 4年前より愛用するオリジナル魔法。

 名は≪ラバーズ・ボンド≫ーー保険はかかった。

「クリス、それとひとつ。先生は、クリスと先生との間にある秘密について話す必要がある」
「ん、いいよ! あたしは先生のことなら、なんでも受け入れてみせる!」

 杖をそっとしまい、シャツの右袖をまくし上げながら、クリスのまえにゆっくりと移動。

「クリス、君は『スキンコレクター』という名の危険な人間がいると、聞いたことはあるだろうか?」

「ん、いきなりなんですか、それ……うーんと、たしかあれですよね、街を転々と渡り歩いて、人の体をバラバラにして殺しちゃうこわい殺人鬼! 
 いっつも体の多くが持ってちゃうんだけど、特に皮だけは必ずなくなっている事から、皮の収集家スキンコレクターって呼ばれてるんですよね!」

 クリスに明るいトーンで、指をたてハキハキと知ってることを話してくれる……まるで他人事だ。

 よかった。
 彼女もしっかり知っているらしい。
 これで存分に楽しめる。

「そのとおりだ。これまでに216人の人間に協力をあおぎ、その体を解体してきた、異常の罹患者であり、前衛的芸術家だよ」

「え、いや、そんな表現する人……えへへ、もう、先生って変わってますよね!」

 クリスは苦笑いを浮かべて、手をひらひら振り「冗談よしてくださいよ~」と、いたずらな流し目をおくってくる。

「クリス、彼がどんな風に人体をバラバラするか知っているかい?」

「あ、あの、先生……この話題やめません? あんまり楽しくないっていうか、先生らしくないですよ!」

「いいや、クリス。私は誰よりも自分らしく生きている。人間の本質的な欲求にだれよりも正直で、だれよりも純粋なんだよーー」

 右手をぐっと大きく、大きく開き、たしかな感触が宿るのを確かめて、手のひらをゆっくり閉じていく。

「クリス、君で217人目だ」
「せ、先生、なんか、こ、こわいですよ……」

 涙を浮かべる少女。
 私はその形のいい耳に、くちを近づけてささやく。

「私がスキンコレクター……君の知る連続殺人鬼とはこのエイデン・レザージャックのことさ」
「ッ!? そ、そんなーーっ!」

 私は力いっぱいに右手を握りつぶした。

 悪魔の力は正常に作動する。

「…………ふっはははは、あは、はははっ!」

 歓喜に目元をおさえ、天をあおぎ、体を震わせる。

 手にいれた、手にいれたぞ、クリスを。
 最高だ、気持ちがいい、勃起してしまいそうだよ。

 さぁ、まずは鑑賞しようか。

 美しき我が芸術の画材を。
 綺麗にふわけされた私のクリス・スレアを!

「さぁ、さぁ、わざわざハンドレスでやったが、どれくらい綺麗にわかれてくれたか…………ん?」

 私はイスを見下ろして、グッと目を見張った。

「あの、先生」
「……? どういうことだ」

 イスのうえにちょこんと座り、キリッとした表情で見上げてくるクリス。

「……あ、はは、これは失敗した。ついつい能力を解除してしまったのか。いけない。クリス、ごめんよ。すぐに君のきれいな皮を剥ぎとってあげよう」
「ッ、やっぱり、先生が、あの殺人鬼、スキンコレクターなんですか……?」

 私はクリスの豊満な胸を……いや、そのすこし上あたりに、右手をかるくそえて能力を発動させる。

 悪魔の力≪ドリームランド≫よ。
 この美しい少女をすぐに究極芸術にかえたまえよ。

「ごめんよ、クリス。楽しい時間だったが、私の病気の治療のため、君には死んでもらわないと困る」

 さぁ、今度こそお別れだ。

 まぶたの裏に、これまでの日々を思い起こす。

 さようなら……私の教え子、クリス・スレア。

「病気だったんですか。どうりで痩せてると思ってました……先生、わかりましたよ。あたしが先生を……その恐ろしい病気から救ってみせます!」
「……へ?」

 まぶたをあけ、クリスの小顔をたしかにおがめる。

 ありえない、悪魔の力をつかったはず。
 なのに、クリスは険しい顔で私をにらみつけてきているなんてーー。

「ッ」

 それが最後の視覚だった。

 気がついた時、私の体はーー宙を舞っていたのだ。
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