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第27話 真の勇者の資格
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天界の階層――“記述宮殿”。
青と白で編まれた世界は、あらゆる意味で静謐だった。
時間と空間が交差し、重なり、永遠に続く平面が輝きを放つ。
その中心で、光と光が再びぶつかり合った。
エリアスの背には、神剣ルミナ。
対峙するは終焉の観測者ゼラ。
かつて人間だった神と、人でありながら神の領域に踏み込んだ記述者。
ふたりの存在は、天界の理さえ揺るがす“矛盾”だった。
「これが……神々の力か。」
エリアスは息を吐く。打突一つで空間が割れ、彼の腕が痺れる。ゼラの攻撃は質量ではなく概念を破壊するものだった。
「お前が見せてきた優しさも、これで終わりだ。ルミナ、お前はまだ人を信じるのか?」
ゼラの声に、エリアスの胸の奥――ルミナが微笑む。
『ええ。私は彼を信じる。世界が壊れても、人の心は書き換えられない。』
「甘いな。」
ゼラが手をかざした。聖光から生まれた無数の矢が、星空のように降り注ぐ。
エリアスは空気を裂き、構文を展開する。
「定義変更――“矢は導くもの”。」
瞬間、すべての光矢が方向を変え、ゼラの背後へ飛んだ。
だが、ゼラはそれを片手で止める。
世界そのものが指先で凍り、形のない空間がガラスのように割れた。
「人が神に抗えようなどと思うな。」
「それでも、俺は書き換える!」
衝突の中心で、金と蒼の閃光が混ざり、天がひっくり返る。
下層の神々が一斉にひれ伏した。
それはもはや戦いではなく、記録の改編だった。
* * *
天界の一角。
他の五柱の神々は、無言でその光景を見つめていた。
創造を司る長老神セリオルが重く呟く。
「始まりの記述者が再び現れたということか。……世界は二度目の黎明を迎えるのかもしれぬ。」
「だが彼は人だ。記述の資格が完全ではない。」
「だからこそ、我々は見る。真の勇者とは何か――それを。」
* * *
「勇者……?」
その言葉を、エリアスが聞き返す。
ゼラの手にもう一本の剣が生まれていた。
それはどの神とも異なる光――“試練の刃”。
「お前は勘違いしている。勇者とは神に選ばれし者ではない。
“神を否定し、神の正しさを超える者”の名だ。
神々は勇者を恐れ、最初の時代にその概念を封印した。だが、お前の存在がそれを呼び覚ました。」
「……俺が勇者?」
「違う。勇者になる資格を持つ者だ。」ゼラが静かに進み出る。「だが、その資格が本物かどうか――私が確かめよう。」
攻防が再開した。
ゼラの剣が周囲の光を吸い込み、音すら消える。
エリアスが放った一撃でできた裂け目が、次の瞬間には時の海となって押し寄せる。
もはや戦場そのものが一つの世界のようだった。
『エリアス! あなたの中の記述力が暴走しかけてる!』
「わかってる! でも退けない!」
彼は無意識に、千年前に出会った自分自身の言葉を思い出していた。
「――“記述者は孤独だ。だが、孤独が世界を繋ぐ。”」
その瞬間、彼の筆跡が天空へ伸びる。
すべての構文が呼応し、金色の輝きが空の端にまで届いた。
ゼラの瞳が揺れる。
「その光……まさか“始まりの文字列”を……!」
「言ったろ、俺は過去を見た。神々の筆記から学んだんだ。」
彼の言葉と共に、天界の壁が震えた。
埃のような光が舞い、無数の声が響く。
それは、かつて神々が創造した最初の記録。世界が生まれた時の“第一の語句”。
「これが……人の記憶。“希望の構文”だ!」
光が溢れ、世界が白に包まれる。
ルミナの声がどこからか響く。
『あなたが願えば、これは力にも慈悲にもなる。エリアス、どうするの?』
「決まってる。」彼は目を閉じた。
「神々が閉じた希望なら、俺が開く!」
その瞬間、彼の剣が純白に光った。
斬撃が天を割り、ゼラの槍とぶつかる。
神々の会議の殿堂が崩れ、光の欠片が雪のように散る。
エリアスの体が吹き飛び、天の床に叩きつけられた。
それでも剣を離さなかった。
そして、ゆっくり立ち上がる。
「さあ、神様。答えろよ。」
「何を問う……?」
「“勇者の資格”ってのはさ、誰かに許されて得るものなのか?」
ゼラは沈黙し、やがて苦笑した。
「……違う。自ら選び取るものだ。だが、選んだ者は孤立する。それがわかっても――歩むか?」
「歩む。」
即答だった。
「孤独は嫌いだ。でも、その孤独が誰かを救えるなら、迷う理由なんてない。」
ゼラの手から剣が崩れ落ちる。
彼の瞳が静かに光を取り戻した。
「……それが、お前の答えか。」
ルミナがそっと囁く。
『あなた、勇者の資格を手に入れたわ。神々でさえ恐れた“選ぶ者”の魂を。』
「勇者……なのか、俺が。」
「勇者は称号ではない。意思の名だ。」ゼラは微笑む。「お前が“選び続ける者”である限り、それは終わらない試練だ。」
周囲の光がゆっくりと治まり始める。
崩壊していた天の構造が修復し、割れた星々が軌道を取り戻す。
戦いは終わった。
「……お前は、やはり人を救う器だったか。」ゼラの口調は静かだった。
「ただ、一つだけ警告しておく。お前を見ている者はもう一人いる。――“ノイン”だ。」
「影の記述者……。」
「彼もまた、お前の真の試練。いずれ、勇者を名乗るお前自身が人を滅ぼすか、救うか。その境界上で戦い続けることになる。」
ゼラの姿が崩れ始める。
光の粒子がエリアスの手の中で形を変え、一振りの小さなペンダントとなる。
「これは契印だ。お前が勇者として立つ証。そしてもし迷った時、この光が道を示すだろう。」
エリアスはそれを受け取り、深くうなずいた。
「ありがとう。……俺は、もう迷わない。」
ゼラの口元が僅かに笑った。
「ならば今度こそ、人として神の座を越えてみせろ。――真の勇者、エリアス・グランベル。」
* * *
次の瞬間、天の階層がゆっくり閉じた。
光の中でエリアスの体が下界へ落ちていく。
彼の心には重圧も痛みもなく、ただ温かな光が灯っていた。
遠くでルミナが笑う。
『おめでとう、エリアス。これであなたは、人類史における最後の“勇者”になった。』
「最後じゃないさ。これからだ。」
「……俺は記すだけじゃない。“生き続ける物語”を、この手で。」
その声が冬空に響くと、天の帳が閉じ、再び夜が戻った。
遠くの地上で見上げていたセレナの目に、一筋の流星が流れた。
それが、神々との戦いが一つの終息を迎え、“真の勇者”が誕生した瞬間だった。
青と白で編まれた世界は、あらゆる意味で静謐だった。
時間と空間が交差し、重なり、永遠に続く平面が輝きを放つ。
その中心で、光と光が再びぶつかり合った。
エリアスの背には、神剣ルミナ。
対峙するは終焉の観測者ゼラ。
かつて人間だった神と、人でありながら神の領域に踏み込んだ記述者。
ふたりの存在は、天界の理さえ揺るがす“矛盾”だった。
「これが……神々の力か。」
エリアスは息を吐く。打突一つで空間が割れ、彼の腕が痺れる。ゼラの攻撃は質量ではなく概念を破壊するものだった。
「お前が見せてきた優しさも、これで終わりだ。ルミナ、お前はまだ人を信じるのか?」
ゼラの声に、エリアスの胸の奥――ルミナが微笑む。
『ええ。私は彼を信じる。世界が壊れても、人の心は書き換えられない。』
「甘いな。」
ゼラが手をかざした。聖光から生まれた無数の矢が、星空のように降り注ぐ。
エリアスは空気を裂き、構文を展開する。
「定義変更――“矢は導くもの”。」
瞬間、すべての光矢が方向を変え、ゼラの背後へ飛んだ。
だが、ゼラはそれを片手で止める。
世界そのものが指先で凍り、形のない空間がガラスのように割れた。
「人が神に抗えようなどと思うな。」
「それでも、俺は書き換える!」
衝突の中心で、金と蒼の閃光が混ざり、天がひっくり返る。
下層の神々が一斉にひれ伏した。
それはもはや戦いではなく、記録の改編だった。
* * *
天界の一角。
他の五柱の神々は、無言でその光景を見つめていた。
創造を司る長老神セリオルが重く呟く。
「始まりの記述者が再び現れたということか。……世界は二度目の黎明を迎えるのかもしれぬ。」
「だが彼は人だ。記述の資格が完全ではない。」
「だからこそ、我々は見る。真の勇者とは何か――それを。」
* * *
「勇者……?」
その言葉を、エリアスが聞き返す。
ゼラの手にもう一本の剣が生まれていた。
それはどの神とも異なる光――“試練の刃”。
「お前は勘違いしている。勇者とは神に選ばれし者ではない。
“神を否定し、神の正しさを超える者”の名だ。
神々は勇者を恐れ、最初の時代にその概念を封印した。だが、お前の存在がそれを呼び覚ました。」
「……俺が勇者?」
「違う。勇者になる資格を持つ者だ。」ゼラが静かに進み出る。「だが、その資格が本物かどうか――私が確かめよう。」
攻防が再開した。
ゼラの剣が周囲の光を吸い込み、音すら消える。
エリアスが放った一撃でできた裂け目が、次の瞬間には時の海となって押し寄せる。
もはや戦場そのものが一つの世界のようだった。
『エリアス! あなたの中の記述力が暴走しかけてる!』
「わかってる! でも退けない!」
彼は無意識に、千年前に出会った自分自身の言葉を思い出していた。
「――“記述者は孤独だ。だが、孤独が世界を繋ぐ。”」
その瞬間、彼の筆跡が天空へ伸びる。
すべての構文が呼応し、金色の輝きが空の端にまで届いた。
ゼラの瞳が揺れる。
「その光……まさか“始まりの文字列”を……!」
「言ったろ、俺は過去を見た。神々の筆記から学んだんだ。」
彼の言葉と共に、天界の壁が震えた。
埃のような光が舞い、無数の声が響く。
それは、かつて神々が創造した最初の記録。世界が生まれた時の“第一の語句”。
「これが……人の記憶。“希望の構文”だ!」
光が溢れ、世界が白に包まれる。
ルミナの声がどこからか響く。
『あなたが願えば、これは力にも慈悲にもなる。エリアス、どうするの?』
「決まってる。」彼は目を閉じた。
「神々が閉じた希望なら、俺が開く!」
その瞬間、彼の剣が純白に光った。
斬撃が天を割り、ゼラの槍とぶつかる。
神々の会議の殿堂が崩れ、光の欠片が雪のように散る。
エリアスの体が吹き飛び、天の床に叩きつけられた。
それでも剣を離さなかった。
そして、ゆっくり立ち上がる。
「さあ、神様。答えろよ。」
「何を問う……?」
「“勇者の資格”ってのはさ、誰かに許されて得るものなのか?」
ゼラは沈黙し、やがて苦笑した。
「……違う。自ら選び取るものだ。だが、選んだ者は孤立する。それがわかっても――歩むか?」
「歩む。」
即答だった。
「孤独は嫌いだ。でも、その孤独が誰かを救えるなら、迷う理由なんてない。」
ゼラの手から剣が崩れ落ちる。
彼の瞳が静かに光を取り戻した。
「……それが、お前の答えか。」
ルミナがそっと囁く。
『あなた、勇者の資格を手に入れたわ。神々でさえ恐れた“選ぶ者”の魂を。』
「勇者……なのか、俺が。」
「勇者は称号ではない。意思の名だ。」ゼラは微笑む。「お前が“選び続ける者”である限り、それは終わらない試練だ。」
周囲の光がゆっくりと治まり始める。
崩壊していた天の構造が修復し、割れた星々が軌道を取り戻す。
戦いは終わった。
「……お前は、やはり人を救う器だったか。」ゼラの口調は静かだった。
「ただ、一つだけ警告しておく。お前を見ている者はもう一人いる。――“ノイン”だ。」
「影の記述者……。」
「彼もまた、お前の真の試練。いずれ、勇者を名乗るお前自身が人を滅ぼすか、救うか。その境界上で戦い続けることになる。」
ゼラの姿が崩れ始める。
光の粒子がエリアスの手の中で形を変え、一振りの小さなペンダントとなる。
「これは契印だ。お前が勇者として立つ証。そしてもし迷った時、この光が道を示すだろう。」
エリアスはそれを受け取り、深くうなずいた。
「ありがとう。……俺は、もう迷わない。」
ゼラの口元が僅かに笑った。
「ならば今度こそ、人として神の座を越えてみせろ。――真の勇者、エリアス・グランベル。」
* * *
次の瞬間、天の階層がゆっくり閉じた。
光の中でエリアスの体が下界へ落ちていく。
彼の心には重圧も痛みもなく、ただ温かな光が灯っていた。
遠くでルミナが笑う。
『おめでとう、エリアス。これであなたは、人類史における最後の“勇者”になった。』
「最後じゃないさ。これからだ。」
「……俺は記すだけじゃない。“生き続ける物語”を、この手で。」
その声が冬空に響くと、天の帳が閉じ、再び夜が戻った。
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