勇者に告られた殺人鬼ですけど、魔術学院の先生です。

ファンタスティック小説家

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第一章 殺人鬼の不幸

殺人鬼と勇者 その3

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「どぶぅへぇ!?」

 強烈な衝撃に視界が明転。

 後頭部、背中、肘、膝ーー。

 すべてがジンジンと痛み、この私に床のうえでイモムシみたいに悶えることを強制させる。

 なにが起こった。
 なにが起こっている。

 えらく頭が痛い。

 反転した世界をりんごが転がっていく。
 私はさかさになっている?

 あぁ、なるほど。

 私はどうやら投げられたらしい。
 人生で初の体験だ。
 この私が無様に投げられるなんて。

 というよりなんだ。
 魔術の学徒であるクリスに、なぜこんな力が……。

「先生、あたしは先生の病気を必ずなおしてみせる! だから、今は頭を冷やしてください!」

 歩み寄ってくる足音。
 床に頬をこすりながら、目だけで見あげる。

 クリスに正体がバレた。
 こんなヘマするなんて始めてだ。
 1秒でもはやく、彼女に逃走される芽を積む必要があるな。

「う、ぐ……っ、クリス、そういうわけには、いかない、よ!」

 痛む身体をにむちをうつ。
 腰のホルダーにおさまった杖の、グリップにわずかに手をかけ、彼女に掛けた魔法を最速で作動させる。

「げほっ、かっ、はは……≪ラバーズ・ボンド≫、発動……私のオリジナルスペルだ。
 クリス、君はもう指一本、エーデル語1単語でさえ、動かすことも、発声することも叶わないだろう」

 目を見張り、驚いた表情のクリスはぺたぺたと自身の体を触って、なにかをたしかめている。

 そうだ、存分に確かめるといい。

 君はもう何もできないのだから……ん?

 待てよ、どうして君は体をぺたぺた出来ている?

「あの、先生……先生の魔法、あんまり効果ないみたいですよ」
「……ッ!? 馬鹿なっ! なんでさっきから! クソっ!」

 思いどおりにかからない魔法。

 イライラしてきた。最悪だ、気分が悪い。

 もういい、さっさとバラバラにしてやる。

「今度は手加減なしの、悪魔の力を見せてやろう……っ!」
「先生、たぶんそれ意味ないんで、もうやめてください!」
「うるさいッ! 私の魔法が、能力が効かないはずがないんだ!」

 服は汚れるし、背中は痛い。
 魔法の調子は悪いし、悪魔の力も働かない。
 クリスには馬鹿にされ、あわれむ目を向けられる。

 あぁ不快だ、本当に嫌な気分だ!
 こんな予定じゃなかったのに!

「もう死んでくれ、≪ドリームランド≫よ、クリスの皮を持ってこい……ッ!」

 困った顔でたたずむクリスへ、ふたたび右手を向けて能力の馬力を最大にして発動する。

 ーーハグリュリュッ!

「ッ、先生の魔法? いったいこれは!?」
「クリス、私を甘く見たツケを払う時が来たようだな!」

 クリスのまわり、床にイス、天井も家具すら裂けていき、次々と粉状の粒子に変わっていく。

 彼女の部屋着も裂けていき、だんだんとその白い柔肌が、布地のしたから溢れるように露出してきた。

 なんて、なんて、えっちなんだ……。

「きゃあ!? なに、これっ!? どスケベな、いや、先生、やめっ、ちょ! 先生ぇえー! 先生はこんなスケベのために魔法を磨いたわけじゃないでしょ!?」

 目の端に涙を浮かべ、訴えかけてくる少女。

 凄まじいエロスを感じるが……そうじゃない。

「先生は、先生はそんな、ケダモノじゃ、ない……はずっ!」
「あ・た・り・ま・え、ダぁ! ぐぐぐ……ッ! なぜだ、なぜクリスを解体できないんだ!?」

 私は困惑していた。

 どれだけ≪ドリームランド≫の出力をあげても、クリスの衣服が破けて、彼女が赤面して恥ずかしがるだけだからだ。

 これでは私は、粗野で低俗な性獣とやってることが同じではないか。

「うぐっ!?」

 突如として襲ってきた頭痛。

 まずい、能力限界がきたか。

 悪魔の力は人間の身にあまる。
 身に宿すだけで、法外な寿命を支払い、使用するのにもまた、残された時間を削る必要がある。

 それに加えて一定の使用限界もある。

 やれやれ、便利だが、本当に割にあわない力だ。

「がっ、ほぉ、っ!」

 口から塊のような血を吐きだし、膝をつく。

「先生! もうやめて! 先生は変態て病気持ちなのはわかりましたから! もうそんな体で無理をしないでください!」

 布切れしか着ていない、ほとんど痴女みたいなクリスが、涙をながしながら駆け寄ってくる。

 もうろうとする意識。

 柔肌の豊満な胸に顔をうずめ、温もりのなか、いつしか私の意識は暗闇のなかへ誘われていた。


 ⌛︎⌛︎⌛︎


 目を覚ました時。
 私は知らない天井を見つめていた。

 上体をおこして、体をひねり、腰の関節をならす。

 五体に問題はない。

 手も足もある。
 目も耳もしっかりついている。

 残る痛みは、わずかな頭痛だけだ。

 体に問題はなさそうである。

 だが、いったいここは?

 特にこれといった特徴を感じさせない部屋。
 簡素な木机に、木製の椅子、窓枠に赤いカーテン。

 手をつくベッドの布地はやわらかく、なかなかに上等な良い品質。

 中流階級の部屋、それがひとことでこの部屋を表すための言葉といえる。

 私はベッドからおりて、足下にあったスリッパを履いた。

 ふと、ベッド脇の小棚に書き置きが残されていることに気づく。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 先生へ


 先生は病気です、それも重症です。

 でも、安心してください。
 必ずこのあたしが先生を救ってみせます。

 先生を助けるにあたって、まずは先生がどんなことをしていたのか知る必要があります。

 まことに勝手ではありますが、先生が寝ている間に、先生のご自宅を調べさせてもらうことにしました。

 先生はご自身を連続殺人鬼、スキンコレクターと名乗っていますが、あたしには未だに信じられません。

 この目で確かめさせてもらいます。


 クリス・スレアより


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ……って、待て、待て、待て待て待て。

「クリスッ! クリィィースッ! クリスどこだ! なぜ私の家の住所を知っているか気になるが、とにかく早まるなぁあ!」

 私はスリッパを放りだして急いで走りだした。

「ぅ、う、まだ体が痛い……」

 廊下へでて、階段をくだり、自分がクリスの家の2階に寝かされていたのだと知った頃。

 私は同時にクリスがこの家にいないことも悟った。

 まずい、まず過ぎる。

 はやく彼女の息の根を止めなければ、私の芸術家としてのキャリアが終わってしまう。

 私は痛む体をひきずって、クリスの家をとびだした。


 ⌛︎⌛︎⌛︎


 大嫌いな運動。その1、走ること。

「ハァ、ハァ、ハァ……ッ」

 私はかきたくも無い汗で全身を濡らし、自宅の玄関前にたどり着いた。

 もう最悪だよ、はやく体を清めなけば、恒久的こうきゅうてきに精神がおかしくなってしまう。

 ーーカチッ

 時刻は23時21分。

 懐中時計を内ポケットにしまいこみ、腰のホルダーの杖に手をかける。

 しまった、杖がない。

 さっき気絶した際に、クリスに没収されたのか。

「だが、スペアがある。悪魔の力もある」

 右手を見つめて、ぎゅっと握り拳をつくる。

「クリィィィス! いるのはわかっている! 今すぐに出てくるんだ!」

 右の関節を鳴らしながら、乱れたオールバックを撫でつける。

 今すぐに、今すぐに精神の安泰を確保しなければ。

 気が触れるそのまえに!

 書斎からスペアの杖を取って地下室へむかう。

「っ」

 開いていた。
 地下へ道を閉ざす金属扉は、開いていた。

 どうしてだ。
 私の≪ドリームランド≫がなければ、開けることなど出来るはずがないのに。

 急いで扉をあけて、杖を構えて地下室に突入する。

 そこには案の定、クリスがいた。
 なぜか私の猫たちを、足元にはべらせているが、そんなこと些細な問題にすぎない。

「クリス、見たな……私の、私の一番大事なものたちを……勝手に、私の許可なく、悪意で侵害したな!」

 怒鳴り、手首をかえして杖をふる。

 もう殺す、いい、いいよ、殺してやる。

 極めて強力な火属性式魔法ーー≪汝穿なんじうが火弾かだん≫ーー朱き槍を撃ち放った。

「先生、安心してください、私が救ってみせます」
「ーーッ」

 魔法が着弾するまでの極めて短い時間のなか。

 私はクリスの声をたしかに聞いた。

 刹那、私の視覚のなかで不思議な現象がおきる。

 クリスがなにも持ってない空手が、空中ををしたと思った途端、何もない空間から剣が現れたのだ。

 火の粉散る、赤い粒子とともに顕現けんげんしたそれは、緋く黒い両刃をもった大剣であったーー。

 ーーほわっ

 私の放った魔力が弾かれ、地下室に飛散する。

 視界を埋め尽くすは紅蓮の烈火。

 作品たちが燃えていき、暗い部屋を明るく照らす。

 私は芸術が焼失する絶望よりも、いま目の前で緋黒あかくろい大剣を手にする少女に、かつもくすることにしか出来なかった。

「私はすべてを救う。そのためにこの命を、継承するアレスの力を授かった」

 真っ赤に燃える地下室。
 そのなかで、ひときわ美しく彼女の緋瞳は輝く。

 髪の毛は毛先だけ赤かった金髪から、そのすべてが紅色に変わっている。異常だ、この子は異常だ。

「く、クリス、君はいったいーー」
「この身の本当の名はクリス・アレス」

 この世界の人間なら誰でも知っている継承名。

 ああ、なるほど、どうりで強い……。

「あたしは勇者です、先生」

 彼女は燃え盛る炎を背に、ニカっと微笑んだ。
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