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Chapter.44
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ライブ後、鹿乃江と園部は、会場から少し離れた駅にある居酒屋でご飯を食べることにした。園部が友人たちとライブ後に良く行く店だそうだ。
まずは乾杯。それからテーブルに並んだ一通りのオーダー品をシェアして食事を開始する。
「つぐみさんは四人の中だったら誰派でしたか」
「えっ、だれって……」
頭に浮かぶのはもちろん……。
「いや、この先ずっと一緒に行きましょーとかじゃなくてぇ。いや、一緒に行ってほしいですけど~」
「うん、まぁ……緊急時は声かけてもらえれば」
「やったー! で? 誰でした?」
「う…んと…。まえ、はら…くん…?」
「前ちゃんいいですよね! 今日はなんかうちらの席のほう、めっちゃファンサくれましたし!」
「そうね」
「前ちゃんはメンバーの中で最年長でリーダーなんですけど~」
園部が紫輝について知っていることを色々と教えてくれる。
皆が知っている情報を知るたび、自分が会っていた“前原さん”がどんどん遠くなっていく気がした。
(うん。いいんじゃないかな。このまま遠くなって、おばあちゃんになる頃には、夢だったんだと思えるようになれば、それで)
そんな考えを拒むかのように、テーブルの上に置いていたスマホが震えた。園部の話を聞きながら横目で画面を確認すると、【マエハラシキ】からの新着メッセ通知が表示されている。
(ヒエ)
思わずスマホを裏返した。
店内にいる数組の女性グループ客も、自分たちと同じライブ帰り組だ。
(IDなんて好きな名前にできるし、そもそも見えないだろうけど……!)
開演前に通知音を切ったことをすっかり忘れていたので、驚きはいつもの倍だ。
園部の話を笑顔で聞きながらも、メッセの内容が気になってしまう。きっと、ライブに来ていたかどうかの確認だとは思うが……。
更にスマホが震えて、新着通知が届いたことを知らせた。
「だいじょぶですか?」
園部がスマホを指さして問う。
「うん、急ぎじゃないから」
平静を装って言いつつも、鼓動が騒がしく気持ちを急かす。
とは言え、いますぐに見ることもできないので、刺身をつつきながら園部と話す。
借りたCDの楽曲はどれも良く、ライブ前の予習としても最適だったこと。ライブ自体も趣向が凝らされていて純粋に楽しめたこと。大きな会場での一体感が気持ち良かったこと。どれも紫輝が聞いたら泣いて喜びそうな内容だ。
ただ、あの大きな会場で見つけられたことに一番驚いたことは、当然だが言うことができなかった。
「ちょっと10番行ってきます」
職場での隠語をつかって、園部がトイレに立つ。鹿乃江はそれを見送って、少し悩んでからスマホを手に取った。
何度か震えたのは、全て【マエハラシキ】からの新着メッセ通知だった。
『お久しぶりです』
『違っていたらごめんなさい』
『今日、ライブ来てくれていましたか?』
『違っていなかったら嬉しいです』
数ヶ月ぶりのメッセに、園部たちが言うところの“ファンサ”姿を思い出して思わず微笑む。
また少し悩んで、でも無視できなくて。
(これで、さいご…)
そう誓いながら、アプリを起動した。
* * *
まずは乾杯。それからテーブルに並んだ一通りのオーダー品をシェアして食事を開始する。
「つぐみさんは四人の中だったら誰派でしたか」
「えっ、だれって……」
頭に浮かぶのはもちろん……。
「いや、この先ずっと一緒に行きましょーとかじゃなくてぇ。いや、一緒に行ってほしいですけど~」
「うん、まぁ……緊急時は声かけてもらえれば」
「やったー! で? 誰でした?」
「う…んと…。まえ、はら…くん…?」
「前ちゃんいいですよね! 今日はなんかうちらの席のほう、めっちゃファンサくれましたし!」
「そうね」
「前ちゃんはメンバーの中で最年長でリーダーなんですけど~」
園部が紫輝について知っていることを色々と教えてくれる。
皆が知っている情報を知るたび、自分が会っていた“前原さん”がどんどん遠くなっていく気がした。
(うん。いいんじゃないかな。このまま遠くなって、おばあちゃんになる頃には、夢だったんだと思えるようになれば、それで)
そんな考えを拒むかのように、テーブルの上に置いていたスマホが震えた。園部の話を聞きながら横目で画面を確認すると、【マエハラシキ】からの新着メッセ通知が表示されている。
(ヒエ)
思わずスマホを裏返した。
店内にいる数組の女性グループ客も、自分たちと同じライブ帰り組だ。
(IDなんて好きな名前にできるし、そもそも見えないだろうけど……!)
開演前に通知音を切ったことをすっかり忘れていたので、驚きはいつもの倍だ。
園部の話を笑顔で聞きながらも、メッセの内容が気になってしまう。きっと、ライブに来ていたかどうかの確認だとは思うが……。
更にスマホが震えて、新着通知が届いたことを知らせた。
「だいじょぶですか?」
園部がスマホを指さして問う。
「うん、急ぎじゃないから」
平静を装って言いつつも、鼓動が騒がしく気持ちを急かす。
とは言え、いますぐに見ることもできないので、刺身をつつきながら園部と話す。
借りたCDの楽曲はどれも良く、ライブ前の予習としても最適だったこと。ライブ自体も趣向が凝らされていて純粋に楽しめたこと。大きな会場での一体感が気持ち良かったこと。どれも紫輝が聞いたら泣いて喜びそうな内容だ。
ただ、あの大きな会場で見つけられたことに一番驚いたことは、当然だが言うことができなかった。
「ちょっと10番行ってきます」
職場での隠語をつかって、園部がトイレに立つ。鹿乃江はそれを見送って、少し悩んでからスマホを手に取った。
何度か震えたのは、全て【マエハラシキ】からの新着メッセ通知だった。
『お久しぶりです』
『違っていたらごめんなさい』
『今日、ライブ来てくれていましたか?』
『違っていなかったら嬉しいです』
数ヶ月ぶりのメッセに、園部たちが言うところの“ファンサ”姿を思い出して思わず微笑む。
また少し悩んで、でも無視できなくて。
(これで、さいご…)
そう誓いながら、アプリを起動した。
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