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第19話 上空に出現した『神の目』。うるさいので地上に引きずり下ろして説教してみた
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「神罰を下す」
その言葉が、王都にいる全ての人間、亜人、そして生きとし生けるものの脳髄に直接響き渡った。
耳で聞く音ではない。魂を直接震わせる、絶対的な命令としての響き。
それは恐怖という感情すら超越した、根源的な畏怖を植え付けるものだった。
王都の上空、青空がガラスのようにひび割れ、そこから覗く黄金の巨大な『目』。
『座天使(スローンズ)』級。
神の玉座を運ぶ車輪とも称される、人智を超えた高位次元の存在だ。
「あ……あぁ……神よ……」
半壊した貴賓席で、煤まみれになった大聖女エリスが、震える手で空を仰いだ。
彼女は涙を流していた。
それは感動の涙ではない。絶望の涙だ。
彼女は知っているのだ。このレベルの天使が現れるという意味を。
「神よ……お待ちください……! まだ……まだこの街には、多くの信徒が……!」
エリスが悲鳴のように叫ぶ。
だが、黄金の瞳は彼女を一瞥すらしなかった。
ただ、その視線をコロシアム全体、いや、王都全域へと向けただけだ。
「不浄なる地よ。浄化の光に焼かれよ」
瞳孔が収縮する。
瞬間、大気が重くなった。
比喩ではない。物理的な重圧(プレッシャー)が、都市全体を押し潰そうとしていた。
「ぐっ……!?」
「うわぁっ、体が……重い……!」
観客席の人々が、見えない巨人の手に押さえつけられたように床に這いつくばる。
建物がミシミシと悲鳴を上げ、ガラス窓が一斉に砕け散った。
「くっ、重力魔法か……! だが、桁が違うぞ……!」
セリスが膝をつきそうになりながらも、歯を食いしばって耐える。
彼女の魔王としての防御力がなければ、とっくに圧死しているレベルだ。
アリシアは杖を支えにして何とか立っているが、顔面は蒼白だ。
「マスター、危険です! あれは『天の重圧(ヘヴンズ・プレス)』。対象エリアの座標を強制的に圧縮し、物質を原子レベルで崩壊させる神の権能です!」
メルキセデクが警告する。彼自身、元天使としての格が違うため、この重圧には耐性があるようだが、それでも冷や汗を流している。
「原子崩壊だと? ……住民ごと消す気か」
俺は空を見上げた。
俺には重力は効かない。
自分の周囲の物理法則を『編集』で固定しているからだ。
だが、このままでは俺以外の全員がぺしゃんこになる。
「エリス! お前の神様だろ! なんとか言え!」
俺が怒鳴ると、エリスは虚ろな目で笑った。
「無理ですわ……。座天使様は……『システム』そのもの……。個人の意思など介在しません……。穢れを感知すれば、エリアごと削除(フォーマット)する……そういう存在なのです……」
「削除だと? ふざけるな」
俺は右手を天に突き出した。
「セリス、アリシア、メルキセデク。俺の後ろに入れ! 結界を張る!」
俺の号令に、三人が俺の背後に集まる。
俺は全魔力を解放し、ドーム状の多重結界を展開した。
ズズズズズズズッ……!!
空から降り注ぐ見えないプレス機のような圧力が、俺の結界と激突する。
結界がきしむ。
王都の周辺では、既に民家が倒壊し、地面が陥没し始めていた。
「雑音がうるさいですね」
黄金の瞳から、無感情な思念が降ってくる。
「バグの分際で抵抗するのですか。……出力上昇。対象エリア、完全消去」
カッッッ!!!!
瞳の中心から、極太の黄金の光線が放たれた。
それは先ほどの黒騎士の砲撃など比較にならない。
地図からこの国を消し去るほどの、戦略級殲滅魔法だ。
「しまっ……!?」
俺は瞬時に判断した。
防げない。
いや、俺だけなら防げるが、余波だけで王都が消し飛ぶ。
受け止めるのではなく、逸らすのも無理だ。
質量があまりにも大きすぎる。
なら、どうする。
「……なら、場所を変えるまでだ」
俺はニヤリと笑った。
スキル発動、『座標編集(テレポート・エディット)』。
対象:俺を中心とした半径5キロメートルの空間全て。
転送先:【上空1万メートル】
シュンッ。
音が消えた。
次の瞬間、俺たちは雲の上にいた。
いや、俺たちだけではない。
コロシアムも、観客席も、王都の街並みも。
地面ごとごっそりと、空の彼方へ瞬間移動したのだ。
ズドォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
直下――つまり、元々王都があった大地に、神の光線が直撃した。
遥か下界で、大地がえぐれ、巨大なクレーターが生まれるのが見えた。
もしあそこにいたら、塵一つ残らなかっただろう。
「……は?」
空中の『目』が、初めて感情のような揺らぎを見せた。
瞬きをするように、光が明滅する。
「対象消失……? いや、座標変動を確認。……貴様、都市ごと転移したのですか?」
「危ないところだったな。……おい、デカ目玉。人の家の屋根を吹き飛ばそうとするなんて、躾がなってないぞ」
俺はコロシアムの中央に立ち、空に浮かぶ目を見返した。
王都の人々は、窓の外が一瞬で雲海に変わったことに気づき、新たなパニックを起こしているが、少なくとも死んではいない。
「理解不能。……人間風情が、神の座標操作に干渉するなど……」
「神だか何だか知らないがな。俺の目の前で好き勝手するのは許さない」
俺は右手を、空の目に向けて握りしめる仕草をした。
「高いところから見下ろしてるのが気に入らないな。……降りてこいよ」
スキル発動、『位置情報編集(ポジション・エディット)』。
対象:座天使(黄金の目)。
変更内容:【高度:地上0メートル】
「……なっ!?」
黄金の瞳が大きく見開かれた。
今まで絶対的な安全圏である『高次元の空』にいたはずの本体が、強制的に物理的な座標を与えられ、引きずり落とされる感覚。
ヒュンッ!!
巨大な目が、隕石のように落下してきた。
狙いはコロシアムの中央、俺の目の前だ。
ズズゥゥゥゥゥンッ!!
巨大な黄金の球体(直径50メートルほどある)が、闘技場の砂煙を上げて着地した。
幸い、俺が重力制御をかけていたので衝撃は最小限だが、それでも観客席が震えるほどの質量だ。
「ぐ……ぬ……!? 地べたに……這いつくばらされるとは……!」
目の表面に血管のような光が走り、怒りを露わにする。
神の座にある者が、人間の足元に転がされた屈辱。
「よう。これで目線が合ったな」
俺は巨大な目の前に歩み寄り、コツコツと、その表面(角膜?)をノックした。
「誰の許可を得て、俺の街を壊そうとした?」
「貴様ァァァッ!! 不敬であるぞ! 我は神の代行者! 世界の管理者なるぞ!!」
「管理者が聞いて呆れる。バグ一つ直すのに、ハードディスクごと破壊するような無能が」
「黙れッ! 消えろ! 消滅しろぉぉッ!」
黄金の目から、至近距離で閃光が放たれようとする。
この距離なら外しようがない。
だが、俺はあくびをした。
「学習しない奴だな。……お前のその『神の権能』、今は俺のテリトリーの中だぞ」
スキル発動、『設定編集(コンフィグ・エディット)』。
対象:座天使の攻撃機能。
変更:【ダメージ判定:無効】&【視覚効果:花火】
カッ!
目から放たれた極大の破壊光線は、俺に当たる直前で――。
ヒュルルルル……ドンッ! パパパンッ!
色とりどりの火花となって弾けた。
赤、青、緑。
綺麗な打ち上げ花火が、闘技場の上空を彩る。
「…………は?」
座天使の思考が停止した。
観客席からも、悲鳴ではなく「え?」「綺麗……」という間抜けな声が漏れる。
「な、なんだこれは……!? 我の浄化の光が……ただの火薬に!?」
「お祝いにはちょうどいいだろ? 俺の優勝パレードだ」
俺はさらに、巨大な目に手を触れた。
「さて、どうしてくれようか。……このままここで石像にでもなって、観光名所にでもなるか?」
「ふ、ふざけるな! 我を辱める気か!」
「辱めてるのはお前自身だ。……いいか、よく聞け」
俺は声を低くし、巨大な瞳孔を睨みつけた。
「人間は、お前らの家畜じゃない。リソースでもない。……勝手に『管理』した気になってるようだが、俺がいる限り、この世界はお前らの思い通りにはさせない」
俺の魔力が、座天使の内部に侵食していく。
スキル『強制送還(バニッシュ)』――ではない。
もっと強烈なやつだ。
スキル発動、『存在定義書き換え』。
対象:座天使。
変更:【神格の剥奪】および【ただの魔力塊への還元】。
「や、やめろ……! 我の核(コア)に触れるな! 構成情報が……解ける……!?」
「神様への手土産だ。……『地上の人間は、思ったより強情でした』って伝えておけ」
俺が指をパチンと鳴らす。
バキィィィィンッ!!
巨大な黄金の目が、ガラス細工のように粉々に砕け散った。
飛び散った欠片は、黄金の粒子となって空へと舞い上がり、そして消滅した。
後に残ったのは、ただの青空だけ。
(あ、王都を空に上げたままだったから、下は雲海だけど)
静寂。
誰もが言葉を失っていた。
空から現れた神の使いを、地上に引きずり下ろし、説教した挙句、花火に変えて消滅させた。
もはや『最強』という言葉すら生温い。
「……終わったか」
俺は息を吐き、振り返った。
セリスが、呆れたような、でも誇らしげな顔で立っている。
「まったく。神を花火にするとは、魔王でも思いつかぬ悪趣味だぞ」
「派手なのが好きだろ? お前」
「ふふっ、否定はせん。……見事だったぞ、我が主(マスター)」
メルキセデクも深々と頭を下げる。
アリシアは、腰が抜けてへたり込んでいたが、俺と目が合うと、涙ぐみながら微笑んだ。
そして。
観客席から、パラパラと拍手が聞こえ始めた。
それは次第に大きくなり、やがて地鳴りのような大歓声へと変わった。
「クロウ! クロウ! クロウ!」
「神殺しの英雄だ!」
「俺たちを救ってくれた!」
彼らは見たのだ。
教会が崇める神が、自分たちを見捨てて殺そうとしたこと。
そして、悪魔と呼ばれた男が、命がけで自分たち(と街ごと)を守ってくれたことを。
その歓声の中、一人だけ、絶望の淵に沈んでいる者がいた。
大聖女エリスだ。
彼女は瓦礫の中で、震えながら俺を見ていた。
「嘘よ……。座天使様が……敗れるなんて……。神は……私たちを見捨てたの……?」
「見捨てたんじゃない。最初から見てなかったんだよ」
俺はエリスの前に立った。
彼女の周りには、ガレイン団長率いる騎士たちが包囲網を敷いている。
もう、彼女を守る聖騎士はいない。彼らもまた、神の無慈悲な攻撃を目の当たりにし、剣を捨てていたからだ。
「エリス。お前の負けだ」
「……っ!」
エリスは唇を噛み切り、血を流しながら俺を睨んだ。
だが、その目にはもう、かつてのような傲慢な光はない。
あるのは、拠り所を失った子供のような怯えだけだ。
「殺しなさい……。敗者を辱めるのは、英雄のすることではありませんわ……」
「殺さないさ。……お前には、人間として裁きを受けてもらう」
俺はガレイン団長に目配せした。
団長が頷き、部下に合図を送る。
騎士たちがエリスの手首に『魔封じの手錠』をかけた。
「大聖女エリス。国家転覆罪、および大量殺人未遂の容疑で逮捕する」
「……フフッ、人間が……神の代行者を裁くというの……?」
エリスは力なく笑った。
連行されていく彼女の背中は、驚くほど小さく見えた。
かつて世界を動かしていた女傑の、あまりにも呆気ない幕切れだった。
「さて、と」
俺は空を見上げた。
まだ王都は雲の上だ。これを元の場所に戻さなきゃならない。
「……めんどくさいな。このまま天空都市ってことにしちゃダメか?」
「ダメに決まっておろう。酸素が薄い」
セリスが即座に突っ込む。
「はいはい。……じゃあ、ちょっと揺れるぞ」
俺は再びスキルを発動し、王都全体を元の座標へと戻した。
ズシン、という軽い振動と共に、景色がいつもの場所に戻る。
これで、一件落着だ。
……とはいかないだろうな。
天界の上層部は、今回の件で本気で俺を潰しにかかるだろう。
それに、エリスが失脚した後の教会の混乱、各国のパワーバランスの変化。
やることは山積みだ。
だが、まあいい。
俺には最強の仲間がいる。
どんな敵が来ようと、書き換えてやるだけだ。
「帰ろうぜ。腹減った」
「うむ! 祝勝会だ! 今日は肉に加え、寿司というものを食べてみたい!」
「私は甘いものがいいです!」
「承知しました。最高級のレストランを予約しておきましょう」
俺たちは笑い合いながら、歓声に包まれるコロシアムを後にした。
『最強の荷物持ち』の伝説は、ここからが本当の始まりだ。
◇
【第3章:成り上がりとざまぁ】 完
次章予告
【第4章:最強のその先へ】
王都を救い、名実ともに英雄となった俺。
しかし、有名になりすぎてスローライフどころじゃなくなった!
「クロウ様! 我が国の大将軍になってください!」
「いや、うちの魔法大学の学長に!」
「クロウ殿、余の娘(王女ソフィア)との婚約の話だが……」
ひっきりなしに来る勧誘から逃げるため、俺たちが選んだのは――未開の地での新国家建設!?
第20話 王都を離れ、未開の地を開拓することに
「ここを俺たちの国とする!」
魔境と呼ばれる土地を、スキル『地形編集』で一瞬にして楽園に変えてみた。
温泉! マイホーム! そして新たなヒロイン(魔境の主)との出会い!?
一方、牢獄のエリスの元に、謎の訪問者が現れる。
「……復讐したいか?」
物語は新たなステージへ。
最強の建国ファンタジー編、スタート!
(続く)
その言葉が、王都にいる全ての人間、亜人、そして生きとし生けるものの脳髄に直接響き渡った。
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『座天使(スローンズ)』級。
神の玉座を運ぶ車輪とも称される、人智を超えた高位次元の存在だ。
「あ……あぁ……神よ……」
半壊した貴賓席で、煤まみれになった大聖女エリスが、震える手で空を仰いだ。
彼女は涙を流していた。
それは感動の涙ではない。絶望の涙だ。
彼女は知っているのだ。このレベルの天使が現れるという意味を。
「神よ……お待ちください……! まだ……まだこの街には、多くの信徒が……!」
エリスが悲鳴のように叫ぶ。
だが、黄金の瞳は彼女を一瞥すらしなかった。
ただ、その視線をコロシアム全体、いや、王都全域へと向けただけだ。
「不浄なる地よ。浄化の光に焼かれよ」
瞳孔が収縮する。
瞬間、大気が重くなった。
比喩ではない。物理的な重圧(プレッシャー)が、都市全体を押し潰そうとしていた。
「ぐっ……!?」
「うわぁっ、体が……重い……!」
観客席の人々が、見えない巨人の手に押さえつけられたように床に這いつくばる。
建物がミシミシと悲鳴を上げ、ガラス窓が一斉に砕け散った。
「くっ、重力魔法か……! だが、桁が違うぞ……!」
セリスが膝をつきそうになりながらも、歯を食いしばって耐える。
彼女の魔王としての防御力がなければ、とっくに圧死しているレベルだ。
アリシアは杖を支えにして何とか立っているが、顔面は蒼白だ。
「マスター、危険です! あれは『天の重圧(ヘヴンズ・プレス)』。対象エリアの座標を強制的に圧縮し、物質を原子レベルで崩壊させる神の権能です!」
メルキセデクが警告する。彼自身、元天使としての格が違うため、この重圧には耐性があるようだが、それでも冷や汗を流している。
「原子崩壊だと? ……住民ごと消す気か」
俺は空を見上げた。
俺には重力は効かない。
自分の周囲の物理法則を『編集』で固定しているからだ。
だが、このままでは俺以外の全員がぺしゃんこになる。
「エリス! お前の神様だろ! なんとか言え!」
俺が怒鳴ると、エリスは虚ろな目で笑った。
「無理ですわ……。座天使様は……『システム』そのもの……。個人の意思など介在しません……。穢れを感知すれば、エリアごと削除(フォーマット)する……そういう存在なのです……」
「削除だと? ふざけるな」
俺は右手を天に突き出した。
「セリス、アリシア、メルキセデク。俺の後ろに入れ! 結界を張る!」
俺の号令に、三人が俺の背後に集まる。
俺は全魔力を解放し、ドーム状の多重結界を展開した。
ズズズズズズズッ……!!
空から降り注ぐ見えないプレス機のような圧力が、俺の結界と激突する。
結界がきしむ。
王都の周辺では、既に民家が倒壊し、地面が陥没し始めていた。
「雑音がうるさいですね」
黄金の瞳から、無感情な思念が降ってくる。
「バグの分際で抵抗するのですか。……出力上昇。対象エリア、完全消去」
カッッッ!!!!
瞳の中心から、極太の黄金の光線が放たれた。
それは先ほどの黒騎士の砲撃など比較にならない。
地図からこの国を消し去るほどの、戦略級殲滅魔法だ。
「しまっ……!?」
俺は瞬時に判断した。
防げない。
いや、俺だけなら防げるが、余波だけで王都が消し飛ぶ。
受け止めるのではなく、逸らすのも無理だ。
質量があまりにも大きすぎる。
なら、どうする。
「……なら、場所を変えるまでだ」
俺はニヤリと笑った。
スキル発動、『座標編集(テレポート・エディット)』。
対象:俺を中心とした半径5キロメートルの空間全て。
転送先:【上空1万メートル】
シュンッ。
音が消えた。
次の瞬間、俺たちは雲の上にいた。
いや、俺たちだけではない。
コロシアムも、観客席も、王都の街並みも。
地面ごとごっそりと、空の彼方へ瞬間移動したのだ。
ズドォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
直下――つまり、元々王都があった大地に、神の光線が直撃した。
遥か下界で、大地がえぐれ、巨大なクレーターが生まれるのが見えた。
もしあそこにいたら、塵一つ残らなかっただろう。
「……は?」
空中の『目』が、初めて感情のような揺らぎを見せた。
瞬きをするように、光が明滅する。
「対象消失……? いや、座標変動を確認。……貴様、都市ごと転移したのですか?」
「危ないところだったな。……おい、デカ目玉。人の家の屋根を吹き飛ばそうとするなんて、躾がなってないぞ」
俺はコロシアムの中央に立ち、空に浮かぶ目を見返した。
王都の人々は、窓の外が一瞬で雲海に変わったことに気づき、新たなパニックを起こしているが、少なくとも死んではいない。
「理解不能。……人間風情が、神の座標操作に干渉するなど……」
「神だか何だか知らないがな。俺の目の前で好き勝手するのは許さない」
俺は右手を、空の目に向けて握りしめる仕草をした。
「高いところから見下ろしてるのが気に入らないな。……降りてこいよ」
スキル発動、『位置情報編集(ポジション・エディット)』。
対象:座天使(黄金の目)。
変更内容:【高度:地上0メートル】
「……なっ!?」
黄金の瞳が大きく見開かれた。
今まで絶対的な安全圏である『高次元の空』にいたはずの本体が、強制的に物理的な座標を与えられ、引きずり落とされる感覚。
ヒュンッ!!
巨大な目が、隕石のように落下してきた。
狙いはコロシアムの中央、俺の目の前だ。
ズズゥゥゥゥゥンッ!!
巨大な黄金の球体(直径50メートルほどある)が、闘技場の砂煙を上げて着地した。
幸い、俺が重力制御をかけていたので衝撃は最小限だが、それでも観客席が震えるほどの質量だ。
「ぐ……ぬ……!? 地べたに……這いつくばらされるとは……!」
目の表面に血管のような光が走り、怒りを露わにする。
神の座にある者が、人間の足元に転がされた屈辱。
「よう。これで目線が合ったな」
俺は巨大な目の前に歩み寄り、コツコツと、その表面(角膜?)をノックした。
「誰の許可を得て、俺の街を壊そうとした?」
「貴様ァァァッ!! 不敬であるぞ! 我は神の代行者! 世界の管理者なるぞ!!」
「管理者が聞いて呆れる。バグ一つ直すのに、ハードディスクごと破壊するような無能が」
「黙れッ! 消えろ! 消滅しろぉぉッ!」
黄金の目から、至近距離で閃光が放たれようとする。
この距離なら外しようがない。
だが、俺はあくびをした。
「学習しない奴だな。……お前のその『神の権能』、今は俺のテリトリーの中だぞ」
スキル発動、『設定編集(コンフィグ・エディット)』。
対象:座天使の攻撃機能。
変更:【ダメージ判定:無効】&【視覚効果:花火】
カッ!
目から放たれた極大の破壊光線は、俺に当たる直前で――。
ヒュルルルル……ドンッ! パパパンッ!
色とりどりの火花となって弾けた。
赤、青、緑。
綺麗な打ち上げ花火が、闘技場の上空を彩る。
「…………は?」
座天使の思考が停止した。
観客席からも、悲鳴ではなく「え?」「綺麗……」という間抜けな声が漏れる。
「な、なんだこれは……!? 我の浄化の光が……ただの火薬に!?」
「お祝いにはちょうどいいだろ? 俺の優勝パレードだ」
俺はさらに、巨大な目に手を触れた。
「さて、どうしてくれようか。……このままここで石像にでもなって、観光名所にでもなるか?」
「ふ、ふざけるな! 我を辱める気か!」
「辱めてるのはお前自身だ。……いいか、よく聞け」
俺は声を低くし、巨大な瞳孔を睨みつけた。
「人間は、お前らの家畜じゃない。リソースでもない。……勝手に『管理』した気になってるようだが、俺がいる限り、この世界はお前らの思い通りにはさせない」
俺の魔力が、座天使の内部に侵食していく。
スキル『強制送還(バニッシュ)』――ではない。
もっと強烈なやつだ。
スキル発動、『存在定義書き換え』。
対象:座天使。
変更:【神格の剥奪】および【ただの魔力塊への還元】。
「や、やめろ……! 我の核(コア)に触れるな! 構成情報が……解ける……!?」
「神様への手土産だ。……『地上の人間は、思ったより強情でした』って伝えておけ」
俺が指をパチンと鳴らす。
バキィィィィンッ!!
巨大な黄金の目が、ガラス細工のように粉々に砕け散った。
飛び散った欠片は、黄金の粒子となって空へと舞い上がり、そして消滅した。
後に残ったのは、ただの青空だけ。
(あ、王都を空に上げたままだったから、下は雲海だけど)
静寂。
誰もが言葉を失っていた。
空から現れた神の使いを、地上に引きずり下ろし、説教した挙句、花火に変えて消滅させた。
もはや『最強』という言葉すら生温い。
「……終わったか」
俺は息を吐き、振り返った。
セリスが、呆れたような、でも誇らしげな顔で立っている。
「まったく。神を花火にするとは、魔王でも思いつかぬ悪趣味だぞ」
「派手なのが好きだろ? お前」
「ふふっ、否定はせん。……見事だったぞ、我が主(マスター)」
メルキセデクも深々と頭を下げる。
アリシアは、腰が抜けてへたり込んでいたが、俺と目が合うと、涙ぐみながら微笑んだ。
そして。
観客席から、パラパラと拍手が聞こえ始めた。
それは次第に大きくなり、やがて地鳴りのような大歓声へと変わった。
「クロウ! クロウ! クロウ!」
「神殺しの英雄だ!」
「俺たちを救ってくれた!」
彼らは見たのだ。
教会が崇める神が、自分たちを見捨てて殺そうとしたこと。
そして、悪魔と呼ばれた男が、命がけで自分たち(と街ごと)を守ってくれたことを。
その歓声の中、一人だけ、絶望の淵に沈んでいる者がいた。
大聖女エリスだ。
彼女は瓦礫の中で、震えながら俺を見ていた。
「嘘よ……。座天使様が……敗れるなんて……。神は……私たちを見捨てたの……?」
「見捨てたんじゃない。最初から見てなかったんだよ」
俺はエリスの前に立った。
彼女の周りには、ガレイン団長率いる騎士たちが包囲網を敷いている。
もう、彼女を守る聖騎士はいない。彼らもまた、神の無慈悲な攻撃を目の当たりにし、剣を捨てていたからだ。
「エリス。お前の負けだ」
「……っ!」
エリスは唇を噛み切り、血を流しながら俺を睨んだ。
だが、その目にはもう、かつてのような傲慢な光はない。
あるのは、拠り所を失った子供のような怯えだけだ。
「殺しなさい……。敗者を辱めるのは、英雄のすることではありませんわ……」
「殺さないさ。……お前には、人間として裁きを受けてもらう」
俺はガレイン団長に目配せした。
団長が頷き、部下に合図を送る。
騎士たちがエリスの手首に『魔封じの手錠』をかけた。
「大聖女エリス。国家転覆罪、および大量殺人未遂の容疑で逮捕する」
「……フフッ、人間が……神の代行者を裁くというの……?」
エリスは力なく笑った。
連行されていく彼女の背中は、驚くほど小さく見えた。
かつて世界を動かしていた女傑の、あまりにも呆気ない幕切れだった。
「さて、と」
俺は空を見上げた。
まだ王都は雲の上だ。これを元の場所に戻さなきゃならない。
「……めんどくさいな。このまま天空都市ってことにしちゃダメか?」
「ダメに決まっておろう。酸素が薄い」
セリスが即座に突っ込む。
「はいはい。……じゃあ、ちょっと揺れるぞ」
俺は再びスキルを発動し、王都全体を元の座標へと戻した。
ズシン、という軽い振動と共に、景色がいつもの場所に戻る。
これで、一件落着だ。
……とはいかないだろうな。
天界の上層部は、今回の件で本気で俺を潰しにかかるだろう。
それに、エリスが失脚した後の教会の混乱、各国のパワーバランスの変化。
やることは山積みだ。
だが、まあいい。
俺には最強の仲間がいる。
どんな敵が来ようと、書き換えてやるだけだ。
「帰ろうぜ。腹減った」
「うむ! 祝勝会だ! 今日は肉に加え、寿司というものを食べてみたい!」
「私は甘いものがいいです!」
「承知しました。最高級のレストランを予約しておきましょう」
俺たちは笑い合いながら、歓声に包まれるコロシアムを後にした。
『最強の荷物持ち』の伝説は、ここからが本当の始まりだ。
◇
【第3章:成り上がりとざまぁ】 完
次章予告
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「……復讐したいか?」
物語は新たなステージへ。
最強の建国ファンタジー編、スタート!
(続く)
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