転生無双学院~追放された田舎貴族、実は神剣と女神に愛されていた件~

eringi

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第33話 崩壊する世界と選択

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 光と風が静まり、虚塔の残骸が消え去ったあと。  
 エリアスたちが立っていた場所は、もう以前の世界の地ではなかった。  
 空は裂け、青と白の境界が絡み合い、地平線の向こうでは海と大地がねじれ合っている。  
 世界は今、再構築の途中であり、崩壊と誕生が同時に起こっていた。  

 エリアスはルミナと肩を並べて立ち尽くしていた。  
 仲間たちは少し離れたところで立ち、目の前の光景に声を失っている。  
 リオが口を開く。  
「……まるで絵を描いてる途中だ。大地も空も、まだ“形”になりきってねぇ。」  
「つまり、世界がまだ完成していないのね。」ミリアが低く呟く。  
『いいえ、違うの。』ルミナの声が風に乗る。『これは、“再構成不能”の印。  
 あなたが神の筆で書き換えたその影響で、神々の古い記録が消滅した。  
 けれど、世界を維持する別の定義がまだ決まってないのよ。』  

「じゃあこのままだと……」セレナが心配そうに見上げる。  
『このままだと、世界は“書かれぬ白紙”に戻るわ。』  

 エリアスは拳を握る。  
「それを止めるには?」  
『簡単よ。……再び“世界の定義”を書けばいい。』  
「つまり、俺が新しい“神の言葉”になるってわけか。」  
『そう。でも、一つ重大な問題がある。』  

「問題?」  
『書く者が一人しかいないということ。  
 今この世界で“記述権”を持つのは、あなたただ一人。  
 だから、もしあなたが間違えた言葉を選べば、誰もそれを修正できない。』  

 リオが辛そうに息を呑んだ。  
「そんなの、世界の命運を一人に背負わせるってことじゃねえか!」  
「でも、ほかに誰ができるの?」とミリアが言う。  
「リオ、私たちは支えるしかないのよ。」  
 セレナは小さく頷き、エリアスに歩み寄った。  
「あなたが信じた“希望”を、私は信じる。それがたとえ危険でも構わない。」  

 風が止む。  
 その瞬間、地平線の裂け目から光が走った。  
 空に巨大な文字列が浮かび上がる。それは神々が残した古代文字――“創世の文章”だった。  
 天空全体を覆う巨大な筆記の陣が、世界の核心を取り戻そうとしている。  

『あれは神々の最終防衛記述。自動的に世界を“初期化”するためのもの。』  
「つまり……!」  
『あと三日。それまでに、あなたが新しい記述を完成させなければ、この世界は――無に還る。』  

 リオが叫ぶ。  
「ふざけるな! たった三日で世界創り直せだと!?」  
 ミリアが必死に構文帳を開く。  
「世界の魔力の流れを解析して、神言構文を移植すればワンチャンあるかも……でも、これは時間との戦いね!」  
 レオナが剣を構え、守るように立つ。  
「私たちはあなたが集中できるように、ここを護るわ。」  
「そうね。」セレナが微笑む。「私たちが時間を稼ぐから、エリアスは思うままに筆を振るって。」  

 エリアスは小さく息を吐いた。  
「わかった。俺に“新しい世界”を描かせてくれ。」  

* * *  

 三日間の戦いが始まった。  
 世界の崩壊と再生は交互に繰り返され、大地が浮かび、星が落ちる。  
 仲間たちはそれぞれの場所で、迫りくる異形や神造の護衛者たちを食い止めた。  

 リオは拳を光らせながら叫ぶ。  
「うおおおっ! 俺はまだ“灰星”だ! けど、灰の中からでも輝けるって見せてやる!」  

 ミリアの詠唱が重なり、青い炎が世界の縁を守る。  
「魔法理論なんて関係ない! この魔力は希望の式で動かすのよ!」  

 レオナは剣を閃かせ、次々と迫る“古の使徒”の影を切り裂いた。  
「私の刃はあなたの物語の余白を護るためにある! 誰も邪魔させないわ!」  

 そしてセレナは塔の頂に立ち、時の懐中時計を手に祈る。  
「時間よ、止まらないで……この一瞬でも、彼が書き上げられるまで――動きを守ってあげて。」  

 すべての声、すべての力が、エリアスの筆に注がれていく。  

 彼は預かった魂の光を胸に、無の中に立ち、文字を描き続けた。  
 指先から零れるのは、金でも銀でもなく淡い群青。  
 それは人々の希望、そして彼自身の未来の色だった。  

(俺は孤独じゃない。もう“神に選ばれる”必要もない。  
 この世界を選ぶのは、ここに生きる人たちだ。俺はただ、言葉でそれを描くだけ。)  

「――世界の定義、再記述。」  

 光が爆ぜる。  
 空に刻まれた古代文字が一斉に反転し、新しい言葉へと変わっていく。  
 それはルミナが教えてくれた、人の願いの文法。  

『存在の意味は定義にではなく、想いの中にある。』  
『選ぶこと、それこそが記録そのもの。』  

 エリアスの筆先が最後の一筆を重ねた瞬間、崩れかけた世界が再び輝き始めた。  
 海が形を取り戻し、大地が接合し、空が色を取り戻す。  

 ルミナの声が微かに震えていた。  
『……できたのね。新しい世界の骨格。あなたが描いた時間が、確かに脈打っている。』  
「これで……終わった、のか?」  
『まだ。“選択”が残っている。』  
「選択?」  
『あなたの筆――“創世筆ルーメン”は、世界の心臓と繋がっている。  
 もしあなたが筆を持ったままなら、世界はあなたの心を鏡のように写し続ける。  
 だが、筆を手放せば、世界はあなたの意志から独立し、人々の手に委ねられる。』  

「つまり、俺が神として残るか、それとも人として去るか……。」  
『そう。あなたがどちらを選ぶかで、世界の未来は決まる。』  

 沈黙。  
 風の中には仲間たちの息遣いがあった。  
 疲弊し、それでも笑って立っている彼らの姿が、エリアスの胸を打つ。  

 リオが拳を握りしめて言う。  
「なあ、エリアス。お前が選んだ方がいい。俺たちはなにがあっても支える。」  
 レオナが笑う。  
「神として残るなら、それもいい。でも……私は、人のあなたが好きだったわ。」  
 ミリアが小さく頷く。  
「あなたがいなければ、私たちはここまで来られなかった。だから、どんな結末でも誇りに思える。」  
 セレナは微笑を浮かべた。  
「書き続ける者に、終わりはない。どちらを選んでも、あなたの物語は残るわ。」  

 エリアスは深く息を吐き、青空を見上げた。  
 その瞳には、星々と同じ光が宿っていた。  

「俺は……“人”として生きる。」  

『……本気なのね。』  
「ああ。俺は神様じゃない。ただ、誰かと笑っていたいだけだ。」  

 そう言って彼は、創世筆ルーメンを天に掲げた。  
 次の瞬間、筆は光となり、無数の粒子へとほどけて消えていった。  

 風が吹く。世界に音が戻る。  
 鳥の声、木々のざわめき、街の喧騒。  
 ――そして「生きる」という音。  

 ルミナが微笑みながらその光景を見つめた。  
『あなたの選択が、世界を人のものに戻した。』  
「お前と出会えてよかった。」  
『こちらこそ。さあ、歩きましょう。新しい時代へ。』  

 仲間たちが駆け寄り、笑い声が溢れる。  
 再構築された世界の空に、自然と涙が滲んだ。  

 崩壊した神々の時代は終わり、新しい記録が始まる。  
 その一頁には――こう記されていた。  

 “勇者エリアス・グランベル、この世界の最後の記述者にして、最初の人間の証を遺す”  

 彼らは笑い合いながら、新しい世界の光の中へ歩き出した。  
 風が祝福のように吹き抜け、空のどこかで女神の声が優しく響いていた。  

 ――「書き続けて、エリアス。これが終わりじゃない。次の“物語”が、あなたを待っているのだから。」
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