敵を9割弱体化させていた呪術師、追放される。勇者が雑魚敵に負ける中、俺は即死チートで無双する~戻れと言われても、魔王の娘と幸せなので~

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第14話 地下迷宮の決戦。怪物と化した勇者に、俺は最後の言葉を贈る

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王都の地下には、広大な下水道網が張り巡らされている。
それは単なる汚水の通り道ではなく、かつてこの地にあった旧文明の遺跡を利用して作られた、複雑怪奇な迷宮でもあった。
湿った空気にはカビと汚泥の臭いが充満し、時折、正体不明の魔物の呻き声が反響する。

「……臭いな。天界の連中は、こんな場所が好みなのか?」

俺は鼻を覆いながら、暗い通路を進んでいた。
足元を汚水が流れ、ピチャピチャと不快な音を立てる。

「奴らにとって場所など関係ありません。重要なのは『人目につかず』かつ『魔力が溜まりやすい』場所であることだけですから」

後ろに控える執事姿の堕天使、メルキセデクが淡々と答える。
彼は泥水の上を歩いているはずなのに、その革靴には一点の汚れもついていない。浮遊魔法か。便利なことだ。

「それにしても、嫌な気配ですね……。空気がビリビリと震えています」

アリシアが杖を握りしめ、不安そうに周囲を見回す。
彼女の感知能力は『堕聖女』になってから鋭敏さを増している。
今、この地下迷宮に満ちているのは、神聖でありながら吐き気を催すような、歪んだ魔力だった。

「ふん、腐った光の臭いだ。……どうやら、随分と悪趣味な宴を開いているようだな」

セリスが赤い瞳を光らせ、通路の奥を睨みつけた。
そこには、重厚な鉄扉があり、その隙間から眩い、しかし冷たい光が漏れ出していた。

俺たちは顔を見合わせ、頷き合う。
そして、俺がその扉を蹴り開けた。

ドォォンッ!!

扉が吹き飛び、視界が開ける。
そこは、巨大なドーム状の空間だった。
かつては地下神殿として使われていたのだろう。崩れかけた柱や祭壇があり、壁には古びた宗教画が描かれている。

だが、今の主役はそれらではない。

空間の中央、祭壇の上に、一人の男が磔にされていた。
いや、それはもう『男』と呼べるかどうかも怪しかった。

「……カイル?」

俺は思わずその名を呟いた。

かつて勇者と呼ばれた青年。
だが今の彼は、全身に無数の『聖遺物』を突き刺されていた。
背中からは金属質の翼が生え、腕は肥大化して異形の爪となり、皮膚からは黄金色の棘が突き出している。
目は白目を剥き、口からは涎と共に、意味のない言葉が漏れ出していた。

「ア……アァ……ボク……ワ……ユウ……シャ……」

「素晴らしいでしょう?」

祭壇の前には、白い仮面をつけた男が立っていた。
以前、カイルに聖剣を渡したあの『使徒』だ。

「ようこそ、死神クロウ一行。……いや、今は堕天使を従える魔王軍と呼ぶべきかな?」

仮面の男は、俺たちを見ても動じることなく、芝居がかった仕草で手を広げた。

「貴様……カイルに何をした?」

俺が低い声で問うと、男はクックッと笑った。

「何をした、とは心外ですね。彼は望んだのですよ。『力が欲しい』と。『お前に勝つための絶対的な力が欲しい』とね。だから我々は与えたのです。天界に保管されていた『廃棄聖遺物』の数々をね」

「廃棄聖遺物だと?」

「ええ。一つ一つが強力な力を持つ聖なる武具。ですが、強すぎて人間には扱えない。……ならば、人間の方を『器』として作り変えればいい。簡単な理屈でしょう?」

男はカイル――いや、怪物を指差した。

「複数の聖遺物を強制融合させ、人間の肉体を触媒にして固定する。名付けて『人造天使計画(キメラ・エンジェル・プロジェクト)』。……彼はその栄えある実験体第一号ですよ」

「実験体……だと」

アリシアが口元を押さえて絶句する。
かつて共に旅をした仲間が、ただの実験材料として使い潰され、あんな無惨な姿にされている。

「おのれ……人間を愚弄するのも大概にせよ!」

セリスが激昂し、闇の魔力を放出する。
だが、仮面の男は余裕のままだ。

「おっと、怒らないでください。……さあ、実験体1号『カイル』。起動テストの時間だ。目の前の敵を殲滅しろ」

男が指を鳴らした瞬間。

「ガアアアアアアアアアアッ!!!」

磔にされていたカイルが咆哮した。
鎖が引き千切られ、その異形の体が宙に浮く。
背中の金属翼が展開し、そこから無数の光弾が放たれた。

「散れッ!」

俺の指示で全員が左右に跳ぶ。
光弾が地面に着弾し、石畳を爆散させる。
ただの魔力弾じゃない。物理的な破壊力を伴った高密度のエネルギーだ。

「殺ス……コロス……クロウ……コロス……!!」

カイルが俺を認識し、突っ込んでくる。
速い。
以前の魔剣や聖剣によるドーピングとは次元が違う。
生物としての限界を超えた、ロケットのような加速。

「シールド!」

俺は障壁を展開するが、カイルの肥大化した爪がそれを紙のように引き裂いた。

「チッ、また対魔法無効化(アンチ・マジック)か!」

俺はバックステップで回避するが、衝撃波だけで吹き飛ばされる。
壁に激突し、粉塵が舞う。

「マスター!」
「クロウ!」

メルキセデクとセリスが加勢に入ろうとする。
だが、仮面の男がそれを阻んだ。

「おっと、君たちの相手は私だ。……実験の邪魔はさせないよ」

仮面の男が手を振ると、空間から数体の白いゴーレムが現れ、二人を足止めする。
アリシアも援護射撃をしようとするが、カイルが放つ無差別な光弾の雨に防戦一方だ。

「アハハハハ! 死ネ! 死ネェェェッ!」

カイルが狂ったように笑いながら、俺に迫る。
その瞳には、もう理性の光はない。
あるのは、植え付けられた殺意と、終わらない苦痛への悲鳴だけだ。

俺は瓦礫の中から立ち上がり、服の埃を払った。

「……カイル。お前、泣いてるのか?」

俺の目には見えていた。
怪物の顔の奥で、かつての人間のカイルが、血の涙を流して助けを求めているのが。
『痛い』『熱い』『助けて』『殺して』。
聖遺物に魂を食い荒らされながら、彼の自我は消滅寸前で悲鳴を上げていた。

「ウルサイ……! 俺ハ……勇者ダ……! 最強ナンダ……!」

カイルが右腕を振り上げる。
そこには、巨大な光の剣が形成されていた。
出力だけで言えば、先日のメルキセデクすら凌駕しているかもしれない。
暴走したエネルギーの塊だ。

「喰ラエェェェッ! 『ジャッジメント・ブレイク』!!」

極大の光の剣が振り下ろされる。
地下神殿ごと俺を両断するつもりだ。

俺は一歩も引かなかった。
避けることもしない。
ただ、静かに右手を掲げた。

「……編集(エディット)」

対象:カイル・フォン・アルス。
および、融合している全聖遺物。

カッッッ!!!!

光の剣が俺の頭上で止まった。
いや、俺の掌が、その膨大なエネルギーを受け止めていた。

「な……ン……ダト……?」

カイルの動きが止まる。
仮面の男も、ゴーレムの陰から目を見開いた。

「馬鹿な……!? あのエネルギー量は、戦術級魔法に匹敵するんだぞ!? それを素手で……!?」

「エネルギーだろうが物質だろうが、俺にとっては『情報』でしかない」

俺は光の剣を握り潰した。
パリンッ、と音を立てて光が砕け散る。

「カイル。お前は強くなりたかったんだよな。誰よりも強く、誰よりも認められたかった」

俺は一歩ずつ、カイルに歩み寄る。
カイルは後ずさろうとするが、背中の翼が勝手に動き、俺を攻撃しようとする。
聖遺物が暴走し、宿主の意思を無視して迎撃行動を取っているのだ。

「離セ……! 近寄ルナ……!」

「だが、お前は楽な道を選んだ。努力を放棄し、他人の力を借り、最後には人間であることすら捨てた」

俺は飛来する光弾を、指先だけで弾き飛ばしながら進む。
一歩、また一歩。

「その結果がこれだ。……満足か? これが、お前のなりたかった『最強』か?」

「違ウ……! 俺ハ……俺ハ……!」

カイルが頭を抱えて絶叫する。
融合した聖遺物が彼の肉体を侵食し、黄金の棘がさらに深く突き刺さる。

「ギャアアアアアッ! 痛イ! 痛イィィィッ!!」

「もういい」

俺はカイルの懐に入り込んだ。
異形の腕が俺を引き裂こうとするが、俺はそれをすり抜け、彼の胸に手を当てた。
かつて、心臓があった場所。
今は、赤黒く脈打つ『核』と化した聖遺物の塊がある場所へ。

「楽にしてやる」

俺は魔力を注ぎ込んだ。
破壊のためではない。
救済のための編集だ。

スキル発動、『存在編集(エディット)』。
対象:カイルの魂と肉体。
変更内容:【聖遺物とのリンク切断】および【痛覚遮断】。
そして――【最期の輝き(ラスト・グロウ)】。

「……あ……?」

カイルの絶叫が止まった。
彼の体から、禍々しい黄金の棘が抜け落ち、金属の翼が砂のように崩れていく。
肥大化した肉体が、元の青年の姿へと戻っていく。

同時に、彼の体は淡い光に包まれ始めた。
それは崩壊の光だ。
無理やり改造された肉体は、聖遺物という支えを失えば、もう形を保てない。
俺の力をもってしても、彼を「生かす」ことはできなかった。
魂が、既に磨耗しきっているからだ。

だから、俺は選んだ。
彼を怪物として死なせるのではなく、人間として終わらせることを。

カイルが膝から崩れ落ちる。
俺はそれを支えた。

「……クロウ……?」

カイルの瞳から、狂気が消えていた。
あるのは、憑き物が落ちたような、静かで穏やかな光だけ。

「よお。久しぶりだな、カイル。……お前、随分と小さくなったな」

「はは……そうだな……。お前が……でかく見えるよ……」

カイルは力なく笑った。
自分の体が指先から光の粒子になって消え始めていることに、彼は気づいているはずだ。
だが、恐怖はないようだった。

「ごめんな……クロウ……」

「……何がだ」

「全部だ……。お前を追放したことも……悪口言ったことも……殺そうとしたことも……」

カイルの声が震える。

「俺……怖かったんだ……。お前が凄すぎて……自分が偽物だってバレるのが怖くて……だから……」

「知ってたよ。お前が小心者なのは、昔からだ」

俺は短く答えた。
荷物持ちとして後ろを歩いていた頃、カイルが戦闘前に震えているのを何度も見ていた。
彼は虚勢を張っていただけだ。勇者という重圧に押し潰されそうになりながら。

「馬鹿な奴だ。素直に『助けてくれ』って言えば、俺はずっと荷物持ちをやっててやったのに」

「……ははっ、そうか……。そうだよな……」

カイルの目から涙が溢れる。
その涙もまた、光の粒子となって空へ舞い上がっていく。

「アリシア……リナ……ガンツ……。みんな……ごめん……」

「アリシアなら、あそこで見てるぞ」

俺が視線を向けると、アリシアが涙を堪えて立っていた。
カイルは彼女を見て、申し訳なさそうに、でも少しだけ安堵したように微笑んだ。

「よかった……元気そうで……」

そして、彼は俺を見た。

「クロウ……ありがとな……。最後にお前に……止められて……よかった……」

「……ああ」

「じゃあな……最強の……荷物持ち……」

カイルの体が、完全に光となって砕け散った。
地下神殿の天井へ向かって、無数の蛍火のように昇っていく。
後に残されたのは、彼が着ていたボロボロの服と、俺の腕に残る僅かな温もりだけだった。

静寂が戻る。

「……チッ、失敗作か」

空気を読まない声が響いた。
仮面の男だ。
彼はカイルの消滅を見ても、眉一つ動かさず、ただ実験データをメモするように呟いた。

「感情の抑制が不十分だったか。あるいは、人間の素体が脆すぎたか。……まあいい、データは取れた。次はもっと頑丈な器を用意しよう」

ブチッ。

俺の中で、何かが切れる音がした。

「……おい」

俺はゆっくりと立ち上がり、仮面の男の方を向いた。

「ん? 何か言い残すことでも?」

「お前、今なんて言った?」

俺の声は、自分でも驚くほど低く、冷え切っていた。
周囲の空間が、俺の怒りに呼応して黒く歪む。

「失敗作? データ? ……ふざけるなよ」

カイルは確かに馬鹿で、クズで、救いようのない奴だった。
だが、あいつは人間だ。
俺と一緒に旅をして、笑って、喧嘩した、かつての友人だ。
それを、ただの部品扱いしやがった。

「お前らが神を気取るのは勝手だがな……。俺の目の前で、俺の知ってる奴をゴミ扱いするのは許さねぇ」

俺は右手を突き出した。

「セリス! メルキセデク! アリシア! 手出し無用だ!」

「……承知した。思う存分やるがいい」

セリスがニヤリと笑って下がる。

「あの仮面……引き剥がして、その下のツラを拝んでやる」

俺の魔力が爆発した。
地下神殿全体が揺れる。
それは『編集』という理知的なスキルではない。
純粋な、暴力的なまでの魔力の奔流だ。

「ほぅ、やる気ですか。……ですが、私には勝てませんよ。私は天界の使徒の中でも上位の……」

「知るか」

俺は一歩踏み込んだ。
空間転移(テレポート)。
一瞬で仮面の男の目の前に現れる。

「なっ……!?」

「顔面編集(フェイス・エディット)。……まずはその仮面、邪魔だ」

バキィィィンッ!!

俺の拳が、仮面ごと男の顔面を捉えた。
仮面が粉砕され、男が吹き飛ぶ。

「ぐベラァッ!?」

男は地面を何度もバウンドし、壁に激突して止まった。
露わになった素顔は、整ってはいるが、今は鼻が折れ、血まみれになった情けない男の顔だった。

「い、痛い……! 貴様、私の美しい顔を……!」

「安心しろ。これからもっと酷くなる」

俺は再び転移し、彼の胸倉を掴み上げた。

「カイルが感じた痛み、お前にも味わわせてやる」

スキル発動、『痛覚共有』。
ソース:消滅直前のカイルの記憶データ。

「ぎゃああああああああああああッ!? 熱いッ! 痛いッ! 体が引き裂かれるぅぅぅッ!!」

男が絶叫する。
聖遺物に侵食される苦しみ。それをダイレクトに流し込まれたのだ。

「どうだ? これが『実験データ』の味だ」

俺は男を地面に叩きつけた。

「ひぃッ……許して……私は命令されただけで……」

「誰に?」

俺は男の頭を踏みつけた。

「い、言えない……言えば消される……!」

「言わなきゃ俺が消す。どっちがいい?」

俺が靴底に力を込めると、男は泣き叫びながら答えた。

「『聖女』だ! 『大聖女エリス』様だ! 彼女が全てを計画している!」

「大聖女……?」

俺とアリシアが顔を見合わせる。
大聖女エリス。
教会、いやこの世界における信仰の頂点に立つ存在。
慈愛の象徴とされる彼女が、黒幕?

「そ、そうだ! 彼女は世界を作り変えようとしている! 勇者システムも、人造天使も、全ては『新世界』のための礎……!」

「なるほどな。……よく喋った」

俺は足をどけた。

「だが、逃がすとは言ってないぞ」

俺は指をパチンと鳴らした。

スキル『追放編集』。
対象:使徒。
転送先:【次元の狭間(亜空間)】

「え……?」

男の足元に黒い穴が開いた。

「永遠に落ち続けろ。誰にも見つからない場所でな」

「や、やめろぉぉぉッ! 助けてくれぇぇぇッ!!」

男は悲鳴を残し、黒い穴へと吸い込まれていった。
穴が閉じると、そこには静寂だけが残った。

俺は大きく息を吐き、天井を見上げた。
カイルの光は、もう見えなかった。

「……さよなら、カイル」

俺は小さく呟いた。
これで、俺の過去との因縁は完全に断ち切られた。
だが、新たな、そして最大の敵の姿が浮き彫りになった。

「大聖女……か」

アリシアが不安そうに俺を見る。
セリスが俺の肩に手を置いた。

「行くぞ、クロウ。喧嘩を売られたのだ。買いに行かねば失礼だろう?」

「ああ、そうだな」

俺は拳を握りしめた。
この世界の頂点に立つ聖女様が、俺たちを排除しようというなら。
その頂点から引きずり下ろし、地面に這いつくばらせてやる。

俺たちの『成り上がり』は、ついに神殺しの領域へと足を踏み入れる。

「帰ろう。……今日は疲れた」

俺たちは地下迷宮を後にした。
その足取りは重いが、迷いはなかった。

(続く)
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