130 / 139
ディミトリの苦悩
しおりを挟む
「まさか、大公家お抱え医師の六人のうち半分の三人が犯人だったとはね」
ジャンが呆れた顔で言った。
若い医師がポールを襲おうとしてミミに蹴り倒されていた頃、泡を食って公宮から逃げ出そうとしていた一人の医師がいた。
だが、王国から来ていた特務部隊の隊員達にあっさりと捕縛され、彼らの上司が待つ地下牢に放り込まれたのだった。
「おとなしくしていれば後から逃げ出す機会もあったかもしれないのに、馬鹿な奴らだ」
ウィルの手厳しい言葉に部屋にいた皆が頷いた。
アリスのおかげで薬物の解析作業を迅速に終えることができ、老医師の持っていた薬がダムシー子爵家からの違法薬物であることが確認された。
また、セベールとシビアの厳しい取り調べにより、実行犯である医師達三人と売人、そして、ポールを刺した男から自白を引き出すこともできた。
「これに、僕達が王国で確認した解析結果を加えれば、証拠としては十分でしょ」
「ああ、裁判で罪を問うには十分だ。間違いなく極刑に処されるだろう」
ディミトリがジャンの言葉を肯定する。
夜通し解析作業を行なっていたアリスや、タッカーと名乗る若い医師の言葉にひどいショックを受けたクラリス、そのクラリスに付き添っているイメルダの三人は続き部屋で休んでいる。
男性陣は交代で仮眠を取ったり、食事を取ったりするなどした後、今は全員がポールの元に集まっていた。
日は既に高く、全員疲労の色が濃い。
「ようやく事件が解決しそうだな」
エラリーが誰にともなく呟く。
「ひとまずは、ね。薬の出所がまだ明らかになってはいないのが気にかかるけどね」
ジャンが厳しい表情で言う。
シビアとその部下達によって厳しく取り調べられた売人の男によると、この薬物の取引を持ちかけて来たのは初めての相手だったらしい。
フード付きマントとマスクで顔も体も隠していたため素性はわからなかったと、涙を流しながら命乞いする男に嘘は言っている様子はなかったとは、トマスの言だ。
「子爵邸の急襲には成功したと思ったんだがな」
ディミトリが悔しそうに顔を歪める。
「残念ですが、公国内部に裏切り者がいるとしか思えませんね」
アンソニーが眼鏡を外して目元を押さえながら呟いた。少し休んだぐらいでは回復しないほどの疲労が蓄積しているのが見て取れる。
「……既にわかっていると思うが、今のブートレット大公家は孤立している。信頼できる人間があまりにも少な過ぎるんだ」
アンソニーの呟きを受けてディミトリがボソリと言った。
「現大公は愚かではないが……いかんせん優し過ぎる。優し過ぎて、必要な場合でも厳しい態度を取れないせいで、貴族の中に大公家に取って代わろうという勢力が出て来てしまったんだ」
常に笑っているような、ディミトリの垂れ気味の目が辛そうに閉じられる。
「元アーゴク侯爵家のやらかしもそこに起因するのか」
ウィルが合点がいったというように言った。
「なるほどね。それなら一連の事が説明がつくね。僕は前から不思議だったんだよね。どうしていつもディミトリ一人で頑張ってるんだろうって」
「……」
ジャンの容赦のない言葉にディミトリが唇を噛んだ。
「……私は君達が羨ましかったんだ。互いに信頼し合っていて、当たり前のように助け合っている君達が。だから、ポールを側近にと望んだ。公国に帰ってきて私を助けて欲しいと」
「ポールを側近に?」
「どういうことですか?」
エラリーとアンソニーの問いに、ディミトリはポールとの約束のことを打ち明けた。
「なっ、そんな、家族やクラリス嬢を盾にポールを脅すようなことをしたのか?!ポールが公国に帰って来てさえいなければ、こんなことにはならなかったはずだ!」
エラリーが怒り任せにディミトリに掴みかかろうとするのを、ジャンが止める。
「エラリー、落ち着いて。これは予想外の事態だったんだから」
「ジャン、いいんだ。今回の事件の責任の一端は私にある。私が会長に話を持ちかけたりしなければ、こんなことにはならなかった」
言って、ディミトリは眠り続けるポールの顔を見た。
「……ポール、本当にすまない。君とクラリス嬢を傷つけてしまった……」
「……」
ディミトリの悲痛な声に、エラリーも返す言葉がない。
「ポールとクラリス嬢だけではないな。君達全員に大きな負担をかけてしまった。ブートレット大公家はカリーラン王国に返せないほど多大な借りを作ってしまったね」
「……お、おい、さっ……きから……聞いて……りゃ……ゴホッ、ゴホッ」
「「「「「?!」」」」」
「……み、みず、水をく……れ……」
ひどくしゃがれたその声は、ポールが眠るベッドの方から聞こえてきた。
ジャンが呆れた顔で言った。
若い医師がポールを襲おうとしてミミに蹴り倒されていた頃、泡を食って公宮から逃げ出そうとしていた一人の医師がいた。
だが、王国から来ていた特務部隊の隊員達にあっさりと捕縛され、彼らの上司が待つ地下牢に放り込まれたのだった。
「おとなしくしていれば後から逃げ出す機会もあったかもしれないのに、馬鹿な奴らだ」
ウィルの手厳しい言葉に部屋にいた皆が頷いた。
アリスのおかげで薬物の解析作業を迅速に終えることができ、老医師の持っていた薬がダムシー子爵家からの違法薬物であることが確認された。
また、セベールとシビアの厳しい取り調べにより、実行犯である医師達三人と売人、そして、ポールを刺した男から自白を引き出すこともできた。
「これに、僕達が王国で確認した解析結果を加えれば、証拠としては十分でしょ」
「ああ、裁判で罪を問うには十分だ。間違いなく極刑に処されるだろう」
ディミトリがジャンの言葉を肯定する。
夜通し解析作業を行なっていたアリスや、タッカーと名乗る若い医師の言葉にひどいショックを受けたクラリス、そのクラリスに付き添っているイメルダの三人は続き部屋で休んでいる。
男性陣は交代で仮眠を取ったり、食事を取ったりするなどした後、今は全員がポールの元に集まっていた。
日は既に高く、全員疲労の色が濃い。
「ようやく事件が解決しそうだな」
エラリーが誰にともなく呟く。
「ひとまずは、ね。薬の出所がまだ明らかになってはいないのが気にかかるけどね」
ジャンが厳しい表情で言う。
シビアとその部下達によって厳しく取り調べられた売人の男によると、この薬物の取引を持ちかけて来たのは初めての相手だったらしい。
フード付きマントとマスクで顔も体も隠していたため素性はわからなかったと、涙を流しながら命乞いする男に嘘は言っている様子はなかったとは、トマスの言だ。
「子爵邸の急襲には成功したと思ったんだがな」
ディミトリが悔しそうに顔を歪める。
「残念ですが、公国内部に裏切り者がいるとしか思えませんね」
アンソニーが眼鏡を外して目元を押さえながら呟いた。少し休んだぐらいでは回復しないほどの疲労が蓄積しているのが見て取れる。
「……既にわかっていると思うが、今のブートレット大公家は孤立している。信頼できる人間があまりにも少な過ぎるんだ」
アンソニーの呟きを受けてディミトリがボソリと言った。
「現大公は愚かではないが……いかんせん優し過ぎる。優し過ぎて、必要な場合でも厳しい態度を取れないせいで、貴族の中に大公家に取って代わろうという勢力が出て来てしまったんだ」
常に笑っているような、ディミトリの垂れ気味の目が辛そうに閉じられる。
「元アーゴク侯爵家のやらかしもそこに起因するのか」
ウィルが合点がいったというように言った。
「なるほどね。それなら一連の事が説明がつくね。僕は前から不思議だったんだよね。どうしていつもディミトリ一人で頑張ってるんだろうって」
「……」
ジャンの容赦のない言葉にディミトリが唇を噛んだ。
「……私は君達が羨ましかったんだ。互いに信頼し合っていて、当たり前のように助け合っている君達が。だから、ポールを側近にと望んだ。公国に帰ってきて私を助けて欲しいと」
「ポールを側近に?」
「どういうことですか?」
エラリーとアンソニーの問いに、ディミトリはポールとの約束のことを打ち明けた。
「なっ、そんな、家族やクラリス嬢を盾にポールを脅すようなことをしたのか?!ポールが公国に帰って来てさえいなければ、こんなことにはならなかったはずだ!」
エラリーが怒り任せにディミトリに掴みかかろうとするのを、ジャンが止める。
「エラリー、落ち着いて。これは予想外の事態だったんだから」
「ジャン、いいんだ。今回の事件の責任の一端は私にある。私が会長に話を持ちかけたりしなければ、こんなことにはならなかった」
言って、ディミトリは眠り続けるポールの顔を見た。
「……ポール、本当にすまない。君とクラリス嬢を傷つけてしまった……」
「……」
ディミトリの悲痛な声に、エラリーも返す言葉がない。
「ポールとクラリス嬢だけではないな。君達全員に大きな負担をかけてしまった。ブートレット大公家はカリーラン王国に返せないほど多大な借りを作ってしまったね」
「……お、おい、さっ……きから……聞いて……りゃ……ゴホッ、ゴホッ」
「「「「「?!」」」」」
「……み、みず、水をく……れ……」
ひどくしゃがれたその声は、ポールが眠るベッドの方から聞こえてきた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
115
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる