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眠れぬ夜
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「あっっっんの、腹黒公世子……!」
王宮に泊まっていけというウィルを振り切って、アリスはようやく自室に帰ってきた。そのままベッドにばたりと倒れ込む。
「なんなのよ、一体?!世継ぎは腹黒じゃなきゃダメって決まりでもあるの?!」
ディミトリの爆弾発言によって、ただのお見舞いだったはずの場がカオスと化した。
だが、当のディミトリ本人は、急いで公国に帰らないといけないと言って、馬に飛び乗り、さっさと帰ってしまった。
またすぐに戻ってくるという言葉と、いい笑顔を残して。
「あんな、クラリスちゃんを困らせるようなことをして、一体何が目的よ。ああ、でも、クラリスちゃんの気になる人が誰か気になる!」
最推しの推しならば、喜んで一緒に推さなければ!という思いと、最推しが誰か一人のものになってしまうかもしれないという辛さとで、アリスはだいぶ混乱していた。
「クラリスちゃんの気になる人……あああ!こうなったら、女子会でも開いて聞き出そうかしら!」
枕を抱えて身悶えするアリスの耳に、カイシャの厳しい声が聞こえてきた。
「アリスお嬢様!そのままだとお洋服が皺になるのでお帰りになったらまずはお着替えから、と何度申し上げたらおわかりになるんですか!」
クラリスのこととなると、相変わらずポンコツなアリスだった。
==========================
「はあああ……」
お見舞い?に来たという面々が引き上げていき、エラリーはベッドの上で一人、何十回目になるかわからないため息をついた。
「クラリス嬢の気になる人……」
結局あの後、イメルダに嗜められたジャンが嬉々としてイメルダと共に帰っていき、ディミトリも急ぎの用があると言って公国に帰って行った。
残された面々のうち、ポールとアンソニーは魂の抜けたような顔をしてふらふらと帰って行き、ウィルはアリスを無理矢理引きずって帰って行った。
そして、最後にドアを出たクラリスの、去り際の申し訳なさそうな顔が忘れられない。
「あの顔は、俺の気持ちに応えられなくて申し訳ないということだろうか……」
「やはりポールか……」
最初から自分には勝ち目のない闘いだったのだ。
「俺の第一印象は最悪だっただろうし、アンソニーのように気の利いた贈り物もできないし、ポールのように信頼されてもいないし……」
「はああ」
あの時。拉致されたクラリスを助け出し、腕の中に閉じ込めた時。その身体のあまりの小ささ、細さに驚いた。
何に代えても守りたいと強く思うと同時に、その柔らかくて甘い匂いのする身体を暴いてめちゃくちゃにしたいという暗い感情が芽生えたのも事実だ。
「こんな気持ち、どうしたらいいんだ……?」
いつもなら鍛錬に励むことで吹き飛ばしてきたモヤモヤが、ベッドの上ではただ積もっていくだけで、エラリーはひたすらため息をこぼすことしかできなかった。
========================
「ポールお兄ちゃん、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ、クラリス」
食堂を閉めて自宅に帰るポールに、クラリスが声をかけた。ポールは答えながら、いつものようにクラリスの頭を撫でようと手を伸ばして、一瞬躊躇った。
「?」
クラリスがきょとんとした顔でポールを見つめる。
「あ、いや、また明日な!」
そう言ってわしゃわしゃとクラリスの髪を撫でて、ポールは自宅へと帰っていった。
「ポール!」
自宅のドアを開けようとしていたポールの名を呼ぶ男がいた。
「フレディか?どうしたんだ?」
「どうしたはこっちのセリフだよ」
走って追いかけてきたのか、フレデリックは少し息が荒い。
「はあ、とりあえず、中に入れてくれ。話がしたい」
「……おう。入れよ」
「何か飲むか?」
「ああ、酒はあるか?」
「あるが、どうした?飲みたい気分なのか?」
「まあな」
「確か、こないだウィルからもらったワインがあったな」
ポールはワインの栓を開けるとグラスに注いだ。
「で、どうした?何かあったのか?」
「だから、それは俺のセリフだ。クラリスと何かあったのか?」
「ゴホッ」
フレデリックの直球にポールがむせた。
「な、な、何だよ、突然」
「今日のお前はおかしかったぞ。いつもなら絶対に間違えないような注文をミスしたり」
今日、ポールは厨房を手伝っていた。
だが、入ってきた注文とは違うものを出してしまったり、付け合わせを忘れてしまったりと、いつものポールからは考えられないようなミスを連発していた。
「クラリスの方も少し様子がおかしかったしな。一体何があったんだ?」
「……全く、これだから妹大好き野郎は……」
ポールはグラスを一気に空けると、今日のディミトリの爆弾発言のことを説明した。
「クラリスに気になる奴がいるだと……」
話を聞いたフレデリックの、グラスを空けるピッチが一気に速くなった。
「ああ、確かにそう言っていた」
「誰だ、そいつは」
「さすがにあの場で誰かまでは言えねえだろ」
「だが、クラリスの周りにいる、可能性のある男なんて限られているだろ」
「……まあな」
「ポール、お前じゃないのか」
「そうだったらどんなにいいか……」
ポールもぐいぐいワインを飲み干していく。
「まさか、アンソニー様か……?」
「……可能性は高いだろうな……」
「……駄目だ。クラリスを貴族なんかにやってたまるか!」
誘拐事件以来、フレデリックの貴族嫌いは加速していた。誤解は解けたとポールから聞いた後も、金輪際関わりたくないと強く思っていた。
「クラリスはお前と一緒になる方が一番幸せになれるはずだ。貴族なんて、ましてや公爵家なんて、不幸になる未来しか見えないじゃないか!」
フレデリックが吐き捨てるように言う。
「お前がそう言ってくれるのは嬉しいけどな。……決めるのは俺達じゃない、クラリスだ」
ワインのボトルがあっという間に一本空になった。
「クラリスには既に俺の気持ちは伝えてある。だが、無理強いはできねえ。後はクラリス次第だ」
グイッとグラスを煽ると、ポールは酒のお代わりを探しに行った。
王宮に泊まっていけというウィルを振り切って、アリスはようやく自室に帰ってきた。そのままベッドにばたりと倒れ込む。
「なんなのよ、一体?!世継ぎは腹黒じゃなきゃダメって決まりでもあるの?!」
ディミトリの爆弾発言によって、ただのお見舞いだったはずの場がカオスと化した。
だが、当のディミトリ本人は、急いで公国に帰らないといけないと言って、馬に飛び乗り、さっさと帰ってしまった。
またすぐに戻ってくるという言葉と、いい笑顔を残して。
「あんな、クラリスちゃんを困らせるようなことをして、一体何が目的よ。ああ、でも、クラリスちゃんの気になる人が誰か気になる!」
最推しの推しならば、喜んで一緒に推さなければ!という思いと、最推しが誰か一人のものになってしまうかもしれないという辛さとで、アリスはだいぶ混乱していた。
「クラリスちゃんの気になる人……あああ!こうなったら、女子会でも開いて聞き出そうかしら!」
枕を抱えて身悶えするアリスの耳に、カイシャの厳しい声が聞こえてきた。
「アリスお嬢様!そのままだとお洋服が皺になるのでお帰りになったらまずはお着替えから、と何度申し上げたらおわかりになるんですか!」
クラリスのこととなると、相変わらずポンコツなアリスだった。
==========================
「はあああ……」
お見舞い?に来たという面々が引き上げていき、エラリーはベッドの上で一人、何十回目になるかわからないため息をついた。
「クラリス嬢の気になる人……」
結局あの後、イメルダに嗜められたジャンが嬉々としてイメルダと共に帰っていき、ディミトリも急ぎの用があると言って公国に帰って行った。
残された面々のうち、ポールとアンソニーは魂の抜けたような顔をしてふらふらと帰って行き、ウィルはアリスを無理矢理引きずって帰って行った。
そして、最後にドアを出たクラリスの、去り際の申し訳なさそうな顔が忘れられない。
「あの顔は、俺の気持ちに応えられなくて申し訳ないということだろうか……」
「やはりポールか……」
最初から自分には勝ち目のない闘いだったのだ。
「俺の第一印象は最悪だっただろうし、アンソニーのように気の利いた贈り物もできないし、ポールのように信頼されてもいないし……」
「はああ」
あの時。拉致されたクラリスを助け出し、腕の中に閉じ込めた時。その身体のあまりの小ささ、細さに驚いた。
何に代えても守りたいと強く思うと同時に、その柔らかくて甘い匂いのする身体を暴いてめちゃくちゃにしたいという暗い感情が芽生えたのも事実だ。
「こんな気持ち、どうしたらいいんだ……?」
いつもなら鍛錬に励むことで吹き飛ばしてきたモヤモヤが、ベッドの上ではただ積もっていくだけで、エラリーはひたすらため息をこぼすことしかできなかった。
========================
「ポールお兄ちゃん、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ、クラリス」
食堂を閉めて自宅に帰るポールに、クラリスが声をかけた。ポールは答えながら、いつものようにクラリスの頭を撫でようと手を伸ばして、一瞬躊躇った。
「?」
クラリスがきょとんとした顔でポールを見つめる。
「あ、いや、また明日な!」
そう言ってわしゃわしゃとクラリスの髪を撫でて、ポールは自宅へと帰っていった。
「ポール!」
自宅のドアを開けようとしていたポールの名を呼ぶ男がいた。
「フレディか?どうしたんだ?」
「どうしたはこっちのセリフだよ」
走って追いかけてきたのか、フレデリックは少し息が荒い。
「はあ、とりあえず、中に入れてくれ。話がしたい」
「……おう。入れよ」
「何か飲むか?」
「ああ、酒はあるか?」
「あるが、どうした?飲みたい気分なのか?」
「まあな」
「確か、こないだウィルからもらったワインがあったな」
ポールはワインの栓を開けるとグラスに注いだ。
「で、どうした?何かあったのか?」
「だから、それは俺のセリフだ。クラリスと何かあったのか?」
「ゴホッ」
フレデリックの直球にポールがむせた。
「な、な、何だよ、突然」
「今日のお前はおかしかったぞ。いつもなら絶対に間違えないような注文をミスしたり」
今日、ポールは厨房を手伝っていた。
だが、入ってきた注文とは違うものを出してしまったり、付け合わせを忘れてしまったりと、いつものポールからは考えられないようなミスを連発していた。
「クラリスの方も少し様子がおかしかったしな。一体何があったんだ?」
「……全く、これだから妹大好き野郎は……」
ポールはグラスを一気に空けると、今日のディミトリの爆弾発言のことを説明した。
「クラリスに気になる奴がいるだと……」
話を聞いたフレデリックの、グラスを空けるピッチが一気に速くなった。
「ああ、確かにそう言っていた」
「誰だ、そいつは」
「さすがにあの場で誰かまでは言えねえだろ」
「だが、クラリスの周りにいる、可能性のある男なんて限られているだろ」
「……まあな」
「ポール、お前じゃないのか」
「そうだったらどんなにいいか……」
ポールもぐいぐいワインを飲み干していく。
「まさか、アンソニー様か……?」
「……可能性は高いだろうな……」
「……駄目だ。クラリスを貴族なんかにやってたまるか!」
誘拐事件以来、フレデリックの貴族嫌いは加速していた。誤解は解けたとポールから聞いた後も、金輪際関わりたくないと強く思っていた。
「クラリスはお前と一緒になる方が一番幸せになれるはずだ。貴族なんて、ましてや公爵家なんて、不幸になる未来しか見えないじゃないか!」
フレデリックが吐き捨てるように言う。
「お前がそう言ってくれるのは嬉しいけどな。……決めるのは俺達じゃない、クラリスだ」
ワインのボトルがあっという間に一本空になった。
「クラリスには既に俺の気持ちは伝えてある。だが、無理強いはできねえ。後はクラリス次第だ」
グイッとグラスを煽ると、ポールは酒のお代わりを探しに行った。
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