【完結】転生ヒロインと転生(?)悪役令嬢は逆ハーエンドを回避したい! 〜R18禁エンドはごめんです!〜

koromachi

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目覚め

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「ポ、ポール?!......はい!水だよ!ゆっくり飲んで!」

 ジャンが一早く動き、ポールの頭を支えると、サイドテーブルに置かれていた吸飲みをポールの口元に持っていく。ポールの喉がゆっくりと動き、少しずつ吸飲みの中味が減っていくのが見える。

「……ふう」

 ジャン以外の四人はしばらく何も言えずに固まっていたが、吸飲みから口を放し、息を吐いたポールの元にワッと駆け寄った。


「「「「ポール!」」」」


「ゴホン……ン、ン、あー、ようやく声が出せたぜ……ちっ、体は全然動かないな。ジャン、悪い、起こしてくれ。あー、まあ、何があったかはこれからゆっくり聞くとして。とりあえず、ディミトリ、お前、馬鹿だろ」

「?!」

「ポ、ポール?!公世子殿下に向かって、いくらなんでもそれは不敬にあたりますよ!」

 目覚めるなり爆弾発言をかますポールにアンソニーが焦る。

「あ?だってよ、言ってることが馬鹿過ぎてよ。俺を友達だと思っているなら、権力を振りかざして上から命令するんじゃなくて『助けてくれ』って言えばいいだけだろ。あんな脅迫まがいの命令をされなくても、友達が困っていたら助けるに決まってるだろ」

 エラリーとジャンに支えられながら、ベッドの背にもたれたまま、ポールがディミトリを真っ直ぐ見て言う。

 一月近く寝たきりだった体からは肉が落ちて、頬はこけ、肌もくすんでいたが、そのペールブラウンの目に浮かぶ強い光は健在だった。

「ポール……君は私を友人と呼んでくれるのか……」

 ディミトリが呆然とした様子で尋ねる。

「あ?当たり前だろ?俺達は友達になったんだろ?お前がわざわざ一人で食堂までお節介やきに来た時にな。違うのか?」

「ポール……」

 ディミトリの瞳に光るものが浮かんだ。



 カチャ


「あら、皆様お揃いでしたか」

 続き部屋の扉が開き、アリスが姿を見せた。その後ろにクラリスとイメルダが続く。

「メル!」

 イメルダの姿を認めたジャンが、ポールの背中を支えていた手を放し、嬉しそうにイメルダの元に駆け寄る。

「っつ、おい、ジャン!急に手を放すなよ!」

 ヘッドボードに頭をぶつけそうになったポールがジャンに文句を言った。


「……え?ポールお兄ちゃん……?」

 久しぶりに聞くポールの声に、クラリスの瞳が大きく見開かれる。

「ポールお兄ちゃん!」

 次の瞬間、クラリスは思い切り駆け出すと、エラリーに支えられてベッドに半身を起こしているポールに飛びついた。

「ポールお兄ちゃん!ようやく、ようやく、目が覚めたのね……!」

「クラリス、ごめんな。心配かけたみたいだな」

 ポールにしがみついて子供のようにワンワン泣き始めたクラリスに、ポールが優しく言った。

「ああ、くそ、クラリスを抱き締めたいのに、腕が動かせないぜ。俺はいったいどれぐらい眠っていたんだ?」

「約一月ですよ」

 ポールの問いにアンソニーが答える。その目は少し寂しそうに、だが、優し気に細められていた。

「さっきの話によると、俺は医者に薬を盛られていたのか?」

「そうですよ。ポールはいつから目が覚めていたんですか?」

「お前達が部屋に入ってきた時ぐらいだな。だんだんと意識が戻ってきて、お前達の声がぼんやりと聞こえていた」

「どの辺からちゃんと聞こえていたの?」

 イメルダの横にピッタリくっつきながら、ジャンが聞く。

「六人のうち三人が犯人とかっていうところからだな」

「起きてるとすぐに伝えなかったのはどうしてだ?」

 ウィルが逃げるアリスを捕まえながら聞く。 

「意識が戻ってからもなかなか目を開けられなくてな。声を出そうにも口が動かないんだ。動かし方を忘れちまったみたいにな。今だってそうだ。指一本自由に動かせねえ」

「一月も寝たきりだったんですから、それは仕方ありませんわ。特にポールさんに使われていた薬は強いものでしたから……でも大丈夫です。これから少しずつ動かす練習をしていけばいいんです」

 アリスがウィルと距離を取ろうともがきながら言った。

「大丈夫。ポールならすぐに元気になるよ。だって、一月寝てて起きてすぐに、公世子を『馬鹿』呼ばわりするぐらいだからね」

 腕の中にイメルダを閉じ込めてニコニコ顔のジャンが言う。

「安心しろ。鍛錬なら俺が付き合ってやる」

 ポールの背中を支えながら、エラリーも言った。

「……まだしばらくみんなに迷惑かけるな。すまないが、よろしく頼む」

 ポールが言って、ほんのわずかだけ頭を下げた。

「ひとまず、オランジュリー商会長に急いで連絡しないといけないね。私は少し失礼するよ」

「ああ、ディミトリ、頼んだぜ。」

 にっこり笑って、ディミトリが急ぎ足で部屋を出て行く。

 その背を見送りながら、ポールが皆にこれまでの経緯を尋ねた。

「それで、俺が刺された後、何があったのかを教えてくれ」
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