転生無双学院~追放された田舎貴族、実は神剣と女神に愛されていた件~

eringi

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第4話 神剣ルミナの覚醒

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 王立魔導学園の合格者発表の日。  
 王都の広場には、受験者とその家族、そして貴族たちの姿であふれかえっていた。  
 掲示板には数百枚の合否リストが貼り出されており、それを食い入るように眺める者たちの歓声と悲鳴が入り混じる。  

 エリアスは人混みを避け、一歩離れた場所から掲示を見上げていた。  
 リオが先に目を凝らして叫ぶ。  

「おおっ、エリアス、あった! そこだ、ほら!」  
「……ほんとだ。」  

 淡々とした声で答えるが、胸の鼓動は速い。  
 彼の名前「エリアス・グランベル」は、特別合格枠の最上段に書かれていた。  

 ざわめきが起こる。周囲の受験生たちが一斉にその名前を見つめはじめた。  

「“グランベル”? まさか、あの没落貴族の家の……?」  
「追放されたって聞いたぞ! どうして学園に……?」  
「しかも特別合格? 冗談だろ……」  

 さまざまな声が飛び交う。  
 エリアスはそれを背で受け流しながら、静かにうなずいた。  

「……やっと、ここからだな。」  

『ええ。あなたが歩むべき舞台の幕は、今開いたわ。』  

 内なる声が優しく響く。  
 神剣ルミナ――彼女の存在を感じるたびに、奇妙な安心が訪れる。  
 姿は見えずとも、ルミナは常に彼の傍にあった。  

 * * *  

 入学当日。  
 学園の門をくぐると、広大な庭園の中に建つ白亜の塔が見えた。  
 尖塔の先で魔力の光が踊り、空には学院の紋章を映した光環が浮かんでいる。  
 これほど荘厳な場所が、この国にあったのかとエリアスは息を呑んだ。  

 広場には新入生たちが集められ、教師が名簿を読み上げている。  
 貴族然とした姿勢の者もいれば、緊張した面持ちの平民もいる。  

 その中で、エリアスはやはり目立っていた。  
 平凡な服装に、剣ではなく木の杖だけを持つ。  
 しかし、あの模試の事件以来、誰もが彼をただの平民とは見ていなかった。  

「やっぱあいつか。試験で光の柱を出したって噂の……」  
「特別合格だってさ。学院長直々の推薦らしい。」  
「気に食わねぇな。」  

 低く唸る声を聞きながら、エリアスは肩をすくめていた。  

『人の嫉妬は、炎よりも恐ろしいわ。でも同時に、それはあなたの力の証明でもある。』  

「慰め上手だな、ルミナ。」  
『事実を言っているだけよ。あなたを恐れているの。気づいていないだけで、すでに多くの者があなたを“特別”だと感じている。』  

「特別、ね……。まだ実感はないけど。」  

 教官の声が響き、新入生たちはそれぞれのクラスへと案内され始めた。  
 エリアスの所属は、最下級とされる「灰星組」。  
 魔力量が低い者、平民出身、または“問題児”と呼ばれる生徒たちが集められる補習的なクラスだった。  

 王族直下の「金星組」と比べて、校舎も道具も古びている。  
 ここに来ることを恥じる者も少なくなかった。  

 だが、エリアスはむしろ落ち着いていた。  
 窓から射す陽光が心地よく、噂や貴族の視線から離れたこの場所をどこか気に入っていた。  

 * * *  

「よう、エリアス!」  

 振り向けばリオが笑って手を振っていた。  
 彼も同じ灰星組だった。隣の席に腰を下ろすと、声を潜めて耳打ちする。  

「聞いたか? 今日の午後、学院長直々の“初動儀”があるらしい。全新入生の前で力を披露するんだと。」  
「初動儀?」  
「ああ。簡単にいえば、実力の序列を決める儀式さ。学園では実力主義だから、ここで目立てば上のクラスに昇格できる。」  

 リオの目は輝いていた。  
 だがエリアスはむしろ冷静だった。何か、胸騒ぎを覚えていた。  

 * * *  

 午後、学院広場には全校生徒が集まっていた。  
 王女セレナの姿もその最上段にあり、教師とともに儀を見守っている。  

 学院長と思しき白髪の老人が杖を掲げると、静寂が広がった。  

「入学を祝う。──本日、われらは新たに四百名の仲間を迎える。  
 この地は血統ではなく才能を量る場。ゆえに、今日の示現こそが自身の地位を定める。」  

 学院長の言葉にどよめきが起こる。  
 すぐに上位生徒たちが前へ進み、各自が魔法を披露していった。  

 紅蓮の火球、氷柱の雨、風刃の矢──そのどれもが高等術式に属する魔法だった。  
 見る者を圧倒する光景に歓声が響く。  

 そして順に、最下級クラスの番が回ってきた。  
 灰星の生徒たちは肩をすくめ、中には怯えた目で後ずさる者もいた。  

「次、エリアス・グランベル。」  

 名を呼ばれ、場の空気が変わる。  
 囁きが広がり、視線が一斉に彼へ注がれる。  

「出た……“無魔”のくせに特別合格。」  
「王女様のお気に入りらしいぞ。」  
「本当なら、ここで正体がバレるんじゃないか?」  

 ざわつきを無視し、エリアスは静かに壇上へ上がった。  
 背中に差した木剣をゆっくり抜きながら、内に語りかける。  

(ルミナ、俺の出番だな。)  
『相変わらず落ち着いてるのね。でも無理はしないで、私の力を借りなさい。』  

「あまり目立ちたくないんだけどな。」  
『いまさら遅いわ。さあ、世界に“光”を示して。』  

 声が消えた瞬間、胸の印が淡く輝いた。  
 木剣の表面を金色の模様が走り、やがて純白の剣へと変わる。  

「なっ……」  
「神器召喚だと!?」  

 観覧席がどよめく。  
 手にした剣は、神殿で見たときよりもさらに美しく、力強かった。  
 ルミナの姿が刃の中にわずかに映る。瞳が優しく光る。  

『これが私の完全な覚醒形態。あなたの力が開かれた証よ、エリアス。』  

 学院長の眉がぴくりと動く。  
 空気が張り詰める中、エリアスが剣を振ると、風が巻き起こり光が天へと伸びた。  

 剣が通った軌跡は光の帯となり、広場の上空で一輪の花のように広がった。  
 眩い光に満ちたそれは、あまりに神聖で、歓声を上げる者すら息を呑む。  

「す、すごい……!」  
「何て美しい光だ……」  
「これが魔法か……」  

 呆然と立ち尽くす生徒と教師たち。  
 王女セレナがわずかに微笑むのが見えた。  

 光が消え、剣を収める。  
 静寂を破って拍手が起こり、次第に大きな波となった。  

 しかしその裏で、一部の貴族生徒たちは青ざめていた。  

「……封印神器。王家の文献にしか記されていない名……まさか本物なのか?」  
「そんな馬鹿な。あの家の落ちこぼれに、神剣が従うはずがない!」  

 ざわめく彼らをよそに、学院長は短く言葉を発した。  

「エリアス・グランベル。上位第二クラス“蒼星組”への編入を命じる。──以降、その力を制御し、己の責務を知れ。」  

 どよめきが再び広がる。  
 リオが目を丸くして叫んだ。  

「やったな、エリアス! お前、本当にやりやがった!」  

 彼はただ微笑で返した。  
 その表情には、どこか静かな誓いが宿っていた。  

(俺はまだ無力だ。けれど──絶対に見返してみせる。)  

 遠く、塔の上でルミナの声が響く。  

『ようやく一歩目。さあ、私たちの世界を書き換えていきましょう。』  

 神剣が小さく光を放つ。  
 それは、新たな運命の脈動のように脈打っていた。
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