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第12話 神の気配に震える者たち
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雷撃事件の翌日、王立魔導学園は異様な静けさに包まれていた。
生徒たちは口々に昨日の出来事を語り合いながらも、誰もエリアスの名前を直接出すことができずにいた。
それほどまでに、あの光景は“常軌を逸していた”。
一撃で上級貴族キールを打ち負かし、しかもそれが「無意識の反撃」だったという。
ただの偶然とは思えない。
エリアス・グランベルという名は、恐れと敬意の狭間でささやかれ続けていた。
その本人は、今、学院長室に呼び出されていた。
* * *
重厚な扉が軋む音を立てて開くと、古い書物と魔力の香りが漂う部屋が現れた。
書棚の奥にいる学院長ヴァルディオは、まるで古の賢者のような静謐をまとっている。
鋭い目がエリアスを射抜いた。
「……よく来たな、エリアス・グランベル。」
静かな声。だが、空気がすでに張り詰めている。
エリアスは姿勢を正し、慎重に頷いた。
「昨日の件について、説明を求められているのは知っていると思う。」
「はい。ですが、あれは無意識でした。僕は――」
「無意識、か。」
学院長がゆっくりと立ち上がる。
杖の先が床を叩くたび、目に見えない波動が走る。
「お前の魔力は人の域を外れている。あれは『適合者』の中でも、特別な型だ。」
「型、ですか?」
「そうだ。“神渡り”の資質を持つ者。世界の理を直接触る存在は、数百年に一度しか現れん。」
エリアスは思わず息を呑んだ。
「神……渡り?」
「そう呼ばれている。神性を帯びる者、あるいは神に代わってこの世を正す力。
お前の力――おそらく“書き換え”はそれに由来する。」
予想していた言葉を越えていた。
確かに彼の能力は人を超えていた。だが、「神」という言葉を冠されるほどのものとは考えていなかった。
「僕は……ただの人間です。神なんてものじゃない。」
「自覚があるかどうかは関係ない。力がそう在るだけで、周りの者たちは影響を受ける。」
ヴァルディオの声は静かだが、どこか畏怖に満ちていた。
そしてふと、彼は机の上の水晶球を手に取る。
「これは“神気反応測定器”だ。お前の魔力を測るための装置だが、通常は教師級でも上限に届かん。
……試してみるがいい。」
エリアスは迷いながらも、手をかざした。
瞬間、水晶の中で光が弾け、眩しい閃光が室内を白く染めた。
「っ……!」
光が収まったとき、測定器はひび割れ、中心から煙を上げていた。
ヴァルディオは息をのむ。
「上限突破……いや、これは……」
「どうなったんですか?」
「“神気反応”。完全一致だ。」
その場の魔法灯がすべて明滅し、学園の周囲に流れる魔力回路が異常に揺らぎ始めた。
廊下にいた教師たちが次々と立ち止まり、胸の奥に圧を感じる。
「な、なんだ……? 空気が震えている……!」
「これ……まさか神霊反応……?」
校庭では、上級生たちが一斉に空を仰いだ。
青空の中央に、光の渦が巻き上がり、白い羽根のような粒子が舞い落ちている。
その中心にいる“何か”を、誰も見ることはできなかった。
しかし全員が感じていた。
それは“神”の気配だった。
* * *
学院長室の中で、ヴァルディオは震える手で杖を握っていた。
その視線の先で、エリアスが困惑気味に立っている。
「これが、俺の力の本質……?」
「ああ。お前の体の中には、“啓示”が眠っている。神代の末裔。あるいは神に造られた“記述者”。」
「記述者……」
ルミナの声が、心の奥で静かに囁いた。
『彼は正しいわ、エリアス。あなたは、“原初の書”に選ばれた存在。神の欠片を宿す者。』
(選ばれた……って、なんだよ。俺はただ──)
『あなた自身が、神々が残した“最終章”なの。』
ヴァルディオが視線を落とす。
「お前をこのまま野放しにすれば、国が騒ぐ。教会も黙ってはいまい。」
「……つまり、俺を“閉じ込める”つもりですか?」
その問いに、学院長の瞳がわずかに揺れた。
だが、次の言葉は返ってこなかった。
それが答えだった。
「残念です。」
エリアスは小さく息を吐き、次の瞬間には部屋の空気が震えた。
彼の体を中心に、淡い光が環となって広がり、壁の装飾が音を立てて揺れる。
「待て、やめろ!」ヴァルディオが杖を構えるが、時すでに遅い。
「ここに閉じられるつもりはない。俺はまだ、知りたいことがあるんだ。」
空気が反転し、一瞬で部屋の景色が霞む。
風の流れが止まり、次の瞬間、エリアスは扉をすり抜けるように消えた。
残されたヴァルディオは深く息を吐き、独りごちた。
「この世界に、また神の子が舞い降りたか……」
* * *
同刻、学園の上層部会議では喧騒が渦巻いていた。
「神気反応の中心はグランベルの少年だ!」
「異端だ! 神の血を持つ存在は過去に二人しかいない!」
「対処を誤れば、王国全土が揺らぐぞ!」
ざわつく声の中、扉の影から一人の女性が現れた。
王女セレナ・ルクシール。蒼い瞳が静かに光る。
「……その者に会わせてください。」
「殿下! しかし、それは危険です!」
「構いません。王家の務めとして、放置するほうが危険です。」
彼女の声に、騒ぎが止まる。誰も逆らえなかった。
セレナはただひとつの覚悟を胸に、その場を後にした。
* * *
夜。
エリアスは学園外の湖畔に立っていた。
鏡のような水面に、月と自分の姿が重なっている。
『逃げてもいいの?』とルミナが問う。
「逃げたつもりはない。俺は……俺が何者なのか、答えを探してる。」
『答えを求めるなら、辛さも呼ぶわよ。人のままでいられないかもしれない。』
「それでもいい。」
風が水面を揺らし、微かに光が差す。
その光の中に、柔らかな足音が近づいてきた。
「ここにいたのね。」
振り向くと、そこに立っていたのは王女セレナだった。
淡いドレスが夜の風に舞い、月光を反射している。
「……あなたが、エリアス・グランベル。」
「そうですが、まさか王女殿下がこんな時間に。」
「確認しに来たの。あなたが本当に“神の加護”を持つ者なのかどうか。」
その言葉に、ルミナが小さく笑う。
『面白くなってきたわね。』
セレナがエリアスに近づき、まっすぐ見つめて言った。
「怖い? “神”と呼ばれること。」
「恐怖より、重さのほうが勝ちますね。」
「ふふ……あなたは本当に、特別ね。」
そのとき、彼女の胸元の紋章が淡く輝いた。
光が二人の間で共鳴し、風が震える。
セレナが驚く。
「……あなた、まさか……!」
エリアスが目を見開く。
「この光……まさか、あなたも?」
風の中、二人の光がひとつに溶け合う。
そして彼の耳にルミナの声が響く。
『ついに出会ったわね、もう一人の“記述者”――王家の血に継がれた、神の鍵。』
湖面が波立ち、月が揺れた。
世界の理が、静かに動き始めていた。
生徒たちは口々に昨日の出来事を語り合いながらも、誰もエリアスの名前を直接出すことができずにいた。
それほどまでに、あの光景は“常軌を逸していた”。
一撃で上級貴族キールを打ち負かし、しかもそれが「無意識の反撃」だったという。
ただの偶然とは思えない。
エリアス・グランベルという名は、恐れと敬意の狭間でささやかれ続けていた。
その本人は、今、学院長室に呼び出されていた。
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重厚な扉が軋む音を立てて開くと、古い書物と魔力の香りが漂う部屋が現れた。
書棚の奥にいる学院長ヴァルディオは、まるで古の賢者のような静謐をまとっている。
鋭い目がエリアスを射抜いた。
「……よく来たな、エリアス・グランベル。」
静かな声。だが、空気がすでに張り詰めている。
エリアスは姿勢を正し、慎重に頷いた。
「昨日の件について、説明を求められているのは知っていると思う。」
「はい。ですが、あれは無意識でした。僕は――」
「無意識、か。」
学院長がゆっくりと立ち上がる。
杖の先が床を叩くたび、目に見えない波動が走る。
「お前の魔力は人の域を外れている。あれは『適合者』の中でも、特別な型だ。」
「型、ですか?」
「そうだ。“神渡り”の資質を持つ者。世界の理を直接触る存在は、数百年に一度しか現れん。」
エリアスは思わず息を呑んだ。
「神……渡り?」
「そう呼ばれている。神性を帯びる者、あるいは神に代わってこの世を正す力。
お前の力――おそらく“書き換え”はそれに由来する。」
予想していた言葉を越えていた。
確かに彼の能力は人を超えていた。だが、「神」という言葉を冠されるほどのものとは考えていなかった。
「僕は……ただの人間です。神なんてものじゃない。」
「自覚があるかどうかは関係ない。力がそう在るだけで、周りの者たちは影響を受ける。」
ヴァルディオの声は静かだが、どこか畏怖に満ちていた。
そしてふと、彼は机の上の水晶球を手に取る。
「これは“神気反応測定器”だ。お前の魔力を測るための装置だが、通常は教師級でも上限に届かん。
……試してみるがいい。」
エリアスは迷いながらも、手をかざした。
瞬間、水晶の中で光が弾け、眩しい閃光が室内を白く染めた。
「っ……!」
光が収まったとき、測定器はひび割れ、中心から煙を上げていた。
ヴァルディオは息をのむ。
「上限突破……いや、これは……」
「どうなったんですか?」
「“神気反応”。完全一致だ。」
その場の魔法灯がすべて明滅し、学園の周囲に流れる魔力回路が異常に揺らぎ始めた。
廊下にいた教師たちが次々と立ち止まり、胸の奥に圧を感じる。
「な、なんだ……? 空気が震えている……!」
「これ……まさか神霊反応……?」
校庭では、上級生たちが一斉に空を仰いだ。
青空の中央に、光の渦が巻き上がり、白い羽根のような粒子が舞い落ちている。
その中心にいる“何か”を、誰も見ることはできなかった。
しかし全員が感じていた。
それは“神”の気配だった。
* * *
学院長室の中で、ヴァルディオは震える手で杖を握っていた。
その視線の先で、エリアスが困惑気味に立っている。
「これが、俺の力の本質……?」
「ああ。お前の体の中には、“啓示”が眠っている。神代の末裔。あるいは神に造られた“記述者”。」
「記述者……」
ルミナの声が、心の奥で静かに囁いた。
『彼は正しいわ、エリアス。あなたは、“原初の書”に選ばれた存在。神の欠片を宿す者。』
(選ばれた……って、なんだよ。俺はただ──)
『あなた自身が、神々が残した“最終章”なの。』
ヴァルディオが視線を落とす。
「お前をこのまま野放しにすれば、国が騒ぐ。教会も黙ってはいまい。」
「……つまり、俺を“閉じ込める”つもりですか?」
その問いに、学院長の瞳がわずかに揺れた。
だが、次の言葉は返ってこなかった。
それが答えだった。
「残念です。」
エリアスは小さく息を吐き、次の瞬間には部屋の空気が震えた。
彼の体を中心に、淡い光が環となって広がり、壁の装飾が音を立てて揺れる。
「待て、やめろ!」ヴァルディオが杖を構えるが、時すでに遅い。
「ここに閉じられるつもりはない。俺はまだ、知りたいことがあるんだ。」
空気が反転し、一瞬で部屋の景色が霞む。
風の流れが止まり、次の瞬間、エリアスは扉をすり抜けるように消えた。
残されたヴァルディオは深く息を吐き、独りごちた。
「この世界に、また神の子が舞い降りたか……」
* * *
同刻、学園の上層部会議では喧騒が渦巻いていた。
「神気反応の中心はグランベルの少年だ!」
「異端だ! 神の血を持つ存在は過去に二人しかいない!」
「対処を誤れば、王国全土が揺らぐぞ!」
ざわつく声の中、扉の影から一人の女性が現れた。
王女セレナ・ルクシール。蒼い瞳が静かに光る。
「……その者に会わせてください。」
「殿下! しかし、それは危険です!」
「構いません。王家の務めとして、放置するほうが危険です。」
彼女の声に、騒ぎが止まる。誰も逆らえなかった。
セレナはただひとつの覚悟を胸に、その場を後にした。
* * *
夜。
エリアスは学園外の湖畔に立っていた。
鏡のような水面に、月と自分の姿が重なっている。
『逃げてもいいの?』とルミナが問う。
「逃げたつもりはない。俺は……俺が何者なのか、答えを探してる。」
『答えを求めるなら、辛さも呼ぶわよ。人のままでいられないかもしれない。』
「それでもいい。」
風が水面を揺らし、微かに光が差す。
その光の中に、柔らかな足音が近づいてきた。
「ここにいたのね。」
振り向くと、そこに立っていたのは王女セレナだった。
淡いドレスが夜の風に舞い、月光を反射している。
「……あなたが、エリアス・グランベル。」
「そうですが、まさか王女殿下がこんな時間に。」
「確認しに来たの。あなたが本当に“神の加護”を持つ者なのかどうか。」
その言葉に、ルミナが小さく笑う。
『面白くなってきたわね。』
セレナがエリアスに近づき、まっすぐ見つめて言った。
「怖い? “神”と呼ばれること。」
「恐怖より、重さのほうが勝ちますね。」
「ふふ……あなたは本当に、特別ね。」
そのとき、彼女の胸元の紋章が淡く輝いた。
光が二人の間で共鳴し、風が震える。
セレナが驚く。
「……あなた、まさか……!」
エリアスが目を見開く。
「この光……まさか、あなたも?」
風の中、二人の光がひとつに溶け合う。
そして彼の耳にルミナの声が響く。
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