転生無双学院~追放された田舎貴族、実は神剣と女神に愛されていた件~

eringi

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第7話 王都魔導学園への入学

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 朝の鐘が王都の街並みを包む。  
 エリアスは制服の襟を正し、王立魔導学園の正門を見上げた。  
 光の石で装飾された白亜の門は、まるで神殿のような神々しさを放っている。  
 学園の紋章が刻まれた巨大な扉の向こうでは、無数の新入生たちが期待と緊張を胸に立っていた。  

 あの廃れた神殿でルミナと出会ってから、ほんの数日。  
 追放された少年が今、王都の最高学府の門をくぐることになるとは、誰が想像できただろうか。  

 胸の奥で、ルミナの柔らかな声が響く。  
『この光景、あなたには少し眩しいかもしれませんね。』  
「うん。でも、ここから始まるんだ。俺の――いや、俺たちの未来が。」  
『素敵な言い方ね、エリアス。』  

 彼は深呼吸し、一歩を踏み出した。  
 門の向こうに広がるのは、緑と魔力が調和する荘厳な学園都市。  
 回廊の噴水からは虹色の魔力が溶け出し、空には浮遊石で支えられた研究塔が浮かんでいる。  
 見渡す限り、知識と才能に満ちた場所。  
 そこが、世界の頂点を目指す者たちの集う舞台――王立魔導学園だった。  

* * *  

 エントランスホールでは、既に多くの生徒が行列を作っていた。  
 受付台の前には魔力検査用の水晶球と書類の束。  
 しきりにざわめく声の中から、懐かしい声が飛んできた。  

「エリアス!」  

 振り向くと、リオが手を振っていた。  
 相変わらず明るい笑顔。エリアスの数少ない真っすぐな友だった。  

「よう、来たな! いよいよ学園生活の始まりだ!」  
「お前、朝から元気すぎる。」  
「当然だろ! 俺は平民出身で、ここに入るのが夢だったんだ。緊張して眠れなかったよ!」  

 リオの笑顔につられて、エリアスの心の緊張もほぐれる。  
 ほんの少しだけ「普通の少年」に戻った気がした。  

『よかった。あなたに友がいること、私も安心するわ。』  
(そうだな。ルミナ、お前がいない間くらいは、ちゃんと人と関わらないと。)  
『ふふ、気遣いができるようになったわね。』  

 やりとりの合間、前方から当番係の声が響いた。  

「次の方、魔力認証をお願いします!」  

 エリアスの番だ。  
 手をかざすと、水晶球が眩い光を放つ。  

「なっ──!」  
 職員の目が一瞬見開かれた。球体の内部には七色の光が渦巻き、記録盤の針が限界値を超えて振り切れる。  

「……えっと、問題ありません。合格者確認、エリアス・グランベルさんですね。」  
 声が一瞬震えていたが、彼は気づかぬふりをして軽く会釈した。  

「ありがとう。」  

 周囲からちらちらと視線が集まる。  
 だがエリアスは気にせず歩き出した。  
 学園内の寮棟へ向かう道、まだ染み残る石畳の匂いが懐かしい。  
 そんな中、背後で呟かれる声が耳に届いた。  

「あいつが“グランベル家の落ちこぼれ”か。」  
「追放されたはずなのに、なぜここに……」  
「特別枠合格だと? 何か裏があるな。」  

 声の主を振り向くことはなかった。  
 その全てを受け入れる覚悟は、もうできていた。  

『彼らは知らないだけ。いずれ目を覚ますわ。』  
「俺も、証明してやるさ。あの日捨てられた意味を。」  

* * *  

 入学式は、学院の大講堂で盛大に行われた。  
 天井に浮遊する光球が幾千もの星のように輝き、壇上には学園長が立っている。  
 老齢ながらも威厳ある男だった。  

「ようこそ、新しき学徒たちよ。  
 この学園では、血筋も名誉も問わない。問われるのはただひとつ、“強さ”だ。  
 魔導とは支配でも征服でもない。己の限界を塗り替える行為だ。  
 諸君の中から、新たな英雄が生まれることを信じている。」  

 荘厳な声がホールに響き渡る。  
 エリアスはその言葉を静かに胸に刻んだ。  
 血筋も問わない――その言葉だけで、救われるような気がした。  

 式の後、班ごとの初顔合わせが始まった。  
 エリアスが配属されたのは「蒼星組」。上級候補として将来を期待される才能集団だという。  
 その中に、リオとミリアの姿もあった。  

「意外と俺たち、また一緒らしいな。」  
「ほんとに縁があるわね。」ミリアは淡く微笑む。  

 まるで淡雪のようなその横顔に、一瞬、エリアスは言葉を忘れた。  
 彼女の放つ冷気のような静けさは、不思議な魅力を持っていた。  

 しかし穏やかな空気は、すぐに破られる。  

「ふん、下層出の連中ばかりかと思えば、珍しい顔が混じっているな。」  

 皮肉を含んだ声に、空気が凍りついた。  
 声の主は、金髪碧眼の美丈夫。キール・ド・ヴァルメード――名門侯爵家の嫡男だった。  
 彼は一歩前に出て、あからさまにエリアスを見下ろす。  

「グランベルの名を騙って学園に潜り込むとは、大した度胸だな。」  
「……騙ってはいない。」  
「だがお前は“追放”された。ならばその名を使う資格などない。」  

 周囲の視線が二人に集まる。  
 リオが慌てて割って入った。  
「まあまあ、今は初日だろ! 揉めてどうする!」  

 キールは鼻で笑い、エリアスに詰め寄る。  
「この場で証明してみろ。お前がこのクラスに相応しいと言える力を。」  
「俺は争うつもりはない。」  
「逃げるのか? 臆病者が!」  

『エリアス、挑発に乗る必要はないわ。』  
「……分かってる。」  

 それでも、空気が張り詰めた刹那。  
 エリアスの内で、何かがかすかにざわめいた。  
 見下す目。笑う声。あの日、家を追われた夜の冷たい風が蘇る。  

 だがそのとき、講師が割って入った。  

「やめておけ、キール。ここは戦場ではない。  
 力を証明したいなら、近いうちに行われる実技演習で存分に見せればよい。」  

 キールは舌打ちし、背を向けた。  
 その去り際に、冷ややかな言葉を残す。  

「次は本気で潰してやる。覚悟しておけ。」  

 去っていく背中を、エリアスは静かに見送るしかなかった。  

* * *  

 夜、寮の屋上。  
 街の灯が穏やかに揺れ、風が頬を撫でる。  
 エリアスは一人、星空を眺めていた。  

『悔しい?』  
「少しだけな。でも、それ以上に――楽しみだ。」  
『楽しみ?』  
「自分がどこまで強くなれるのか。あいつらを見返すんじゃない。  
 自分の境界を、塗り替えてみたいんだ。」  

 ルミナの声が小さく笑う。  
『あなたの瞳、もう“諦め”の色じゃない。』  
「お前がいたからだよ。ありがとう、ルミナ。」  

 空に一筋の流星が流れた。  
 その輝きに導かれるように、エリアスは静かに目を閉じた。  

 追放された少年、エリアス・グランベル。  
 彼の“真の学院生活”が、今、始まった。
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