「雑草係」と追放された俺、スキル『草むしり』でドラゴンも魔王も引っこ抜く~極めた園芸スキルは、世界樹すら苗木扱いする神の力でした~

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第7話 「私の世話をしてください!」大精霊が勝手に押し掛けてきた

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「主様ぁ、私の枝毛が気になりますぅ。また『剪定』してくださいまし~」
「主様! 朝のお茶が入りました! ティターニア様、主様に纏わりつかないでください! 家事が滞ります!」

魔の森での生活、五日目。
俺の静かなスローライフは、急速に騒がしくなりつつあった。

リビング(と言っても、ワンルームの小屋だが)では、朝から二人の美女による小競り合いが繰り広げられていた。
一人は、エルフの王女セラフィナ。
甲斐甲斐しくエプロンをつけ、掃除洗濯料理にと奔走してくれている。
もう一人は、昨日仲間入りした森の主、大精霊ティターニア。
彼女は人間サイズに実体化しているが、その本質は『植物』なので、光合成を兼ねて窓際でゴロゴロしていることが多い。

問題は、この家が狭すぎることだ。
元々、俺一人で住むつもりで建てたログハウスだ。
そこに美女二人が増えれば、当然手狭になる。

「……狭いな」

俺がポツリと呟くと、二人がピタリと動きを止めた。

「申し訳ありません主様! 私が場所を取っているばかりに……! 私は外の小屋(資材置き場)で寝起きしますので!」
「あら、それならわたくしが外で根を張りますわ。土の中の方が落ち着きますし」

二人が殊勝なことを言い出す。
だが、さすがに女の子を物置や土の中で寝かせるわけにはいかない。
俺のポリシー(農家の矜持)が許さない。

「いや、そうじゃなくて。……増築しよう」

俺は立ち上がった。

「家族……じゃない、従業員が増えたんだ。それに見合うだけの家が必要だろ。部屋数を増やして、もっと快適な家に建て替える」
「建て替え、ですか? しかし、資材はどうなさるのですか?」

セラフィナが首をかしげる。
前回は近くの木を切ったが、大きな家を建てるとなると、それなりの量の木材と石材が必要になる。

「資材なら、足元にあるじゃないか」

俺は床――大地の方向を指差した。

「それに、最高の木材提供者もいるしな」
「へ?」

ティターニアが自分の体を抱いてビクッとした。

「ま、まさかわたくしを建材に……!? ああん、主様の家の『柱』になって、一生主様を支え続ける……それも素敵ですぅ!」
「いや、お前じゃなくて。森の木はお前の配下だろ? 間引きが必要な木とか、枯れそうな巨木とかないか?」
「あ、そういうことですね。失礼しました(チッ)。ええ、ございますとも。北のエリアに、樹齢千年の『鉄巨木(アイアン・ギガント)』の林がありますが、密集しすぎて共倒れしそうなので、間引いていただけると助かります」

「よし、決まりだ。セラフィナは土台作りを手伝ってくれ。ティターニアは木材の運搬だ」

こうして、俺たちは『マイホーム大改造計画』を実行に移すことになった。

   ◇

まずは基礎工事だ。
俺たちは家の裏手にある広大な更地(元マンイーター畑の隣)に移動した。

「セラフィナ、ここを平らにしてくれ。あと、地面を固めて」
「はいっ! 精霊魔法・『大地の整列(アース・フラット)』!」

セラフィナが杖を振ると、ズズズ……と地面が沈み込み、水平に均されていく。
さらに圧縮された土は、コンクリートのようにカチカチに固まった。
さすが王女様、魔法の腕は一流だ。

「次は石材だな」

俺は近くの崖に向かった。
そこは白い岩肌が露出している場所だ。
普通の石切り場なら、ツルハシで少しずつ切り出すところだが、俺には『草むしり』がある。

俺は岩壁に手を当てた。
イメージするのは、『切り出し』。
必要な大きさのブロックを思い描き、それ以外の周囲の岩との結合部分を「不要な繋がり(雑草の根)」として認識して断ち切る。

「せいっ」

俺が軽く手を引くと、ズボォッ! という音と共に、一辺二メートルほどの巨大なサイコロ状の岩が、スポンと抜け落ちてきた。
その断面は、鏡のようにツルツルだ。

「す、すごいです主様! 『大理石(マーブル)』の最高級品を、まるで豆腐のように!」
「お、これ大理石だったのか。綺麗な白だな」

俺は次々と岩を切り出していった。
その数、およそ百個。
セラフィナが魔法でそれを運び、基礎の上に並べていく。

「でも主様、ただ並べただけでは隙間が……」
「大丈夫だ。繋ぎ目は『むしる』から」

俺は並べられた石ブロックの隙間に指を差し込んだ。
石と石の間の「境界線」。
それを「不要な隔たり」として認識し、取り除く。
スキル『草むしり』――応用・『接ぎ木(融合)』。

ジュワァァァ……。

俺がなぞった場所が淡く発光し、二つの石が分子レベルで結合して一つの巨大な岩盤へと変化した。
セメントも接着剤もいらない。
最初から「一つの岩」だったかのように一体化させるのだ。

「あ、ありえません……物質の結合法則を無視しています……」
「よし、これで頑丈な床と壁ができたな」

俺は満足げに頷いた。
白く輝く大理石の床。
継ぎ目のない一枚岩の壁。
これなら、冬の隙間風も心配ないだろう。

   ◇

次は柱と屋根だ。
ティターニアが案内してくれた『鉄巨木』の林から、俺は必要な木材を調達した。
これまた『草むしり』で、木を倒さずに「柱に必要な芯の部分」だけをスポンと抜き取る荒技を使ったので、加工の手間はいらない。

「主様、この木材……硬すぎます! 鉄よりも硬いですよ!?」

セラフィナが運ぼうとして悲鳴を上げる。
『鉄巨木』は、その名の通り金属並みの強度を持つ。
加工には専用の魔導機器が必要なレベルだ。

「そうか? ちょっと表面がザラザラしてるな」

俺は柱の表面を手のひらで撫でた。
「ささくれ」や「凹凸」を雑草として認識し、むしり取る。
シュッ。
一撫でするだけで、表面はカンナをかけたようにスベスベになり、美しい木目が浮き上がった。

「はい、これでよし」
「手刀が製材機を超えています……」

俺たちは柱を立て、梁を渡し、屋根を葺いていった。
屋根材には、以前倒したアースドラゴンの残りの鱗と、森で見つけた『耐火煉瓦』の原料になる粘土を焼き固めた瓦を使った。

作業開始から半日。
夕日が森を赤く染める頃、新しい家が完成した。

「……えーと、ちょっとやりすぎたか?」

俺は完成した我が家を見上げた。
そこには、ログハウスとは名ばかりの、白亜の豪邸が建っていた。
白大理石の壁は夕日を浴びてピンク色に輝き、黒光りするドラゴンの屋根は重厚な威圧感を放っている。
柱には鉄巨木を使い、窓にはクリスタル(河原で拾った透明な石を加工した)が嵌め込まれている。

大きさは、以前の五倍。
二階建てで、部屋数は十以上。
広いリビングに、それぞれの個室、客室、そして広大なキッチンと、石造りの大浴場まで完備している。

「こ、これは……」

セラフィナが口をパクパクさせている。

「王城……いえ、それ以上です。この壁、物理攻撃はもちろん、中級魔法程度なら無傷で弾き返しますよ。それにこの屋根、ドラゴンの加護でブレスすら無効化するはずです」
「わたくしの見立てでは、この家自体が巨大な魔道要塞として機能していますわね」

ティターニアが壁に触れながらうっとりと言う。

「主様が建材の『不純物』を極限まで取り除いた(むしった)おかげで、魔力の伝導率が異常に高まっています。この家、その気になれば空も飛べるんじゃありません?」
「飛ばないよ。家だぞ」

俺は苦笑した。
まあ、見た目は少し豪華になってしまったが、頑丈なのは良いことだ。
これで雨漏りや、森の害獣(熊とか)に怯えることなく生活できる。

「主様! 内装も凄いです!」

先に中に入ったセラフィナの歓声が聞こえた。
俺も中に入る。
ヒンヤリとした大理石の床が心地よい。
家具も、余った木材で作った特製品だ。
ソファーには、レッドグリズリーの毛皮を敷いてあるのでフカフカだ。

「これなら、百人くらい泊まれるな」
「軍隊が駐屯できますね……」

セラフィナが遠い目をしているが、気にしない。
これで住環境の問題は解決した。

   ◇

その夜。
俺たちは広くなったリビングで、新築祝いのパーティーを開いた。
メニューは、畑で採れた野菜のフルコースと、森で狩った『猪鬼(オーク)』の丸焼きだ。
ちなみにオークは、畑を荒らしに来たところを、俺が「害獣だ」とデコピンで仕留めたものだ。

「乾杯!」
「主様、この家に一生ついていきます!」
「わたくしも! あ、主様、この柱にツタを絡ませてもよろしいですか? 防犯センサーになりますので」

ワイワイと賑やかな食卓。
かつて勇者パーティの片隅で、冷たいパンを齧っていた頃とは雲泥の差だ。
俺は幸せを噛み締めていた。

だが、そんな俺たちの平和な夜を、不穏な影が覗いていることに、俺はまだ気づいていなかった(いや、気づいていたが『虫』だと思ってスルーしていた)。

「……報告。ターゲットを確認」

家の外。
森の闇に紛れて、数人の黒装束の男たちが潜んでいた。
彼らは帝国軍の特殊工作部隊『影の刃』。
エルフの王女セラフィナの抹殺と、彼女が持つ『精霊の宝珠』の奪還を任務とする、冷酷無比な暗殺者集団だ。

「なんだあの建物は……? 情報にはないぞ」
「数日前までは掘っ立て小屋だったはずだ。一瞬で城が建ったとでもいうのか?」
「構わん。中に王女がいるのは確認した。……それに、男が一人。あれが護衛か?」
「フン、ただの農夫に見えるが。……隙を見て全員始末する」
「決行は深夜。寝静まったところを襲撃する」

暗殺者たちは、音もなく闇に溶け込んだ。
彼らは知らなかった。
その家が、ドラゴンすら弾き返す要塞であり、中にいる「農夫」が、彼らごときを「庭の害虫」程度にしか認識しない最強の存在であることを。

   ◇

一方、その頃。
勇者パーティの一行は、魔の森の手前にある街道沿いで野営をしていた。

ザァァァァァッ……!

激しい雨が降り注いでいる。
彼らの安物のテントは、雨漏りが酷く、床は水浸しだった。

「冷たい……」
「最悪だ……」

ミリアが震え、レオンが咳き込む。
火をおこそうにも、薪が湿っていて火がつかない。
食料の干し肉はカビてしまい、食べるものがなかった。

「くそっ、なんでこんな目に!」

ジークが濡れた髪をかきむしる。
以前なら、ノエルがあっという間に防水加工された快適なテントを設営し、温かいスープを用意してくれていた。
雨の日でも、彼のスキルで湿気を取り除いた薪は、よく燃えた。

「おいジーク、テントの支柱が折れそうだぞ!」
「ガムテープはないのか!? 補修キットは!?」
「ないわよ! 全部ノエルさんが管理していたんだから!」

バキッ!

無情な音が響き、テントが崩壊した。
冷たい雨が、容赦なく彼らを打ち据える。

「うわぁぁぁぁぁッ!!」

泥まみれになりながら、彼らは身を寄せ合った。
その姿は、かつて王都で歓声を浴びていた勇者一行とは程遠い、ただの遭難者だった。

「ノエル……ノエル……!」

ジークはうわ言のように名前を呼んだ。
それは後悔の念か、それとも救いを求める祈りか。
だが、その声は雨音にかき消され、誰にも届くことはなかった。

その頃、ノエルはフカフカのグリズリー毛皮のソファーで、美女二人にマッサージされながら、「明日はお風呂にジャグジー機能でも付けようかな」などと考えていたのだった。

   ◇

翌朝。
俺は日課の『朝の庭掃除』をするために、早起きをして外に出た。
空気は澄んでいて気持ちがいい。

「ん? なんだこれ」

俺は庭の隅――昨日植えた生垣(鉄の棘を持つバラ)の近くに、黒いゴミのようなものが落ちているのを見つけた。
近づいてみると、それは黒装束を着た人間たちが、生垣の棘に絡まって気絶している姿だった。
数にして五人。
全員が白目をむき、口から泡を吹いている。

「……ああ、酔っ払いか?」

王都でもよく見た光景だ。
飲みすぎて道端で寝てしまう人たち。
ここは森の中だが、まあ冒険者が迷い込んで宴会でもしたのだろう。

「まったく、人んちの庭で寝るなよなぁ。邪魔だなぁ」

俺は彼らを「庭の景観を乱すゴミ(不法投棄物)」として認識した。
ゴミはゴミ箱へ。
あるいは、森へお帰り願おう。

俺は一番手近な男の足首を掴んだ。
スキル発動、『草むしり』――応用・『ゴミ投げ』。

「そぉれッ!」

ヒュンッ!

男は目にも止まらぬ速さで空の彼方へ飛んでいった。
キラッ。
美しい放物線を描いて、森の外へと消えていく。

「はい、次」
「そいっ」
「ほいっ」

俺は次々と黒装束の男たちを森の外へ投げ捨てた。
彼らが帝国最強の暗殺部隊であり、昨晩、俺の家の『防犯センサー(ティターニアのツタ)』と『自動迎撃システム(バラの棘)』によってボコボコにされ、朝まで吊るされていたことなど知る由もなく。

「ふゥ、スッキリした」

庭が綺麗になった。
これで今日も気持ちよく農作業ができる。

《対象:帝国軍特殊工作部隊(Aランク相当)を排除しました》
《庭の治安が守られました》
《経験値を獲得しました》

また頭の中で声がしたが、俺は「朝のラジオ体操代わりになったな」程度にしか思わなかった。

だが、この一件がきっかけで、俺の「庭」にさらなる厄介な客――今度は「逃亡者」が転がり込んでくることになるのだが、それはまた別の話だ。

続く
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