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第34話 神殺しの剣、顕現
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風が鳴った。
それはまるで世界が新しい鼓動を打つ音だった。
崩壊と再生を経て誕生したこの“人の世界”に、再び穏やかな日常が訪れていた。
町に灯がともり、笑い声が戻り、灰星組の面々もそれぞれ新しい人生を歩み始めている。
だが、エリアスはただ一人、安寧を得ていなかった。
その理由を、彼自身もよく分かっていた。
『……聞こえる?』
風の中から、ルミナの声が響く。
『あなたの選んだ“人の世界”は確かに動き出したわ。でも、まだ完成していない。影が残っている。』
「影?」
『神々の力の残滓、そして――ノインの意識。彼は消えたのではなく、この世界の“未完成そのもの”になったのよ。』
エリアスは拳を握った。
「あいつは最後に言った。『お前が書く未来の先に、俺がいる』って。
まさか、“世界そのもの”に潜り込んでいたとはな。」
『世界を書き換えたあなたと、壊してまで自由を求めたノイン。二つの理が混ざり合った結果、この新生世界は相反する感情を抱いている。
矛盾した理が、やがて形になる……。』
「つまり、それが――」
『ええ。再び神が顕現しようとしている。』
彼は、顔を上げた。
晴れ渡る青空の奥に、かすかに見える光の歪み。
まるで世界に巨大な筆が走り、白い線を描いているかのようだった。
「世界が……自分で“神”を描こうとしているのか。」
『すべての記録は意味を求めるの。神なき世界でも、意味を与える“存在”を生もうとするのは自然の理よ。』
「だったら、その神を――」
『殺すしかない。』
ルミナの声は震えていた。
『このままでは、あなたの書いた“人の自由”がまた奪われる。
世界が新たな創造主を求め、自動的に神を生み出している。それを止められるのは、世界の初筆(はじめ)を綴ったあなたしかいない。』
風が止み、時間が静止したように感じられた。
「皮肉だな。神を超えたと思ったら、次は神を殺す役割か。」
『だからこそ、“神殺しの剣”を……。』
ルミナの声が消えると同時に、地平が光を放った。
かつて学院があった場所――そこに、一条の光が天と地を貫いている。
それは、あの日封じられた“神々の筆記陣”の光。形を変え、再び世界に干渉し始めていた。
* * *
三日後。
エリアスは旧学園跡地に立っていた。
かつての栄光も崩壊も、いまはただ草原の下に埋もれている。
だが、中心には確かに存在していた。
光の槍――いや、“筆”のような長剣が地面に突き立っていた。
「……これが、神殺しの剣。」
彼が触れた瞬間、光が爆ぜて文字が空へと走る。
全身に電流のような痛みが走り、無数の記録が脳裏を駆け巡った。
神々の創造、滅亡、そして再構築。
「これは……筆の記憶か。」
ルミナが姿を現す。以前よりも淡く、小さな光の輪を背負っていた。
『この剣は、“原初の筆”が分裂した片翼。あなたの書き換えで世界の下層に沈んでいたけれど、“意味”を求めた世界が再びそれを浮かび上がらせたの。』
「つまり、世界が俺に“再定義”を求めてるってことか。」
『ええ。でも注意して。
それを扱えば、あなたはまた神に近づいてしまう。
同時に、この剣はあなたの“心”を映す。抱える矛盾や恐怖が大きければ、自らをも滅ぼす。
“神殺し”とは、突き立てる力じゃなく――受け入れる覚悟の名前よ。』
「覚悟……か。」
エリアスは剣を握りしめた。
柄から伝わる脈動は、まるでルミナの心臓の鼓動に似ていた。
彼はゆっくりとその剣を引き抜く。
地の底から吹き上がる光が、空を割り、雲を貫く。
世界が震えた。
* * *
その瞬間、各地で異変が起こった。
鳥は空で鳴くことを忘れ、風は逆に流れ、海は静かに立ち上がった。
王都の中心、時の塔の上でセレナが空を仰ぐ。
懐中時計の針が乱れ、止まっていた時間が逆流していく。
「エリアス……あなた、また一人で背負うつもりなの?」
その悲痛な声を遮るように、光が天を裂いた。
空の中心に、ひとりの存在が降り立つ。
形を持たぬ光と闇。
まるで、この世界のすべての思念が混ざり合って生まれた「概念の神」。
『――我は世界。人よ、何故抗う?
求めたのは自由。だが自由とは孤独だと、なぜ気づかぬ。』
天が震える。
雷鳴に似た声が地を揺らし、建物が崩壊していく。
民は祈り、ある者は逃げ、ある者は叫んだ。
その頃、旧学院跡地の中央に立つエリアスの足下から、再び光が広がった。
「……やめてみろよ、そんな台詞。
孤独が怖いから自由をやめる? それじゃ、ただの操り人形だろ。」
『人は過ちを恐れる。それでも書くというのか。』
「書くさ。どれほど間違えても、そこに“生きてる証”がある限り。」
エリアスが剣を掲げる。
その刃に記述の光が走り、空を斬り裂く。
風が荒れ、世界が揺れる。
『愚かな人の子よ、それが貴様の答えか。ならば――見せてみせよ、その矛盾の果てを!』
神の声と共に、無数の光の槍が降り注ぐ。
地上が砕け、川が逆流する。
だが、エリアスは一歩も退かない。
「俺が壊すのは“神”なんかじゃない。過ちを受け入れずに閉じようとする、世界そのものだ!」
神殺しの剣が燃え上がる。
青白い輝きが空気を震わせ、ひと振りで十もの槍を打ち砕く。
『なに……この力は……!?』
「人の力だ。欲も痛みも、全部背負った上で――前に進む力だよ!」
天地を裂く閃光。
世界が一瞬、音を失う。
* * *
広がる静寂の中、エリアスは立っていた。
背後にはルミナ、そして遠くから駆けてくる仲間たちの姿が見える。
空は黒と金の二色に揺らぎながら、少しずつ静まっていった。
『……あなた、また限界を超えたわね。』ルミナの声が震えている。
「まだだ。神は消えてない。」
彼が見上げた空には、巨大な輪――光の残滓があった。
その中央で、まだ誰かが言葉を紡いでいる。
『この世界はまだ未完成。ならば再び記すがよい。永遠に、繰り返し――』
「――繰り返させるかよ!」
エリアスが叫び、剣を振り上げる。
「俺が書き換える。“神の終わり”を――今ここに!」
光が炸裂した。
刃は空の輪を貫き、混ざり合っていた世界の理を粉砕する。
爆風が吹き荒れ、空すら形を変えていく。
彼が目を開けた時、そこにはもう神々の輝きも、記述の残滓もなかった。
ただ、青空があった。
風、そして遠くで笑う仲間の声。
ルミナが隣で微笑む。
『神殺しの剣は、あなたの選んだ“人の意志”そのものだった。
だから、もう恐れなくていい。あなたはもう……自由よ。』
エリアスは静かに剣を地に突き立てた。
「これでやっと終わったか。」
『いいえ。まだ始まったばかり。
神を超えるほどに、あなたは“生”を愛しすぎた。
その心がある限り、物語は終わらない。』
彼は空を見上げる。
光なき空は、どこまでも穏やかで、どこまでも広い。
「なら――また書くさ。次は、誰も傷つかない世界を。」
剣の光が風に溶け、世界に新しい章が刻まれた。
神を殺し、神を越え、人として選んだ者の物語。
その始まりの合図に、天空から一粒の星が落ちた。
それはまるで世界が新しい鼓動を打つ音だった。
崩壊と再生を経て誕生したこの“人の世界”に、再び穏やかな日常が訪れていた。
町に灯がともり、笑い声が戻り、灰星組の面々もそれぞれ新しい人生を歩み始めている。
だが、エリアスはただ一人、安寧を得ていなかった。
その理由を、彼自身もよく分かっていた。
『……聞こえる?』
風の中から、ルミナの声が響く。
『あなたの選んだ“人の世界”は確かに動き出したわ。でも、まだ完成していない。影が残っている。』
「影?」
『神々の力の残滓、そして――ノインの意識。彼は消えたのではなく、この世界の“未完成そのもの”になったのよ。』
エリアスは拳を握った。
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まさか、“世界そのもの”に潜り込んでいたとはな。」
『世界を書き換えたあなたと、壊してまで自由を求めたノイン。二つの理が混ざり合った結果、この新生世界は相反する感情を抱いている。
矛盾した理が、やがて形になる……。』
「つまり、それが――」
『ええ。再び神が顕現しようとしている。』
彼は、顔を上げた。
晴れ渡る青空の奥に、かすかに見える光の歪み。
まるで世界に巨大な筆が走り、白い線を描いているかのようだった。
「世界が……自分で“神”を描こうとしているのか。」
『すべての記録は意味を求めるの。神なき世界でも、意味を与える“存在”を生もうとするのは自然の理よ。』
「だったら、その神を――」
『殺すしかない。』
ルミナの声は震えていた。
『このままでは、あなたの書いた“人の自由”がまた奪われる。
世界が新たな創造主を求め、自動的に神を生み出している。それを止められるのは、世界の初筆(はじめ)を綴ったあなたしかいない。』
風が止み、時間が静止したように感じられた。
「皮肉だな。神を超えたと思ったら、次は神を殺す役割か。」
『だからこそ、“神殺しの剣”を……。』
ルミナの声が消えると同時に、地平が光を放った。
かつて学院があった場所――そこに、一条の光が天と地を貫いている。
それは、あの日封じられた“神々の筆記陣”の光。形を変え、再び世界に干渉し始めていた。
* * *
三日後。
エリアスは旧学園跡地に立っていた。
かつての栄光も崩壊も、いまはただ草原の下に埋もれている。
だが、中心には確かに存在していた。
光の槍――いや、“筆”のような長剣が地面に突き立っていた。
「……これが、神殺しの剣。」
彼が触れた瞬間、光が爆ぜて文字が空へと走る。
全身に電流のような痛みが走り、無数の記録が脳裏を駆け巡った。
神々の創造、滅亡、そして再構築。
「これは……筆の記憶か。」
ルミナが姿を現す。以前よりも淡く、小さな光の輪を背負っていた。
『この剣は、“原初の筆”が分裂した片翼。あなたの書き換えで世界の下層に沈んでいたけれど、“意味”を求めた世界が再びそれを浮かび上がらせたの。』
「つまり、世界が俺に“再定義”を求めてるってことか。」
『ええ。でも注意して。
それを扱えば、あなたはまた神に近づいてしまう。
同時に、この剣はあなたの“心”を映す。抱える矛盾や恐怖が大きければ、自らをも滅ぼす。
“神殺し”とは、突き立てる力じゃなく――受け入れる覚悟の名前よ。』
「覚悟……か。」
エリアスは剣を握りしめた。
柄から伝わる脈動は、まるでルミナの心臓の鼓動に似ていた。
彼はゆっくりとその剣を引き抜く。
地の底から吹き上がる光が、空を割り、雲を貫く。
世界が震えた。
* * *
その瞬間、各地で異変が起こった。
鳥は空で鳴くことを忘れ、風は逆に流れ、海は静かに立ち上がった。
王都の中心、時の塔の上でセレナが空を仰ぐ。
懐中時計の針が乱れ、止まっていた時間が逆流していく。
「エリアス……あなた、また一人で背負うつもりなの?」
その悲痛な声を遮るように、光が天を裂いた。
空の中心に、ひとりの存在が降り立つ。
形を持たぬ光と闇。
まるで、この世界のすべての思念が混ざり合って生まれた「概念の神」。
『――我は世界。人よ、何故抗う?
求めたのは自由。だが自由とは孤独だと、なぜ気づかぬ。』
天が震える。
雷鳴に似た声が地を揺らし、建物が崩壊していく。
民は祈り、ある者は逃げ、ある者は叫んだ。
その頃、旧学院跡地の中央に立つエリアスの足下から、再び光が広がった。
「……やめてみろよ、そんな台詞。
孤独が怖いから自由をやめる? それじゃ、ただの操り人形だろ。」
『人は過ちを恐れる。それでも書くというのか。』
「書くさ。どれほど間違えても、そこに“生きてる証”がある限り。」
エリアスが剣を掲げる。
その刃に記述の光が走り、空を斬り裂く。
風が荒れ、世界が揺れる。
『愚かな人の子よ、それが貴様の答えか。ならば――見せてみせよ、その矛盾の果てを!』
神の声と共に、無数の光の槍が降り注ぐ。
地上が砕け、川が逆流する。
だが、エリアスは一歩も退かない。
「俺が壊すのは“神”なんかじゃない。過ちを受け入れずに閉じようとする、世界そのものだ!」
神殺しの剣が燃え上がる。
青白い輝きが空気を震わせ、ひと振りで十もの槍を打ち砕く。
『なに……この力は……!?』
「人の力だ。欲も痛みも、全部背負った上で――前に進む力だよ!」
天地を裂く閃光。
世界が一瞬、音を失う。
* * *
広がる静寂の中、エリアスは立っていた。
背後にはルミナ、そして遠くから駆けてくる仲間たちの姿が見える。
空は黒と金の二色に揺らぎながら、少しずつ静まっていった。
『……あなた、また限界を超えたわね。』ルミナの声が震えている。
「まだだ。神は消えてない。」
彼が見上げた空には、巨大な輪――光の残滓があった。
その中央で、まだ誰かが言葉を紡いでいる。
『この世界はまだ未完成。ならば再び記すがよい。永遠に、繰り返し――』
「――繰り返させるかよ!」
エリアスが叫び、剣を振り上げる。
「俺が書き換える。“神の終わり”を――今ここに!」
光が炸裂した。
刃は空の輪を貫き、混ざり合っていた世界の理を粉砕する。
爆風が吹き荒れ、空すら形を変えていく。
彼が目を開けた時、そこにはもう神々の輝きも、記述の残滓もなかった。
ただ、青空があった。
風、そして遠くで笑う仲間の声。
ルミナが隣で微笑む。
『神殺しの剣は、あなたの選んだ“人の意志”そのものだった。
だから、もう恐れなくていい。あなたはもう……自由よ。』
エリアスは静かに剣を地に突き立てた。
「これでやっと終わったか。」
『いいえ。まだ始まったばかり。
神を超えるほどに、あなたは“生”を愛しすぎた。
その心がある限り、物語は終わらない。』
彼は空を見上げる。
光なき空は、どこまでも穏やかで、どこまでも広い。
「なら――また書くさ。次は、誰も傷つかない世界を。」
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