敵を9割弱体化させていた呪術師、追放される。勇者が雑魚敵に負ける中、俺は即死チートで無双する~戻れと言われても、魔王の娘と幸せなので~

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第11話 聖剣の『改竄防止』を突破する。勇者は二度、全てを失う

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「死ねェェェッ!! クロウゥゥッ!!」

狂乱の叫びと共に、黒い勇者カイルが突っ込んでくる。
彼が手にした『聖剣アロンダイト』。
その刀身から溢れ出る黒い粒子は、大気中のマナを喰らい尽くし、空間そのものを切り裂くような異様な鋭さを放っていた。

「シールド!」

俺は即座に多重結界を展開した。
物理障壁、魔法障壁、空間断絶。
通常ならドラゴンブレスすら無傷で防ぐ鉄壁の守りだ。

だが。

ズバンッ!!

「……ッ!?」

俺の目の前で、三重の結界がまるで薄氷のように砕け散った。
防御魔法が通用しない。
いや、違う。剣が触れた瞬間に、結界を構成する術式が強制的に「無効化」されている。

「ハハハハハッ! 見たかクロウ! これが神の力だ!」

カイルが追撃を放つ。
俺はバックステップで紙一重でかわすが、剣圧だけで頬が切れ、血が滲んだ。

「無駄だ無駄だ! この聖剣の前では、お前の小細工なんて何の意味もない! お前の得意な『呪い』も『編集』も、全て切り裂いてやるよ!」

カイルの動きは速い。
聖剣が使用者の身体能力を限界を超えて引き上げているのだ。
筋肉が悲鳴を上げ、骨がきしむ音が聞こえるが、カイルは痛みを感じていない。
壊れた操り人形のように、ただ殺戮のためだけに踊っている。

「クロウ様!」

後方でアリシアが悲鳴を上げる。
俺は手で彼女を制しつつ、冷静に敵の戦力を分析した。

(なるほど。対・編集(アンチ・エディット)特化か)

俺のスキル『編集』は、対象の情報を読み取り、書き換える能力だ。
だが、あの聖剣はその「読み取り」を拒絶している。
まるで強力なファイアウォールが張られたサーバーのように、俺の干渉を弾き返しているのだ。

「解析不能(アクセス・デナイト)、か。よく出来た玩具だ」

「玩具だと!? 強がりを言うな!」

カイルが再び踏み込む。
今度は横薙ぎの一閃。
回避するスペースがない。

「終わりだぁッ!」

刃が俺の首に迫る。
その瞬間、俺は避けるのをやめた。
代わりに、右手を真っ直ぐに伸ばし、迫りくる聖剣の刀身を素手で掴みに行った。

「なっ……正気か!?」

カイルが嘲笑う。
防御魔法すら切り裂く刃を、素手で掴めばどうなるか。
指など一瞬で飛び、そのまま首まで切断される未来しか見えない。

だが、俺の指が刀身に触れた瞬間。

ガギィィィィィィンッ!!

凄まじい火花が散り、金属同士がぶつかり合うような音が響いた。
俺の手は無事だった。
聖剣の刃を、俺の掌が受け止めている。

「は……? な、なんで……切れない……?」

カイルの目が見開かれる。
俺はニヤリと笑った。

「お前の剣は『魔法』と『外部からの干渉』を無効化する。……なら、俺自身の肉体を物理的にガチガチに固めればいいだけの話だ」

俺が行ったのは、敵への干渉ではない。
自分自身への『自己編集(セルフ・エディット)』だ。

スキル発動、『肉体編集』。
対象:クロウの皮膚および骨格。
変更:【硬度:オリハルコン以上】【物理耐性:無限大】

あの剣が「他者からの書き換え」を防ぐなら、俺自身を書き換えて対抗すればいい。
単純な物理勝負なら、今の俺の右腕は伝説の盾すら凌駕する。

「そ、そんな馬鹿な……! 魔法を使わずに、肉体強度だけで聖剣を止めたっていうのか!?」

「言っただろ。お前は力に溺れているだけだ。……道具に使われている奴が、道具を使いこなす俺に勝てるわけがない」

俺は掴んだ刀身に力を込めた。
ミシミシと嫌な音が鳴る。

「は、離せッ! くそっ、動かない!?」

カイルが必死に剣を引き抜こうとするが、万力のように固定された俺の手からは微動だにしない。

「さて、解析(スキャン)完了だ」

接触している今なら、聖剣の内部構造(プログラム)が読み取れる。
なるほど、複雑な術式だ。
『所有者以外の干渉を拒絶する』
『所有者の生命力を攻撃力に変換する』
『対象の魔力構成を破壊する』

典型的な呪いの装備だ。
これを渡した奴は、最初からカイルを使い捨てにするつもりだったらしい。

「カイル、お前は本当に運がないな。……いや、選ぶ道を間違え続けているだけか」

「うるさい! 俺を憐れむな!」

「憐れんでなんかいない。……ただ、邪魔だから壊すだけだ」

俺は瞳を細めた。
聖剣のプロテクトは強固だ。
外部からの「破壊」や「弱体化」のコマンドは弾かれる。
なら、どうするか。

「処理しきれないほどの情報を流し込んでやる」

俺は空いている左手を天にかざした。

「アリシア! セリス! 魔力をよこせ!」

「はいっ!」
「フン、人使いの荒い男だ」

二人の返事と共に、膨大な魔力が俺の背中から流れ込んでくる。
聖女の純粋な光の魔力。
魔王の娘の濃密な闇の魔力。
そして、俺自身が持つ莫大な呪いの魔力。

それら全てをミックスし、情報の奔流として聖剣に叩き込む。

スキル発動、『情報過多(オーバーロード)』。

「が、あああぁぁぁっ!?」

カイルが悲鳴を上げる。
剣を通して、彼自身の脳内にも膨大な情報が逆流したのだ。
聖剣が激しく明滅する。
『エラー』『容量超過』『処理不能』。
俺の脳裏に、聖剣の悲鳴が聞こえてくるようだ。

「拒絶するなら、受け止めきれないほどの『現実』を食らえ」

バチバチバチッ!!

聖剣の表面に亀裂が走る。
どれほど優れたアンチウイルスソフトも、スーパーコンピューター並みのDDoS攻撃を受ければパンクする。
ましてや、神代の魔王と聖女の魔力を合わせたエネルギーだ。
ただの聖剣一本で耐えられるはずがない。

「や、やめろ……! 俺の力が……俺の聖剣が……!」

「砕けろ」

俺が握り込んだ拳に力を込める。

パキィィィィィィィンッ!!!!

世界が割れるような音と共に、アロンダイトは粉々に砕け散った。
黒い破片がキラキラと舞い、雪のように地面に降り注ぐ。

「あ……あぁ……」

カイルの手には、またしても柄だけが残された。
反動で吹き飛ばされた彼は、地面をごろごろと転がり、泥まみれになって止まった。
黒いオーラが消え、憑き物が落ちたように、ただの薄汚れた青年に戻る。

「はぁ……はぁ……。ま、まただ……。また、俺は負けたのか……」

カイルは空を見上げたまま、動かない。
体中から力が抜け、指一本動かす気力もないようだった。
彼を蝕んでいた呪いの代償か、その髪の一部は白く変色し、顔には深いシワが刻まれていた。
生命力を前借りしたツケだ。寿命が数十年は縮んだだろう。

俺はゆっくりと彼に歩み寄った。

「カイル。これで終わりだ」

俺は見下ろす。
殺そうと思えばいつでも殺せる。
だが、今の彼にその価値があるだろうか。

「殺せよ……」

カイルが掠れた声で呟く。

「もういい……殺してくれ。俺には何もない。金も、名誉も、力も、仲間も……全部失った。生きていても惨めなだけだ」

涙がこめかみを伝って落ちる。
それは、初めて見せる本心からの涙に見えた。

俺は無言で手をかざした。

「クロウ様?」

アリシアが不安そうに声をかける。
俺は構わず、スキルを発動した。

『状態編集』。
対象:カイル。
変更内容:【聖剣の呪いによる侵食の停止】

「……え?」

カイルが目を見開く。
死が訪れると思ったのに、逆に体の痛みが引いていく。
吸い取られた生命力までは戻せないが、これ以上死に向かうことはないように処置した。

「な、なんで……? 俺はお前を殺そうとしたんだぞ!?」

「死んで楽になろうなんて思うな」

俺は冷たく言い放った。

「お前は生きて、自分の愚かさを噛み締めろ。一生、手の届かない場所から俺たちが活躍するのを見て、後悔し続けろ。それが俺からの罰だ」

カイルは絶句し、やがて顔を歪めて泣き崩れた。
それは感謝なのか、悔恨なのか。
おそらく彼自身にも分かっていないだろう。

「行くぞ、二人とも」

俺は背を向けた。

「はい、クロウ様」

アリシアが小走りでついてくる。
彼女は一度だけカイルを振り返り、悲しげに、しかし決別するように目を伏せ、そして前を向いた。

「ふん、甘いなクロウは。あのような雑魚、生かしておいても害にしかならぬぞ」

セリスが呆れたように言うが、その口元はどこか楽しげだ。

「害になる気力も残ってないさ。それに、あいつの背後にいた奴へのメッセージでもある」

俺は谷の岩陰、先ほどカイルが現れた方向を睨みつけた。
そこには、微かな空間の揺らぎが残っていた。
黒幕――あの仮面の男は、カイルが負けた瞬間に逃走したようだ。

「次は、お前の番だとな」

俺たちは巨人の渓谷を後にした。
夕日が俺たちの影を長く伸ばす。
完全なる勝利。
だが、それは同時に、より巨大な敵――『教会』、そして『天界』との全面戦争の始まりでもあった。

   ◇

王都へ戻る道中。
馬車に揺られながら、俺は手に入れた戦利品(ドロップアイテム)の整理をしていた。
トロールの皮、サイクロプスの眼球。どれも高値で売れる。
そして、カイルが砕け散らせた聖剣の欠片。

「これ、素材としては一級品だな」

俺は黒い金属片をつまみ上げた。
『神の金属(オリハルコン)』の不純物を含んだ合金。
これを『編集』で精製すれば、俺たちの新しい装備が作れるかもしれない。

「クロウさん、少し休まれては? 魔力をだいぶ使われましたし」

アリシアが心配そうに覗き込んでくる。
膝枕でもしましょうか、と言いたげな雰囲気だ。

「我の膝の方が柔らかいぞ?」

対抗するようにセリスが主張する。

「どっちも遠慮しておく。……それより、街に着いたらすぐギルドだ」

「ギルドですか? 報告なら明日でも……」

「いや、嫌な予感がするんだ」

俺の『危険察知』スキルが、チリチリと警鐘を鳴らしていた。
カイルを操っていた黒幕。
あいつらが、ただ指をくわえて撤退するとは思えない。

   ◇

予感は的中した。
夜の帳が下りた王都に帰還し、ギルドの扉を開けた俺たちを待っていたのは、異様な光景だった。

いつもの賑わいはなく、重苦しい沈黙。
そして、カウンターの前には、数人の黒服の男たちが立っていた。
ギルドマスターのゼノスが、険しい顔で彼らと対峙している。

「ですから、彼は今不在だと……」

「戻ってきたようだが?」

黒服の一人が、入り口に立った俺たちに気づいて振り返った。
その胸元には、見慣れない紋章。
ドクロと蛇をあしらった、不気味な意匠だ。

「……誰だ、あんたたちは」

俺が一歩前に出る。
黒服の男――リーダー格と思われる長身の男が、恭しく、しかし慇懃無礼に一礼した。

「お初にお目にかかります、死神クロウ殿。我々は『裏ギルド』……通称『影の市場(シャドウ・マーケット)』の使いです」

「裏ギルド?」

冒険者ギルドとは別に、非合法な依頼や取引を扱う闇の組織。
噂には聞いていたが、まさか表のギルドに堂々と現れるとは。

「何の用だ。俺は正規の冒険者だ。裏の仕事に関わるつもりはない」

「まあ、そう仰らずに。……我々のボスが、貴殿にどうしても依頼したい件がありまして」

男は懐から一通の封蝋された手紙を取り出し、俺に差し出した。

「単刀直入に申し上げます。……ある『悪徳貴族』を、呪殺していただきたいのです」

ギルド内がざわめいた。
暗殺依頼(ヒットマン・ジョブ)。
それも、貴族殺し。
最も重い罪であり、バレれば国家反逆罪で処刑だ。

「断ると言ったら?」

「その場合は……貴殿が『魔王の娘』を匿っている事実を、教会本部に通報せねばなりませんな」

男の視線が、セリスに向けられた。

「……ッ」

空気が凍りついた。
セリスの正体は、幻影魔法で隠しているはずだ。
だが、こいつらは知っている。
どこから情報が漏れた?

「……脅しか」

「取引ですよ。この依頼を受けていただければ、我々は貴殿らの秘密を守り、さらに教会に対する防波堤となりましょう」

男はニヤリと笑った。
完全に足元を見られている。
もし教会がセリスの正体を知れば、聖騎士団が総出で押し寄せてくる。
俺たちは勝てるかもしれないが、この街にはいられなくなるだろう。

俺は手紙を受け取った。

「……ターゲットは?」

「バロン・ド・ロズワール。表向きは慈善家ですが、裏では奴隷売買と……『魔族の人体実験』を行っている外道です」

「魔族の実験だと?」

セリスの眉がピクリと動く。

「ええ。我々裏ギルドとしても、彼の暴走は目に余る。ですが、貴族相手に手出しするのはリスクが高い。そこで、外部の、それも最強の呪術師である貴殿に白羽の矢が立ったわけです」

なるほど。
毒を以て毒を制す、か。
悪党を殺すために、死神を雇う。

俺は手紙の封を切った。
そこには、ターゲットの屋敷の地図と、警備体制が記されていた。

「クロウさん……」

アリシアが不安そうに俺の袖を掴む。
暗殺なんて汚れ仕事、聖女だった彼女には耐え難いかもしれない。

だが、俺は決めた。

「いいだろう。引き受ける」

「賢明なご判断です」

「ただし、やり方は俺が決める。こそこそ隠れて殺すのは性に合わないんでな」

俺は手紙を握りつぶし、不敵に笑った。

「堂々と正面から乗り込んで、社会的に抹殺した上で、地獄に送ってやるよ」

黒服の男は一瞬きょとんとしたが、すぐに面白そうに笑った。

「……期待しておりますよ、死神殿」

こうして、俺たちは表の英雄から一転、闇の世界の抗争へと巻き込まれていくことになった。
ターゲットは悪徳貴族。
しかも、魔族の実験に関わっているとなれば、セリスにとっても他人事ではない。

「フン、同胞をモルモットにする下等生物か。……良い死に方はさせんぞ」

セリスの瞳が、本物の魔王のように赤く燃え上がった。
次の舞台は貴族街。
最強の呪術師と魔王の娘による、華麗なる「処刑劇」の幕開けだ。

(続く)
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