転生無双学院~追放された田舎貴族、実は神剣と女神に愛されていた件~

eringi

文字の大きさ
23 / 40

第23話 光と闇の攻防

しおりを挟む
 春の風が学園の塔を撫で抜けていく。  
 新学期を迎えた王都は穏やかな陽光に包まれていたが、その裏で世界は静かに揺らいでいた。  
 エリアス・グランベルと王女セレナ・ルクシールの同盟。その知らせは瞬く間に国内外に広がり、学園にも緊張が走る。  

 神聖預言者エリシアが遺した言葉、「二本目の筆が現れる」。  
 それは王国にとって一つの恐怖の予兆だった。  
 そして、その「影」が、ついに動き出そうとしていた。  

* * *  

 夜。  
 学園の中庭に一陣の冷たい風が吹き抜ける。  
 月光が石畳を照らす中、黒い影が静かに姿を現した。  
 かつてエリアスが断ち切った“千年の因果”の残滓。闇の記述者ノイン――その意識が再びこの時代に姿を取り戻したのだ。  

 ノインは指先を掲げ、空に手を伸ばす。  
 彼の指先から漆黒の文字が溢れ、それが夜空に散り、星を覆い隠す。  
「さて……俺の“消去の頁”を綴るとしよう。兄弟よ、今の世界はまだ光が眩しすぎる。」  

 月が翳り、学園全体がほんのわずかに震えた。  

* * *  

 一方その頃、エリアスはセレナと共に学院長室を訪れていた。  
 学院長ヴァルディオは二人を迎え入れ、沈んだ瞳で言った。  
「二人を支援したい気持ちはある。だが……時の教会が動いた。彼らは“神を超えた記述者の排除”を決定した。」  
「つまり、俺たちが敵に回ったってことか。」  
「いや、王国全体がだ。」  

 セレナが息を呑む。  
「そんな……祖国が、自ら神の祝福を持つ者に剣を向けるなんて!」  
「恐れは正しさを歪めるのよ、殿下。」ヴァルディオが嘆息する。「あなたが近くにいることも、余計に火種になる。彼らは“光と闇の融合”を忌避しているのだ。」  

 ルミナの声がエリアスの胸で低く囁く。  
『あなたとセレナが揃うと、時と光の力が干渉し合う。世界の“矛盾”が活性化するのよ。まるで転換点を迎えた物語のように。』  
「それでも、もう止まれない。」エリアスは目を閉じる。  
「光が生まれるなら、闇も生まれる。ならば、俺はすべてを見届ける。」  

 セレナが頷く。  
「あなたがいる限り、わたしも立ち止まらないわ。」  

 学院長は二人の覚悟を受け取り、重く言葉を残した。  
「ならば……“心の覚悟”を持て。光を継ぐ者と闇を継ぐ者が相まみえる時、この世の法則は書き変わる。万一、その時が来たら――“時の禁書”を開け。そこに神々の最後の意志が眠っている。」  

* * *  

 その夜、鐘が鳴った。  
 学園全体に警報の音が響き渡る。  

「闇気反応だ!」  
「北棟が歪んでる! 構造結界が崩壊しています!」  

 教師や自警団が走り回る中、空から黒い霧が降りてくる。  
 地上に触れた瞬間、草木が枯れ、石壁がひび割れた。  
 それはまるで、世界そのものを“消去”する力だった。  

「来たか……ノイン。」  
 エリアスが立ち上がる。  
 風も止まり、空の月が赤く染まる。  

 やがて、空間の裂け目が開き、黒衣の少年が歩み出る。  
 まるで鏡のように、自分と同じ顔。だが瞳の色は深紅の闇。  

「久しいな、俺。」  
「ノイン……。」  
「千年前、俺を切り離し、闇として封じたくせに、よくものうのうと生きていたものだ。」  

 エリアスは一歩も退かない。  
「お前の望みは何だ。」  
「単純だよ。すべてを“空白”に戻すことさ。神も人も、何も知らなかった原初の静寂へ。」  
「それじゃ生きる意味がなくなる。」  
「意味? そんなもの、無数の書き換えの果てに生まれた幻想だ。」  

 ノインが指を鳴らす。  
 空間が反転し、世界が灰色に染まる。  
 学園の建物が文字となって崩れ、空が静止する。  
「“虚構解体・イグノス”……。」  

 ルミナが警告を発する。  
『発動しちゃったわ! あれは現実を書き換えて“無”に戻す術式、純粋な消去の記述よ!』  
「だったら、“存在”を書き直す!」  

 エリアスの瞳が光る。  
 金色の筆跡が空に浮かび上がる。  
「定義変更──“この世界は、まだ続く”!」  

 瞬間、灰色の世界が弾け、色彩が戻る。  
 ノインの笑みが崩れ、瞳の奥で闇が揺れる。  
「まさか対抗できるとは……面白い……!」  

 次の瞬間、ノインの手に漆黒の剣が生まれる。  
 一方でエリアスの背後には、ルミナの姿が淡く浮かんだ。  
『エリアス。あなたが書く意思が、わたしという“剣”になる。』  
「行くぞ、ルミナ。」  

 二つの剣がぶつかる。  
 金と黒の光が交差し、衝撃で周囲の建物が吹き飛ぶ。  
 学園全体が即座に防御結界を展開したが、それすら割れるほどの凶器だった。  

 雷鳴のような音、時間が軋むような振動。  
 二人の力がぶつかるたび、現実が揺れた。  

「お前は“人”の側に留まりたいらしいな。」ノインが低く笑う。  
「俺は、神でも人でもない。“この世界を救う者”だ!」  
「救う? 救いなくして成り立つ世界もあるんだよ!」  

 再び斬撃。  
 ルミナの光が闇を裂き、一瞬、空の黒雲を消し去る。  
 だが、ノインの体は影のように分裂し、無数の分身がエリアスを取り囲んだ。  

「無限の虚像、影の百筆……!」  
『エリアス! 空間が閉じられている、脱出は不可能よ!』  

 しかし、彼は静かに息を吐き、瞳を閉じた。  
「なら、俺が書を開く。」  

 空間に浮かぶ金の文字が螺旋を描く。  
「神言構文・第零篇──“時を止めろ”。」  

 瞬間、すべてが静止した。  
 ノインの影も、波打つ風も、崩れる石も。  
 動くのはエリアスとセレナだけだった。  

 凍った世界の中で、彼はセレナの方へ視線を向ける。  
「時の伴奏者。君の力がいる。」  
「ええ。すべての“瞬間”を、あなたの筆で繋いで。」  

 二人の掌が重なり、光が弾ける。  
 止まった瞬間が動き出すと同時に、闇の分身が粉々に砕け散った。  

「これが……“共鳴記述”か……!」ノインの声が唸る。  
 最後の斬撃が互いの間で交差し、世界が弾ける。  

 次の瞬間――闇が霧散した。  

* * *  

 戦いの後。  
 空は再び澄み渡り、学園に静けさが戻る。  
 エリアスは剣を納め、深く息を吐いた。  
 セレナが隣に歩み寄る。  
「無事……なのね。」  
「ああ。だが、ノインは消えていない。」  

 ルミナが淡く囁く。  
『ええ。彼は“記録の影”として次元の狭間に消えた。けれど、完全な封印じゃない。次に現れるとき、彼はこの世界そのものを標的にするでしょう。』  
「だからこそ、今度は負けられない。」  

 エリアスの掌には、まだ光の筆跡が燦然と輝いていた。  
 それは確かに、神と人が共に動かした“運命の文字”。  

 セレナが微笑みながら言った。  
「ねえ、エリアス。あなたが記すこの世界、本当に救えると思う?」  
「救えるかどうかは分からない。でも――」  

 彼は空を仰ぎ、春の風を感じながら答えた。  
「信じる力は、もう失ってない。」  

 雲の隙間から、一筋の光が降り注ぐ。  
 それはまるで、次の章への“しるし”のように、大地を照らしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。 途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。 鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒! 素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。 裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!

追放された凡人魔導士ですが、実は世界最強の隠しステ持ちでした〜気づかないうちに英雄扱いされて、美少女たちに囲まれていました〜

にゃ-さん
ファンタジー
「お前は凡人だ。パーティから追放だ」 勇者パーティの役立たずと蔑まれ、辺境へと追放された下級魔導士エイル。 自分でも平凡だと信じて疑わなかった彼は、辺境でのんびり暮らそうと決意する。 だが、偶然鑑定を受けたことで判明する。 「……え?俺のステータス、バグってないか?」 魔力無限、全属性適性、成長率無限大。 常識外れどころか、世界の理そのものを揺るがす「世界最強の隠しステ」を抱えた、規格外のチートだった。 自覚がないまま災厄級の魔物をワンパンし、滅亡寸前の国を片手間で救い、さらには救われた美少女たちから慕われ、いつの間にかハーレム状態に。 一方、エイルを追放した勇者たちは、守ってもらっていた無自覚チートを失い、あっという間に泥沼へと転落していく。 「俺、本当に凡人なんだけどなあ……」 本人だけが自分を凡人だと思い込んでいる、無自覚最強魔導士の、追放から始まる自由気ままな英雄譚。 ざまぁ上等、主人公最強&ハーレム要素たっぷりでお届けします。

世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~

きよらかなこころ
ファンタジー
 シンゴはある日、事故で死んだ。  どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。  転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。  弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...