敵を9割弱体化させていた呪術師、追放される。勇者が雑魚敵に負ける中、俺は即死チートで無双する~戻れと言われても、魔王の娘と幸せなので~

eringi

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第20話 王都を離れ、未開の地を開拓することに

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「クロウ殿! どうか我が国の大将軍に!」
「いやいや、我が魔法大学の学長こそが相応しい! 年俸は白金貨で支払いますぞ!」
「クロウ様、ぜひ我が商会の顧問に……!」

王都を救い、神すら退けた英雄に対する熱狂は、俺の予想を遥かに超えていた。
宿屋『銀の月亭』の前には、連日連夜、貴族や他国の使者、商人たちの馬車が列をなし、ロビーは贈り物と勧誘の手紙で埋め尽くされていた。
外出すれば「死神様だ!」「ありがたや!」と拝まれ、食事に行けば店主が「お代はいりません! サインください!」と泣いて頼んでくる。

最初は悪い気はしなかった。
かつて「荷物持ち」と蔑まれていた俺が、国一番のVIP扱いされているのだから、ざまぁみろという気持ちもあった。
だが、それも三日続けばただのストレスだ。

「……限界だ」

俺は宿のベッドに突っ伏して呻いた。

「プライベートがなさすぎる。トイレに行くのにも護衛がついてこようとするし、窓を開ければ望遠鏡で監視されてる気配がするし……」

「ふむ、人気者は辛いな」

隣のソファでは、セリスが優雅に果物をかじっている。
彼女は「魔王の娘」という正体がバレかかっているにも関わらず、その圧倒的な美貌とカリスマ性で「クロウ様の異国の婚約者」という設定で通っていた。
むしろ、彼女目当ての貴族のボンボンまで現れる始末だ。

「マスター。本日はさらに厄介なアポイントメントが入っております」

執事のメルキセデクが、スケジュール帳を見ながら無表情に告げる。

「正午より、国王陛下との昼食会。……議題は、第二王女ソフィア様との『婚約』について正式に進めたいとのことです」

「げっ、まだ言ってるのかあの王様」

ソフィア王女。以前、俺が呪いを解いて救ったお姫様だ。
あれ以来、彼女は俺に対して猛烈なアプローチをかけてきている。
「クロウ様のためにお弁当を作りました!」と城から抜け出してきたり、「私をさらってくださっても構いませんのよ?」と熱っぽい視線を送ってきたり。
可愛らしい子だが、王族と結婚なんてしたら、一生城に縛り付けられることになる。
俺の目指す「自由で最強のスローライフ」とは対極だ。

「断る。……というか、逃げるぞ」

俺はガバッと起き上がった。

「逃げる? どこへだ?」

セリスが興味深そうに身を乗り出す。

「どこでもいい。人間が少なくて、静かで、誰も俺たちに干渉できない場所だ。……国を出る」

「ほう! それは名案だ! この国の人間どもには飽きていたところだ」

セリスが目を輝かせる。
アリシアも、洗濯物を畳む手を止めて微笑んだ。

「私はクロウ様が行くところなら、地の果てまでもついて行きます。……それに、最近ちょっと有名になりすぎて、外を歩きにくかったですし」

アリシアも『仮面の魔法使い』の正体が元聖女ではないかと噂され始めており、教会残党からの視線が痛いらしい。

「よし、決まりだ。メルキセデク、荷物をまとめろ。……いや、荷造りなんていらないか」

俺は指を鳴らした。

スキル発動、『範囲収納(エリア・ストレージ)』。
対象:部屋の中にある俺たちの私物全て。

シュンッ。
一瞬で部屋が空っぽになった。
セリスが買い漁った服も、アリシアの生活用品も、全て俺の亜空間倉庫(インベントリ)に放り込んだ。

「準備完了だ。……行き先は、地図を見て決めるか」

俺は広げた大陸地図の上で指を滑らせた。
王都から離れていて、他国の干渉を受けにくく、それでいて資源が豊富な場所。
そんな都合の良い場所があるかと思ったが、俺の『探知』スキルが、ある一点で反応した。

大陸の北端。
人間と魔族の領土の境界線に位置する、広大な未開拓領域。
『竜の顎(あぎと)』と呼ばれる大渓谷地帯だ。
Sランク級の魔物が跋扈し、険しい地形と過酷な気候のせいで、何百年もの間、誰も開拓に成功していない魔境。

「ここだ」

俺が指差すと、セリスがニヤリと笑った。

「『竜の顎』か。懐かしいな。あそこは昔、強力な古竜(エンシェント・ドラゴン)が住み着いていた場所だ。……温泉も湧くと聞いたことがあるぞ」

「温泉! それは重要だ」

日本人の血(前世の記憶)が騒ぐ。
広大な土地、手つかずの自然、そして温泉。
魔物が強い? 俺たちにとっては食材かペットに過ぎない。

「よし、ここをキャンプ地とする! 転移だ!」

俺たちは宿屋に「しばらく旅に出ます。探さないでください」と書き置きを残し、魔法陣を展開した。
窓の外には、まだ俺への面会を求める行列が続いている。
悪いが、俺はもう付き合ってられない。

「さらばだ、王都よ」

視界が歪む。
俺たちは光に包まれ、喧騒の都から消え去った。

   ◇

転移した先は、別世界だった。
切り立った断崖絶壁が連なる大渓谷。
空を覆うような原生林。
そして、遠くからは獣の咆哮と、大地の震動が伝わってくる。
空気は澄んでいるが、濃厚な魔素が含まれており、普通の人間なら立っているだけで魔力酔いを起こすレベルだ。

「ふむ、良い空気だ。王都の澱んだ空気とは大違いだな」

セリスが胸いっぱいに空気を吸い込み、満足げに頷く。
アリシアは少しふらついたが、すぐに『堕聖女』モードで環境適応し、平気な顔になった。

「ここが『竜の顎』……。噂以上の魔境ですね。私の感知範囲だけでも、Aランク以上の反応がゴロゴロしています」

「素晴らしい。実験材料には困りませんね」

メルキセデクも眼鏡を光らせている。

「さて、まずは拠点作りだ。野宿も悪くないが、どうせなら快適な家が欲しい」

俺は目の前に広がる荒れ地――巨大な岩が散乱し、雑草が生い茂る平地を見渡した。
広さは東京ドーム数個分はあるだろうか。
ここを俺たちの国(ホーム)にする。

「見てろよ。……『整地』だ」

俺は地面に手を触れた。

スキル発動、『地形編集(テラ・フォーミング)』。
対象エリア:半径3キロメートル。
実行内容:【岩石除去】【地盤硬化】【水平化】【雑草消去】

ズズズズズズズズッ……!!

大地が唸りを上げた。
散乱していた巨岩が砂のように分解されて消え、凹凸のあった地面がみるみるうちに平らになっていく。
まるで神の見えざる手が、粘土細工を均すかのように。
数秒後には、そこは見事なまでに整備された広大な更地になっていた。

「相変わらずデタラメな力だな……。土木業者が泣いて逃げ出すぞ」

セリスが呆れつつも感心する。

「土台はできた。次は上物だ」

俺は脳内で設計図を描く。
どんな家にするか。
王城みたいな堅苦しいのは嫌だ。
かといって小屋では狭い。
和風建築も捨てがたいが、ファンタジー世界だし、洋風の屋敷(マンション)とリゾートホテルを足して二で割ったような感じにするか。

スキル発動、『建築編集(ビルド・エディット)』。
素材:【現地調達(岩石・木材・魔力)】。
デザイン:【俺の理想のマイホーム】。

ゴゴゴゴゴゴゴッ!!

更地の中央から、白い石材が隆起し、柱となり、壁となり、屋根が形成されていく。
三階建ての白亜の豪邸。
広いバルコニー、ガラス張りのサンルーム、そして屋上庭園。
周囲には強固な城壁も自動生成させた。

「……完成」

「は?」

アリシアが口をあんぐりと開けている。
わずか一分で、王族の別荘顔負けの豪邸が出現したのだから無理もない。

「中も見てくれ。家具も一通り揃えてある」

俺たちが中に入ると、エントランスは吹き抜けで、ふかふかの絨毯が敷かれていた。
キッチンには魔導式の冷蔵庫やコンロ(俺が構造を書き換えて作った)が完備され、リビングには巨大なソファ。
個室も十分にあり、トイレは水洗(ウォシュレット付き)だ。

「す、すごいです……! 王城より快適そうです!」

アリシアがはしゃいでキッチンを見て回る。

「マスター。地下には広大な倉庫と、トレーニングルーム、さらに魔導実験室まで完備されているようですね。完璧です」

メルキセデクも執事としての血が騒ぐのか、早くも掃除用具をチェックし始めた。

「だがクロウよ、肝心なものを忘れておらんか?」

セリスが詰め寄ってくる。

「分かってるよ。……庭だろ?」

俺は屋敷の裏手へ案内した。
そこには、先ほどまで岩山だった場所を削って作った、巨大な露天風呂スペースがあった。

「ここから温泉が出るはずだ」

俺は地面の一角を指差した。

スキル発動、『水源編集』。
対象:地脈。
実行内容:【源泉引き込み】&【温度調整:42度】

ボコッ、ボコッ、シュワァァァァッ!!

地面から白濁した湯が湧き出し、岩で作った湯船を満たしていく。
湯気が立ち上り、硫黄の香りが漂う。
正真正銘の天然温泉だ。
しかも、効能に『疲労回復』『美肌効果』『魔力増強』を付与しておいた。

「おお……! これだ、これを待っていたのだ!」

セリスが目を輝かせ、服を脱ぎそうになるのを慌てて止めた。

「待て待て、まだ囲いがない。丸見えだぞ」

「誰も見ておらん。……いや、お主なら見ても良いぞ?」

「俺が困るんだよ。……とりあえず、今日は移動と建築で疲れた。風呂に入って、宴会でもするか」

「賛成だ! 肉だ、肉を焼け!」

こうして、俺たちの新生活一日目は、最高のスタートを切った。
誰にも邪魔されない、俺たちだけの楽園。
夜には満天の星空の下、温泉に浸かり、セリスとアリシアの肌が月光に輝くのを目のやり場に困りながら眺め、メルキセデクが作った極上の料理に舌鼓を打った。

「極楽だな……」

俺は湯船で呟いた。
もう王都には戻れない。戻りたくない。
ここで一生暮らしてもいいかもしれない。

……と思っていたのだが。

やはり、異世界というのは俺を放っておいてはくれないらしい。

翌朝。
俺がテラスで優雅にコーヒーを飲んでいると、屋敷の周囲を囲む森の方から、凄まじい地響きが近づいてきた。
ズシン、ズシン、と巨人が歩くような音。
そして、木々がなぎ倒され、現れたのは――。

体長二十メートルはあるだろうか。
全身が鋼鉄のような鱗で覆われた、巨大な赤竜(レッドドラゴン)だった。
その背中には、禍々しい角が生え、口からは灼熱の炎が漏れている。

「グルルルルル……」

ドラゴンは俺の屋敷を見下ろし、低い声で唸った。
その威圧感は、先日戦った黒騎士ゼファーや、座天使にも匹敵する。
SSランク。
この魔境『竜の顎』の主(ぬし)だ。

「おいおい、引っ越しの挨拶に来たってわけか?」

俺はコーヒーカップを置き、立ち上がった。
セリスたちも気配を察知して飛び出してきた。

「ほう、あれは『炎獄竜(インフェルノ・ドラゴン)』か。まだ生きていたとはな」

セリスが懐かしそうに言う。

「知り合いか?」

「昔、喧嘩したことがある。……当時はもう少し小さかったがな」

ドラゴンは俺たちを認識すると、大きく息を吸い込んだ。

「グオオオオオオオオオオオッ!!」

咆哮一閃。
森の木々が衝撃波で消し飛び、俺の屋敷の防壁がビリビリと震える。
挨拶にしては激しすぎる。
どうやら、自分の縄張りに勝手に変な建物を建てられたことに腹を立てているらしい。

「人間ヨ……我ガ眠リヲ妨ゲルノハ誰ダ……」

ドラゴンの口から、重厚な言葉が発せられた。
知性があるタイプか。なら話が早い。

「ここを管理しているクロウだ。……土地の使用料なら払う気はないぞ。ここは無主地(オーナーレス)だったはずだ」

「土地……? 愚カナ……。コノ大地ハ全テ我ガ領域……。侵入者ハ灰トナレ……!」

ドラゴンが口を大きく開けた。
喉の奥で、極大のブレスが輝く。

「交渉決裂か。……なら、実力でオーナー権を譲ってもらうしかないな」

俺は前に出た。
セリスが楽しそうに笑う。

「手伝うか、クロウ?」

「いや、いい。……新しいペットが欲しかったところだ」

俺は右手をかざした。

「ブレスを吐く前に終わらせる」

スキル発動、『サイズ編集』。
対象:炎獄竜。
変更内容:【体長:50センチ】

シュンッ。

「グオオオオ……キャン?」

巨大なドラゴンの姿が一瞬で消えた。
いや、消えたのではない。
俺の足元に、トカゲサイズになった赤いドラゴンが、キョトンとして座っていた。
口から吐こうとしていた極大ブレスは、可愛い「ボッ」という小火になって消えた。

「……ハ?」

ミニドラゴン(元SSランク)が、自分の小さくなった手足を見つめ、パニックになっている。

「キュ!? キュイッ!?」

「可愛いな。これなら室内で飼えそうだ」

俺はミニドラゴンの首根っこを摘まみ上げた。

「離セ! 貴様、何ヲシタ! 我ハ最強ノ竜ダゾ!」

テレパシーで抗議してくるが、見た目がこれでは威厳ゼロだ。

「今日からお前の名前は『ポチ』だ。この屋敷の番犬(番竜)として雇ってやる」

「ポチダト!? ふザケルナ! 我ニハ『ヴェルドラ』トイウ高貴ナ名前ガ……!」

「嫌なら、サイズをもっと小さくして『ミジンコ』にするぞ?」

俺が指先を構えると、ドラゴンは激しく首を横に振った。

「ポチデ良イデス! ポチ最高! ワン!」

「よろしい」

こうして、魔境の主があっさりと陥落し、俺たちのペットに加わった。
最強のドラゴンが番犬代わり。
セキュリティも万全だ。

だが、この時の俺はまだ知らなかった。
このドラゴンが、実は「人間の姿」にも変身できること。
そして、その姿がとんでもない美少女(しかも露出狂気味)であることを。
……まあ、それは風呂に入れた時に発覚して、また一騒動起きるのだが。

   ◇

一方その頃。
王都の地下牢獄。

光も届かない最下層の独房に、かつての大聖女エリスは繋がれていた。
魔封じの手錠と足かせをされ、粗末な囚人服を着た姿は、栄華を極めた数日前とは別人だ。

「……殺して……。いっそ殺して……」

エリスは虚ろな目で呟き続けていた。
処刑の日を待つだけの絶望的な日々。
神に見放され、民衆に憎まれ、全てを失った彼女には、生きる気力など残っていなかった。

カツ、カツ、カツ。

静寂の廊下に、足音が響いた。
看守ではない。もっと軽やかで、不気味な足音。

「誰……?」

エリスが顔を上げると、鉄格子の向こうに一人の影が立っていた。
黒いローブを目深に被り、顔は見えない。
だが、その隙間から覗く口元は、三日月のように歪に笑っていた。

「惨めですね、エリス様。……あれほど輝いていた貴女が、こんな薄汚い檻の中で腐っていくなんて」

声は中性的で、男とも女ともつかない。

「誰……? 私を嘲笑いに来たの……?」

「いいえ。私は貴女に『チャンス』を与えに来たのです」

影の人物は、鉄格子の隙間から何かを投げ入れた。
カラン、と音を立てて床に転がったのは、赤黒く脈動する奇妙な肉塊だった。

「これは……?」

「『魔神の心臓』の欠片です。……天界の神は貴女を見捨てましたが、魔界の深淵に住む『魔神』は、貴女のその深い憎悪と絶望を気に入っているようです」

「魔神……?」

「それを飲み込めば、貴女は人間を超えた力を得るでしょう。……クロウに復讐できるだけの力を」

復讐。
その言葉が、エリスの死んだ瞳に再び昏い炎を灯した。

「クロウ……。あいつを……殺せるの……?」

「ええ。貴女自身が『魔神の器』となれば、あるいは」

影の人物はクスクスと笑った。

「ただし、代償として貴女の魂は永遠に魔神の玩具となりますが」

エリスは迷わなかった。
彼女は震える手で肉塊を掴み、泥にまみれた口へと運んだ。
神への信仰など、とうに捨てた。
今の彼女を動かすのは、自分をここへ追いやった男への、底知れぬ恨みだけ。

「……いただきます」

グチャリ。
エリスが肉塊を噛み砕き、飲み込んだ。

ドクンッ!!

「あ……が……あァァァァァァッ!!」

エリスの体が痙攣し、背中から黒い翼が引き裂くように飛び出した。
聖女の金髪は白く脱色され、肌は土気色に変わり、瞳は血のように赤く染まる。
堕天、いや、それ以上の変貌。
『堕聖女』となった彼女は、狂喜の産声を上げた。

「アハッ……アハハハハハ! 力が……力が溢れる……!」

鉄格子が、彼女の放つ魔圧だけで飴細工のように捻じ曲がる。

「素晴らしい。……では、参りましょうかエリス様。第二幕の始まりです」

影の人物が扉を開ける。
エリスはゆっくりと立ち上がり、地上への階段を見上げた。

「待っていなさい、クロウ……。今度は私が、貴方から全てを奪ってあげる……」

新たな脅威が誕生した。
スローライフを夢見る俺の元に、過去最悪のストーカーが向かっているとも知らず、俺は今夜の宴会の準備をしていたのだった。

(続く)
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