偽装結婚を偽装してみた

小海音かなた

文字の大きさ
62 / 120

Chapter.62

しおりを挟む
「こちらへどうぞ」
 海沿いの夜景が見えるレストラン。その窓際の席に、ウエイターがひぃなと攷斗を案内する。
 ドレスコードのない気さくな店だが、雰囲気は高級レストランのそれだ。
 ひぃなは予想外の展開に戸惑いながらも、攷斗のエスコートに身を任せる。
(これは確かにデートだわ)
 いままで二人で行く店と言ったら居酒屋か、少し大人向けのレストランが多かった。
 しかし、結婚前の関係性でここに連れてこられたら、少し身構えていたかもしれない、とひぃなは思う。
 慣れた様子でオーダーを進める攷斗は、いつも見ていた彼とは違う、少し大人びた雰囲気をまとっている。いや、実際に大人なのだが。
(こりゃモテるよね)
 湖池から(何故か)逐次聞いていた攷斗の恋愛遍歴にも納得がいく。
(私で良かったのかな)
 攷斗より年齢も上で、そこそこ離れている。正直結婚なんてもうしないんだろうな、と思っていた節のあるひぃなは、少しの不安を覚える。
「以上で」
「かしこまりました」
 攷斗をぼんやり眺めて考えているうちに、オーダーが完了したようだ。ひぃなの視線に気付き、攷斗が首をかしげる。
「どしたの?」
「ううん? 大人になったんだなって思って」
「え? 出会った時から大人だったんだけど……。いままでなんだと思ってたの?」
「若くて可愛い新人の後輩」
「え? で? いまは?」
「いまはー……可愛い、年下の、旦那さん……?」
「疑問形だし大人どっか行ってるし」
 笑いながら攷斗が突っ込みを入れる。
「あれ?」
「いいよ、ゆっくりで。結婚してからまだ一ヶ月も経ってないんだし」
「そっか……そうだよね」
 あの怒涛の展開からまだ数週間しか経っていないことに驚きを感じる。脳内の時系列がぐにゃりと曲がって、どこかおかしなところで繋がってしまったような感覚が拭えない。
 目の前にいる“夫”は、先月末まで“職場の元後輩”だった。
 なにがどうして――。
 けれど、目の前にいる攷斗は、この先一緒に人生を歩んでいく、パートナー。それはもう紛れもない事実で。
(カッコカリって、いつ取れるんだろう……)
 途切れた会話の静寂しじまに、ふと思う。
 “偽装”とか“(仮)”とか、そんなそぶりを見せない攷斗に聞くのはためらわれるその疑問。
(両想いだって、思っていいのかな)
 そっと攷斗を見つめてみる。
 穏やかな表情で窓の外を眺める攷斗の横顔。
 その目線はすぐにひぃなに移った。
「ん?」
 手に顎を乗せ、その頭を少しかしげる。
(かわいいなぁ)
 攷斗がひぃなに思うように、ひぃなも攷斗が可愛い。
「キレイだね、夜景」
「うん」
 二人で夜景を眺めていると、ウエイターが皿を持ってやってきた。
「失礼いたします。こちら前菜の……」
 説明と共に出される料理の数々を、目でも舌でも満喫した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

処理中です...