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Chapter.25
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「そういえばこないだ、社長からメッセ来たよ」
「へぇ、なんて?」
「『朝礼で結婚のこと言ったらめっちゃ怒られた』って」
堀河のメッセを一部改編して伝える。
「そりゃ怒るでしょ。昨日の今日で約束破られたんだから」
「まぁ、俺は全然、ありがたいけどね」
「私も別にもう怒ってないし、言ってもらって良かったかもとは思ってるんだけどさ」
「そうなの?」
「うん。ずっと黙ってるのって、騙してるみたいな気分になりそうで……。言わなきゃって思ってるうちにタイミング逃しそうだし」
攷斗への気持ちも、そんな感じで言い逃しているので容易に予想が付く。
「まだ、相手が誰かは言えてないんだけどね……」
「……まぁ、わざわざ言うことでもないし、気が向いたらでいいよ」
「うん……ありがとう」
「お礼言われるようなこと言ってないよ?」
「うん。でも、ありがとう」
「……うん」
攷斗もひぃなも、それきり黙ってしまう。
走る車は区を越えて、都心へ近づいていく。
「最寄駅ここね」
信号待ち中に、道の両脇にある地下への出入り口を指さした。
「うちから歩いて10分圏内かな?」
「はーい」
ひぃながスマホのメモに駅名を入力する。あとで通勤ルートを検索するつもりだ。
「引っ越しが落ち着いたら、近所の店とか散歩がてら案内するから」
「うん、ありがとう。お願いします」
ほどなくして、とあるマンションの地下駐車場へ入る。
(すごく高級そうなマンション……)
指定されているのであろう番号のスペースに駐車して、ひぃなに降車を促した。
都心部にそびえ立つタワーマンションの中層階に、攷斗の部屋があるという。3LDKで大きなルーフバルコニーが付いているらしい。
エレベーターが目的階に着くと、先を歩く攷斗がキーケースを取り出しながら
「この階、ワンフロアに一部屋しかないから、ご近所付き合いとかそんなに気にしないでいいからね」
ひぃなに説明した。
「うん…」
玄関からして高級感漂う攷斗の自宅。外観や地下駐車場の広さから予想するに、想像していたよりも広い部屋だと推測される。ひぃなの家から車で15分、都心に近付いて移動したので家賃の相場も上がっているはずだ。
「はい、どーぞ」
ドアを開けてひぃなを招き入れた。
「おじゃましまーす……」
廊下沿いにあるドアが何の部屋なのか、攷斗が説明しながら先を進み、
「で、ここがリビング」
廊下の突き当りにある、擦りガラスがはめこまれたドアを開けた。
「広っ……!」
リビングに通されて思わず声が出る。ひぃなの部屋がすっぽり収まってもあまりある広さだ。
「でしょ?」
「えっ。私、お家賃半分とか無理だよ?」
「え? ちょーだいなんて言ってないでしょ?」
「いやそれはダメでしょ」
「いいよ。俺の都合で越してきてもらうんだし」
「でもー」
一向に退かないひぃなに、攷斗が思いついたようにして
「んじゃ、交換条件、いい?」
満面の笑みを向ける。
「…なんでしょう…」
身構えて、問うひぃな。
「家賃の代わりに、奥さんとして色々俺に世話焼いてほしい」
「世話?」
「うん。家事とか色々。ひなも仕事あるから、できる範囲でお願いしたい」
「…棚井がそれでいいなら……」
「うん。すっげぇ助かる。いまはまだいいけど、仕事詰まってくるとほんとヤバくてさ」
苦笑しながら言った。
「どこまで踏み込んでいいの?」
「どこまででも。俺の部屋も、できれば」
「仕事のものとか大丈夫?」
「こっちには触られて困るものないよ。その辺は全部向こうにあるから」
「……?」
向こう、とは?
言葉に出さなくても顔に出ていたようだ。
「あ。えーっと…別の場所に、あるから。会社が」
「……すごいね」
「いや、うん、まぁ」
攷斗はその反応に、わかりやすく言葉を濁した。ひぃなもそれ以上追及しない。
「ひなの部屋はこっち、の予定」
と、会話を切り替えるようにリビングにつながるドアを指さした。
「見てみて」
「うん」
「鍵はないんだけど、俺の部屋からはリビング通らないと行き来できないし、距離あるから安心でしょ」
「そこは別に気にしないけど……」言いながら自室となる予定の部屋のドア開ける。「わ、広いね」
「クローゼット付きの八帖ね」
「いいの? もっと狭い部屋でいいよ?」
「もともと使ってないような部屋だし、俺はあっちの二部屋使うから。あの荷物の量だったら、そんなに捨てたりしないでいいと思う」
「そうだね、助かります。ありがとう」
充分すぎる待遇にひぃなが頭を下げた。
「いいって気にしないで。じゃあ、しあさって段ボール箱持ってそっちの家行くね。荷造り手伝う」
「なにからなにまでありがとう」
「なに言ってるの。夫婦なんだから気にしないでよ」
「うん」
でも――ひぃなは思う。
“夫婦”になったのは戸籍上だけで、実際はただの“同居”だ。“夫婦”の前に“偽装”の二文字が付く、二人の利害が一致して成立した“契約結婚”。それがいまの二人の関係性。
気持ちの上での繋がりがなければ、やはり遠慮は生まれる。
「さて。どうする? お茶でも飲んでく?」
攷斗の提案にひぃなが腕時計を見る。
「ううん、今日は帰る」
「そう。じゃあ送って行くよ」
「ありがとう」
「車酔いとか大丈夫?」
「ん? うん、大丈夫だけど……」
攷斗の質問の意味が一瞬わからず、しかしすぐに気付く。
「帰り、電車で帰るから大丈夫だよ?」
「え、いいよ。送っていくよ」
「悪いし、ここから駅までの道、確認しておきたいから」
「…そう…。じゃあ、駅まで送っていく」
「うん、ありがとう」
攷斗と一緒に部屋を出て、エレベーターに乗り込んだ。
「へぇ、なんて?」
「『朝礼で結婚のこと言ったらめっちゃ怒られた』って」
堀河のメッセを一部改編して伝える。
「そりゃ怒るでしょ。昨日の今日で約束破られたんだから」
「まぁ、俺は全然、ありがたいけどね」
「私も別にもう怒ってないし、言ってもらって良かったかもとは思ってるんだけどさ」
「そうなの?」
「うん。ずっと黙ってるのって、騙してるみたいな気分になりそうで……。言わなきゃって思ってるうちにタイミング逃しそうだし」
攷斗への気持ちも、そんな感じで言い逃しているので容易に予想が付く。
「まだ、相手が誰かは言えてないんだけどね……」
「……まぁ、わざわざ言うことでもないし、気が向いたらでいいよ」
「うん……ありがとう」
「お礼言われるようなこと言ってないよ?」
「うん。でも、ありがとう」
「……うん」
攷斗もひぃなも、それきり黙ってしまう。
走る車は区を越えて、都心へ近づいていく。
「最寄駅ここね」
信号待ち中に、道の両脇にある地下への出入り口を指さした。
「うちから歩いて10分圏内かな?」
「はーい」
ひぃながスマホのメモに駅名を入力する。あとで通勤ルートを検索するつもりだ。
「引っ越しが落ち着いたら、近所の店とか散歩がてら案内するから」
「うん、ありがとう。お願いします」
ほどなくして、とあるマンションの地下駐車場へ入る。
(すごく高級そうなマンション……)
指定されているのであろう番号のスペースに駐車して、ひぃなに降車を促した。
都心部にそびえ立つタワーマンションの中層階に、攷斗の部屋があるという。3LDKで大きなルーフバルコニーが付いているらしい。
エレベーターが目的階に着くと、先を歩く攷斗がキーケースを取り出しながら
「この階、ワンフロアに一部屋しかないから、ご近所付き合いとかそんなに気にしないでいいからね」
ひぃなに説明した。
「うん…」
玄関からして高級感漂う攷斗の自宅。外観や地下駐車場の広さから予想するに、想像していたよりも広い部屋だと推測される。ひぃなの家から車で15分、都心に近付いて移動したので家賃の相場も上がっているはずだ。
「はい、どーぞ」
ドアを開けてひぃなを招き入れた。
「おじゃましまーす……」
廊下沿いにあるドアが何の部屋なのか、攷斗が説明しながら先を進み、
「で、ここがリビング」
廊下の突き当りにある、擦りガラスがはめこまれたドアを開けた。
「広っ……!」
リビングに通されて思わず声が出る。ひぃなの部屋がすっぽり収まってもあまりある広さだ。
「でしょ?」
「えっ。私、お家賃半分とか無理だよ?」
「え? ちょーだいなんて言ってないでしょ?」
「いやそれはダメでしょ」
「いいよ。俺の都合で越してきてもらうんだし」
「でもー」
一向に退かないひぃなに、攷斗が思いついたようにして
「んじゃ、交換条件、いい?」
満面の笑みを向ける。
「…なんでしょう…」
身構えて、問うひぃな。
「家賃の代わりに、奥さんとして色々俺に世話焼いてほしい」
「世話?」
「うん。家事とか色々。ひなも仕事あるから、できる範囲でお願いしたい」
「…棚井がそれでいいなら……」
「うん。すっげぇ助かる。いまはまだいいけど、仕事詰まってくるとほんとヤバくてさ」
苦笑しながら言った。
「どこまで踏み込んでいいの?」
「どこまででも。俺の部屋も、できれば」
「仕事のものとか大丈夫?」
「こっちには触られて困るものないよ。その辺は全部向こうにあるから」
「……?」
向こう、とは?
言葉に出さなくても顔に出ていたようだ。
「あ。えーっと…別の場所に、あるから。会社が」
「……すごいね」
「いや、うん、まぁ」
攷斗はその反応に、わかりやすく言葉を濁した。ひぃなもそれ以上追及しない。
「ひなの部屋はこっち、の予定」
と、会話を切り替えるようにリビングにつながるドアを指さした。
「見てみて」
「うん」
「鍵はないんだけど、俺の部屋からはリビング通らないと行き来できないし、距離あるから安心でしょ」
「そこは別に気にしないけど……」言いながら自室となる予定の部屋のドア開ける。「わ、広いね」
「クローゼット付きの八帖ね」
「いいの? もっと狭い部屋でいいよ?」
「もともと使ってないような部屋だし、俺はあっちの二部屋使うから。あの荷物の量だったら、そんなに捨てたりしないでいいと思う」
「そうだね、助かります。ありがとう」
充分すぎる待遇にひぃなが頭を下げた。
「いいって気にしないで。じゃあ、しあさって段ボール箱持ってそっちの家行くね。荷造り手伝う」
「なにからなにまでありがとう」
「なに言ってるの。夫婦なんだから気にしないでよ」
「うん」
でも――ひぃなは思う。
“夫婦”になったのは戸籍上だけで、実際はただの“同居”だ。“夫婦”の前に“偽装”の二文字が付く、二人の利害が一致して成立した“契約結婚”。それがいまの二人の関係性。
気持ちの上での繋がりがなければ、やはり遠慮は生まれる。
「さて。どうする? お茶でも飲んでく?」
攷斗の提案にひぃなが腕時計を見る。
「ううん、今日は帰る」
「そう。じゃあ送って行くよ」
「ありがとう」
「車酔いとか大丈夫?」
「ん? うん、大丈夫だけど……」
攷斗の質問の意味が一瞬わからず、しかしすぐに気付く。
「帰り、電車で帰るから大丈夫だよ?」
「え、いいよ。送っていくよ」
「悪いし、ここから駅までの道、確認しておきたいから」
「…そう…。じゃあ、駅まで送っていく」
「うん、ありがとう」
攷斗と一緒に部屋を出て、エレベーターに乗り込んだ。
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