敵を9割弱体化させていた呪術師、追放される。勇者が雑魚敵に負ける中、俺は即死チートで無双する~戻れと言われても、魔王の娘と幸せなので~

eringi

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第3話 ギルドへ帰還。俺が持ち帰った素材に、受付嬢が絶句する

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魔の樹海を抜け、俺とセリスは辺境都市『ベルン』の城門前に辿り着いた。
ここは魔物領域と人間社会の境界線にある街で、多くの冒険者や商人が行き交う要所だ。
かつては勇者パーティー『光の剣』の拠点として利用していた場所でもある。

「ふむ、ここが人間の街か。活気があるというよりは、欲望と汗の臭いがするな」

セリスが興味深そうに、しかし若干の不快感を示しながら鼻を鳴らす。
彼女の見た目は、今は普通の人間と変わらない。
頭に生えていた美しい二本の角は、彼女自身の幻影魔法によって見えなくしている。
銀髪の美少女という点は変わらないので、すれ違う人々が皆、振り返ってはため息を漏らしているが。

「あんまりキョロキョロするなよ。お前、ただでさえ目立つんだから」

「ふふっ、美しい我に見惚れるのは下等生物の本能だ。許してやれ」

「はいはい。……さて、まずはギルドだ。金を稼がないと宿にも泊まれない」

俺たちは門番に冒険者カードを提示し、街の中へと入った。
目指すは冒険者ギルドの本部だ。

   ◇

ギルドの扉を開けると、昼間だというのに喧噪と酒の匂いが押し寄せてきた。
依頼を探す冒険者、昼からエールを煽る荒くれ者たち。
いつもの光景だ。

だが、俺が一歩足を踏み入れると、近くにいた数人の視線がこちらに向き、やがてそのざわめきが波紋のように広がっていった。

「おい、あれ……『光の剣』の荷物持ちじゃねぇか?」
「ああ、あの陰気な呪術師クロウだろ? なんで一人なんだ?」
「勇者カイルたちはどうした? まさか、はぐれたのか?」

ひそひそとした嘲笑混じりの声が聞こえてくる。
俺の評価なんてこんなものだ。
Sランクパーティーの金魚のフン。
何もしていないのに報酬だけもらっている穀潰し。
そんな陰口は、これまで嫌というほど聞いてきた。

俺は雑音を無視して、一直線に買取カウンターへと向かった。
カウンターの中には、馴染みの受付嬢ミリアがいた。
栗色の髪をおさげにした、愛想の良い女性だ。
だが、俺の顔を見た瞬間、彼女の表情が曇った。

「あれ、クロウさん? お一人ですか? カイル様たちは……」

「パーティーは抜けたよ。これからはソロだ」

俺が淡々と告げると、ミリアは目を丸くした。
そして、周囲の冒険者たちから「やっぱりクビになったか」「ざまぁねぇな」という下卑た笑い声が上がった。

「そ、そうでしたか……。それは、なんというか……」

ミリアは気まずそうに言葉を濁した。
彼女は俺に対して悪意はないが、周囲の空気に流されやすいタイプだ。
「無能な荷物持ちが追放された」という事実は、この場において格好の酒の肴になる。

「おいおい、クロウちゃんよぉ! ついに捨てられちまったか!」

絡んできたのは、Cランクパーティー『鉄の牙』のリーダー、ボガードだった。
筋肉質の巨漢で、以前から俺のことを目の敵にしていた男だ。
酒臭い息を吐きながら、俺の肩に馴れ馴れしく腕を回してくる。

「Sランク様の寄生虫が、宿主を失ってどうやって生きていくんだぁ? ん? 悪いことは言わねぇ、田舎に帰って畑でも耕してな。お前みたいな地味な魔法使い、ソロじゃゴブリン一匹倒せねぇだろ?」

周囲からドッと笑いが起こる。
セリスが不愉快そうに眉をひそめ、指先を動かそうとしたのを、俺は目で制した。
ここで騒ぎを起こすのは得策ではない。
それに、こんな雑魚相手に魔王の娘の手を煩わせるまでもない。

「忠告どうも。だが、あいにく俺はゴブリンより強い獲物を狩ってきたところだ」

俺はボガードの腕を払いのけ、カウンターにマジックバッグの中身をぶちまけた。

ドサッ、ゴロン。

カウンターの上に置かれたのは、拳大の白銀色に輝く結晶体。
そして、いくつかの高品質な魔石だ。

一瞬、ギルド内が静まり返った。
冒険者なら、それが何であるか本能的に理解できるからだ。
そこから放たれる魔力の残滓は、並大抵の魔物のものではない。

「こ、これは……!?」

ミリアが目を見開き、震える手で鑑定用のモノクルを取り出した。
そして、その結晶体を覗き込んだ瞬間、悲鳴のような声を上げた。

「ロ、ロックガーディアンの核(コア)!? しかも、傷一つない最高純度のAランク品です!!」

「なっ……!?」

ボガードの笑いが凍り付いた。
周囲の冒険者たちも、椅子から転げ落ちそうになるほど驚愕している。
ロックガーディアン。
それは物理攻撃を無効化し、魔法すら弾く鉄壁の防御力を誇るゴーレムだ。
Aランクパーティーが総出で挑み、数時間の激闘の末にようやく倒せるかどうかという難敵である。

「バ、バカな! ロックガーディアンだと!? そんなもん、カイル様たちと一緒でも苦戦する相手だろ!?」

「ソロで倒したと言ったはずだ。……それと、これも追加で」

俺はさらに、道中で狩ったシャドウウルフの牙と毛皮も取り出した。
これらも本来ならSランク相当の素材だが、俺の即死スキルで瞬殺したため、傷みが全くない極上品だ。

「シャ、シャドウウルフの素材まで……! これほどの量を、一人で……?」

ミリアはもはや言葉を失い、ただただ俺と素材を交互に見比べている。

「おい、嘘つくんじゃねぇぞ!」

ボガードが机を叩いて怒鳴った。
顔を真っ赤にして、唾を飛ばしてくる。

「お前みたいな雑魚に倒せるわけがねぇ! どうせ、カイル様たちが倒したやつをこっそりネコババしてきたんだろ! 泥棒だ! こいつは泥棒だぞ!」

その言葉に、周囲の空気が再び変わった。
驚きから、疑惑と軽蔑へ。
「なるほど、そうか」「盗みとは落ちたな」という声が囁かれる。

俺はため息をついた。
これだから、先入観というやつは厄介だ。
俺はボガードを冷めた目で見据えた。

「泥棒扱いか。……なら、証明してやるよ」

「あぁん? 何をだ?」

「俺の実力を、だ」

俺は一歩、ボガードに近づいた。
彼の手が俺の胸倉を掴もうと伸びてくる。
その動きは、スローモーションのように遅く見えた。

俺は彼の腕を掴むことなく、ただじっとその目を見つめた。

スキル発動、『麻痺の呪い』。
出力調整、レベル1。

「あ……が……?」

ボガードの動きがピタリと止まった。
伸ばした腕は空中で硬直し、口は半開きのままパクパクと動いているが、声が出ていない。
顔色がみるみるうちに土気色に変わっていく。

「おい、ボガード? どうした?」

仲間が異変に気づいて声をかけるが、ボガードは返事すらできない。
全身の自由を奪われ、呼吸すら困難な状態に陥っているのだ。
俺はさらに、周囲に威圧を込めた視線を向けた。

スキル『恐怖の視線』。

ギロリ、と睨んだ瞬間、ギルド内にいた数十人の冒険者たちが、一斉に息を呑んだ。
彼らの本能が警鐘を鳴らす。
目の前にいるのは、ただの人間ではない。
触れれば死ぬ、絶対的な捕食者であると。

「ひッ……!?」
「な、なんだこの殺気は……!」

屈強な戦士たちが、ガタガタと震え上がり、後ずさりする。
俺は何もしていない。ただ、魔力を少しだけ視線に乗せただけだ。
それだけで、この場の序列は完全に覆った。

俺は動けなくなったボガードの耳元で、誰にも聞こえないように囁いた。

「言っただろ、忠告だと。……次、俺の邪魔をしたら、心臓を止めるぞ」

そして、指をパチンと鳴らして呪いを解除した。

「ぶはぁッ!!」

ボガードはその場に崩れ落ち、溺れた後のように激しく咳き込んだ。
脂汗を流し、恐怖に染まった目で俺を見上げ、そして悲鳴を上げて這うように逃げ出した。

「ひ、ひぃぃぃッ! ば、化け物……ッ!」

その醜態を見て、もう俺を笑う者はいなかった。
静まり返ったギルドで、俺はミリアに向き直った。

「査定は終わったか? 急いでるんだが」

「は、はいぃッ! ただいま計算いたしますッ!」

ミリアは青ざめた顔で、しかしプロ根性で素早く計算を終え、革袋に入った金貨を差し出した。
金貨百枚。
一般市民なら数年は遊んで暮らせる大金だ。

「ありがとよ。……行こうか、セリス」

「うむ。中々良い見世物だったぞ」

セリスが楽しそうに俺の腕に絡みついてくる。
俺たちは呆然とする冒険者たちの視線を背中に浴びながら、悠然とギルドを後にした。

   ◇

ギルドを出た後、俺たちは街で一番高級な宿屋『銀の月亭』の一室を取った。
最上階のスイートルーム。
広いリビングに、王族が使うような天蓋付きのベッド。
窓からは街の全景が見渡せる。

「ふぅ……やはりベッドは良いな」

部屋に入るなり、セリスはベッドにダイブし、ふかふかの感触を楽しんでいる。
魔王の娘とはいえ、封印されていた期間が長かった反動か、今はただの年相応の少女のように見えた。

「夕食まで少し時間があるな。……クロウよ、約束を忘れてはおらぬな?」

セリスがベッドの上で寝返りを打ち、上目遣いで俺を見てくる。
その瞳が妖しく光った。

「魔力の供給、か」

「うむ。先ほどの威圧で少し魔力を使っただろう? それに、我も腹が減った」

彼女は手招きをする。
俺は苦笑しながらベッドの縁に座った。
すると、セリスは猫のようにしなやかに起き上がり、俺の膝の上に跨がってきた。

「ん……いただくぞ」

彼女の顔が近づき、吐息がかかる。
そして、首筋に再び鋭い痛みが走った。

「くっ……」

吸血行為にも似た魔力譲渡。
全身の血液が沸騰し、そして吸い出されるような独特の感覚。
彼女の喉が鳴る音が、静かな部屋に響く。
それは背徳的で、どこか官能的な儀式のようだった。

「ぷはっ……。ふふ、やはりお主の魔力は極上だ。濃厚な闇の味がする」

しばらくして顔を上げたセリスは、頬を紅潮させ、恍惚とした表情を浮かべていた。
その姿は、あまりにも無防備で、男としての理性を揺さぶるものがあった。

「満足したか?」

「ああ、とりあえずはな。……だが、これだけでは足りぬな」

「何がだ?」

「お主との『繋がり』だ。魔力だけでなく、魂の奥底まで深く繋がりたいと……我が本能が言っている」

セリスは俺の胸に手を当て、真剣な眼差しで見つめてきた。
それは魔物としての支配欲か、それとも別の感情か。
まだ俺には分からなかったが、少なくとも彼女が俺にとって唯一無二の「共犯者」であることは確かだった。

「焦るなよ。時間はたっぷりある」

俺は彼女の頭を軽く撫でた。
セリスは気持ちよさそうに目を細め、俺の胸に寄りかかってきた。
窓の外では夕日が沈み、街に夜の帳が下りようとしていた。

平和で、穏やかな時間。
昨日までの俺には考えられなかった安息だ。
だが、この平穏が長く続かないことも、俺は予感していた。

なぜなら、この街にはまだ「彼ら」が戻ってくるはずだからだ。

   ◇

日が完全に落ち、街がガス灯の明かりに照らされ始めた頃。

ボロボロの集団が、ふらつく足取りで街の門をくぐった。
勇者パーティー『光の剣』の四人だ。

「はぁ……はぁ……つ、着いた……」

カイルが呻くように言い、地面に膝をついた。
自慢の黄金の鎧は原形を留めないほどにひしゃげ、泥と血で汚れている。
聖剣は刃こぼれし、鞘に収めることすらできない状態だ。

「み、水……水をください……」

聖女アリシアは髪を振り乱し、顔も泥だらけで、かつての清廉な聖女の面影はない。
脱水症状で唇が乾ききっている。

「ちくしょう……なんで俺たちがこんな目に……」

重戦士ガンツは片腕を三角巾で吊り、足を引きずっている。
魔法使いのリナに至っては、意識が朦朧としており、カイルの肩を借りてようやく立っている状態だ。

門番が慌てて駆け寄ってきた。

「お、おい! 大丈夫か!? ひどい怪我だぞ!」

「う、うるさい……俺は勇者だ……触るな……」

カイルは門番の手を振り払い、プライドだけで立ち上がろうとした。
だが、足に力が入らない。
ゴブリンの群れから逃げ延びた後も、森の魔物たちに執拗に追われ、命からがら逃げ帰ってきたのだ。
装備もポーションも食料も尽き、心身ともに限界を超えていた。

「カイル様、そ、そうだわ……ギルドへ行きましょう……」

アリシアが掠れた声で提案する。

「ギルドで依頼の報告をして……報酬をもらえば、宿に……それに、クロウさんが予備のポーションをギルドに預けているかもしれませんわ」

「そ、そうだな……! あいつのことだ、泣きながらギルドで俺たちを待っているに違いない」

カイルはその希望に縋りついた。
クロウは気が弱い男だ。追放された後、怖くなって街へ逃げ帰り、俺たちに許しを請うために待っているはずだ。
そうすれば、またあいつをこき使って、ポーションを出させて、装備を直させればいい。

「行くぞ……ギルドへ……!」

彼らは最後の力を振り絞り、ギルドへと向かった。
街の人々が、英雄のあまりに無残な姿に指を指し、ひそひそと噂話をしていることにも気づかずに。

ギルドの扉を開けると、そこは夜の喧噪に包まれていた。
だが、カイルたちが入ってきた瞬間、その場が一瞬で静まり返った。

誰もが目を見開いていた。
まさか、あの最強の勇者パーティーが、乞食のような姿で現れるとは夢にも思わなかったからだ。

「お、おい見ろよ……あれ、勇者カイルか?」
「嘘だろ? なんであんなボロボロなんだ?」
「ゴブリンにやられたって噂、本当だったのか?」

嘲笑と失望の視線。
カイルは顔を引きつらせながら、カウンターへ歩み寄った。

「み、ミリア……! 依頼の……達成報告だ……」

カイルは震える手で、討伐証明部位であるゴブリンの耳を数個、カウンターに出した。
Sランクパーティーの成果としては、あまりにもショボい。
本来の目的だった『魔の樹海の調査』など、到底達成できていなかった。

「あ、カイル様……。お、お疲れ様です……」

ミリアは気まずそうに視線を逸らした。
その反応に、カイルは違和感を覚える。
いつもなら、黄色い声援と共に迎えられるはずなのに。

「あ、あの……クロウは? クロウは来ていないか?」

カイルは焦って尋ねた。

「クロウさんでしたら……昼頃にいらっしゃいましたよ」

「そうか! やっぱり来ていたか! で、あいつはどこだ? 俺たちに詫びを入れるメッセージとか残してないか?」

カイルの声に力が戻る。
だが、ミリアの次の言葉が、彼を絶望の淵に突き落とした。

「いえ……クロウさんは、ロックガーディアンの核と、大量のSランク素材を売却して……『これからはソロでやる』と仰って、高級宿の方へ行かれました」

「は……?」

カイルの思考が停止した。

「ろ、ロックガーディアン? あいつが? 一人で?」

「はい。私も驚きましたが、鑑定結果は本物でした。ギルドとしても、過去最高額での買取をさせていただきました」

「嘘だッ!!」

カイルが絶叫した。
響き渡る声に、周囲の冒険者たちが冷ややかな視線を送る。

「あいつごときにそんなことができるわけがない! 俺たちですら苦戦する相手だぞ!? 間違いだ、何かの間違いだ!」

「間違いではありません!」

ミリアも毅然と言い返した。
昼間のクロウの圧倒的な威圧感を目の当たりにしている彼女にとって、カイルの今の姿はあまりにも小さく見えた。

「それに……ボガードさんたちがクロウさんに絡んだ時、クロウさんは指一本触れずに彼らを制圧しました。その実力は、本物です」

「な……」

カイルは言葉を失い、膝から崩れ落ちた。
信じられない。信じたくない。
あのお荷物だったクロウが、自分たち以上の成果を上げ、英雄のような扱いを受けているなんて。

「そ、そんな……じゃあ、私たちは……?」

アリシアが呆然と呟く。
彼らの手元にあるのは、わずかなゴブリンの耳と、修理不可能なほど壊れた装備、そして傷だらけの体だけ。
所持金もほとんどない。
今夜泊まる宿代すら怪しい状況だ。

「おいおい、見ろよあの様」
「クロウを追放して、これか」
「結局、あいつらが強かったのはクロウのおかげだったんじゃねぇの?」

周囲の冒険者たちの囁きが、カイルの耳に突き刺さる。
かつて浴びていた称賛の声は、今は軽蔑と嘲笑に変わっていた。

「くそっ……くそぉぉぉぉッ!!」

カイルは床を叩いて慟哭した。
だが、誰も彼を助けようとはしなかった。
彼らが築き上げてきた虚飾の栄光は、今夜、完全に崩れ去ったのだった。

そして、ギルドの掲示板には、新たな依頼書が貼り出されていた。
『指名依頼:呪術師クロウ様へ。国王陛下より謁見の儀を賜りたく――』

運命の歯車は、残酷なまでに逆回転を始めていた。
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