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時間との戦い(続)
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ヤイミーから事の次第を聞いたアンソニーとポールは愕然とした。
「っ、くそっ!俺が側を離れたばっかりに……!」
ポールは唇を噛み、拳を壁に叩きつけた。
「……ポール、落ち着いて。君のせいではありません。ひとまず、私はすぐに陛下にお知らせしてきます。君はヤイミー嬢と一緒にジャン達に話をしておいてください」
「あ、ああ、わかった……!ウィルにも知らせるのか?」
「ウィル様には……」
アンソニーはアリスと踊るウィルを見た。今まで見たことのないような、幸せそうな笑顔を浮かべている。
「……今はまだお伝えしない方がいいでしょう。パーティーが終わるまでは騒ぎにならないようにしましょう」
アンソニーの言葉にポールは頷いた。
「な、何?!クラリス嬢が攫われた?!」
国王が驚きの声をあげた。
「はい。今はエラリーが一人で後を追っているようです。陛下、すぐに騎士団を!」
「うむ。アラン、参加者に知られないように、急ぎ騎士団と特務部隊に知らせろ。元より出入口は一つに絞ってあるからな。出入りする人間の確認を徹底させろ。共犯者がまだ中にいるやもしれん」
「はっ!」
「アンソニー、お前はパーティーを早目に終わらせる段取りをつけろ。くれぐれも参加者には知られないように。騒ぎに乗じて共犯者に逃げられては困る」
「かしこまりました!」
「それから、ディミトリ公世子を呼んでくれ」
「はっ」
ディミトリもまた、ダンスの誘いに列をなす令嬢達の相手に疲れ果てていた。
「ディミトリ様。少しお話しが」
「アンソニー!ああ、もちろん!」
アンソニーに声をかけられ、助かったとばかりに令嬢達の輪から抜け出す。
「ふう。王国でも公国でも、女性は積極的だね」
アンソニーに笑顔で話しかけるディミトリだったが、アンソニーの顔に浮かぶ焦りを見て、すぐに真面目な表情になった。
「国王陛下がお呼びです」
「陛下が?」
二人は足早に国王の元に向かう。
「ディミトリ公世子。お楽しみのところ呼び立てしてすまない」
「とんでもない。むしろ助かりましたよ。それで、何か問題でも?」
「ああ。実は、我が国の民がこの会場から拐かされた。これより我が騎士団は全力でその救出にあたる」
「……民が誘拐された?もしやクラリス嬢が……?」
ディミトリは、パーティーが始まってすぐにウィル達から紹介された、美しい少女のことを思い浮かべた。
「申し訳ないが、エリザベス公女の護衛には最低限の人数しかさけない。公女の身の安全の確保は公国側にお願いしたい」
王宮主催のパーティーにも関わらず警備が手薄になっていたのは、ブートレット公国から無理矢理やってきたエリザベスのせいだった。
ディミトリ宛に来た招待状を盗み見たエリザベスは、侍女に紛れてこっそりとディミトリについてきていたのだ。
パーティー前日に王国に到着した後、ドヤ顔でディミトリの前に姿を現したエリザベスを見て、ディミトリは頭を抱えた。
公国からはディミトリのための、最低限の護衛しか連れてきておらず、公女の護衛は王国の騎士団にお願いするしかなかった。
おまけにエリザベスがじっとしておらず、王宮内はおろか、王都中をフラフラ出歩いていたため、結構な数の騎士をその護衛に当てざるを得なかったのだ。
「……わかりました。すぐに妹を捕まえて部屋に閉じ込めてきます。騎士達はすぐに解放いたしますので」
「話が早くて助かる。礼を言う」
「おやめください。元はと言えば、我々公国側の落ち度なのですから」
頭を下げようとする国王を制して、ディミトリはアンソニーを振り返った。
「エリザベスを確保したら、私も捜索に加わろう。後で詳しいことを教えてくれ」
アンソニーが頷くのを確認して、ディミトリは急ぎ足でパーティー会場を後にした。
===========================
(!見つけた!あの馬車だ!)
一人、誘拐犯の後を追っていたエラリーは、前を走る馬車に気づき、スピードを上げて追いつこうとした所で、ハッと踏みとどまった。
(あの馬車にクラリス嬢が乗っているのは間違いなさそうだが……いかんせん、敵の人数がわからない。会場からそのまま出てきたから今の俺は丸腰だし、相手が複数で帯剣していれば分が悪い)
剣術だけでなく、体術にも自信のあるエラリーだったが、敵の情報がない中に飛び込んでいくのは、いくら何でも無謀に思えた。
(だが、急がなければクラリス嬢の身が危ない。くそっ、どうすればいい?!)
馬車に気づかれないよう、夜闇に乗じて後を追いながら、エラリーは必死で考えた。
「っ、くそっ!俺が側を離れたばっかりに……!」
ポールは唇を噛み、拳を壁に叩きつけた。
「……ポール、落ち着いて。君のせいではありません。ひとまず、私はすぐに陛下にお知らせしてきます。君はヤイミー嬢と一緒にジャン達に話をしておいてください」
「あ、ああ、わかった……!ウィルにも知らせるのか?」
「ウィル様には……」
アンソニーはアリスと踊るウィルを見た。今まで見たことのないような、幸せそうな笑顔を浮かべている。
「……今はまだお伝えしない方がいいでしょう。パーティーが終わるまでは騒ぎにならないようにしましょう」
アンソニーの言葉にポールは頷いた。
「な、何?!クラリス嬢が攫われた?!」
国王が驚きの声をあげた。
「はい。今はエラリーが一人で後を追っているようです。陛下、すぐに騎士団を!」
「うむ。アラン、参加者に知られないように、急ぎ騎士団と特務部隊に知らせろ。元より出入口は一つに絞ってあるからな。出入りする人間の確認を徹底させろ。共犯者がまだ中にいるやもしれん」
「はっ!」
「アンソニー、お前はパーティーを早目に終わらせる段取りをつけろ。くれぐれも参加者には知られないように。騒ぎに乗じて共犯者に逃げられては困る」
「かしこまりました!」
「それから、ディミトリ公世子を呼んでくれ」
「はっ」
ディミトリもまた、ダンスの誘いに列をなす令嬢達の相手に疲れ果てていた。
「ディミトリ様。少しお話しが」
「アンソニー!ああ、もちろん!」
アンソニーに声をかけられ、助かったとばかりに令嬢達の輪から抜け出す。
「ふう。王国でも公国でも、女性は積極的だね」
アンソニーに笑顔で話しかけるディミトリだったが、アンソニーの顔に浮かぶ焦りを見て、すぐに真面目な表情になった。
「国王陛下がお呼びです」
「陛下が?」
二人は足早に国王の元に向かう。
「ディミトリ公世子。お楽しみのところ呼び立てしてすまない」
「とんでもない。むしろ助かりましたよ。それで、何か問題でも?」
「ああ。実は、我が国の民がこの会場から拐かされた。これより我が騎士団は全力でその救出にあたる」
「……民が誘拐された?もしやクラリス嬢が……?」
ディミトリは、パーティーが始まってすぐにウィル達から紹介された、美しい少女のことを思い浮かべた。
「申し訳ないが、エリザベス公女の護衛には最低限の人数しかさけない。公女の身の安全の確保は公国側にお願いしたい」
王宮主催のパーティーにも関わらず警備が手薄になっていたのは、ブートレット公国から無理矢理やってきたエリザベスのせいだった。
ディミトリ宛に来た招待状を盗み見たエリザベスは、侍女に紛れてこっそりとディミトリについてきていたのだ。
パーティー前日に王国に到着した後、ドヤ顔でディミトリの前に姿を現したエリザベスを見て、ディミトリは頭を抱えた。
公国からはディミトリのための、最低限の護衛しか連れてきておらず、公女の護衛は王国の騎士団にお願いするしかなかった。
おまけにエリザベスがじっとしておらず、王宮内はおろか、王都中をフラフラ出歩いていたため、結構な数の騎士をその護衛に当てざるを得なかったのだ。
「……わかりました。すぐに妹を捕まえて部屋に閉じ込めてきます。騎士達はすぐに解放いたしますので」
「話が早くて助かる。礼を言う」
「おやめください。元はと言えば、我々公国側の落ち度なのですから」
頭を下げようとする国王を制して、ディミトリはアンソニーを振り返った。
「エリザベスを確保したら、私も捜索に加わろう。後で詳しいことを教えてくれ」
アンソニーが頷くのを確認して、ディミトリは急ぎ足でパーティー会場を後にした。
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(!見つけた!あの馬車だ!)
一人、誘拐犯の後を追っていたエラリーは、前を走る馬車に気づき、スピードを上げて追いつこうとした所で、ハッと踏みとどまった。
(あの馬車にクラリス嬢が乗っているのは間違いなさそうだが……いかんせん、敵の人数がわからない。会場からそのまま出てきたから今の俺は丸腰だし、相手が複数で帯剣していれば分が悪い)
剣術だけでなく、体術にも自信のあるエラリーだったが、敵の情報がない中に飛び込んでいくのは、いくら何でも無謀に思えた。
(だが、急がなければクラリス嬢の身が危ない。くそっ、どうすればいい?!)
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