勇者に告られた殺人鬼ですけど、魔術学院の先生です。

ファンタスティック小説家

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第一章 殺人鬼の不幸

殺人鬼と勇者 その4

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 軽快にチョークをはしらせて板書を完成させる。

 黒板に教本のすべてを書きうつす、愚かな教師のマネはしない。

「この黒板に書かれた魔術式がひきおこす『現象』を答えてみろ」

 教室全体を見渡し……金髪のポニーテールを発見。

「君だ。赤い毛先を指でいじって遊んでる君だよ、クリス」
「それ≪発火連弾はっかれんだん≫の魔術式ですよね。ってことは対象地点への継続的な火属性魔力の爆発だと思いまーす」
「チッ……正解だ。よく予習しているね」

 教科書の一番後ろからだしたのになぜ答えられる。

 自慢げなクリスが鼻を鳴らして見てくる。
 言ってやった、とでも言いたいのだろうか。

「今日はここまで。残る授業もあとわずか、最後まで気を抜かないように」

 私は教卓のうえのプリントと教本をまとめ、さっさと教室をあとにした。

 廊下を歩きながら、中庭をなんとなしに眺める。

 思いだすのは昨日の出来事だ。

 懐から日記を取りたし、ペラペラとページをめくる。

 日付は1月13日。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 今日はひどい目にあった。
 最悪の気分、最低の境遇だ。

 私のクリスにはご協力いただけなかった。
 これまでの協力者のなかで、一番抵抗してきた。

 彼女は勇者だった。
 伝説の三勇者、アレスの末裔だ。

 まさかあの勇者がこんな身近にいたとは驚きだ。

 作品をすべて燃やされた。
 家の中も彼女が暴れたせいでめちゃくちゃだ。

 全部、クリスのせいだ。

 今日はもう何もしたくない。

 1月13日の私より


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ページをひとつめくる。

 日付は1月14日、昨日だ。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 クリスが居間のソファで寝ていた。

 部屋はあらかた片付いていた。
 彼女が一晩かけて掃除してくれたらしい。

 眠るクリスにも悪魔の力を試した。
 まるで効果がなかった。

 彼女は私を救うつもりらしい。
 身勝手極まりないことだ。

 勇者だから傲慢なのか。
 傲慢だから勇者なのか。

 救われたいなんて頼んでない。
 それなのに恩の押し売りをする。

 あれでは、まるでサイコパスだ。

 1月14日の私より


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 日記を閉じで、コートの内側にしまう。

 驚くべきは勇者の潜伏だ。

 自分の教えてる生徒のひとりが勇者など。

 一体だれが気がつけるというのだ。

「クリス・スレア、クリス・アレス……安直な」

 だが、その安直に気づかなかったのは私か。

 本当に面倒なやつに絡まれてしまった。

 さて、これからどうするか。

 昨日は軟禁されながら、いろいろ話をし、私はもう人を殺さない、という約束をむすばされた。

 指切りまでした。

 だがね、甘いよ、クリス。
 約束など反故ほごにするためにあるようなものだろう。

 結論から言おう。
 私は彼女との約束を守るつもりなど微塵もない。

 作品をすべて失ったとはいえ、私の情熱がなくなったわけじゃない。

 これは仕方のないことだ。
 私は病気なのだから。
 生まれたときから芸術家なのだから。

 それなのにもう「人を殺さない」など、できるわけがないだろう。クリス、君は馬鹿なのか。

 世界には他者を尊重しない人間がいる。
 欲しいものを売らない、屋台の店主は最たる例だ。

 そういうやつは、ひとりひとり消していかないと、この世界はどんどん住みづらくなってしまう。

 殺しは悪ではない。
 悪など主観的な感情にすぎない。

 そんな主観で個人を生き埋めにすることこそ悪だ。

 私は誰よりも人として純粋なんだ。

「先生!」

 人気のない廊下の隅。
 背後から声がかけられた。
 聞き覚えのありすぎる声に、のっそり振りかえる。

「なんだい、クリス・アレス」

「その呼び方はやめてって言ったじゃないですか。あたしはクリス・スレアなんです」

「やめて欲しかったら、私の家に追加された、君のベッドを早くどかしてくれないか」

「ダメです。先生は病気ですから、あたしが見守ってないと、何をするかわかったもんじゃないです!」

「酷い言いようだね、クリス。一昨日までは、あんなに私のことを好きでいてくれたのに」

 肩をすくめて眉根をあげる。

「あたしは……あたしは、先生のことが大好き、です」

 うつむき、唇をキュッと結ぶクリス。

「優しくて、賢くて、いつも頼りになる先生が、大好きなのです……っ」
「残念だが、クリス、それは本当のエイデン・レザージャックではない。私は10歳のころ、はじめて妹を殺した。
 あの頃からずっと、私の本当は血と皮と、臓物にふわけされた、真なる人体とともにある」
「……うぅ」

 クリスはしゃがみ込み、嗚咽まじりに涙を流しはじめた。
 手で顔をおおい、涙声を必死にこらえようとしている。

 私はそんな彼女をみおろし、心がスッキリするのを感じていた。

 悪くない気分だ。

「それでも、それだけが先生の本当だなんて、あたしは思わない!」

 クリスはばっと立ち上がり、赤くなった目頭を涙で濡らしながら口を開いた。

「先生が冷酷な殺人鬼だとしても、あたしは諦めない。あの日、先生がくれた優しさは偽物じゃなかった! 
 あたしは勇者、なんだって救ってみせる、それが大好きな先生ならなおのこと!
 誰しもが光のなかを歩くことができる、それをあたしは証明してみせるんだ!」

 自信に溢れた、太陽のようにまぶしい笑み。

 その眩しさは……わがままの極みだ。

「傲慢だね、クリス」

 あまりにも身勝手な教え子へおくる言葉。

 それを言った時、私は不思議と自分が笑っていることに気がつく。

 なぜだ?

「えへへ、勇者ですから、先生」

 まん丸の緋瞳をキリッとイケメンにかえ、勇者クリスは澄ました顔でそういった。
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