超転生者:最強魔術師目指して勉強はじめたけど……どこかで予定が狂った件について

ファンタスティック小説家

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第三章 路地裏のお姫様

第44話 もっとずっと広い世界

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 クルクマの町の北門から出発してしばらく。

 クルクマから王都ローレシアへの道のりは退屈な始まりによって幕を開けた。

 最初の方こそ大地に毛が生えたようなクルクマの麦畑が広がっていたが、麦畑が一旦途切れるともうそれ以降は真っ白な雪原がひたすら広がっているだけ。

 これが春にでもなれば豊かな緑を視界いっぱいに楽しめるのだろうが、こうも雪、雪、雪と白い世界しか広がっていないと距離感が狂ってきそうになる。

「わふわふ!」
「よーしよしよし」

 唯一の救いなのは、今日は俺の人生の門出を祝ってくれるかのような晴天なのことだ。
 陽の光が降りそそぐ雪原が銀色に光って見えて、これに関しては良いものを見れたという感想である。
 ただ日焼けしそうでちょっと心配な部分もあったり。

 長い間走っているとシヴァに騎乗するこちらにも心の余裕というものが出てくる。
 そうした心の余裕は俺にこの広大な雪原の上を駆け回りたい衝動を与えてきた。

 幸い馬車よりも圧倒的にシヴァの方が速い。
 少しくらい道をそれて遠回りしても全然問題ないはずだ。

「いくぞ! シヴァ!」
「わふわふ!」

 爛々と輝く太陽と、青空と、果てしない雪原が生み出すファンタスティックな大地をシヴァの健脚にものを合わせて超スピードで横切っていく。

「やっほー!」

 もう誰も言わなくなったこだまの代名詞たる掛け声を無限の世界の試金石へと変える。

「わふぉぉぉン!」

 シヴァもとても犬だなんて思えない遠吠えで雪原のど真ん中を駆け抜ける。

 凄まじい音の響き方だ。奥行きがわからない分どこまでも音が広がっていく。

「やっほー!」
「わふぉぉぉン!」

 どこまでも続く果てしき世界。
 あぁ、最高だ。
 今までとはまるで景色が違って見える。

 思えば俺は狭い世界で生き過ぎていたのかもしれない。
 世界は果てしなく広いんだ。
 元の世界だって、この世界だって。

 元の世界でもあまりに小さい世界で生きてきた。
 小さな島国の小さな県の小さな市。

 この世界に来てからもそうだ。

 大陸は大きい。
 小さな王国の小さな田舎町クルクマ。

 そんなただでさえ小さい町なのに、8年間の人生を師匠と自分の家を往復するだけに費やしてきた。

 町をちゃんと見始めたのだってここ数ヶ月だ。

 俺の知らなかった神秘的な空間があった。
 少し森に入れば謎の軍人だっていた。
 きっとあいつは俺がのうのうと時間を過ごしている間もあの場所で長い間眠っていたんだろう。

 今まで俺の生きてきた世界は狭すぎた。

 この普遍の雪原を見てると何故か自分がとてもちっぽけな人間に感じられる。
 そう思わせるだけのスケールがここにはある、この世界にはあるんだ。

「世界って広いなぁシヴァ」
「わふっわふっ!」

 世界が広い、そんな当たり前のことに感動している自分がなんだかおかしい。
 俺は26歳にしてようやく世界の大きさの一部を垣間見たというでも言うのか。

「よし! 戻るぞ! シヴァ、ゴー!」
「わふわふっ!」

 遠くで豆粒のようになってしまっているアディ御者の運転する馬車を見つける。
 小さな目標を目掛けて、一瞬でトップスピードに入るシヴァ。

 ーーンゥゥゥぅンッ

「ん? なんだ、ってうぉぉおッ!?」
「はは!」
「わふわふっ!」

 馬車の前を効果音と共に通り過ぎ、アディの御者する馬車を襲撃だ。

 馬車の中からエヴァのお叱りの言葉が響くが、その頃にはまた馬車が豆粒に見えるくらいシヴァは距離を取っている。

 そんなことをして遊びながら俺たちは王都とクルクマの中間の町、バンザイデスに到着する。

 ー

 バンザイデスデスは王都とローレシアを繋ぐ中間の町である。

 規模はクルクマよりも大きく王都まで1日の距離にあるので、ここからが「都会」ということになる。
 もっともバンザイデスの町民たちが自称していることなので、別に王都から見ればクルクマとバンザイデスもどちら田舎だ。

 そんな同族の集まりの町ではアディが王都に行く際に使っているという宿へ泊まることになった。
 明日のお昼までに出れば夜にはこの国の首都、ローレシアに着く計算である。

 無理のない余裕を持ったスケジュールだ。
 冒険者としての関係からかアディはここまでの道のりでもとても頼りになった。

 俺とシヴァの妨害のせいでなぜかアディもエヴァに怒られたようだが、バンザイデスについてから俺とシヴァも蓄積した分だけ死ぬほど怒られた。

 シヴァなんてお股の間にしっぽを入れるほど怖がってしまっていた。
 俺はお股の間に入れるしっぽはないので倍震えた。

 いやはや、いくつになっても親の怒り狂う姿にはなれないものがあるな。

 ー

 アディと共に夜の町をぶらつく。
 シヴァは宿屋にお留守番だ。

 エヴァは双子の面倒を見なければいけないので忙しいだろう。
 故に今回はアディと2人っきりだ。

「あの父さんこんな夜中にどこ行くんですか?」
「アーク、今晩は俺が良いところに連れて行ってやろう」
「エッチお店でしたら母さんに言いつけます」
「アホか! 俺はエヴァ一筋だ、エヴァにその手の冗談は通じないから言っちゃダメだぞ? 絶対だぞ?」

 ちょっとした冗談のつもりだったのだが、過剰な反応するものだ。

「わかってますよ、僕も2人の離婚を促すようなことしませんって」
「お前なぁ……」
「父さん、この町ってなんだが武装した人間が多いみたいですね。それに戦いを生業としてる人も多い気がします」
「おぉ流石だアーク、よく気づいたな。この町にはかなりの数の冒険者がいる。ギルド支部もデカイ。クルクマよりもな」

 ほほう、先程からちらほら見える屈強な男たちは皆冒険者というわけか。

「まぁあとは王都防衛の為の軍の駐屯地があるのも理由の1つだな。そこら辺うろついてるいかつい奴は大体兵士だから下手に喧嘩売らない方がいいぞ。すぐにしょっぴかれる」
「なんか経験あるような言い草ですね」
「へへ、まさか、な……」

 アディの額に冷や汗が滲んでいるように見えるが、見なかったことにしてあげよう。

 町の様子などを話しながら、アディは迷いない足取りで目的地を目指す。
 何度か来ているだけあって安定した進み方だ。

「よし、着いたぞ、ここだ」
「何故かすごく危ない雰囲気がするんですけど」

 いくつかの角を曲がってたどり着いたその建物は、荒くれ者が集う酒場といった風勢の店だった。
 店の中から怒声のようなものも聞こえてくる。

 てか扉が若干開いていて中の様子が丸わかりだ。
 これはやはり完全に酒場というやつだ。

「あの、父さん僕まだ8歳ですよ? 流石にこの世界の常識でも8歳で飲酒はーー」
「はは、大丈夫だ、今夜は飲みに来たんじゃない、てかここの酒はオークの小便みたいで飲めたもんじゃない」

 アディは悪い笑顔を作って背中を叩いてくる。

「今夜は」 
「稼ぐ? クスリでも売りさばくんですか?」
「ちげぇ! 拳だ!」

 アディが握りこぶしを作って目前に持ってきた。

「酒場で、ファイト? って事ですか」
「そういうことだ。この町には拳で小銭稼ぎ出来る場所が設けられてるんだ。ここはその内の1つ、俺の顔が効く場所だ」

 ははーん……面白くなってきたじゃないか。

 8歳の息子にファイトさせる親には少々問題がありそうなものだが、幸いにもこちらはただの8歳ではないので大した問題にはならない。

「ここには町の腕自慢から冒険者、駐屯地の兵士に、王都から来た騎士といろんな野郎が腕試しにやってくる」

 入り口の隙間から酒場の奥を覗いてみると、たしかにすごい人だかりが出来ていた。

 剣知覚で探ってみると……なるほど中には剣気圧を使っている奴もいるらしい。
 世間一般の強者たちの溜まり場ってわけだ。

「まぁ師匠に格闘術は教えてもらってますけど」
「はは、知ってるぞ。アーク、お前クルクマの男たちの間じゃなかなかの有名人になってるみたいだな」
「そうなんですか?」

 なにそれ、初耳なんだけど。

「あぁ謎の少年が一撃で巨漢の騎士を葬り去ったって、クルクマの町じゃ有名な噂があるんだ。そいつの名はアーカム・アルドレアって言うらしい」
「へぇ……初耳ですね」

 うん、思い出した、多分あれだろう。あれ。

「別になんも責めてないぜ? むしろエヴァとその噂を聞いた時はさすが我が子って喜んでたくらいだ。親としては注意すべきなんだろうけどな」

 アディは喜んでいいのか、責めてべきなのか迷った挙句沈黙を選んだと言う事だ。
 そしてその沈黙を今になって解いたと。
 やはりアディも男として、そして冒険者としてこういった荒時が結構好きなのかもしれない。

 それにここでよく稼いでるとか言ってたもんな。
 吸血鬼の腕力で営業妨害しているに違いない。
 本当にどうしようもない父親だな。

 だからこそ今日は俺が代わりに狩人候補者として、この店の営業妨害をしてやるしかあるまい。うん。

「まったく仕方のないアディですね、父さんは。さ、入りましょう」
「はは! やっぱりお前は俺に似ちまったんだな」
「正直、母さんに似たかったですけど」
「だからそれやめろよ、傷つくだろ……」

 どうしようもない父親アディと共に酒場の乱闘へと繰り出す……今夜は楽しくなりそうだ。

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