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第25話 王立学院崩壊
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空が裂けたのは、夜明けの少し前だった。
激しい光と衝撃が学園全体を包み、塔が崩れ、瓦礫が四方へ飛び散る。
エリアスとリゼンの戦いは、もはや人間同士の戦闘とは言えなかった。
世界の法則そのものをぶつけ合う、記述者対神封兵装の衝突。
塔の下でセレナは、瓦礫の中から這い出しながら叫んだ。
「エリアス! 応えて!」
白い煙の中、光と闇がぶつかり合う残響がいつまでも響いていた。
やがて、風が止まり、静寂が訪れる。
崩れた尖塔の上空に、二つの影が浮かんでいた。
ひとりは黒い翼を持つリゼン。そしてその対面には、剣を構えるエリアス。
彼の体は傷だらけだった。光の血が滴り、空気そのものを焦がしている。
「……なぜそこまで抗う?」
リゼンの声は冷たく、しかし悲しみを帯びていた。
「この国はすでに腐っている。神々の理にすがり、己で歩くことを忘れた。お前を討つことで、この世界はやっと均衡を取り戻す。」
「違う。均衡を保つだと? お前はただ“壊すことで楽になろうとしてる”だけだ。」
「……痛いところを突いてくれる。」
リゼンの黒翼が羽ばたき、無数の羽根が刃に変わる。
「だが、私はもはや人間ではない。教会によって造られた“神の模造体”――救われる資格も持たぬ存在だ!」
エリアスの剣が微かに震える。
ルミナの声が響いた。
『あの男、完全に人の記述を捨ててるわ。“神封兵装”を限界まで使えば、彼自身の魂が記録の外に落ちてしまう!』
「俺が止める。」
『でも彼は……!』
「それでもだ!」
エリアスは叫び、剣を構える。
同時に、リゼンの翼が地を覆うほどに広がった。
「これが私の最期の祈りだ……“虚天崩界《きょてんほうかい》”。」
空が悲鳴を上げる。
暗黒の光柱が立ち上がり、学園の大地が砕けていく。
建物が崩れ、生徒たちが必死に逃げ惑う。
結界を維持していた教師たちも次々と倒れていく。
「そんな……学院が……!」セレナが呟く。
破壊のエネルギーが全てを飲み込もうとしたその時、金色の光が空へ駆け上がった。
エリアスの声が、世界そのものに響く。
「――記述変更、《虚天を切り離せ》!」
光と闇がぶつかり、衝撃波が全方向に走る。
音が消え、時間が止まった。
直後、黒の光柱が弾け、空が再び青を取り戻す。
リゼンの体はゆっくりと崩れ始めていた。
翼が溶け、彼の瞳から正気が戻る。
エリアスは剣を下げ、重く息を吐く。
「……やめろ、リゼン。これ以上使えば、お前が消える。」
「もう、遅いさ。」
彼は笑った。穏やかで、人間らしい笑顔だった。
「私はお前の“力”が羨ましかった。神を否定して、なお人として立とうとするその心が。」
「リゼン……。」
「私の中に、ノインの力が宿っていた。闇の記述者の意識は、教会を通じて私に書き換えられていたんだ。
お前を消そうとしたのも、すべて“影の意思”だ。……私の意志じゃなかった。」
エリアスは拳を握る。
「それでも……お前は、“救われたい”と願っていた。」
「そんな資格……あるかな。」
「あるさ。俺が書き換える。」
黄金の光が二人の間を渡る。
エリアスの手がリゼンの胸に触れた瞬間、世界が再び震えた。
「定義更新——“お前の罪は、もう消えた”。」
暖かな光が弾け、闇が霧のように消えていく。
リゼンの体がゆっくりと光に包まれていく。
「……これが、救いか。」
「ああ。お前が選んだ、最後の願いだ。」
彼は笑って目を閉じた。
その光は春の風に溶けるように消え、そこにはただ黒い羽だけが残った。
* * *
暴走が収束した後、学園の姿は見る影もなかった。
塔は崩れ、校舎の三分の一は瓦礫と化し、周囲の森すら焦げている。
だが、生徒の多くは生きていた。
エリアスが最後に張った「保護の記述」がすべてを守っていたのだ。
セレナが彼に駆け寄る。
「……やっぱり、あなたはいつも無茶をする。」
「結果オーライだろ。」苦笑を浮かべる彼の肩に、彼女はそっと触れた。
その時、灰の中から誰かの声が聞こえた。
「よく……ここまで残したな。」
学院長ヴァルディオの助手、老魔術師ハーヴェルが現れた。
「あなたが学院長を……」
「知っている。」ハーヴェルの目は険しかったが、どこかに安堵があった。
「ヴァルディオ様は最期にこう言っておられた。『あの少年を信じろ』とな。」
エリアスは目を伏せ、ゆっくり頷いた。
「学院長の犠牲も、リゼンの罪も、すべて記憶に刻んでおく。」
ルミナがその声に重ねるように囁く。
『これが“記述者”の道よ。見ること、受け止めること、そして書き記すこと。』
周囲に集まった生徒たちは、エリアスを見上げていた。
恐れでも、崇拝でもない。ただ、真実を知った者としての眼差し。
セレナが静かに言う。
「この学院は、あなたが書き換えた物語の始まりの地ね。」
「そうだな。」
「じゃあ、ここが終わっても、立ち止まらないで。」
「止まらないさ。」エリアスは空を見上げる。
薄い雲の向こうで、星がかすかに揺れている。
まるで誰かがまだ、空の向こうから見守っているようだった。
学院を包む風が、穏やかに吹き抜ける。
* * *
そして、その夜。
学園の跡地にひとつの黒い影が立っていた。
残骸の中心、崩れた鉱塔の影で、赤い瞳が光る。
「……予想以上だな、エリアス。」
ノインの声が微かに響く。
「やはり、お前には“書き換えの神格”の素質がある。だが――」
彼は崩れた瓦礫に指で触れ、微笑んだ。
瓦礫が黒く染まり、再構築される。
瞬間、地面の下から黒い陣が描かれ、闇が蠢き始めた。
「世界は一つじゃない。
お前が守ったこの現実の裏で、俺は“もう一つの学院”を創る。
次の章は――“影の伝承”だ。」
冷たい風が吹く。
ノインの姿は霧のように掻き消え、闇の上に黒い羽が舞い落ちた。
王立学院崩壊。
それは、物語が静かに新たな段階へと進み始めたことを告げる、最初の鐘の音だった。
激しい光と衝撃が学園全体を包み、塔が崩れ、瓦礫が四方へ飛び散る。
エリアスとリゼンの戦いは、もはや人間同士の戦闘とは言えなかった。
世界の法則そのものをぶつけ合う、記述者対神封兵装の衝突。
塔の下でセレナは、瓦礫の中から這い出しながら叫んだ。
「エリアス! 応えて!」
白い煙の中、光と闇がぶつかり合う残響がいつまでも響いていた。
やがて、風が止まり、静寂が訪れる。
崩れた尖塔の上空に、二つの影が浮かんでいた。
ひとりは黒い翼を持つリゼン。そしてその対面には、剣を構えるエリアス。
彼の体は傷だらけだった。光の血が滴り、空気そのものを焦がしている。
「……なぜそこまで抗う?」
リゼンの声は冷たく、しかし悲しみを帯びていた。
「この国はすでに腐っている。神々の理にすがり、己で歩くことを忘れた。お前を討つことで、この世界はやっと均衡を取り戻す。」
「違う。均衡を保つだと? お前はただ“壊すことで楽になろうとしてる”だけだ。」
「……痛いところを突いてくれる。」
リゼンの黒翼が羽ばたき、無数の羽根が刃に変わる。
「だが、私はもはや人間ではない。教会によって造られた“神の模造体”――救われる資格も持たぬ存在だ!」
エリアスの剣が微かに震える。
ルミナの声が響いた。
『あの男、完全に人の記述を捨ててるわ。“神封兵装”を限界まで使えば、彼自身の魂が記録の外に落ちてしまう!』
「俺が止める。」
『でも彼は……!』
「それでもだ!」
エリアスは叫び、剣を構える。
同時に、リゼンの翼が地を覆うほどに広がった。
「これが私の最期の祈りだ……“虚天崩界《きょてんほうかい》”。」
空が悲鳴を上げる。
暗黒の光柱が立ち上がり、学園の大地が砕けていく。
建物が崩れ、生徒たちが必死に逃げ惑う。
結界を維持していた教師たちも次々と倒れていく。
「そんな……学院が……!」セレナが呟く。
破壊のエネルギーが全てを飲み込もうとしたその時、金色の光が空へ駆け上がった。
エリアスの声が、世界そのものに響く。
「――記述変更、《虚天を切り離せ》!」
光と闇がぶつかり、衝撃波が全方向に走る。
音が消え、時間が止まった。
直後、黒の光柱が弾け、空が再び青を取り戻す。
リゼンの体はゆっくりと崩れ始めていた。
翼が溶け、彼の瞳から正気が戻る。
エリアスは剣を下げ、重く息を吐く。
「……やめろ、リゼン。これ以上使えば、お前が消える。」
「もう、遅いさ。」
彼は笑った。穏やかで、人間らしい笑顔だった。
「私はお前の“力”が羨ましかった。神を否定して、なお人として立とうとするその心が。」
「リゼン……。」
「私の中に、ノインの力が宿っていた。闇の記述者の意識は、教会を通じて私に書き換えられていたんだ。
お前を消そうとしたのも、すべて“影の意思”だ。……私の意志じゃなかった。」
エリアスは拳を握る。
「それでも……お前は、“救われたい”と願っていた。」
「そんな資格……あるかな。」
「あるさ。俺が書き換える。」
黄金の光が二人の間を渡る。
エリアスの手がリゼンの胸に触れた瞬間、世界が再び震えた。
「定義更新——“お前の罪は、もう消えた”。」
暖かな光が弾け、闇が霧のように消えていく。
リゼンの体がゆっくりと光に包まれていく。
「……これが、救いか。」
「ああ。お前が選んだ、最後の願いだ。」
彼は笑って目を閉じた。
その光は春の風に溶けるように消え、そこにはただ黒い羽だけが残った。
* * *
暴走が収束した後、学園の姿は見る影もなかった。
塔は崩れ、校舎の三分の一は瓦礫と化し、周囲の森すら焦げている。
だが、生徒の多くは生きていた。
エリアスが最後に張った「保護の記述」がすべてを守っていたのだ。
セレナが彼に駆け寄る。
「……やっぱり、あなたはいつも無茶をする。」
「結果オーライだろ。」苦笑を浮かべる彼の肩に、彼女はそっと触れた。
その時、灰の中から誰かの声が聞こえた。
「よく……ここまで残したな。」
学院長ヴァルディオの助手、老魔術師ハーヴェルが現れた。
「あなたが学院長を……」
「知っている。」ハーヴェルの目は険しかったが、どこかに安堵があった。
「ヴァルディオ様は最期にこう言っておられた。『あの少年を信じろ』とな。」
エリアスは目を伏せ、ゆっくり頷いた。
「学院長の犠牲も、リゼンの罪も、すべて記憶に刻んでおく。」
ルミナがその声に重ねるように囁く。
『これが“記述者”の道よ。見ること、受け止めること、そして書き記すこと。』
周囲に集まった生徒たちは、エリアスを見上げていた。
恐れでも、崇拝でもない。ただ、真実を知った者としての眼差し。
セレナが静かに言う。
「この学院は、あなたが書き換えた物語の始まりの地ね。」
「そうだな。」
「じゃあ、ここが終わっても、立ち止まらないで。」
「止まらないさ。」エリアスは空を見上げる。
薄い雲の向こうで、星がかすかに揺れている。
まるで誰かがまだ、空の向こうから見守っているようだった。
学院を包む風が、穏やかに吹き抜ける。
* * *
そして、その夜。
学園の跡地にひとつの黒い影が立っていた。
残骸の中心、崩れた鉱塔の影で、赤い瞳が光る。
「……予想以上だな、エリアス。」
ノインの声が微かに響く。
「やはり、お前には“書き換えの神格”の素質がある。だが――」
彼は崩れた瓦礫に指で触れ、微笑んだ。
瓦礫が黒く染まり、再構築される。
瞬間、地面の下から黒い陣が描かれ、闇が蠢き始めた。
「世界は一つじゃない。
お前が守ったこの現実の裏で、俺は“もう一つの学院”を創る。
次の章は――“影の伝承”だ。」
冷たい風が吹く。
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