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第23話 光と闇の攻防
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春の風が学園の塔を撫で抜けていく。
新学期を迎えた王都は穏やかな陽光に包まれていたが、その裏で世界は静かに揺らいでいた。
エリアス・グランベルと王女セレナ・ルクシールの同盟。その知らせは瞬く間に国内外に広がり、学園にも緊張が走る。
神聖預言者エリシアが遺した言葉、「二本目の筆が現れる」。
それは王国にとって一つの恐怖の予兆だった。
そして、その「影」が、ついに動き出そうとしていた。
* * *
夜。
学園の中庭に一陣の冷たい風が吹き抜ける。
月光が石畳を照らす中、黒い影が静かに姿を現した。
かつてエリアスが断ち切った“千年の因果”の残滓。闇の記述者ノイン――その意識が再びこの時代に姿を取り戻したのだ。
ノインは指先を掲げ、空に手を伸ばす。
彼の指先から漆黒の文字が溢れ、それが夜空に散り、星を覆い隠す。
「さて……俺の“消去の頁”を綴るとしよう。兄弟よ、今の世界はまだ光が眩しすぎる。」
月が翳り、学園全体がほんのわずかに震えた。
* * *
一方その頃、エリアスはセレナと共に学院長室を訪れていた。
学院長ヴァルディオは二人を迎え入れ、沈んだ瞳で言った。
「二人を支援したい気持ちはある。だが……時の教会が動いた。彼らは“神を超えた記述者の排除”を決定した。」
「つまり、俺たちが敵に回ったってことか。」
「いや、王国全体がだ。」
セレナが息を呑む。
「そんな……祖国が、自ら神の祝福を持つ者に剣を向けるなんて!」
「恐れは正しさを歪めるのよ、殿下。」ヴァルディオが嘆息する。「あなたが近くにいることも、余計に火種になる。彼らは“光と闇の融合”を忌避しているのだ。」
ルミナの声がエリアスの胸で低く囁く。
『あなたとセレナが揃うと、時と光の力が干渉し合う。世界の“矛盾”が活性化するのよ。まるで転換点を迎えた物語のように。』
「それでも、もう止まれない。」エリアスは目を閉じる。
「光が生まれるなら、闇も生まれる。ならば、俺はすべてを見届ける。」
セレナが頷く。
「あなたがいる限り、わたしも立ち止まらないわ。」
学院長は二人の覚悟を受け取り、重く言葉を残した。
「ならば……“心の覚悟”を持て。光を継ぐ者と闇を継ぐ者が相まみえる時、この世の法則は書き変わる。万一、その時が来たら――“時の禁書”を開け。そこに神々の最後の意志が眠っている。」
* * *
その夜、鐘が鳴った。
学園全体に警報の音が響き渡る。
「闇気反応だ!」
「北棟が歪んでる! 構造結界が崩壊しています!」
教師や自警団が走り回る中、空から黒い霧が降りてくる。
地上に触れた瞬間、草木が枯れ、石壁がひび割れた。
それはまるで、世界そのものを“消去”する力だった。
「来たか……ノイン。」
エリアスが立ち上がる。
風も止まり、空の月が赤く染まる。
やがて、空間の裂け目が開き、黒衣の少年が歩み出る。
まるで鏡のように、自分と同じ顔。だが瞳の色は深紅の闇。
「久しいな、俺。」
「ノイン……。」
「千年前、俺を切り離し、闇として封じたくせに、よくものうのうと生きていたものだ。」
エリアスは一歩も退かない。
「お前の望みは何だ。」
「単純だよ。すべてを“空白”に戻すことさ。神も人も、何も知らなかった原初の静寂へ。」
「それじゃ生きる意味がなくなる。」
「意味? そんなもの、無数の書き換えの果てに生まれた幻想だ。」
ノインが指を鳴らす。
空間が反転し、世界が灰色に染まる。
学園の建物が文字となって崩れ、空が静止する。
「“虚構解体・イグノス”……。」
ルミナが警告を発する。
『発動しちゃったわ! あれは現実を書き換えて“無”に戻す術式、純粋な消去の記述よ!』
「だったら、“存在”を書き直す!」
エリアスの瞳が光る。
金色の筆跡が空に浮かび上がる。
「定義変更──“この世界は、まだ続く”!」
瞬間、灰色の世界が弾け、色彩が戻る。
ノインの笑みが崩れ、瞳の奥で闇が揺れる。
「まさか対抗できるとは……面白い……!」
次の瞬間、ノインの手に漆黒の剣が生まれる。
一方でエリアスの背後には、ルミナの姿が淡く浮かんだ。
『エリアス。あなたが書く意思が、わたしという“剣”になる。』
「行くぞ、ルミナ。」
二つの剣がぶつかる。
金と黒の光が交差し、衝撃で周囲の建物が吹き飛ぶ。
学園全体が即座に防御結界を展開したが、それすら割れるほどの凶器だった。
雷鳴のような音、時間が軋むような振動。
二人の力がぶつかるたび、現実が揺れた。
「お前は“人”の側に留まりたいらしいな。」ノインが低く笑う。
「俺は、神でも人でもない。“この世界を救う者”だ!」
「救う? 救いなくして成り立つ世界もあるんだよ!」
再び斬撃。
ルミナの光が闇を裂き、一瞬、空の黒雲を消し去る。
だが、ノインの体は影のように分裂し、無数の分身がエリアスを取り囲んだ。
「無限の虚像、影の百筆……!」
『エリアス! 空間が閉じられている、脱出は不可能よ!』
しかし、彼は静かに息を吐き、瞳を閉じた。
「なら、俺が書を開く。」
空間に浮かぶ金の文字が螺旋を描く。
「神言構文・第零篇──“時を止めろ”。」
瞬間、すべてが静止した。
ノインの影も、波打つ風も、崩れる石も。
動くのはエリアスとセレナだけだった。
凍った世界の中で、彼はセレナの方へ視線を向ける。
「時の伴奏者。君の力がいる。」
「ええ。すべての“瞬間”を、あなたの筆で繋いで。」
二人の掌が重なり、光が弾ける。
止まった瞬間が動き出すと同時に、闇の分身が粉々に砕け散った。
「これが……“共鳴記述”か……!」ノインの声が唸る。
最後の斬撃が互いの間で交差し、世界が弾ける。
次の瞬間――闇が霧散した。
* * *
戦いの後。
空は再び澄み渡り、学園に静けさが戻る。
エリアスは剣を納め、深く息を吐いた。
セレナが隣に歩み寄る。
「無事……なのね。」
「ああ。だが、ノインは消えていない。」
ルミナが淡く囁く。
『ええ。彼は“記録の影”として次元の狭間に消えた。けれど、完全な封印じゃない。次に現れるとき、彼はこの世界そのものを標的にするでしょう。』
「だからこそ、今度は負けられない。」
エリアスの掌には、まだ光の筆跡が燦然と輝いていた。
それは確かに、神と人が共に動かした“運命の文字”。
セレナが微笑みながら言った。
「ねえ、エリアス。あなたが記すこの世界、本当に救えると思う?」
「救えるかどうかは分からない。でも――」
彼は空を仰ぎ、春の風を感じながら答えた。
「信じる力は、もう失ってない。」
雲の隙間から、一筋の光が降り注ぐ。
それはまるで、次の章への“しるし”のように、大地を照らしていた。
新学期を迎えた王都は穏やかな陽光に包まれていたが、その裏で世界は静かに揺らいでいた。
エリアス・グランベルと王女セレナ・ルクシールの同盟。その知らせは瞬く間に国内外に広がり、学園にも緊張が走る。
神聖預言者エリシアが遺した言葉、「二本目の筆が現れる」。
それは王国にとって一つの恐怖の予兆だった。
そして、その「影」が、ついに動き出そうとしていた。
* * *
夜。
学園の中庭に一陣の冷たい風が吹き抜ける。
月光が石畳を照らす中、黒い影が静かに姿を現した。
かつてエリアスが断ち切った“千年の因果”の残滓。闇の記述者ノイン――その意識が再びこの時代に姿を取り戻したのだ。
ノインは指先を掲げ、空に手を伸ばす。
彼の指先から漆黒の文字が溢れ、それが夜空に散り、星を覆い隠す。
「さて……俺の“消去の頁”を綴るとしよう。兄弟よ、今の世界はまだ光が眩しすぎる。」
月が翳り、学園全体がほんのわずかに震えた。
* * *
一方その頃、エリアスはセレナと共に学院長室を訪れていた。
学院長ヴァルディオは二人を迎え入れ、沈んだ瞳で言った。
「二人を支援したい気持ちはある。だが……時の教会が動いた。彼らは“神を超えた記述者の排除”を決定した。」
「つまり、俺たちが敵に回ったってことか。」
「いや、王国全体がだ。」
セレナが息を呑む。
「そんな……祖国が、自ら神の祝福を持つ者に剣を向けるなんて!」
「恐れは正しさを歪めるのよ、殿下。」ヴァルディオが嘆息する。「あなたが近くにいることも、余計に火種になる。彼らは“光と闇の融合”を忌避しているのだ。」
ルミナの声がエリアスの胸で低く囁く。
『あなたとセレナが揃うと、時と光の力が干渉し合う。世界の“矛盾”が活性化するのよ。まるで転換点を迎えた物語のように。』
「それでも、もう止まれない。」エリアスは目を閉じる。
「光が生まれるなら、闇も生まれる。ならば、俺はすべてを見届ける。」
セレナが頷く。
「あなたがいる限り、わたしも立ち止まらないわ。」
学院長は二人の覚悟を受け取り、重く言葉を残した。
「ならば……“心の覚悟”を持て。光を継ぐ者と闇を継ぐ者が相まみえる時、この世の法則は書き変わる。万一、その時が来たら――“時の禁書”を開け。そこに神々の最後の意志が眠っている。」
* * *
その夜、鐘が鳴った。
学園全体に警報の音が響き渡る。
「闇気反応だ!」
「北棟が歪んでる! 構造結界が崩壊しています!」
教師や自警団が走り回る中、空から黒い霧が降りてくる。
地上に触れた瞬間、草木が枯れ、石壁がひび割れた。
それはまるで、世界そのものを“消去”する力だった。
「来たか……ノイン。」
エリアスが立ち上がる。
風も止まり、空の月が赤く染まる。
やがて、空間の裂け目が開き、黒衣の少年が歩み出る。
まるで鏡のように、自分と同じ顔。だが瞳の色は深紅の闇。
「久しいな、俺。」
「ノイン……。」
「千年前、俺を切り離し、闇として封じたくせに、よくものうのうと生きていたものだ。」
エリアスは一歩も退かない。
「お前の望みは何だ。」
「単純だよ。すべてを“空白”に戻すことさ。神も人も、何も知らなかった原初の静寂へ。」
「それじゃ生きる意味がなくなる。」
「意味? そんなもの、無数の書き換えの果てに生まれた幻想だ。」
ノインが指を鳴らす。
空間が反転し、世界が灰色に染まる。
学園の建物が文字となって崩れ、空が静止する。
「“虚構解体・イグノス”……。」
ルミナが警告を発する。
『発動しちゃったわ! あれは現実を書き換えて“無”に戻す術式、純粋な消去の記述よ!』
「だったら、“存在”を書き直す!」
エリアスの瞳が光る。
金色の筆跡が空に浮かび上がる。
「定義変更──“この世界は、まだ続く”!」
瞬間、灰色の世界が弾け、色彩が戻る。
ノインの笑みが崩れ、瞳の奥で闇が揺れる。
「まさか対抗できるとは……面白い……!」
次の瞬間、ノインの手に漆黒の剣が生まれる。
一方でエリアスの背後には、ルミナの姿が淡く浮かんだ。
『エリアス。あなたが書く意思が、わたしという“剣”になる。』
「行くぞ、ルミナ。」
二つの剣がぶつかる。
金と黒の光が交差し、衝撃で周囲の建物が吹き飛ぶ。
学園全体が即座に防御結界を展開したが、それすら割れるほどの凶器だった。
雷鳴のような音、時間が軋むような振動。
二人の力がぶつかるたび、現実が揺れた。
「お前は“人”の側に留まりたいらしいな。」ノインが低く笑う。
「俺は、神でも人でもない。“この世界を救う者”だ!」
「救う? 救いなくして成り立つ世界もあるんだよ!」
再び斬撃。
ルミナの光が闇を裂き、一瞬、空の黒雲を消し去る。
だが、ノインの体は影のように分裂し、無数の分身がエリアスを取り囲んだ。
「無限の虚像、影の百筆……!」
『エリアス! 空間が閉じられている、脱出は不可能よ!』
しかし、彼は静かに息を吐き、瞳を閉じた。
「なら、俺が書を開く。」
空間に浮かぶ金の文字が螺旋を描く。
「神言構文・第零篇──“時を止めろ”。」
瞬間、すべてが静止した。
ノインの影も、波打つ風も、崩れる石も。
動くのはエリアスとセレナだけだった。
凍った世界の中で、彼はセレナの方へ視線を向ける。
「時の伴奏者。君の力がいる。」
「ええ。すべての“瞬間”を、あなたの筆で繋いで。」
二人の掌が重なり、光が弾ける。
止まった瞬間が動き出すと同時に、闇の分身が粉々に砕け散った。
「これが……“共鳴記述”か……!」ノインの声が唸る。
最後の斬撃が互いの間で交差し、世界が弾ける。
次の瞬間――闇が霧散した。
* * *
戦いの後。
空は再び澄み渡り、学園に静けさが戻る。
エリアスは剣を納め、深く息を吐いた。
セレナが隣に歩み寄る。
「無事……なのね。」
「ああ。だが、ノインは消えていない。」
ルミナが淡く囁く。
『ええ。彼は“記録の影”として次元の狭間に消えた。けれど、完全な封印じゃない。次に現れるとき、彼はこの世界そのものを標的にするでしょう。』
「だからこそ、今度は負けられない。」
エリアスの掌には、まだ光の筆跡が燦然と輝いていた。
それは確かに、神と人が共に動かした“運命の文字”。
セレナが微笑みながら言った。
「ねえ、エリアス。あなたが記すこの世界、本当に救えると思う?」
「救えるかどうかは分からない。でも――」
彼は空を仰ぎ、春の風を感じながら答えた。
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