異世界で無自覚に最強だった俺、追放されたけど今さら謝られても遅い

eringi

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1話 追放、そして自由に

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「ルーク、お前、明日からパーティーを抜けてもらう」

石造りの広間に響いたのは、長年共に戦ってきた仲間の勇者アレンの冷えた声だった。目の前には勇者、聖女、剣聖、賢者の四人がいる。かつて共に魔王軍の砦まで攻めた仲間たち。しかし、今、ルークの前にあるのは友情ではなく、決別の空気だった。

「……抜ける、ってどういう意味だ?」

ルークは静かに問い返す。アレンは眉をひそめ、ため息をつく。

「そのままの意味だよ。お前のスキル、足手まといなんだ。サポート系とか言ってるけど、結局よくわからないし、戦闘にも役に立たない。ぶっちゃけ荷物だ」

「そうですわ。いつまで私たちがあなたを庇ってあげなきゃいけないの?」 
聖女リリアが不満げに腕を組む。その横で、剣聖カイルが腕を組んだまま口を開いた。

「俺も正直、もう限界だ。魔王軍が本格的に動いてる今、ルークに使ってる手間が無駄なんだよ」

最後に、賢者マルクが苦笑いを浮かべ、小さく肩をすくめた。

「悪く思うなよ。お前の分、報酬は折半しておく。世界のためだ」

静かだった広間には、決定的な冷たさが流れた。ルークは黙ったまま、腰に下げたポーチの中のパーティーマークを見つめる。それは冒険者ギルドから交付された、仲間の証。兵士でも、金では買えない重みがあった。

「……そうか。わかった」

静かな声でそれだけ告げると、ルークは立ち上がった。怒りも悲しみも不思議と湧かなかった。むしろ、胸の奥にふっと軽い風が吹いた気がした。

「今までありがとう。じゃあ、達者でな」

背中を向けたまま、ルークは広間を出た。後ろで小さな声が聞こえる。

「やっと厄介払いができたわね」
「これでパーティーも軽くなる」

そんな声を聞きながら、ルークは扉を閉めた。

ーーその後、彼らが後悔する日が来ることを、まだ誰も知らなかった。

***

王都アーデンの南門を抜けたとき、空は澄み渡る青だった。
ルークは背中の荷物を少し持ち直し、歩きながら伸びをした。

「……追放、ねぇ。案外、悪くないかもな」

もともと彼は争いよりも旅が好きなタイプだった。戦いが嫌いなわけではないが、勝つために誰かを貶めることはしたくない。勇者パーティーでは戦闘の最前線に立つことは少なく、後方で支援と調整をしていた。そのせいか、周囲の評価は地味な“補助職”。

だが、彼のステータス画面には一つだけ、誰も見たことのない記述があった。

【スキル:成長限界なし】

その意味を本人もまだよく知らない。幼いころに女神の神殿で授与されたとき、大司祭ですら首をかしげていたという。「珍しいな、もしかしたら外れかもしれん」――そう言われたことを、今でも覚えている。

「限界なし、ってことは……成長し続けるって意味じゃないのか?」

独りごちたが、答えてくれる者はいない。だが、その瞬間、森の木々の間から魔物の唸り声が響いた。

「グルルルル!」

視線を向けると、そこには体長二メートルはあろうかという灰色の狼、グレイウルフが姿を現した。冒険者ランクで言えば中級程度。だが、単独で遭遇すれば命を落とす者も多い。

「おっと、いきなり歓迎か。まあいい、肩ならしだ」

ルークは腰の片刃剣を抜いた。勇者隊の戦いでは補助に回ることがほとんどで、剣を使う機会は少なかった。それでも、身体のどこかに戦い方が染みついている。

狼が飛びかかってくる。牙が迫る瞬間、ルークの体が自然に動いた。

「そこだ!」

刃が閃き、風を切る音。次の瞬間、狼は二つに割れて静かに崩れた。血が地面に滴る音が静かに響く。

「……おかしいな、こんな簡単だったか?」

以前、同じ魔物を倒すのに四人がかりだった記憶がある。だが今は、ただの一撃で終わった。体の動きが軽く、視界が広い。まるで世界の速度が遅くなったような感覚。

「成長限界なし……これか?」

ルークは静かに呟いた。もしかすると、パーティーにいた間は仲間とのバランスのため、力が抑制されていたのかもしれない。だが今、一人になったことで制約が外れた。そう考えると辻褄が合う。

「ま、いいか。せっかくだし、少し散歩でもするか」

そう言って、彼は森の中へ進んだ。その数時間後、ルークはひとつの小さな村へと辿り着くことになる。

***

その村は、地図にも載らないほどの辺境だった。半ば森に呑まれかけた小さな集落で、十数軒の家しかない。入り口には壊れかけの柵と、見張りとも呼べない老人がひとり立っていた。

「おや、旅の人かね?珍しいな、こんな場所まで」

「たまたま通りがかりで。近くに宿はありますか?」

「宿なんて立派なもんはないが、長屋なら空いてるかもな。村長の娘のところを訪ねるといい」

老人に礼を言い、村の奥へと進むと、小さな井戸のそばで茶髪の少女が水を汲んでいた。年の頃は十六、七だろう。彼女はルークを見るなり、目を丸くした。

「えっ! 旅人さん?珍しい……! このあたりは魔物が多くて、誰も寄りつかないのに」

「運がよかったのかもな。ちょっと休ませてもらっていいかな?」

「もちろん! 私、ミリアっていいます。この村の代表みたいなことしてるんです。お母さん亡くなっちゃったから」

元気に笑う彼女の背後で、老朽化した家々と不安げな視線を送る村人たちが見える。みなどこか疲れた顔をしている。話を聞けば、どうやら最近魔物の群れが出没し、食料を奪われているという。

「助けを呼ぼうにも、王都からはもう一年も兵が来ていないんです……」

「ふむ……じゃあ、俺が何とかしてみようか」

「えっ!? でも、無理ですよ! グレイウルフの群れなんです、十匹以上も!」

「たぶん、いけると思う」

ルークは軽く笑うと、村外れの森へと足を向けた。ミリアは慌てて追いかけようとしたが、彼の背中を見て息を呑んだ。その背には、言葉にできない静かな威圧感があった。まるで、風そのものが彼を中心に動いているような。

***

降り注ぐ月光の下、森に潜む十匹の影が動いた。唸り声が重なり、夜の空気がひりつく。

「さぁ、試運転だ」

ルークは剣を抜き、軽く振るった。空気が弾けるような衝撃音とともに、一匹目が斬り伏せられる。体が勝手に、最適な動きを取っていく。敵の位置、距離、風の向き――全てが頭の中で自然に組み上がるようだった。

すぐに二匹、三匹と倒れ、目にも止まらぬ速さで剣が走る。数分後、森は静寂を取り戻していた。倒れた魔狼の群れを見下ろしながら、ルークは呼吸を整える。

「……うん、やっぱり抑えてたな。これが本来の俺の力か」

自分でも驚くほどの力だった。だが、それが“異常”ではなく“自然”に思えるのが不思議だった。

振り返ると、村の入口でミリアが立ち尽くしていた。目の前の光景に、彼女は信じられないといった顔で口元を押さえる。

「う、嘘……こんな短時間で……?」

「片づけたよ。もう安心だ」

「……ありがとう、ありがとうございます!」

ミリアは目に涙を浮かべて頭を下げた。その姿を見て、ルークは少し照れくさそうに笑った。

「いや、俺としても助かったよ。身体を動かしたかったしな」

「そんな、あなたはどこかの大英雄様なんですか?」

「いや、ただの……追放された補助職、かな」

そうつぶやいた瞬間、村の人々が彼を囲むように集まってきた。恐る恐る近づく老爺、子どもを抱いた母親、そしてミリア。皆、口々に感謝の言葉を口にする。

「神の使いだ……」
「女神様が遣わしたんだ!」

そんな声が上がる中、ルークは苦笑した。追放された自分が、まさか崇められるとは思ってもみなかった。

「成長限界なし、ね……悪くないスキルだったのかもな」

夜空を見上げながらつぶやいたその顔には、どこか清々しい笑みが浮かんでいた。彼の新しい旅は、今まさに始まったのだった。
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