88 / 139
宴の終わり
しおりを挟む
「着いたか」
町外れの古い屋敷の前でクラリスと男達を乗せた馬車が止まった。
「ここか?」
「ああ。元メッシー伯爵家の別邸だ。今は誰も住んでいない」
「娘は?」
「まだ起きないな」
「ちょうどいい。騒がれる前に地下室に連れて行くぞ」
「よっと。軽いな~、子供みたいだぜ」
男の一人ががクラリスを抱き上げて馬車を降りる。
「本当にあの薬は効いているんだろうな」
「ああ。別の女で試したが、すごい効き目だったぜ」
「こんなに清純そうな子が、自分から股を開いて迫ってくるかと思うと、堪らないな」
別の男がクラリスの顔を覗きこんで、舌舐めずりした。
「少し味見するぐらいいいだろ」
男の唇がクラリスの唇を塞ぎそうになった、その時だった。
「クラリス嬢に触わるな!」
陰に潜んでいたエラリーが飛び出し、男の脇腹に拳を叩きつけた。
「なっ!お前、どこか……ぐわっ」
クラリスを抱いていた男の顎にも強烈なアッパーを叩きこむ。
エラリーは、はずみでクラリスが男の手から転がり落ちるのを左腕で受け止めると、倒れ込んだ男達に強烈な蹴りを浴びせた。
「確か三人いたはずだったが……」
エラリーがごちたその時、暗闇から光るものが目の端に映ったかと思うと、目の前に短刀を振り翳した男が現れる。
「くっ」
咄嗟にクラリスを庇いながら横に避けるが、エラリーの右頬には血が滲む。
「うわああ!」
男が叫びながら再び短刀を振りかぶる。
「ぐえっ」
男の腹にエラリーの右蹴りが決まり、堪らず身体が前のめりになった所に、エラリーがさらに顎を蹴り上げ、男はそのまま気を失った。
「三人……これで全部か。クラリス嬢、無事で良かった……」
宝物を扱うように、そっとクラリスを横抱きにすると、エラリーは馬車のステップに足をかけた。
その時。
ゴンッ
「え……」
エラリーの後頭部から鈍い嫌な音がして、エラリーはクラリスを抱きかかえたまま、馬車の中に倒れ込んだ。
==========================
「手がかりは?」
「カイリー侯爵令嬢の示した方角で、乗り捨てられた馬車が見つかりました。確かにイディオ家の家紋が入っています」
「そこからの足取りは?」
「四方を捜索させています。見つかるのは時間の問題かと」
国王の問いに、騎士団長がキビキビと答えていく。
「そうか。アラン、セベールを呼べ」
国王が宰相の方を向く。
「それが……姿が見えないのです」
「何だと?トマスは?」
「同じく姿が見えません」
宰相の答えに国王は眉を顰めた。
「セベールが暴走しないようにと、トマスには監視を命じていたが、二人ともいないとはどういうことだ」
「監視していることがセベールに知られてしまったのかもしれません」
「……ひとまず、特務部隊の隊長を呼べ。キンバリー伯爵、子息からの連絡はないか」
「申し訳ございません。息子からはまだ何も」
「よい。騎士団は引き続き捜索を頼む」
「御意」
国王の言葉に騎士団長は一礼すると、足早にその場を後にした。
「父上、招待客が全員帰りました」
アンソニーの的確で迅速な指示のおかげで、招待客達は騒ぎのことは何も知らないまま、笑顔で王宮を後にしていた。
その招待客を見送るふりをして、広間の出入口で参加者の確認をしていたウィルとアンソニー、ディミトリが戻ってきた。
「怪しい奴はいたか」
「はい。数名。全員別室で拘束しています」
「ポールはどうした?」
「私の執務室に。アリスとイメルダ嬢、ジャンが一緒にいます」
国王がウィルの答えに頷いた時、透き通った美しい声がした。
「陛下。特務部隊隊長、カロリーヌが参りました」
見ると、特務部隊の制服に身を包んだ、細身で小柄な可愛らしい女性が跪いている。
「来たか。セベールの行方は?」
「申し訳ございません。今回はあやつの単独行動だったらしく、部下の誰も把握しておりません」
「監督不行届だな。まあ、今はいい。拘束している奴らを尋問せよ。クラリス嬢の居場所を吐いた奴だけ助けてやる、とな」
「仰せの通りに」
カロリーヌは美しく一礼して去っていく。
「あ、あんな、か弱そうな女性が特務部隊の隊長だなんて……」
初めてカロリーヌを見たディミトリが驚きの声をあげた。
「あれの尋問に比べれば、セベールの尋問でさえ児戯に等しいと言われているがな」
ディミトリは言葉を失った。
「アンソニー様」
「ミミか。何かわかったか」
いつの間にかアンソニーの背後に回っていたミミが全員を見渡して言った。
「はい。トマス様の居場所がわかりました」
「何?!どこだ?!」
「それが……」
続くミミの言葉に、全員が唖然とした。
町外れの古い屋敷の前でクラリスと男達を乗せた馬車が止まった。
「ここか?」
「ああ。元メッシー伯爵家の別邸だ。今は誰も住んでいない」
「娘は?」
「まだ起きないな」
「ちょうどいい。騒がれる前に地下室に連れて行くぞ」
「よっと。軽いな~、子供みたいだぜ」
男の一人ががクラリスを抱き上げて馬車を降りる。
「本当にあの薬は効いているんだろうな」
「ああ。別の女で試したが、すごい効き目だったぜ」
「こんなに清純そうな子が、自分から股を開いて迫ってくるかと思うと、堪らないな」
別の男がクラリスの顔を覗きこんで、舌舐めずりした。
「少し味見するぐらいいいだろ」
男の唇がクラリスの唇を塞ぎそうになった、その時だった。
「クラリス嬢に触わるな!」
陰に潜んでいたエラリーが飛び出し、男の脇腹に拳を叩きつけた。
「なっ!お前、どこか……ぐわっ」
クラリスを抱いていた男の顎にも強烈なアッパーを叩きこむ。
エラリーは、はずみでクラリスが男の手から転がり落ちるのを左腕で受け止めると、倒れ込んだ男達に強烈な蹴りを浴びせた。
「確か三人いたはずだったが……」
エラリーがごちたその時、暗闇から光るものが目の端に映ったかと思うと、目の前に短刀を振り翳した男が現れる。
「くっ」
咄嗟にクラリスを庇いながら横に避けるが、エラリーの右頬には血が滲む。
「うわああ!」
男が叫びながら再び短刀を振りかぶる。
「ぐえっ」
男の腹にエラリーの右蹴りが決まり、堪らず身体が前のめりになった所に、エラリーがさらに顎を蹴り上げ、男はそのまま気を失った。
「三人……これで全部か。クラリス嬢、無事で良かった……」
宝物を扱うように、そっとクラリスを横抱きにすると、エラリーは馬車のステップに足をかけた。
その時。
ゴンッ
「え……」
エラリーの後頭部から鈍い嫌な音がして、エラリーはクラリスを抱きかかえたまま、馬車の中に倒れ込んだ。
==========================
「手がかりは?」
「カイリー侯爵令嬢の示した方角で、乗り捨てられた馬車が見つかりました。確かにイディオ家の家紋が入っています」
「そこからの足取りは?」
「四方を捜索させています。見つかるのは時間の問題かと」
国王の問いに、騎士団長がキビキビと答えていく。
「そうか。アラン、セベールを呼べ」
国王が宰相の方を向く。
「それが……姿が見えないのです」
「何だと?トマスは?」
「同じく姿が見えません」
宰相の答えに国王は眉を顰めた。
「セベールが暴走しないようにと、トマスには監視を命じていたが、二人ともいないとはどういうことだ」
「監視していることがセベールに知られてしまったのかもしれません」
「……ひとまず、特務部隊の隊長を呼べ。キンバリー伯爵、子息からの連絡はないか」
「申し訳ございません。息子からはまだ何も」
「よい。騎士団は引き続き捜索を頼む」
「御意」
国王の言葉に騎士団長は一礼すると、足早にその場を後にした。
「父上、招待客が全員帰りました」
アンソニーの的確で迅速な指示のおかげで、招待客達は騒ぎのことは何も知らないまま、笑顔で王宮を後にしていた。
その招待客を見送るふりをして、広間の出入口で参加者の確認をしていたウィルとアンソニー、ディミトリが戻ってきた。
「怪しい奴はいたか」
「はい。数名。全員別室で拘束しています」
「ポールはどうした?」
「私の執務室に。アリスとイメルダ嬢、ジャンが一緒にいます」
国王がウィルの答えに頷いた時、透き通った美しい声がした。
「陛下。特務部隊隊長、カロリーヌが参りました」
見ると、特務部隊の制服に身を包んだ、細身で小柄な可愛らしい女性が跪いている。
「来たか。セベールの行方は?」
「申し訳ございません。今回はあやつの単独行動だったらしく、部下の誰も把握しておりません」
「監督不行届だな。まあ、今はいい。拘束している奴らを尋問せよ。クラリス嬢の居場所を吐いた奴だけ助けてやる、とな」
「仰せの通りに」
カロリーヌは美しく一礼して去っていく。
「あ、あんな、か弱そうな女性が特務部隊の隊長だなんて……」
初めてカロリーヌを見たディミトリが驚きの声をあげた。
「あれの尋問に比べれば、セベールの尋問でさえ児戯に等しいと言われているがな」
ディミトリは言葉を失った。
「アンソニー様」
「ミミか。何かわかったか」
いつの間にかアンソニーの背後に回っていたミミが全員を見渡して言った。
「はい。トマス様の居場所がわかりました」
「何?!どこだ?!」
「それが……」
続くミミの言葉に、全員が唖然とした。
0
あなたにおすすめの小説
「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)
透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。
有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。
「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」
そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて――
しかも、彼との“政略結婚”が目前!?
婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。
“報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!
白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、
《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。
しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、
義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった!
バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、
前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??
異世界転生:恋愛 ※魔法無し
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
悪役令嬢に転生するも魔法に夢中でいたら王子に溺愛されました
黒木 楓
恋愛
旧題:悪役令嬢に転生するも魔法を使えることの方が嬉しかったから自由に楽しんでいると、王子に溺愛されました
乙女ゲームの悪役令嬢リリアンに転生していた私は、転生もそうだけどゲームが始まる数年前で子供の姿となっていることに驚いていた。
これから頑張れば悪役令嬢と呼ばれなくなるのかもしれないけど、それよりもイメージすることで体内に宿る魔力を消費して様々なことができる魔法が使えることの方が嬉しい。
もうゲーム通りになるのなら仕方がないと考えた私は、レックス王子から婚約破棄を受けて没落するまで自由に楽しく生きようとしていた。
魔法ばかり使っていると魔力を使い過ぎて何度か倒れてしまい、そのたびにレックス王子が心配して数年後、ようやくヒロインのカレンが登場する。
私は公爵令嬢も今年までかと考えていたのに、レックス殿下はカレンに興味がなさそうで、常に私に構う日々が続いていた。
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる