異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家

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第七章 魔法王国の動乱

帰郷

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 新暦3062年秋三月

 秋三月には終わりの風が吹く。
 年末というのはどこか荒涼とした気持ちになる。
 エレアラント森林の背の高い針葉樹は、寒冷な気候のなかでも力づよくそびえたっている。
 古い森をつらぬく街道へ差し掛かり、そこで足を止めずにさらに進み、日の墜ちる頃には辺鄙な集落にたどり着く。
 
 畑、畑、畑、畑、家、畑、畑、家。
 そんな感じの人口密度の低さを誇る寂れた村こそ、我が故郷、クルクマ村である。
 いまは時期も相まって、畑に作物がまるで実っておらず、物寂しさに拍車がかかっている。
 
 俺は帰って来た。
 3057年の冬にバンザイデスへ引っ越して以来、実に6年ぶりの実家だ。

「これがアーカムの故郷」
「わあ~素朴~! すてきな村ね~! 本当にね~!」

 アンナはぼそっと、エレナはやたら声のトーンをあげて言う。
 エヴァの前だとどういう訳か良い人ぶるのだ、このエレナって人。

「なんかうちボロボロになってません……?」

 アルドレア邸にたどりついた俺は思わず声にだしてたずねていた。
 6年ぶりの実家は荒んでいた。
 広い庭には草が自由に生い茂り、地面に穴ぼこ、家の壁に穴ぼこ、敷地を囲むフェンスは破壊され、屋根も一部崩れている。吸血鬼に襲われた時の傷跡だろうか。
 
 エヴァはすこし頬を染め言い訳をはじめた。

「だってアークは死んじゃって、みんなも遠くへ行っちゃって気持ち的に沈んでたんだもん。ママのせいじゃないのよ。家を壊したのだって吸血鬼とあの狩人だし、ひとりだと修理も大変で、それにある意味家の傷は家族との思い出であり、別の道を選んだ証だから、直したくない気持ちもあって、それどころか毎日剣の修行で忙しかったしね、戦争が近づいてたから、なんとか生き残るために若い頃みたいに剣に打ち込んで──」

 端的に言って萎え萎え状態だったという解釈でよいだろう。

「それじゃあ、まずは住処をなんとかしますか。ん。こっそりとエレナさんどこ行くんですか? もちろん手伝ってくれますよね?」
「え? いや、私はどうかな」
「お姉ちゃん、アルドレア邸に住むんでしょう」

 アンナは去ろうとする姉の腕をがしっと掴んで離さない。いいぞ。

 乗り気でないエレナを無理に引き込んで、屋敷の改修がはじまった。
 アルドレア邸は外観は幽霊屋敷そのものだったが、中の荒れ具合もすさまじかった。そこら中に蜘蛛巣が張り、虫が巣食っていた。
 これらの光景はエヴァの心境を映し出していたのかもしれないなぁ、っと益体のないこと思いながら、俺は自分の部屋へと戻って来た。
 
 俺の部屋は長らく閉ざされていたらしく、埃が厚く積もっていた。
 記憶のなかにある光景とはかなり乖離しており、誰かが物の位置をおおきく動かしたようだった。

「アディはアークの遺した研究を発表しようとしていたのよ」

 論文はまともに整理していなかった。
 気が付いたことを記入するメモや、没になった論文──消しゴムが無いため一度インクで書き間違えた紙はゴミになる──が山のようにあり、それらは俺からすればどれが正しい論文で、完成しているのかはわかる。
 だが、他人からすれば日本語や英語が混ざっていたり、同じような論文が何束も出て来て、まるで理解が出来ない物だっただろう。

 この整理された部屋は、アディが長い時間をかけて編纂作業を行った証なんだ。

「ずいぶんと面倒なことをしてたんだなぁ」
「アーク、もっとはやく帰って来てあげなさいよ」
「いや、そんなこと言われても」

 わりと最速で帰って来たつもりなんだけどね。

 俺たちはアルドレア邸の掃除にとりかかった。
 俺が担当するのは二階の各部屋だ。
 水属性式魔術で高圧洗浄機のごとく床も壁もまとめてキレイキレイしてやった。
 
 エレナ、アンナは家のことを知らないが、パワーがあるので、荒れた庭での草刈りや屋根の修繕をおこなってもらった。

「どうして私がこんなこと……」
「エレナさん、草むしり上手いですね!」

 休憩時間、笑顔でちょっとからかうと、次の瞬間には地面にうつ伏せにされているのだから恐ろしい。激痛は遅れてやってくる。
 わかった。この感じ、どこかで見覚えがあると思ったが、アレだ。かつてバンザイデスで俺を苦しめた暴力娘アンナの正統上位互換だ。
 アンナとは長い時間をかけて打ち解けて絆を結んだから、もう攻撃されることはなくなったけど、エレナは違うのだ。エースカロリの初期設定なのだ。
 アンナが静かな激情型だったように、エレナもまた静かな激情型の可能性が高い。
 ゆえに簡単に暴力が飛んでくる。威力も洒落にならない。
 だめだ、命が何個あっても足りない。もう軽率な発言は控えよう。

「じゅ、じゅみまぜん……っ」

 エレナは無言のまま草むしりへ戻っていく。

「アーカムって変なところで思い切りいいよね。お姉ちゃんは性格悪いから近づかないほうがいいよ」
「仲良くなれるかなっと思って……」
 
 エレナと仲良くのなるには時間がかかりそうだ。

「みんなお疲れ様! アンナちゃんもエレナちゃんもすごく働き者で助かっちゃったわ!」
「どうも」
「いえいえ、住まわせてもらうんですから当然です」

 作業の進捗状況60%といった具合のところで日が落ちた。
 明日には家のすべての穴はふさがれ壁は塗り替えられる。

 ちなみにうちは煉瓦造りの家だ。
 そのためかつてジュブウバリ族の里で培った煉瓦づくりの技能を活用し、クルクマ村の付近を流れる川から粘土質を採集し、煉瓦を焼いて修復した。
 エレナは「なんでそんなこともできるの?」と首をひねっていたのが、驚かせられたようで気分がよかった。

 晩、エヴァのつくったご飯にみんなで舌鼓を打ったあと、エレナは屋敷を出て外へ行ってしまった。
 
「母様、ちょっと僕たちも出てきます」
「気を付けてね、アーク」

 俺はアンナを連れてフェンスをひょいっと乗り越えてエレアラント森林へ。
 アンナは大きなリュックを背負っており、中にはキサラギとブラックコフィンが入っている。

 しばらく進むと開けた場所にたどりつく。
 そこには墓石がひとつ立っており「エイダム・フライアンス、ここに眠る」と刻まれていた。

「これは?」
「僕を守ろうとした勇敢な上級騎士の名です」

 俺は墓のまえに膝をついて「お久しぶりです」と軽く墓石へ手を当てた。

「確かこの木の裏あたりだったかな」

 おおきな樹の幹、その根っこのあたりを手で叩く。
 カモフラージュされた入り口は時間の経過で草木で覆われている。
 だが、塞がれる事なく確かにまだそこにあった。

 アンナにうなづきかけ、俺は先んじて中へ入る。
 ザザザっと土の壁を滑るように降りて来た。
 俺は「ファイナ」とつぶやき、杖さきに炎を灯した。
 揺れる炎の塊が暗闇をふわっと照らしだす。

「アーカム、ここは……」
「10年前、この世界に侵略者を乗せてきた最初の異世界転移船New Horizon号です。僕の前世の世界。以前、話したとおり最初の超能力者と戦った場所ですよ」
 
 ずいぶんと懐かしい場所へ帰って来た。
 またここに足を踏み入れることになるとは。
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