転生無双学院~追放された田舎貴族、実は神剣と女神に愛されていた件~

eringi

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第3話 女神との契約

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 王立魔導学園の試験会場は、王都でも最も広い広場を囲むように設けられていた。  
 朝の光の中、数百人の受験者たちがひしめき、誰もが緊張と誇りを混ぜ合わせた表情をしている。  
 貴族の子弟、地方の英雄の息子、さらには冒険者上がりの平民まで――この国で「魔導士」として名を上げたい若者は、誰もがこの日を目標として生きてきた。  

 その人波の中に、ひっそりと立っている一人の青年。  
 エリアスは手に汗を感じながら、静かに息を吐いた。  
 古びた布服のままでも、胸の奥には確かな熱が宿っている。  
 昨夜、神殿での出来事は夢ではない。ルミナとの契約が彼に不思議な確信を与えていた。  

『緊張しているのね、エリアス。でも大丈夫。あなたならできるわ。』  

 胸の奥から響く声。女神ルミナの存在は目には見えないが、彼女がそこにいるのは確かだった。  
 心を覗くようなその声が、不思議と安心感を与える。  
 それに、彼女の言葉には従わざるを得ないような説得力があった。  

「……頼りにしてる。」  
『ええ、私の力はあなたのものです。でも、使い方には気をつけてね。書き換えの力は、壊すことと創ることを同時に行うから。』  

 その意味を、エリアスはまだ完全には理解していなかった。  
 だが、その言葉の奥にある重みを感じ取るだけの感性はあった。  

「エリアス! 君も受験者かい?」  

 声をかけてきたのは、隣に並んでいた少年だった。  
 栗色の髪に爽やかな笑顔。身なりは整っていないが、腰には立派な刃の杖がぶら下がっている。  

「リオ・ハーディンっていうんだ。東部の冒険者の息子だよ。よろしくな!」  

「あ、ああ。俺は……エリアスだ。」  

「エリアスか。よろしく! 俺、緊張で心臓が爆発しそうだよ。でも一緒に受ける相手がいるってだけで、少し気が楽だな!」  

 明るい笑顔。どこか昔の友を思い出す。  
 エリアスは自然と口元がゆるんだ。  

「俺も緊張してる。でもまあ、やるしかないよな。」  
「その意気だ!」  

 試験開始の鐘が鳴る。  
 重厚な扉が開かれ、受験者たちは次々と会場の中へと足を踏み入れた。  

 * * *  

 試験会場は直径百メートルはあろうかという円形闘技場だった。  
 観覧席には、学院の教師陣と王族関係者の姿も見える。  
 視線が突き刺さるようだった。  

「第一試験は魔力行使による実演。属性の制御と魔力量を審査する。」  

 審査官の声が響くと同時に、周囲の受験者たちが次々と魔法を展開する。  
 火の球が炸裂し、水が渦を巻き、風が形を成して舞う。  
 その光景はまさに魔法の饗宴だった。  

 だが、エリアスの順番が近づくにつれて、周囲の視線が冷たくなる。  

「あれがゼロ測定のやつか?」  
「どうせ笑いものになるに決まってるわ。」  

 そんなささやきも聞こえていたが、彼は黙ったままだった。  
 視界の端で、リオが小さく拳を握って頷くのが見えた。  

『恐れないで。力はあなたの中にある。私とあなたは一つ。』  

 順番が回ってきた。  
 審査官の鋭い目が彼を射抜く。  

「エリアスとやら。ゼロ値と報告を受けているが、本当に受けるのか?」  

「はい。」  

「ではやってみろ。得意な属性で構わん。」  

 そして会場が静まり返った。  
 エリアスは目を閉じ、心の深くへ潜るように意識を沈めた。  
 ルミナの光が静かに寄り添う。  

(ルミナ……俺はどうすれば?)  
『あなたの内側を解放して。制御ではなく、受け入れるの。意志を形に変えて。』  

 その瞬間、胸にある紋章が淡く輝いた。  
 空気が震え、観客の何人かがざわめいた。  

「な、なんだ……?」  

 周囲に風が生まれ、砂埃を巻き上げる。  
 それはやがて光となり、床に魔法陣を描いた。  
 誰も見たことのない複雑な紋様。中心に立つエリアスの姿は、どこか神々しくすら見えた。  

『エリアス。私を呼んで。あなたと私の名を重ねるの。』  

 声が導く。  
 口が自然に動いた。  

「……契約の名において、ルミナ。光をここに。」  

 その瞬間、まばゆい光柱が立ち上がった。  
 観客席の悲鳴。審査官が思わず後ずさる。  
 光が収まったとき、エリアスの手には黄金の剣が握られていた。  

 それは神殿で見たものと同じ、いや、それ以上に清らかで、美しい光を放っている。  
 剣身の内側に流れる模様が脈打つたび、空気が震えていた。  

「か、神具の召喚……? 馬鹿な!」  

 絶句する審査官。周囲では他の受験者たちが息を呑んでいる。  

 エリアスはまだ自分が何をしたのか理解していなかった。  
 ただ、腕に伝わる温かさと、それを優しく包み込む声を感じていた。  

『これが契約の証。あなたはもう、私の正統なる契約者。』  
(俺が……? 本当に?)  
『ええ。あなたの力は世界と共鳴している。あなたが望む限り、光は滅びない。』  

 剣の光が細く収まると、静寂の中に拍手が起こった。  
 わずかながら、教師たちの目に驚嘆と敬意が宿る。  
 だが、その一方で、観覧席の貴族の一団が冷たい視線を投げていた。  

「あれが……まさか、グランベルの落ちこぼれでは?」  
「追放されたと聞いたが、なぜここに……!」  

 ざわめきが広がる。  
 エリアスは聞こえぬふりをしていた。だが、その心は静かに燃えている。  

(俺を見下したやつら……覚えておけ。俺はここから始める。)  

 無意識のうちに口元に微かな笑みが浮かぶ。  
 周囲にいる者たちは、それを“余裕”と誤解した。  

「試験、終了! ……特別合格者として通達する!」  

 審査官の声に、広場がどよめいた。  
 あれほど笑いものにしていた者たちが驚愕し、誰も言葉を発せない。  

 そのままエリアスが会場から離れると、外の風が強く吹いた。  
 遠くで鐘が鳴り、街の音が戻ってくる。  

「やったな!」  

 リオが駆け寄ってきた。少年の顔が輝いている。  

「すげぇじゃないか! あれは一体どういう魔法だったんだ!? 俺、鳥肌が立った!」  

「……ありがとう。でも、俺にもよくわからない。」  

 はにかんだその笑顔には、ほんの少しの自信が宿っていた。  
 それが、背後に立つ者の視線を引く。  

 白い衣の少女が、静かに二人を見ていた。  
 透き通るように整った顔立ちと、空のように澄んだ瞳。  
 その胸には、王家の紋章を模したブローチが光る。  

「あなたが、あの魔法を使った方ね。」  

 彼女の声は澄んでいたが、威厳に満ちていた。  
 リオが慌てて直立不動になり、その名を叫ぶ。  

「せ、セレナ様!? 第一王女の――!」  

 周囲の受験者たちが一斉にひざまずいた。  
 だがエリアスだけは、何が起こっているのか把握できず、きょとんとしている。  

「私はセレナ・ルクシール。この学園の特別監察官よ。」  

「王女、陛下の娘……?」  
「あなたの力に興味があるわ。特に、その“剣”。」  

 彼女の視線がルミナを見つめた瞬間、剣がかすかに共鳴した。  
 ルミナの声が囁く。『この人……王家の血。微弱だけど、私と同じ光を宿している。』  

 エリアスは口を開きかけたが、セレナのほうが先に微笑んだ。  

「入学式の日、あなたにまた会いに行くわ。――その力、簡単には隠せないものね。」  

 そう言って彼女は優雅に去っていった。  
 残された風が香るように舞い、リオが興奮気味に肘で突く。  

「とんでもないな、エリアス! 一日で王女様に目をつけられるなんて!」  

 エリアスは頭をかきながら苦笑した。  
 ルミナの笑い声が静かに響く。  

『運命が動き始めたようね。あなたが選ばれた理由、それが少しずつ明らかになるわ。』  

「先のことなんて、正直まだ怖い。でも……後戻りはしないよ。」  

『ええ。それでいい。あなたはもう、世界を書き換える者なのだから。』  

 空を見上げると、朝の雲が光に染まっていた。  
 エリアスの瞳にも、その光が映り込む。  

 女神の声が胸の奥で微笑に変わり、静かに囁いた。  

『契約、完了。これからが本当の始まりよ、エリアス。』
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