「役立たず」と追放された宮廷付与術師、実は世界律を書き換える『神の言葉』使いでした。~今さら戻れと言われても、伝説の竜や聖女様と領地経営で忙

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第7話 ポーションを作ってみた。「これ、神の霊薬(エリクサー)です」

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「……はぁ」

朝食の後片付けを終えたリーリヤが、キッチンの隅で小さく溜息をついたのを僕は見逃さなかった。
彼女は勤勉だ。
亡国の王女という身分でありながら、メイドとして僕に仕えると誓って以来、掃除洗濯から料理の補助まで完璧にこなそうと努力している。
だが、その顔色はどこか優れない。
肌の艶は良いのだが、時折、胸元を押さえて苦しそうな表情を見せることがあるのだ。

(やっぱり、まだ本調子じゃないのかな)

昨晩、彼女の傷は『完全治癒』と『状態異常回復』で治したはずだ。
しかし、魔王軍に追われていた過酷な逃避行の疲れや、精神的なストレスまでは完全に取り除けていないのかもしれない。
あるいは、エルフ特有の魔力欠乏症か何かだろうか。

「リーリヤ、少し休憩にしようか」

僕が声をかけると、彼女はハッとして背筋を伸ばした。

「い、いえ! とんでもございません主様! まだ廊下の雑巾がけが終わっておりませんので!」

「いいからいいから。無理は禁物だよ。それに、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだ」

「手伝い、ですか? 何なりと!」

仕事を与えられると嬉しそうにするあたり、根っからの真面目な性格らしい。

「薬を作ろうと思ってね。常備薬が切れそうなんだ」

「お薬……調合でございますか? 承知いたしました。エルフ族は薬学にも通じておりますので、微力ながらお力添えいたします」

彼女が自信ありげに胸を張る。
それは頼もしい。
僕は「じゃあ、材料を取りに行こうか」と、彼女を連れて裏庭へと向かった。

   ◆   ◆   ◆

裏庭――といっても、僕が適当に種を撒いただけでジャングルのように巨大化した家庭菜園だ。
そこには野菜だけでなく、様々な薬草も植えてある。

「えっと、まずは『薬草(ヒールグラス)』だな」

僕は足元に生えている雑草のような草を指差した。
鮮やかな緑色の葉を持ち、ほんのりと発光している。
王都の市場では見かけない品種だが、この森には自生していたので種を採って増やしてみたのだ。
生命力が強く、放っておくと庭を埋め尽くす勢いで増えるので、雑草扱いしている。

「……主様」

リーリヤが震える声でその草を指差した。

「これ……もしかして、『精霊草(スピリット・グラス)』ではありませんか? しかも、最上位種の『光輝く碧(シャイニング・グリーン)』……」

「ん? 精霊草? いやいや、ただの薬草だよ。ちょっと光ってるけど、蛍みたいなもんでしょ」

「ただの薬草……!? 精霊草は、マナ濃度の極めて高い聖地にしか自生せず、葉の一枚が金貨百枚で取引される幻の素材です。それが、こんなに雑草のように……」

「へぇ、そんなに高いんだ。じゃあ肥料にもなるし、いいか」

僕は無造作にブチブチと草をむしり取った。
根っこから引き抜くと、またすぐに生えてくるから遠慮はいらない。

「次は解毒用の草だな。これこれ」

次に僕が選んだのは、紫色の花をつけた植物だ。
独特の香りがする。

「『月光花(ムーン・フラワー)』……! しかも、満月の夜にしか咲かないはずの幻の花が、なぜ真昼間に満開なのですか!?」

「日当たりがいいからかな?」

僕は適当に答えて花を摘む。
最後に、活力増強のために赤い実をつける低木から実を採取した。

「『竜の血肉(ドラゴン・ブラッド)』の実……。これを食べれば、一晩で干からびた老人も戦士に戻ると言われる……」

リーリヤはいちいち驚愕のコメントを挟んでくるが、僕は「詳しいなぁ」と感心しつつ、カゴいっぱいに素材を集めた。

「よし、これくらいあれば十分だろう」

「……このカゴの中身だけで、国家予算が組める気がします」

リーリヤが遠い目をしていたが、気にせずキッチンに戻ることにした。

   ◆   ◆   ◆

キッチンに戻った僕は、大きな鍋を取り出した。
ミスリルとオリハルコンを合成して作った『絶対に焦げ付かない鍋』だ。
そこに、蛇口から汲んだ『聖水(もどき)』をなみなみと注ぐ。

「さて、調理開始だ」

「調理……調合ではなく?」

「似たようなものだよ。煮込んで成分を抽出するんだから」

僕は採取した草や実を、水洗いしてから包丁でザクザクと刻んだ。
まな板の上でリズミカルな音が響く。
リーリヤはその包丁捌きを見て、「手際が神業……」と呟いている。

刻んだ材料を鍋に投入し、コンロの火をつける。
火力は中火。
グツグツと煮立ってくると、部屋中に薬草の良い香りが広がった。

「ここで隠し味だ」

僕は棚から『蜂蜜』の瓶を取り出した。
森の奥で見つけた巨大な蜂の巣から頂いたものだ。
蜂(キラービーの女王種)が襲ってきたので、軽くデコピンで追い払って分けてもらった極上の蜂蜜である。

「『皇帝蜂(エンペラー・ビー)』のロイヤルゼリー……!?」

リーリヤが悲鳴のような声を上げた。
どうやら目ざといらしい。

「苦いと飲みづらいからね。甘い方が子供でも飲めるし」

ドボドボと蜂蜜を投入する。
そして、お玉でゆっくりとかき混ぜながら、僕は無意識に魔力を流し込んだ。

『成分抽出』
『不純物除去』
『効能倍加』
『味覚補正』
『長期保存』

これらの付与魔法を、鍋の中の液体に編み込んでいく。
液体が黄金色に輝き出し、虹色の蒸気が立ち昇る。
キラキラと光の粒子が舞い、キッチンが幻想的な空間に変わった。

「……あ、ありえません。錬金術の奥義『賢者の石』精製時と同じ光景です……」

リーリヤが壁に張り付いて震えている。

「よし、こんなもんかな」

一時間ほど煮込み(魔法で時間を短縮した)、液体が透き通った琥珀色になったところで火を止めた。
粗熱を取り、空のガラス瓶に移し替えていく。
全部で五十本ほどできただろうか。

「完成だ。名付けて『アレン特製・元気が出る水』」

我ながらネーミングセンスがないなと思うが、わかりやすさが一番だ。
見た目は栄養ドリンクか、あるいは綺麗なリンゴジュースのようだ。

「さあ、リーリヤ。味見してみて」

僕は出来立ての一本を彼女に差し出した。

「えっ、わ、私がですか!? こ、こんな国宝級の液体を!?」

「毒味じゃないから安心してよ。ただの栄養剤だから」

「毒味だなんて思いません! ですが、私の器で受け止めきれるかどうか……」

彼女は恐る恐る瓶を受け取ると、意を決して蓋を開けた。
プシュッ、と炭酸のような音がして、甘く芳醇な香りが漂う。

コクッ。

彼女が一口飲んだ。

「――っ!!」

その瞬間。
カッ!!
リーリヤの身体が眩い光に包まれた。
彼女の長い金髪がふわりと舞い上がり、光の粒子を撒き散らす。
肌は陶器のように白く輝き、瞳の碧色は深みを増し、背中からは幻影のような光の翼が一瞬見えた気がした。

「……あ、ああ……力が……溢れてくる……」

光が収まると、そこには以前にも増して美しく、神々しい気配を纏ったリーリヤが立っていた。
少しあった目の下の隈は消え失せ、髪はツヤツヤ、肌はプルプルだ。

「どう? 味は」

「……美味しいです。とてつもなく……」

リーリヤは恍惚とした表情で瓶を見つめている。

「身体の中の澱みが全て消え去りました。古傷はおろか、幼い頃にかかった病の後遺症、魔力の回路の詰まり、全てが……完全に修復されています。それどころか、魔力の最大値が数倍に膨れ上がっています!」

「おー、それは良かった。やっぱり蜂蜜多めにして正解だったな」

「蜂蜜の問題ではありません!!」

リーリヤが叫んだ。

「主様! これは『ポーション』などという生温かいものではありません! これは『神の霊薬(エリクサー)』……いいえ、それすら超越した『神酒(ネクタル)』です! 死にかけの人間が飲めば寿命が伸び、健康な者が飲めば英雄になれる、伝説の秘薬そのものです!」

「またまたぁ。ただの滋養強壮剤だって」

エリクサーなんて、材料にドラゴンの肝とかが必要なはずだ。
庭の雑草と蜂蜜で作れるわけがない。
僕は彼女の過剰反応を笑い飛ばした。

「まあ、元気になったなら良かったよ。これ、あとで倉庫にしまっておくから、疲れた時とか風邪気味の時に自由に飲んでいいからね」

「自由に……これを……ガブ飲み……?」

リーリヤは白目を剥いて卒倒しそうになったが、なんとか踏みとどまった。
彼女の中で、僕の評価が「大賢者」から「創造神」へとランクアップした瞬間だった。

   ◆   ◆   ◆

一方、その頃。
北へ向かう街道沿いの宿場町。
勇者ライオネルたちは、安宿の一室で呻いていた。

「ぐぅぅ……腹が痛ぇ……」

ライオネルがベッドの上で丸まっている。
原因は、道中で食べた保存食の肉だ。
賞味期限が怪しかったのだが、空腹に耐えかねて食べた結果、激しい食あたりを起こしていた。

「もう……最悪よ。私も気持ち悪い……」

フィオナも青い顔をして洗面器を抱えている。

「私の治癒魔法も、魔力切れで……。解毒(アンチドート)が使えません……」

マリアもぐったりと椅子に座り込んでいた。
彼女自身も体調を崩しており、回復魔法を使う余力がないのだ。

「くそっ、ポーションだ! ポーションを買ってこい!」

ライオネルがマリアに怒鳴る。
マリアはフラフラと立ち上がり、なけなしの銅貨を握りしめて宿を出た。

近くの道具屋。

「ポーションを……一番安いのを、一本ください……」

「あいよ。下級ポーション一本、銅貨50枚だ」

「ご、50枚……」

手持ちの全財産に近い。
しかし、背に腹は代えられない。
マリアは震える手で金を払い、薄汚れた小瓶を受け取った。
中には、泥水のように濁った緑色の液体が入っている。

宿に戻り、三人はその一本のポーションを回し飲みした。

「まっず……!」

ライオネルが顔をしかめる。
強烈な苦味と、草の青臭さが口いっぱいに広がる。
市販の下級ポーションとはこういうものだ。
効果も薄く、腹痛が少し和らぐ程度。完全には治らない。

「はぁ……はぁ……アレンのポーションが飲みたい……」

誰かがポツリと漏らした。
その言葉に、全員がハッとして、そして沈黙した。

アレンが作っていたポーション。
あれは別格だった。
色は透き通るようなルビー色やサファイア色。
味はフルーツジュースのように甘く、爽やか。
そして何より、効果が劇的だった。
瀕死の重傷でも、一口飲めば一瞬で完治し、体力も魔力も全快した。

彼らはそれを「当たり前」だと思っていた。
「宮廷付与術師なんだから、これくらいの質の物はギルドから支給されているんだろう」と。
だが、今になってわかる。
あれは支給品などではなかった。
アレンが夜なべして、素材を厳選し、魔力を込めて作り上げた『特製エリクサー』だったのだ。

「あいつ……いつも『味はどう? 飲みやすいかな?』って聞いてきてたな……」

ライオネルが天井を見上げて呟く。

「私はいつも『甘すぎて子供っぽい』とか文句言ってたわ……」

フィオナが唇を噛む。

「私は……『こんなに美味しいなら、もっと作ってください』って、おやつのように飲んでました……」

マリアが涙を流す。
彼らは失って初めて気づいたのだ。
自分たちがどれほど恵まれた環境にいたのかを。
そして、その環境を作っていたのが、自分たちが追放した「役立たず」だったことを。

「……行くぞ。北へ」

ライオネルが身体を起こした。
腹痛はまだ残っているが、目には異様な光が宿っていた。

「アレンが生きてるかどうかは知らん。だが、あの巨大魔力反応の場所に、古代の秘宝があるなら……そこにはきっと、最高のポーションもあるはずだ!」

「そうね! それがあれば、私たちは元通り……いいえ、それ以上になれる!」

「行きましょう! そこに私たちの希望があります!」

彼らは勘違いしていた。
北にあるのは「希望」ではなく、彼らにとっての「絶望的な格差」を見せつける現実だということを。
彼らが求めている「最高のポーション」は、今まさにアレンの家の冷蔵庫で「ジュース」として冷やされている。

   ◆   ◆   ◆

アレンの家、倉庫。

「よし、50本全部収納完了」

僕はガラス瓶を棚に並べた。
壮観な眺めだ。
これだけあれば、風邪薬にも栄養補給にも困らないだろう。

「リーリヤ、一本持っていく?」

「い、いえ! 滅相もございません! そのような国宝を私室に置くなど、恐れ多くて眠れません!」

リーリヤがブンブンと首を横に振る。
遠慮深い子だなあ。

「じゃあ、シロにあげようかな。シロ、お水飲むか?」

「ワンッ!」

足元にいたシロが飛び跳ねる。
僕は小皿にポーションを少し注いでやった。

ペロペロペロ。
シロがあっという間に舐め干す。
その瞬間。

ボフンッ!!

シロの身体が一回り大きくなり、毛並みがプラチナのように輝き出した。
さらに、額から小さな角のようなものが生えかかっている。

「あれ? また育った?」

「……主様」

リーリヤが引きつった笑顔で言った。

「フェンリルが……『神狼(フェンリル・ゴッド)』に進化しかけています」

「成長期なんだねぇ」

僕はのんきに笑った。
この家に来てから、シロの発育が良すぎる気がする。
やっぱり環境がいいと動物も育つんだな。

「さて、薬作りも終わったし、午後は何をしようかな」

「主様、そろそろギルドへの登録などはいかがでしょうか?」

リーリヤが提案してきた。

「ギルド?」

「はい。アレン様は冒険者を引退されたとはいえ、この辺境で生活する以上、身分証代わりになるものがあった方が便利かと。それに、これだけの素材……市場に出せば大変なことになりますが、ギルドを通せば適正な(隠蔽した)価格で換金できるかもしれません」

なるほど。
確かに、無職というのも世間体が悪い。
「Fランク冒険者」として登録しておけば、街に行った時も怪しまれないだろう。
それに、お小遣い稼ぎも必要だ。

「そうだね。一番近い街まで行ってみようか」

「はい! ご案内します。ここからだと『辺境都市テラ』が近いです」

こうして、僕とリーリヤ(とシロ)は、初めてのお出かけをすることになった。
Fランク冒険者として登録し、地味に活動するつもりだった。
しかし、僕が「地味」にできるはずがないことを、僕はまだ知らない。

続く
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