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Chapter.56
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長いと思っていた連休も、あれやこれやとしているうちに折り返しになった。
年末年始はどちらの会社も休業なので、二人でのんびり出来そうだ。
新婚旅行を兼ねて近場の温泉宿にでも行こうかという話が持ち上がったが、さすがにどこも予約でいっぱいだったので諦めた。その話の流れからハタと気付き
「ところで、棚井さんにお伺いしたいことがあるのですが」
ひぃなが攷斗に問う。
「…なんでしょう」
改まった口調に身構える攷斗。
「お正月の前にはクリスマスという行事がございますが、棚井さんに於かれましては毎年どのような過ごし方をしていらっしゃいましたか?」
「…なんだ、急になにかと思った」
攷斗はため息交じりに笑う。
「だって……」
クリスマスと言えば、日本では“恋人同士のイベント”感が強い。
過去のこととはいえ、男女関係にまつわるプライベートな部分にはあまり触れたくない。
「別に特になにもしてないなぁ。平日だと仕事だし、休みだからって男一人でケーキ食ってもねぇ……」
「えっ」
「え? そういうことじゃなかった?」
「ん、いや、そういうことだけど…」
(意外…)
湖池からはかなりモテると聞いていたし、女性の後輩たちからの人気も高かった。
恋人がいてもイベント事に無関心なタイプだったのかもしれないし、ひぃなも別にこだわりがあるわけではない。
「あーでも。クリスマスはやるつもりなかったけど、正月はおせち予約してあるよ。こないだ行った【笹本亭】のやつ」
【笹本亭】は、二人で引っ越し当日に行った、一軒家をリフォームした和食の店だ。
「え、嬉しい」
「11月に予約して一人分のつもりだったから、そんなに量ないけど」
「全然いいよ。むしろ予定外に一人増えてごめん」
「嬉しい予想外だけどね」
攷斗がスマホを操作して、「ほら、これ」とおせちの見本写真をひぃなに見せた。
「わぁ、美味しそう」
しかし確かに二人分にするには内容量が少ない。真空パックに詰められた食材が届くよう。盛り付けの仕方も考えながら、
「追加でなにか作ろうかな……」
温かい煮物系のレシピをいくつか思い浮かべた。
「マジで? やった。リクエストしていい?」
「うん、もちろん」
「うわー、嬉しい。贅沢な正月になりそう」
「大げさだよ」
攷斗の口ぶりにひぃなが笑う。
「だってクリスマスも正月も一緒に過ごしたことなかったし」
「それはそうだね」
というか、誕生日以外の世間的な【イベント】のとき、一緒にいたことがない。
誕生日も、お互いに恋人がいた時期は、当日祝うことはしなかった。
「ホントは誘いたかったんだけど、悪いかなーと思ってたからさ」
「そうなの?」
「うん」
まぁ、ひぃなもその気持ちがわからなくはない。
「今度の正月は一緒に初詣行こう。近所に芸事の神様が祀られてる神社があるから」
「うん。楽しみにしてる」
と、会話が脱線したまま途切れてしまったので
「…ときにクリスマス…」
話を戻すと
「やろう」
即答した攷斗がスマホでケーキの予約を取った。
「……相変わらず仕事速いね…」
「一人の時もだけど、相手がいるときは特に、どっちかがその気になったときに行動しないとチャンス逃すから」
実際、その理論で長年片思いをしていたひぃなを娶ることが出来たのだから、攷斗の人生にとってそれは間違いではなかったと証明された。
「コンビニのだけど、ちゃんと美味しいからいいよね」
予約したのは検索結果の上位に出て来たらしい大手コンビニエンスストアのケーキで、四人組の男性アイドルがイメージキャラクターを務めているらしく、予約用のサイトへリンクするバナーには正装した彼らの写真が載っている。
彼らがプロデュースしたというケーキと、他にも数種類掲載されている中から、2~3人用の小振りなブッシュドノエルを選んだよう。
(中身は私より女子っぽいのかもしれない……)
薄々感じてはいたが、喜び方やワードセンスに“女子”を感じるときがある。
「じゃあ…クリスマスも料理のリクエストをお受けいたします」
「やったー! じゃあ来週末の休みの日、一緒に買い出し行こう」
「うん。なににしよっか。チキンは食べるよね」
「食べる! あとはねー」
攷斗がスマホを操作する。ひぃなが愛用しているレシピアプリをダウンロードしていたらしく、
「これ、お気に入りシェアできるんだよね? ID教えてよ」
【マイページ】を表示してひぃなに見せた。
「うん、ちょっと待って」
いつの間にと思いつつも、ひぃなもスマホを操作し、攷斗のIDと連携させる。
「全部作らないでいいけど、できれば食べたい」
攷斗が追加したいくつかの【お気に入り】レシピを確認しながら
「全部作ったら食べきれなさそう」
どんどん増えていくレシピの量にひぃなが笑う。
「全部じゃなくていいんだけどね。食べたいモノ入れてってるだけだから」
「普段出しても良さそうなの入ってるから、クリスマスとかじゃなくても作るよ」
「ほんとに?」
「うん、食べたいものあったら共有して? いつ作れるかわからないけど」
「いいの? めっちゃたくさん入れちゃうよ?」
「献立に悩まなくていいのは助かる」
話している間にもどんどん【お気に入り】に追加されていくレシピは、確かにどれも美味しそうで、写真を見るだけでも食べたくなるものばかりだ。
「すごい量。全部作るのにどのくらい期間かかるかな」
「おじいちゃんとおばあちゃんになる頃にやっと作り終えるくらい追加するつもりだけど、俺も時間作って手伝うから安心していいよ」
さりげなく笑いながら言った攷斗のその言葉に、ひぃなの胸が熱くなる。その言葉の意味の深さは、果たして自分と一緒だろうか。
「とりあえずこんなもんかな?」
と、追加するのを攷斗がやめた。
「また知らないうちに増えてると思うから、確認お願いします」
「はい」
業務口調の攷斗に笑いながら返事をして、いくつかクリスマス用に、と、個別に【お気に入り】フォルダを作って格納していく。
一緒に【買い物リスト】も更新して、二人は少し早いクリスマス気分を味わった。
* * *
年末年始はどちらの会社も休業なので、二人でのんびり出来そうだ。
新婚旅行を兼ねて近場の温泉宿にでも行こうかという話が持ち上がったが、さすがにどこも予約でいっぱいだったので諦めた。その話の流れからハタと気付き
「ところで、棚井さんにお伺いしたいことがあるのですが」
ひぃなが攷斗に問う。
「…なんでしょう」
改まった口調に身構える攷斗。
「お正月の前にはクリスマスという行事がございますが、棚井さんに於かれましては毎年どのような過ごし方をしていらっしゃいましたか?」
「…なんだ、急になにかと思った」
攷斗はため息交じりに笑う。
「だって……」
クリスマスと言えば、日本では“恋人同士のイベント”感が強い。
過去のこととはいえ、男女関係にまつわるプライベートな部分にはあまり触れたくない。
「別に特になにもしてないなぁ。平日だと仕事だし、休みだからって男一人でケーキ食ってもねぇ……」
「えっ」
「え? そういうことじゃなかった?」
「ん、いや、そういうことだけど…」
(意外…)
湖池からはかなりモテると聞いていたし、女性の後輩たちからの人気も高かった。
恋人がいてもイベント事に無関心なタイプだったのかもしれないし、ひぃなも別にこだわりがあるわけではない。
「あーでも。クリスマスはやるつもりなかったけど、正月はおせち予約してあるよ。こないだ行った【笹本亭】のやつ」
【笹本亭】は、二人で引っ越し当日に行った、一軒家をリフォームした和食の店だ。
「え、嬉しい」
「11月に予約して一人分のつもりだったから、そんなに量ないけど」
「全然いいよ。むしろ予定外に一人増えてごめん」
「嬉しい予想外だけどね」
攷斗がスマホを操作して、「ほら、これ」とおせちの見本写真をひぃなに見せた。
「わぁ、美味しそう」
しかし確かに二人分にするには内容量が少ない。真空パックに詰められた食材が届くよう。盛り付けの仕方も考えながら、
「追加でなにか作ろうかな……」
温かい煮物系のレシピをいくつか思い浮かべた。
「マジで? やった。リクエストしていい?」
「うん、もちろん」
「うわー、嬉しい。贅沢な正月になりそう」
「大げさだよ」
攷斗の口ぶりにひぃなが笑う。
「だってクリスマスも正月も一緒に過ごしたことなかったし」
「それはそうだね」
というか、誕生日以外の世間的な【イベント】のとき、一緒にいたことがない。
誕生日も、お互いに恋人がいた時期は、当日祝うことはしなかった。
「ホントは誘いたかったんだけど、悪いかなーと思ってたからさ」
「そうなの?」
「うん」
まぁ、ひぃなもその気持ちがわからなくはない。
「今度の正月は一緒に初詣行こう。近所に芸事の神様が祀られてる神社があるから」
「うん。楽しみにしてる」
と、会話が脱線したまま途切れてしまったので
「…ときにクリスマス…」
話を戻すと
「やろう」
即答した攷斗がスマホでケーキの予約を取った。
「……相変わらず仕事速いね…」
「一人の時もだけど、相手がいるときは特に、どっちかがその気になったときに行動しないとチャンス逃すから」
実際、その理論で長年片思いをしていたひぃなを娶ることが出来たのだから、攷斗の人生にとってそれは間違いではなかったと証明された。
「コンビニのだけど、ちゃんと美味しいからいいよね」
予約したのは検索結果の上位に出て来たらしい大手コンビニエンスストアのケーキで、四人組の男性アイドルがイメージキャラクターを務めているらしく、予約用のサイトへリンクするバナーには正装した彼らの写真が載っている。
彼らがプロデュースしたというケーキと、他にも数種類掲載されている中から、2~3人用の小振りなブッシュドノエルを選んだよう。
(中身は私より女子っぽいのかもしれない……)
薄々感じてはいたが、喜び方やワードセンスに“女子”を感じるときがある。
「じゃあ…クリスマスも料理のリクエストをお受けいたします」
「やったー! じゃあ来週末の休みの日、一緒に買い出し行こう」
「うん。なににしよっか。チキンは食べるよね」
「食べる! あとはねー」
攷斗がスマホを操作する。ひぃなが愛用しているレシピアプリをダウンロードしていたらしく、
「これ、お気に入りシェアできるんだよね? ID教えてよ」
【マイページ】を表示してひぃなに見せた。
「うん、ちょっと待って」
いつの間にと思いつつも、ひぃなもスマホを操作し、攷斗のIDと連携させる。
「全部作らないでいいけど、できれば食べたい」
攷斗が追加したいくつかの【お気に入り】レシピを確認しながら
「全部作ったら食べきれなさそう」
どんどん増えていくレシピの量にひぃなが笑う。
「全部じゃなくていいんだけどね。食べたいモノ入れてってるだけだから」
「普段出しても良さそうなの入ってるから、クリスマスとかじゃなくても作るよ」
「ほんとに?」
「うん、食べたいものあったら共有して? いつ作れるかわからないけど」
「いいの? めっちゃたくさん入れちゃうよ?」
「献立に悩まなくていいのは助かる」
話している間にもどんどん【お気に入り】に追加されていくレシピは、確かにどれも美味しそうで、写真を見るだけでも食べたくなるものばかりだ。
「すごい量。全部作るのにどのくらい期間かかるかな」
「おじいちゃんとおばあちゃんになる頃にやっと作り終えるくらい追加するつもりだけど、俺も時間作って手伝うから安心していいよ」
さりげなく笑いながら言った攷斗のその言葉に、ひぃなの胸が熱くなる。その言葉の意味の深さは、果たして自分と一緒だろうか。
「とりあえずこんなもんかな?」
と、追加するのを攷斗がやめた。
「また知らないうちに増えてると思うから、確認お願いします」
「はい」
業務口調の攷斗に笑いながら返事をして、いくつかクリスマス用に、と、個別に【お気に入り】フォルダを作って格納していく。
一緒に【買い物リスト】も更新して、二人は少し早いクリスマス気分を味わった。
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