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Chapter.97
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ひぃなはその言葉の真意と切実さに気付いていない。しかし、それでいい。多少過保護だな、と思うくらいで、何も気付かず、気に病まず、終息するに越したことはない。
「今週末の買い出し、何時くらいがいい?」
「うーん、お昼食べてからとかかな? おなか空いてると買いすぎちゃうから」
「どこかで食べてから買い物行く?」
「それもいいかも」
「じゃあ、朝と昼兼用にしてカフェ寄ってからスーパー行こうか」
「うん」
約束を取り付け、土曜日の朝リビングで待ち合わせ、一緒に地下駐車場へ行く。
車に乗り込み移動すると、ほどなくしてメール着信の音がした。おそらく護衛からだ。
信号待ちで確認すると、黒岩がタクシーを捕まえて車を追い始めたという報告が書かれていた。
(マジか)
思わず声が出そうになって、平静を装いスマホをポケットに入れる。
バックミラー越しに見える数台の乗用車とタクシー。距離的に乗客中かどうかの判別がつかない。
(巻くのも不自然だし、仕方ないか……)
しばらく車を走らせて、スーパーに併設したカフェへ行くため専用駐車場に車を停める。
そこそこのスペースが埋まっているので、スーパーか喫茶店が賑わっているのだろう。
カフェで通された席は出入口を一望出来る場所で、ひぃなを出入口が見えないほうに座らせて、攷斗は向かいに着席した。
「初めて入ったけど、いいね、ここ。買い出しの恒例にしてもいいかも」
程よく席が埋まったカフェは、客の会話とBGMが混ざって心地良い。
「うん。でも思ってるよりゆっくりしちゃうかも」
「いいじゃん、土曜なんだし」
「そうだね」
ふふっと笑って、ひぃながメニューを眺め出した。
「ひなさぁ」
「ん?」
「……なんか、困ってることとか、大丈夫?」
急な質問にひぃなが首を傾げた。
「あんまりそういう、不便とか窮屈とか言ってくれないから、大丈夫かなって」
「うん。快適だよ?」
「そっか」
「しいて言えば、トーストサンドとピザトースト、どっちにしようか悩んでる」
「両方注文しなよ。食べたいだけ食べたら、あと俺食うから」
「コウトは食べたいものないの?」
「それとは別にモーニングを頼む」
「すごい食べるね」
「頭使ってるからか腹減るんだよね……」
「お仕事大変なんだね……」
「うん、まぁ、心配はいらないけど」
仕事のことだけで使っているわけではないので、余計にカロリーを消費している気がする。
「決まった?」
「うん、お言葉に甘えます」
「じゃあ」
と、呼び出しボタンを押した。
ブランチを終え店を出るまで、黒岩の入店はなかった。
(どこかで見張ってんのかな……)
そう思ったが、ほどなくしてSPからの連絡が入る。どうやら諦めて自宅に戻ったようだ。
(俺と一緒にいるときはなにもしてこないか……)
スーパーで買い物をしている間、ふと気付いたようにひぃなが後方を振り返る。
「……どした?」
「ううん? なんでもない」
苦笑して前に向き直るが、その理由が思いあたる攷斗は、ひぃなにカートを押すようにお願いした。そのすぐ後方で、ひぃなの背後をかばうように回した手でカートを支える。
「……ありがとう……」
「うん。案外寒いから、温かくて助かる」
わざと見当違いの回答をして、ひぃなの買い物メモを見ながら必要な食材をかごに入れていった。
さりげなく後方を確認した攷斗が、黒岩の姿を見ることはない。警護からも報告がないから、きっとその気配はひぃなの気のせい。
しかし、それを感じるだけの危機感と恐怖感を感じているということだ。
(あんまり泳がせておくわけにもいかないな)
その夜、攷斗は自室で警護にひぃなの心理状態を伝えた。早急に対策をして、早く安心して普通の生活を送らせたい、という希望も添えて。
「今週末の買い出し、何時くらいがいい?」
「うーん、お昼食べてからとかかな? おなか空いてると買いすぎちゃうから」
「どこかで食べてから買い物行く?」
「それもいいかも」
「じゃあ、朝と昼兼用にしてカフェ寄ってからスーパー行こうか」
「うん」
約束を取り付け、土曜日の朝リビングで待ち合わせ、一緒に地下駐車場へ行く。
車に乗り込み移動すると、ほどなくしてメール着信の音がした。おそらく護衛からだ。
信号待ちで確認すると、黒岩がタクシーを捕まえて車を追い始めたという報告が書かれていた。
(マジか)
思わず声が出そうになって、平静を装いスマホをポケットに入れる。
バックミラー越しに見える数台の乗用車とタクシー。距離的に乗客中かどうかの判別がつかない。
(巻くのも不自然だし、仕方ないか……)
しばらく車を走らせて、スーパーに併設したカフェへ行くため専用駐車場に車を停める。
そこそこのスペースが埋まっているので、スーパーか喫茶店が賑わっているのだろう。
カフェで通された席は出入口を一望出来る場所で、ひぃなを出入口が見えないほうに座らせて、攷斗は向かいに着席した。
「初めて入ったけど、いいね、ここ。買い出しの恒例にしてもいいかも」
程よく席が埋まったカフェは、客の会話とBGMが混ざって心地良い。
「うん。でも思ってるよりゆっくりしちゃうかも」
「いいじゃん、土曜なんだし」
「そうだね」
ふふっと笑って、ひぃながメニューを眺め出した。
「ひなさぁ」
「ん?」
「……なんか、困ってることとか、大丈夫?」
急な質問にひぃなが首を傾げた。
「あんまりそういう、不便とか窮屈とか言ってくれないから、大丈夫かなって」
「うん。快適だよ?」
「そっか」
「しいて言えば、トーストサンドとピザトースト、どっちにしようか悩んでる」
「両方注文しなよ。食べたいだけ食べたら、あと俺食うから」
「コウトは食べたいものないの?」
「それとは別にモーニングを頼む」
「すごい食べるね」
「頭使ってるからか腹減るんだよね……」
「お仕事大変なんだね……」
「うん、まぁ、心配はいらないけど」
仕事のことだけで使っているわけではないので、余計にカロリーを消費している気がする。
「決まった?」
「うん、お言葉に甘えます」
「じゃあ」
と、呼び出しボタンを押した。
ブランチを終え店を出るまで、黒岩の入店はなかった。
(どこかで見張ってんのかな……)
そう思ったが、ほどなくしてSPからの連絡が入る。どうやら諦めて自宅に戻ったようだ。
(俺と一緒にいるときはなにもしてこないか……)
スーパーで買い物をしている間、ふと気付いたようにひぃなが後方を振り返る。
「……どした?」
「ううん? なんでもない」
苦笑して前に向き直るが、その理由が思いあたる攷斗は、ひぃなにカートを押すようにお願いした。そのすぐ後方で、ひぃなの背後をかばうように回した手でカートを支える。
「……ありがとう……」
「うん。案外寒いから、温かくて助かる」
わざと見当違いの回答をして、ひぃなの買い物メモを見ながら必要な食材をかごに入れていった。
さりげなく後方を確認した攷斗が、黒岩の姿を見ることはない。警護からも報告がないから、きっとその気配はひぃなの気のせい。
しかし、それを感じるだけの危機感と恐怖感を感じているということだ。
(あんまり泳がせておくわけにもいかないな)
その夜、攷斗は自室で警護にひぃなの心理状態を伝えた。早急に対策をして、早く安心して普通の生活を送らせたい、という希望も添えて。
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