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7/3『甘辛い二人』
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バッグの中に必ず入れているものの中に、七味唐辛子がある。
スーパーとかで売ってる小さい瓶のやつ、丸ごと一本。
外でお弁当食べる時に使いたくて持ち歩いてるんだけど、それもひと月くらいで使い切るから詰替え用のパウチ袋が家に常備されている。
そんな私を襲った悲しい出来事。
理想の味だった七味唐辛子をまぶしたおせんべいが終売してしまった。店頭でもネットショップでも、どこでも【売り切れ】の表示。
買い置きはあるけど、それもいつか終わってしまう。そもそも賞味期限があるから、ずっと取っておくわけにもいかない。
はあぁ、悲しいなぁ……という気持ちをSNSで呟いたら、思いのほか反応があった。同じ商品の賞味期限を撮影した写真を使って同意してくれたり、取扱店がないか調べてくれたり(残念ながらどこにも売ってなかった)。
ここならなにか情報があるかも? と教えてもらった【辛い物好きな人が集まるコミュニティ】に参加したら、おせんべいの情報はなかったけど、それまで知らなかった旨辛い食べ物の情報や辛い物の雑学が溢れていた。
ただ辛い物が好きなだけの私と違って知識が豊富な人がたくさん集まるそのコミュニティは、得るものが多くて楽しいサークル活動のよう。
コミュニティ上での知り合いもたくさん増えたころ、オフ会が開かれることになった。
リアルに会ってみたいと思っている人が参加すると知って、自分も参加することに決めた。
集合場所の駅改札に到着して周囲を見回すと、【辛い物ツアー御一行様】と書かれた旗を持っている人がいた。声をかけて受付してもらう。
新幹線の一両を貸切で使えるらしく、車両の中では参加者全員の自己紹介や、これから巡る施設の説明が行われた。ネット上で交流のある人たちが集まれるように席替えしたりして、なんだかバスツアーに参加してるみたい。
お目当てだった“会ってみたい人”は別の仲良しグループにいて、なかなか会話するチャンスがない。コミュ内でのやりとりをしていて気が合うなぁと思ってたけど、見た目も好みの男性だったから、お近づきになれないのは残念だ。
でも私がいるグループも明るくて面白い人ばかりだから楽しくて、行き道で参加して良かったと確信した。
立ち寄ったお店で名産品を食べ、農園でフルーツ狩りを堪能したのち、本日最大のお楽しみである【カスタムブレンドの七味唐辛子を作れる七味唐辛子専門店】に向かった。
四十種類の素材から好みのものを選んで配合してもらえるんだけど、これが楽しいのなんの。
めちゃめちゃ悩んでお店の人にも色々聞いて、やっとできた私専用の七味唐辛子。チャック袋に入った七色の粉がとても愛おしい。
帰りの車内で、渡された【調合カルテ】をみんなで見比べていたら、私とまったく同じ組み合わせをしている人がいた。
一千万通り以上のパターンがあるのにすごい一致! って盛り上がって、私はその人と二人きり、隣同士の席にされた。
その人は、私がリアルに会いたいと思っていた人だった。
ずっと気になっていてリアルで話してみたいと思っていたのに、いざ二人の空間にされると緊張してしまう。
“気になる”というのは、“異性として”という意味で……要は、ネット上でしか会話したことのない人に淡い恋心を抱いていたのだけど……まさかこんな形で話すことになるなんて。
「【ちょみ】さん」
「はい」
「僕、コミュ内で色々お話させていただいてる、【幽玄】といいます」
「はい。いつもありがとうございます」
「いえ、こちらこそ」
なんだか二人で照れてしまって、途切れ途切れながらも会話を続けていくうちに、お互いが会って直接話してみたいと思ってたことが判明した。
それから何度も会うようになって、旨辛い料理を出してくれるお店に一緒に行ったりして、お付き合いするようになって、結婚することになった。
結婚式にはもちろん、二人が出会うきっかけになった【辛い物好きコミュニティ】の人たちも招待した。招待状を送ったらみんな喜んで参加してくれた。
二人の運命を決めた七味唐辛子専門店にお願いして、アニバーサリーデザイン缶に入った、あのときと同じ配合の七味唐辛子作ってもらった。
一緒に購入したラッピング用のクリアケースに、オリジナルデザインの七味缶と席札を入れて各席に置く。席札と一緒にお土産として持って帰ってもらうのだ。
辛い物が苦手な人にはごめんなさいだけど、おおむね好評で安心した。
式の二次会も終わり、タクシーに乗って新居へ帰る。
そうしていよいよ、辛い物好きな私たちの甘い生活が始まるのだ。あぁ、楽しみだなぁ。
スーパーとかで売ってる小さい瓶のやつ、丸ごと一本。
外でお弁当食べる時に使いたくて持ち歩いてるんだけど、それもひと月くらいで使い切るから詰替え用のパウチ袋が家に常備されている。
そんな私を襲った悲しい出来事。
理想の味だった七味唐辛子をまぶしたおせんべいが終売してしまった。店頭でもネットショップでも、どこでも【売り切れ】の表示。
買い置きはあるけど、それもいつか終わってしまう。そもそも賞味期限があるから、ずっと取っておくわけにもいかない。
はあぁ、悲しいなぁ……という気持ちをSNSで呟いたら、思いのほか反応があった。同じ商品の賞味期限を撮影した写真を使って同意してくれたり、取扱店がないか調べてくれたり(残念ながらどこにも売ってなかった)。
ここならなにか情報があるかも? と教えてもらった【辛い物好きな人が集まるコミュニティ】に参加したら、おせんべいの情報はなかったけど、それまで知らなかった旨辛い食べ物の情報や辛い物の雑学が溢れていた。
ただ辛い物が好きなだけの私と違って知識が豊富な人がたくさん集まるそのコミュニティは、得るものが多くて楽しいサークル活動のよう。
コミュニティ上での知り合いもたくさん増えたころ、オフ会が開かれることになった。
リアルに会ってみたいと思っている人が参加すると知って、自分も参加することに決めた。
集合場所の駅改札に到着して周囲を見回すと、【辛い物ツアー御一行様】と書かれた旗を持っている人がいた。声をかけて受付してもらう。
新幹線の一両を貸切で使えるらしく、車両の中では参加者全員の自己紹介や、これから巡る施設の説明が行われた。ネット上で交流のある人たちが集まれるように席替えしたりして、なんだかバスツアーに参加してるみたい。
お目当てだった“会ってみたい人”は別の仲良しグループにいて、なかなか会話するチャンスがない。コミュ内でのやりとりをしていて気が合うなぁと思ってたけど、見た目も好みの男性だったから、お近づきになれないのは残念だ。
でも私がいるグループも明るくて面白い人ばかりだから楽しくて、行き道で参加して良かったと確信した。
立ち寄ったお店で名産品を食べ、農園でフルーツ狩りを堪能したのち、本日最大のお楽しみである【カスタムブレンドの七味唐辛子を作れる七味唐辛子専門店】に向かった。
四十種類の素材から好みのものを選んで配合してもらえるんだけど、これが楽しいのなんの。
めちゃめちゃ悩んでお店の人にも色々聞いて、やっとできた私専用の七味唐辛子。チャック袋に入った七色の粉がとても愛おしい。
帰りの車内で、渡された【調合カルテ】をみんなで見比べていたら、私とまったく同じ組み合わせをしている人がいた。
一千万通り以上のパターンがあるのにすごい一致! って盛り上がって、私はその人と二人きり、隣同士の席にされた。
その人は、私がリアルに会いたいと思っていた人だった。
ずっと気になっていてリアルで話してみたいと思っていたのに、いざ二人の空間にされると緊張してしまう。
“気になる”というのは、“異性として”という意味で……要は、ネット上でしか会話したことのない人に淡い恋心を抱いていたのだけど……まさかこんな形で話すことになるなんて。
「【ちょみ】さん」
「はい」
「僕、コミュ内で色々お話させていただいてる、【幽玄】といいます」
「はい。いつもありがとうございます」
「いえ、こちらこそ」
なんだか二人で照れてしまって、途切れ途切れながらも会話を続けていくうちに、お互いが会って直接話してみたいと思ってたことが判明した。
それから何度も会うようになって、旨辛い料理を出してくれるお店に一緒に行ったりして、お付き合いするようになって、結婚することになった。
結婚式にはもちろん、二人が出会うきっかけになった【辛い物好きコミュニティ】の人たちも招待した。招待状を送ったらみんな喜んで参加してくれた。
二人の運命を決めた七味唐辛子専門店にお願いして、アニバーサリーデザイン缶に入った、あのときと同じ配合の七味唐辛子作ってもらった。
一緒に購入したラッピング用のクリアケースに、オリジナルデザインの七味缶と席札を入れて各席に置く。席札と一緒にお土産として持って帰ってもらうのだ。
辛い物が苦手な人にはごめんなさいだけど、おおむね好評で安心した。
式の二次会も終わり、タクシーに乗って新居へ帰る。
そうしていよいよ、辛い物好きな私たちの甘い生活が始まるのだ。あぁ、楽しみだなぁ。
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