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Chapter.27

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 マンションから最寄り駅までの間に建つ店舗の説明を受けながら、ゆっくりと歩く。
 冬の外気にさらされた肌は冷たいが、撫でられた後頭部に攷斗の温もりが残る。その心地良い感覚の残滓を追いながら、いま隣にいるのが攷斗で良かった、と秘かに思った。
 でも、口には出せない。
 極力ゆっくりと歩いていたのに、あっという間に最寄り駅に着いてしまう。
 地下に続く階段を降りて改札階へ到着するが、名残惜しくてどちらからともなく自然に歩みが止まった。
 邪魔にならない位置を陣取って、少し話す。
「帰り、気を付けてね」
「うん。送ってくれてありがとう」
「……楽しみにしてる」
 ためらって、でも口に出した攷斗の言葉にひぃなが首をかしげる。
「……一緒に住むの」
 照れくさそうに言う攷斗に、ひぃなが思わず相好を崩した。
「うん。私も」
 二人で少し照れくさくなって、はにかんで、付き合いたての学生カップルみたいになってしまう。
 このままモジモジしていてもキリがないので、攷斗を見つめてひぃなが口を開いた。
「じゃあ、またね」
「うん」
 改札に入ってホームへ向かうひぃなの姿が見えなくなるまで見送ってから、攷斗が両手で口元を押さえた。
(あぁ~! かわいいな~!)
 壁にもたれて顔全体を手で覆う。
(これ…一緒に住み始めたら理性崩壊しないようにしねーとやべーな)
 喜びと引き換えに抱くであろう苦悩を胸に、はあぁ~と息を吐いて、帰路に着いた。

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