転生無双学院~追放された田舎貴族、実は神剣と女神に愛されていた件~

eringi

文字の大きさ
27 / 40

第27話 真の勇者の資格

しおりを挟む
 天界の階層――“記述宮殿”。  
 青と白で編まれた世界は、あらゆる意味で静謐だった。  
 時間と空間が交差し、重なり、永遠に続く平面が輝きを放つ。  
 その中心で、光と光が再びぶつかり合った。  

 エリアスの背には、神剣ルミナ。  
 対峙するは終焉の観測者ゼラ。  
 かつて人間だった神と、人でありながら神の領域に踏み込んだ記述者。  
 ふたりの存在は、天界の理さえ揺るがす“矛盾”だった。  

「これが……神々の力か。」  
 エリアスは息を吐く。打突一つで空間が割れ、彼の腕が痺れる。ゼラの攻撃は質量ではなく概念を破壊するものだった。  
「お前が見せてきた優しさも、これで終わりだ。ルミナ、お前はまだ人を信じるのか?」  
 ゼラの声に、エリアスの胸の奥――ルミナが微笑む。  
『ええ。私は彼を信じる。世界が壊れても、人の心は書き換えられない。』  

「甘いな。」  
 ゼラが手をかざした。聖光から生まれた無数の矢が、星空のように降り注ぐ。  
 エリアスは空気を裂き、構文を展開する。  
「定義変更――“矢は導くもの”。」  
 瞬間、すべての光矢が方向を変え、ゼラの背後へ飛んだ。  
 だが、ゼラはそれを片手で止める。  
 世界そのものが指先で凍り、形のない空間がガラスのように割れた。  

「人が神に抗えようなどと思うな。」  
「それでも、俺は書き換える!」  

 衝突の中心で、金と蒼の閃光が混ざり、天がひっくり返る。  
 下層の神々が一斉にひれ伏した。  
 それはもはや戦いではなく、記録の改編だった。  

* * *  

 天界の一角。  
 他の五柱の神々は、無言でその光景を見つめていた。  
 創造を司る長老神セリオルが重く呟く。  
「始まりの記述者が再び現れたということか。……世界は二度目の黎明を迎えるのかもしれぬ。」  
「だが彼は人だ。記述の資格が完全ではない。」  
「だからこそ、我々は見る。真の勇者とは何か――それを。」  

* * *  

「勇者……?」  
 その言葉を、エリアスが聞き返す。  
 ゼラの手にもう一本の剣が生まれていた。  
 それはどの神とも異なる光――“試練の刃”。  

「お前は勘違いしている。勇者とは神に選ばれし者ではない。  
 “神を否定し、神の正しさを超える者”の名だ。  
 神々は勇者を恐れ、最初の時代にその概念を封印した。だが、お前の存在がそれを呼び覚ました。」  

「……俺が勇者?」  
「違う。勇者になる資格を持つ者だ。」ゼラが静かに進み出る。「だが、その資格が本物かどうか――私が確かめよう。」  

 攻防が再開した。  
 ゼラの剣が周囲の光を吸い込み、音すら消える。  
 エリアスが放った一撃でできた裂け目が、次の瞬間には時の海となって押し寄せる。  
 もはや戦場そのものが一つの世界のようだった。  

『エリアス! あなたの中の記述力が暴走しかけてる!』  
「わかってる! でも退けない!」  
 彼は無意識に、千年前に出会った自分自身の言葉を思い出していた。  

「――“記述者は孤独だ。だが、孤独が世界を繋ぐ。”」  

 その瞬間、彼の筆跡が天空へ伸びる。  
 すべての構文が呼応し、金色の輝きが空の端にまで届いた。  

 ゼラの瞳が揺れる。  
「その光……まさか“始まりの文字列”を……!」  
「言ったろ、俺は過去を見た。神々の筆記から学んだんだ。」  

 彼の言葉と共に、天界の壁が震えた。  
 埃のような光が舞い、無数の声が響く。  
 それは、かつて神々が創造した最初の記録。世界が生まれた時の“第一の語句”。  

「これが……人の記憶。“希望の構文”だ!」  
 光が溢れ、世界が白に包まれる。  

 ルミナの声がどこからか響く。  
『あなたが願えば、これは力にも慈悲にもなる。エリアス、どうするの?』  

「決まってる。」彼は目を閉じた。  
「神々が閉じた希望なら、俺が開く!」  

 その瞬間、彼の剣が純白に光った。  
 斬撃が天を割り、ゼラの槍とぶつかる。  
 神々の会議の殿堂が崩れ、光の欠片が雪のように散る。  

 エリアスの体が吹き飛び、天の床に叩きつけられた。  
 それでも剣を離さなかった。  
 そして、ゆっくり立ち上がる。  

「さあ、神様。答えろよ。」  
「何を問う……?」  
「“勇者の資格”ってのはさ、誰かに許されて得るものなのか?」  

 ゼラは沈黙し、やがて苦笑した。  
「……違う。自ら選び取るものだ。だが、選んだ者は孤立する。それがわかっても――歩むか?」  

「歩む。」  
 即答だった。  

「孤独は嫌いだ。でも、その孤独が誰かを救えるなら、迷う理由なんてない。」  

 ゼラの手から剣が崩れ落ちる。  
 彼の瞳が静かに光を取り戻した。  
「……それが、お前の答えか。」  

 ルミナがそっと囁く。  
『あなた、勇者の資格を手に入れたわ。神々でさえ恐れた“選ぶ者”の魂を。』  

「勇者……なのか、俺が。」  
「勇者は称号ではない。意思の名だ。」ゼラは微笑む。「お前が“選び続ける者”である限り、それは終わらない試練だ。」  

 周囲の光がゆっくりと治まり始める。  
 崩壊していた天の構造が修復し、割れた星々が軌道を取り戻す。  
 戦いは終わった。  

「……お前は、やはり人を救う器だったか。」ゼラの口調は静かだった。  
「ただ、一つだけ警告しておく。お前を見ている者はもう一人いる。――“ノイン”だ。」  

「影の記述者……。」  
「彼もまた、お前の真の試練。いずれ、勇者を名乗るお前自身が人を滅ぼすか、救うか。その境界上で戦い続けることになる。」  

 ゼラの姿が崩れ始める。  
 光の粒子がエリアスの手の中で形を変え、一振りの小さなペンダントとなる。  
「これは契印だ。お前が勇者として立つ証。そしてもし迷った時、この光が道を示すだろう。」  

 エリアスはそれを受け取り、深くうなずいた。  
「ありがとう。……俺は、もう迷わない。」  

 ゼラの口元が僅かに笑った。  
「ならば今度こそ、人として神の座を越えてみせろ。――真の勇者、エリアス・グランベル。」  

* * *  

 次の瞬間、天の階層がゆっくり閉じた。  
 光の中でエリアスの体が下界へ落ちていく。  
 彼の心には重圧も痛みもなく、ただ温かな光が灯っていた。  

 遠くでルミナが笑う。  
『おめでとう、エリアス。これであなたは、人類史における最後の“勇者”になった。』  
「最後じゃないさ。これからだ。」  

「……俺は記すだけじゃない。“生き続ける物語”を、この手で。」  

 その声が冬空に響くと、天の帳が閉じ、再び夜が戻った。  
 遠くの地上で見上げていたセレナの目に、一筋の流星が流れた。  

 それが、神々との戦いが一つの終息を迎え、“真の勇者”が誕生した瞬間だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。 途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。 鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒! 素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。 裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!

追放された凡人魔導士ですが、実は世界最強の隠しステ持ちでした〜気づかないうちに英雄扱いされて、美少女たちに囲まれていました〜

にゃ-さん
ファンタジー
「お前は凡人だ。パーティから追放だ」 勇者パーティの役立たずと蔑まれ、辺境へと追放された下級魔導士エイル。 自分でも平凡だと信じて疑わなかった彼は、辺境でのんびり暮らそうと決意する。 だが、偶然鑑定を受けたことで判明する。 「……え?俺のステータス、バグってないか?」 魔力無限、全属性適性、成長率無限大。 常識外れどころか、世界の理そのものを揺るがす「世界最強の隠しステ」を抱えた、規格外のチートだった。 自覚がないまま災厄級の魔物をワンパンし、滅亡寸前の国を片手間で救い、さらには救われた美少女たちから慕われ、いつの間にかハーレム状態に。 一方、エイルを追放した勇者たちは、守ってもらっていた無自覚チートを失い、あっという間に泥沼へと転落していく。 「俺、本当に凡人なんだけどなあ……」 本人だけが自分を凡人だと思い込んでいる、無自覚最強魔導士の、追放から始まる自由気ままな英雄譚。 ざまぁ上等、主人公最強&ハーレム要素たっぷりでお届けします。

世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~

きよらかなこころ
ファンタジー
 シンゴはある日、事故で死んだ。  どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。  転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。  弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...