63 / 120
Chapter.63
しおりを挟む
夕飯というよりディナーと形容したほうが似合う食事を終えて、スーパーで買い出しを済ませてから家路に着く。
「あー、楽しかった」
ジャケットを脱いで攷斗がソファに座った。
「もうこのまま寝たい」
「せめて着替えたら?」
同じ気持ちを抱くひぃなが、自分にも言い聞かせるかのように笑いながら言った。
「うーん…。あ。お風呂先どうぞ。いま入ると風呂の中で寝そう」
「ありがとう。ほんとに寝るなら、お部屋戻ったほうがいいよ?」
「うん」
とろんとした目付きで攷斗が返事をする。
仕事帰りに長く運転させて申し訳なかったなと思いつつ、やはりひぃなも楽しかったので十二分に感謝した。
買ってきたものを冷蔵庫や保管棚に格納し、
(ツリーは明日飾ろうかな)
自室に置いた大きな紙袋の中身に思いを馳せる。
攷斗が興味を持ったら一緒に飾り付けるのも悪くない。
「お風呂行ってきます」
「いってらっしゃい」
いまにも寝そうな表情で手を振り、攷斗がひぃなを見送る。
(確かにこれは寝ちゃいそう……)
湯船に浸かると長くなりそうなので、サッとシャワーを浴びてリビングに戻ると、攷斗はソファに座ったまま寝息を立てていた。
(子供みたい)
そっと隣に座ってみる。前かがみになって顔を覗き込む。
「……風邪ひくよ~」
小さく呼び掛けるが反応はない。
「コウトー」
名前を呼んでも、規則正しい寝息が返ってくるだけ。
(ほんとに寝てる……)
座面に置かれた攷斗の手を少し触ってみるが、反応はない。
(起きない…よね……?)
そのまま指を滑らせて、手のひらを重ねてみる。
(大きい…。やわらかいし、あったかい……)
少しだけ指に力を入れて握ってみる。初めて繋ぐ攷斗の手。感触も、体温も、心地が良く離れがたい。
(…カッコカリって……いつ、取れるんだろう……)
繋いだ手を眺めながら思う。
……すき。
とつぶやこうとして口を開いた瞬間、攷斗の指先に力がこもって、ひぃなの手を握った。
「!!」
思いがけない動作に驚き、手を離そうとするが適わない。
「ひな……?」
寝ぼけた声で攷斗が名前を呼ぶ。
「……はい……」
ひぃなはそれに小さく返事をするが、攷斗の意識は夢と現実の狭間にいるようだ。
ピントが合わない目線で、攷斗がひぃなを見つめる。
「……たない、さん……?」
次の瞬間、攷斗の身体がひぃなをゆっくり押し倒した。
(ひょえ?!)
脳内で変な声を上げて、ひぃながソファに倒れこむ。
「た、棚井……?」
「ひな……」
ひぃなの胸に、攷斗の声は埋もれて、くぐもっている。
攷斗はひぃなに覆いかぶさったまま、再度寝息を立てた。
(寝ちゃった……?)
着痩せするようで気付かなかったが、筋肉質で意外に重い。完全に力の抜けた攷斗の下から這い出すのは難しそうだ。
エアコンが付いているので寒くはないが、乾燥しそうなので風邪は心配だ。
とはいえ、攷斗が起きるか動くかしないとひぃなも身動きが取れない。
明日は土曜。休日出勤があるという話も聞いていない。明日が仕事なら無理にでも起こしてベッドへ連れていくところだが……
(潰れそうなほど重いわけでもないし…いっか……)
ソファに置かれていたクッションを枕替わりにする。
攷斗の暖かさと重みが心地良い。規則正しい寝息に同調して呼吸をすると、ひぃなにも眠気が襲ってくる。
(起きたとき…驚くかな……)
攷斗が自分にそうするように、そっと頭を撫でる。セットされていない髪は案外猫っ毛でやわらかい。
(ほんとの猫も、こんな感じかな……)
ぼんやりとそんなことを考えていると、ひぃなの意識が緩やかに消えてゆき、やがて眠りに落ちた。
「あー、楽しかった」
ジャケットを脱いで攷斗がソファに座った。
「もうこのまま寝たい」
「せめて着替えたら?」
同じ気持ちを抱くひぃなが、自分にも言い聞かせるかのように笑いながら言った。
「うーん…。あ。お風呂先どうぞ。いま入ると風呂の中で寝そう」
「ありがとう。ほんとに寝るなら、お部屋戻ったほうがいいよ?」
「うん」
とろんとした目付きで攷斗が返事をする。
仕事帰りに長く運転させて申し訳なかったなと思いつつ、やはりひぃなも楽しかったので十二分に感謝した。
買ってきたものを冷蔵庫や保管棚に格納し、
(ツリーは明日飾ろうかな)
自室に置いた大きな紙袋の中身に思いを馳せる。
攷斗が興味を持ったら一緒に飾り付けるのも悪くない。
「お風呂行ってきます」
「いってらっしゃい」
いまにも寝そうな表情で手を振り、攷斗がひぃなを見送る。
(確かにこれは寝ちゃいそう……)
湯船に浸かると長くなりそうなので、サッとシャワーを浴びてリビングに戻ると、攷斗はソファに座ったまま寝息を立てていた。
(子供みたい)
そっと隣に座ってみる。前かがみになって顔を覗き込む。
「……風邪ひくよ~」
小さく呼び掛けるが反応はない。
「コウトー」
名前を呼んでも、規則正しい寝息が返ってくるだけ。
(ほんとに寝てる……)
座面に置かれた攷斗の手を少し触ってみるが、反応はない。
(起きない…よね……?)
そのまま指を滑らせて、手のひらを重ねてみる。
(大きい…。やわらかいし、あったかい……)
少しだけ指に力を入れて握ってみる。初めて繋ぐ攷斗の手。感触も、体温も、心地が良く離れがたい。
(…カッコカリって……いつ、取れるんだろう……)
繋いだ手を眺めながら思う。
……すき。
とつぶやこうとして口を開いた瞬間、攷斗の指先に力がこもって、ひぃなの手を握った。
「!!」
思いがけない動作に驚き、手を離そうとするが適わない。
「ひな……?」
寝ぼけた声で攷斗が名前を呼ぶ。
「……はい……」
ひぃなはそれに小さく返事をするが、攷斗の意識は夢と現実の狭間にいるようだ。
ピントが合わない目線で、攷斗がひぃなを見つめる。
「……たない、さん……?」
次の瞬間、攷斗の身体がひぃなをゆっくり押し倒した。
(ひょえ?!)
脳内で変な声を上げて、ひぃながソファに倒れこむ。
「た、棚井……?」
「ひな……」
ひぃなの胸に、攷斗の声は埋もれて、くぐもっている。
攷斗はひぃなに覆いかぶさったまま、再度寝息を立てた。
(寝ちゃった……?)
着痩せするようで気付かなかったが、筋肉質で意外に重い。完全に力の抜けた攷斗の下から這い出すのは難しそうだ。
エアコンが付いているので寒くはないが、乾燥しそうなので風邪は心配だ。
とはいえ、攷斗が起きるか動くかしないとひぃなも身動きが取れない。
明日は土曜。休日出勤があるという話も聞いていない。明日が仕事なら無理にでも起こしてベッドへ連れていくところだが……
(潰れそうなほど重いわけでもないし…いっか……)
ソファに置かれていたクッションを枕替わりにする。
攷斗の暖かさと重みが心地良い。規則正しい寝息に同調して呼吸をすると、ひぃなにも眠気が襲ってくる。
(起きたとき…驚くかな……)
攷斗が自分にそうするように、そっと頭を撫でる。セットされていない髪は案外猫っ毛でやわらかい。
(ほんとの猫も、こんな感じかな……)
ぼんやりとそんなことを考えていると、ひぃなの意識が緩やかに消えてゆき、やがて眠りに落ちた。
0
あなたにおすすめの小説
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
王宮地味女官、只者じゃねぇ
宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。
しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!?
王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。
訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ――
さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。
「おら、案内させてもらいますけんの」
その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。
王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」
副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」
ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」
そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」
けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。
王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。
訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る――
これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。
★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる