敵を9割弱体化させていた呪術師、追放される。勇者が雑魚敵に負ける中、俺は即死チートで無双する~戻れと言われても、魔王の娘と幸せなので~

eringi

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第10話 聖女の「癒やし」と俺の「呪い」の相性が良すぎる件

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西の廃墟での一件を解決し、ギルドマスターのゼノスに報告を済ませた翌日。
俺とセリスは、拠点にしている宿屋『銀の月亭』のスイートルームで、遅めの朝食をとっていた。

「ふむ、やはりここのオムレツは絶品だな。卵の焼き加減が素晴らしい」

セリスは上機嫌でフォークを動かしている。
魔王の娘とはいえ、美味しいものには目がないらしい。
平和な朝だ。
昨日の廃墟での激闘――というより一方的な蹂躙劇――が嘘のようだ。
ちなみに、スライムに変えたボガードの件をゼノスに報告したところ、「君、それは報告書にどう書けばいいんだ……」と頭を抱えられたが、最終的には『行方不明』として処理された。
カイルたちは廃墟の入り口で呆然としていたのを最後に見ていないが、まあ無事に帰っては来ているだろう。精神が無事かは知らないが。

コンコン、と控えめなノックの音がした。

「クロウ様、お客様です」

宿のメイドの声だ。
また誰か来たのか。
国王の使いか、それともまた懲りない冒険者が絡みに来たのか。

「入れ」

俺が許可を出すと、ドアが静かに開き、一人の少女が入ってきた。
質素な平民の服に身を包み、長い金髪を後ろで一つに束ねた姿。
かつて勇者パーティーで『聖女』と呼ばれていた、アリシアだった。

「……失礼します」

彼女は深々と頭を下げた。
その表情は硬いが、以前のような虚ろなものではなく、強い決意の色が浮かんでいる。

「アリシアか。どうした、そんな格好で」

俺がコーヒーカップを置いて尋ねると、彼女は顔を上げ、真っ直ぐに俺を見た。

「パーティーを、抜けてきました」

「ほう?」

「カイル様……いえ、カイルさんとはもう一緒にいられません。ギルドに脱退届を出してきました。装備も、頂いた報酬も、全て置いてきました」

潔いな。
聖女としての地位も、Sランクパーティーという肩書きも捨ててきたということか。
今の彼女は、ただの無職の少女だ。

「それで? 俺に何の用だ? 金を恵んでくれとでも言うつもりか?」

意地悪く聞いてみる。
だが、アリシアは首を横に振った。

「いいえ。……クロウさん、私をあなたのパーティーに入れてください。いえ、パーティーでなくても構いません。従者でも、荷物持ちでも……何でもします」

彼女は一歩前に進み出た。

「西の廃墟で、私は自分の無力さを知りました。そして、クロウさんの本当の凄さも。……教会に教えられた『正義』が、いかに脆く、偽りだらけだったかも」

彼女の声が少し震える。
洗脳が解けた反動で、今まで自分が信じてきた世界が崩れ去る恐怖は計り知れないだろう。

「私は、真実を知りたいんです。クロウさんが見ている世界を、隣で見たい。そして……償いたいんです。あなたを追放した時、何も言えなかった自分の罪を」

アリシアはその場に膝をつき、平伏した。
最上級の懇願のポーズだ。

「ふうん……。セリス、どう思う?」

俺は隣で優雅に紅茶を啜っている魔王の娘に話を振った。
セリスは金色の瞳でアリシアをじろじろと品定めするように見下ろした。

「悪くはないな。あの勇者とやらに比べれば、魂の色が綺麗だ。それに、教会への盲信という鎖が解けて、空っぽになった器……。何かを注ぎ込むには丁度良いかもしれん」

「注ぎ込むって、変な意味じゃないだろうな」

「ククッ、それはお主次第だろう?」

セリスは意地悪く笑った。
まあ、俺としてもアリシアのことは嫌いではなかった。
カイルたちに流されていたとはいえ、根は真面目で優しい奴だ。それに、回復役(ヒーラー)がいると、俺も攻撃に専念できるし、何よりMP管理が楽になる。

「顔を上げろ、アリシア」

俺が声をかけると、彼女はおずおずと顔を上げた。

「俺のパーティーに入る条件は厳しいぞ。カイルたちみたいに甘やかしはしない。足手まといなら即刻置いていく」

「はい! 覚悟の上です!」

「それと、俺は『死神』だの『魔王の手先』だの言われている嫌われ者だ。一緒にいれば、お前も白い目で見られることになる」

「構いません。むしろ、教会に背を向けた今の私には、その方がお似合いです」

アリシアは自嘲気味に、しかし力強く答えた。
どうやら本気らしい。

「分かった。とりあえず見習いとして置いてやる。……ただし、今のままのお前じゃ戦力外だ」

「うっ……」

図星を突かれ、アリシアが言葉を詰まらせる。
彼女の回復魔法は確かに優秀だが、Sランク帯の戦闘においては防御面が脆すぎる。
カイルたちと一緒にいた時は、彼女を守る前衛がいたから機能していたが、俺たちの戦いはもっと激しく、理不尽だ。

「だから、少し改造(チューニング)させてもらう」

「か、改造……ですか?」

アリシアが怯えたように身を引く。
俺はニヤリと笑い、手招きした。

「安心しろ、痛くはしない。……たぶんな」

俺はアリシアを立たせ、その背中に手を当てた。

「お前の『聖魔法』と、俺の『呪術』。本来は相反するものだが……これを混ぜ合わせたらどうなると思う?」

「えっ? そ、そんなこと不可能です! 光と闇は対消滅して、魔力暴走を起こします!」

常識的な魔術理論ではそうだ。
だが、俺には『編集』スキルがある。
世界の理(ルール)そのものを書き換えるチート能力が。

スキル発動、『魔力回路編集(サーキット・エディット)』。
対象:アリシア。
変更内容:【光属性】に【闇属性適性】を付与。および【属性反転】のスイッチを作成。

「ん……っ! あ、熱い……!」

アリシアが小さな声を漏らす。
俺のどす黒い魔力が、彼女の純白の魔力回路に侵食していく。
通常なら拒絶反応で体が弾け飛ぶところだが、俺はそれを強引に縫い合わせ、新しい回路として構築していく。

光の中に闇を、闇の中に光を。
混沌(カオス)の魔力。

「よし、完了だ」

俺が手を離すと、アリシアはその場にへたり込んだ。
肩で息をしているが、体の不調はないようだ。

「な、何をしたんですか……? 体が、すごく熱くて……でも、力が溢れてくるような……」

「お前の回復魔法に、新しい機能を追加したんだ。……試してみるか」

俺たちは街の外、広大な草原へと移動した。
実験台(ターゲット)は、ちょうどよく徘徊していたオークの群れだ。
10匹ほどが、ブヒブヒと鳴きながらこちらへ突進してくる。

「アリシア、あいつらに向かって『エリアヒール(広域回復)』を撃ってみろ」

「えっ? 魔物に回復魔法をですか? そんなことしたら、敵を元気にするだけじゃ……」

「いいからやれ。ただし、詠唱の最後に『反転(リバース)』と付け加えろ」

「は、はい……やってみます!」

アリシアは杖(俺が余っていた素材で適当に作ったものだが、性能は国宝級だ)を構え、オークの群れに向けた。

「慈愛の光よ、遍く満たせ……『エリアヒール・リバース』!!」

彼女の杖から、眩い光が放たれた。
通常なら、温かい黄金色の光のはずだ。
だが、今回放たれたのは、紫色に輝く不気味な閃光だった。

光の波動がオークたちを包み込む。

「ブヒッ!? ブゴオオオオオッ!!」

オークたちが絶叫した。
回復するどころか、彼らの皮膚が急速にただれ、筋肉が萎縮し、生命力がごっそりと削ぎ落とされていく。
まるで、時間が加速して腐敗していくかのように。

「な、なにこれ……!?」

アリシアが驚愕する。
さらに驚くべき現象が起きた。
オークたちから吸い上げられた生命力が、赤い光の粒子となって俺たちの方へ戻ってきたのだ。

シュゥゥゥ……。

光の粒子が俺たちの体に染み込む。
疲れが癒え、魔力が回復し、活力が漲ってくる。

「これが『ドレイン・フィールド』だ。敵には回復魔法の逆位相……つまり『過剰な細胞死』を与え、その奪った生命力を味方に還元する」

「す、すごいです……! 敵は全滅して、私たちは全回復してる……!」

目の前では、干からびたミイラのようになったオークたちが転がっていた。
攻防一体。
しかも広範囲殲滅魔法としても使える。
これがあれば、俺たちは実質的に無限のスタミナとHPを持って戦えることになる。

「聖女の『癒やし』を反転させて、敵を殺す『呪い』に変える。……名付けて『堕聖女(フォールン・セイント)』モードだ」

「だ、堕聖女……あんまり嬉しくない名前ですけど……でも、これなら私、戦えます!」

アリシアが自分の手を見つめ、高揚した表情を見せる。
彼女はずっと悩んでいたのだ。
守られるだけの存在であることに。
だが、この力があれば、俺の隣に立って戦うことができる。

「よくやった。合格だ、アリシア」

俺が頭をポンと撫でると、彼女は顔を真っ赤にして、嬉しそうに微笑んだ。

「はいっ! ありがとうございます、クロウ様!」

「ふん、まあまあの威力だな」

セリスが腕を組んで近づいてきた。

「だが、調子に乗るなよ新入り。クロウの隣は我の特等席だ。お主はせいぜい、後ろでサポートに徹するのだな」

「は、はい! もちろんです、セリス様! 私なんて、クロウ様のお役に立てるだけで十分ですから!」

アリシアはセリスに対しても従順だ。
どうやら、この二人の相性も悪くなさそうだ。
最強の魔王の娘と、闇堕ち(物理)した聖女。
そしてそれを統べる、死神と呼ばれる俺。
……客観的に見ると、完全に悪の組織だな。

   ◇

一方その頃。
王都の薄暗い路地裏。
ゴミ捨て場の陰に、一人の男がうずくまっていた。

勇者カイルだ。

「くそっ……くそぉ……」

彼は泥水のような安酒を煽り、嘔吐(えず)いた。
廃墟から命からがら逃げ帰った後、パーティーは完全に崩壊した。
リナは「もう無理、実家に帰る」と言って去り、ガンツは「借金返すために鉱山で働くわ」と言って姿を消した。
アリシアは自分から出て行った。

残ったのは、借金と、地に落ちた名声だけ。
装備も売り払い、今着ているのはボロボロの布切れだ。
通り過ぎる人々は、彼がかつての勇者だとは気づきもしない。あるいは、気づいていても関わりたくない汚物として見ている。

「なんでだ……俺は勇者だぞ……。世界を救うはずだったんだ……」

カイルは涙を流した。
全てはあいつのせいだ。
クロウ。
あの荷物持ちさえいなければ。あいつが俺の人生を狂わせたんだ。

「力が欲しいか?」

唐突に、頭上から声が降ってきた。

「あ……?」

カイルが顔を上げると、そこには純白の仮面をつけた男が立っていた。
全身を白いローブで覆い、神聖な気配を漂わせているが、その奥底にはドロドロとした闇が見え隠れしている。

「誰だ……あんた……」

「私は『救済者』。君のような、理不尽に全てを奪われた者を救うために来た」

仮面の男は、懐から一本の剣を取り出した。
それは、以前ボガードに渡された紛い物の魔剣とは違う。
本物の、神々しいまでの光を放つ聖剣だった。
ただし、その光はどこか冷たく、禍々しい。

「これは『聖剣・アロンダイト』。かつて英雄を狂わせ、友を殺させた裏切りの聖剣だ」

「聖剣……?」

「君の心には、素晴らしい『憎悪』がある。その感情こそが、この剣の糧となる。……どうだ、勇者カイル。この力を使い、憎き『死神』に復讐したくはないか?」

復讐。
その甘美な響きに、カイルの目が濁った光を宿した。

「復讐……そうだ、復讐だ……! あいつを殺して、俺が本物だと証明してやる!」

カイルは震える手で、差し出された聖剣を握った。

ジュワァァァッ!

「ぐあああああっ!?」

掌が焼ける音がした。
だが、カイルは離さない。
聖剣から流れ込む強大な力が、彼の肉体を、精神を侵食し、作り変えていく。

「ハァ……ハァ……! すごい……力が……!」

カイルが立ち上がる。
その瞳は完全に正気を失い、ただ殺意だけを映す赤い鏡となっていた。
ボロボロだった体からは、黒いオーラが立ち昇っている。

「良い仕上がりだ」

仮面の男が満足げに頷く。

「さあ、行きたまえ。新たな『黒勇者』よ。偽りの英雄を葬り去るのだ」

「ああ……殺す……クロウ……必ず殺す……!」

カイルは夜の闇に消えていった。
かつての栄光を求めるあまり、人間であることを捨てた復讐鬼として。

   ◇

翌日。
俺たちは、アリシアの『堕聖女モード』の実戦テストを兼ねて、ギルドの討伐依頼を受けていた。
場所は、王都の北に位置する『巨人の渓谷』。
ここには、サイクロプスやトロールといった巨大型の魔物が生息している。

「キシャアアア!」

トロールの群れが襲いかかってくる。
再生能力が高く、物理攻撃が効きにくい厄介な相手だ。

「アリシア、いけ!」

「はいっ! 『ディケイ・レイン(腐敗の雨)』!」

アリシアが杖を振ると、空から紫色の雨が降り注いだ。
雨に打たれたトロールたちは、自慢の再生能力が暴走し、逆に肉体が崩壊していく。

「グギャアアアアッ!」

悲鳴を上げて溶けていくトロールたち。
その生命力が俺たちに還元され、俺は魔力を消費することなく、次々と追撃の魔法を放つことができた。

「素晴らしい連携だ。永久機関だな、これは」

俺は感心した。
アリシアの加入で、パーティーの継戦能力が飛躍的に向上した。
セリスも、トロールの首を素手でねじ切りながら楽しそうにしている。

「ふむ、これなら軍隊相手でも疲れ知らずで戦えそうだな」

そんな時だった。

ズズズ……ッ。

空間が歪むような感覚。
俺は反射的に振り返った。

「誰だ?」

渓谷の岩陰から、一人の男が歩いてきた。
黒いオーラを纏い、片手には禍々しい光を放つ剣を持っている。
その顔は仮面のようにな表情がなく、瞳だけが赤く燃えていた。

「……カイル?」

俺は眉をひそめた。
気配が以前と全く違う。
弱々しさが消え、代わりに切れ味鋭い殺意の塊のような存在感。
そして、奴が持っている剣。

「……『聖剣』か。だが、ありゃ普通の聖剣じゃないな」

「クロウ……見つけたぞ……」

カイルが低い声で唸る。
それは人間の声というより、地獄の底から響く呪詛のようだった。

「俺の全てを奪った男……。その命で償ってもらうぞ」

「カイル様……?」

アリシアが息を呑む。
彼女にも分かったようだ。
目の前にいるのが、かつての仲間ではなく、何者かに作り変えられた怪物であることを。

「アリシア……お前もか……。俺を裏切り、あいつに寝返った売女が……!」

カイルが剣を振ると、黒い斬撃が飛んだ。

「きゃあっ!?」

俺は瞬時に前に出て、障壁を展開した。

ガギィィィン!!

「くっ、重いな……!」

俺の障壁にヒビが入る。
ただの物理攻撃じゃない。障壁の魔力そのものを喰らう性質がある。

「どうだクロウ! これが俺の新しい力だ! ボガードの時のような紛い物じゃない! 神から授かった『正義の力』だ!」

カイルが狂ったように笑う。

「神だと? 邪神の間違いだろ」

俺は冷ややかに言い返したが、内心では警戒レベルを引き上げた。
あの剣、厄介だ。
俺の『編集』スキルに干渉してくるような、異質な波動を感じる。
恐らく、俺の能力を解析し、対抗策として用意された『アンチ・エディット』装備だ。

「セリス、アリシア、下がってろ。こいつは俺がやる」

「ほう? 加勢しなくてよいのか?」

「ああ。元リーダーとしての、最後の責任だ。……引導を渡してやる」

俺は前に出た。
黒勇者カイル対、最強の荷物持ちクロウ。
かつての仲間同士による、本当の殺し合いが始まろうとしていた。

「死ねェェェッ!! クロウゥゥッ!!」

カイルが地面を砕きながら突進してくる。
俺は冷静にその動きを見極め、迎え撃つ構えを取った。

(続く)
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