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家に帰ろう
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「しっかり支えろ、落とすなよ!」
公宮内にオランジュリー商会長のダミ声が響く。
「お、おい!ちょっと待ってくれよ!こんな急に移動しなくても!もう少し体が動くようになってからでも……って、おい!」
屈強な男達が二人がかりでポールの体を持ち上げると、騒ぐポールを無視して公宮の外に連れ出した。
「おい、じいさん、何考えてんだよ!」
「こんな恐ろしい所にお前をいつまでも置いておけるか!離れの用意もできているし、さっさと引き上げるぞ!」
「んな、勝手な!おい、ディミトリ、見てないで止めろよ!」
「ポール、これは皆で話し合って決めたことだ。君はここにいるよりオランジュリー家にいる方が安全だ」
ディミトリが至極真面目な顔でポールに説明する。
「マジかよ?!ウィル、アンソニー、お前らも同意していたのか?!」
「うーん、まあ、以前に同意していた話だと言えばそうかもしれないな」
ディミトリがオランジュリー家に報告しに向かってから数時間後、ドタバタとやってきたのはポールの祖父のオランジュリー商会長だった。
目を覚ましたポールを見て涙目になったのは一瞬で、すぐに、連れて来た男達に大声で命令すると、有無を言わさず、ポールを部屋から連れ出した。
「ナタリーは家でお前が帰ってくるのを今か今かと待ってるんだぞ!急いで帰るぞ!」
「い、いや、母さんに心配かけたのは悪いと思ってるけどさ!いくらなんでもこれはないだろ?!」
「……ひとまず、私達も一緒にオランジュリー家に移動しましょう。オランジュリー商会長、よろしいですね?」
アンソニーの冷静な声に、皆が頷いた。
======================
「では、エラリー、クラリス嬢とポールを頼みましたよ」
「ああ、任せてくれ」
ドタバタと騒がしい引っ越しが終わり、ポールとクラリスは無事オランジュリー家の離れへと移った。
事件が解決したこともあり、いつまでも王国を留守にするわけにもいかず、クラリス以外の面々はすぐに帰国することが決まった。
「俺は残る」
皆が帰国の準備を進める中、エラリーが宣言した。
「何言ってんだよ、エラリー。学園の休暇はとっくに終わってるんだろ?俺のことはいいからさっさと帰れよ」
オランジュリー家の離れのベッドの上で、少しずつでも体を動かそうと、汗を流しながらポールが言った。
「そうですよ!エラリー様にご迷惑をおかけするわけにはいきません」
クラリスも驚いた顔で言う。
「いいんだ。いずれにしろ俺は学園を辞めるつもりだったから」
「……もしかして、あの話を受けるつもりなのか?」
「あの話って……ああ、アルセー辺境伯の養子になる話?」
事情を知るウィルとアンソニーが確認する。
「そうだ。俺は辺境伯の養子になる。のんびり学園を卒業している時間はないからな。準備が整い次第、アルセー辺境伯領へ向かうつもりだ。だから、今更学園をどれだけ休もうが問題はない」
「……エラリー、本当にいいんですか?」
アンソニーが気遣わし気に尋ねる。
「ああ。もう決めたことだ。だが、今の状態のポールを置いていくのは気がかりだからな。ポールが王国に帰れるぐらい回復するまでは俺もここに残る」
エラリーがきっぱりと言い、アンソニーを真っ直ぐに見た。
「……わかりました。オランジュリー商会長、彼もここに滞在させていただいてよろしいでしょうか?」
「もちろん構わんぞ!離れとはいえ、十分な広さがあるからな!」
「お友達がいてくれるなら、ポールもクラリスちゃんも心強いわよね」
ポールの祖父と母が快諾し、エラリーの残留が決まった。
「セベール殿とトマス、それにハートネット公爵家のミミを残していく。万が一何かあれば、すぐに私達に連絡して欲しい」
ウィルがエラリーに念押しする。
「ああ。大丈夫だ。毎日報告をあげるようにしよう」
「……エラリー。くれぐれも無理はしないように。私は君に『役目』を引き継ごうとは思っていませんから」
心配そうなアンソニーの言葉にエラリーが破顔する。
「わかっている。これは俺が好きでやっていることだ」
「全く……」
アンソニーも口角を上げた。
「あの、アンソニー様……!」
アリスやイメルダとの別れの挨拶を済ませたクラリスがアンソニーに声をかけた。
「クラリス嬢?どうしました?」
アンソニーが久々のとびきり甘い顔と声で振り向いた。
「あ、あの、私、アンソニー様にたくさんお世話になって……ご迷惑ばかりおかけしたのに、何もお礼もできなくて……申し訳ございません!」
クラリスが勢いよく頭を下げる。ふわふわと柔らかそうな金髪がキラキラと光った。
「迷惑など何も。……クラリス嬢、私はあなたの側にいられたならそれでいいんです……たとえそれが短い間だったとしても」
「アンソニー様……」
アンソニーの言葉にクラリスの目には涙が浮かんだ。
「……クラリス嬢」
アンソニーがクラリスの手を引き、一瞬だけ強く抱き締めると、すぐに身体を離した。
「さようなら、クラリス嬢」
びっくりした顔で目を丸くしているクラリスに向かってにっこり笑うと、少しだけ寂しそうに言ってアンソニーは馬車へと乗り込んだ。
公宮内にオランジュリー商会長のダミ声が響く。
「お、おい!ちょっと待ってくれよ!こんな急に移動しなくても!もう少し体が動くようになってからでも……って、おい!」
屈強な男達が二人がかりでポールの体を持ち上げると、騒ぐポールを無視して公宮の外に連れ出した。
「おい、じいさん、何考えてんだよ!」
「こんな恐ろしい所にお前をいつまでも置いておけるか!離れの用意もできているし、さっさと引き上げるぞ!」
「んな、勝手な!おい、ディミトリ、見てないで止めろよ!」
「ポール、これは皆で話し合って決めたことだ。君はここにいるよりオランジュリー家にいる方が安全だ」
ディミトリが至極真面目な顔でポールに説明する。
「マジかよ?!ウィル、アンソニー、お前らも同意していたのか?!」
「うーん、まあ、以前に同意していた話だと言えばそうかもしれないな」
ディミトリがオランジュリー家に報告しに向かってから数時間後、ドタバタとやってきたのはポールの祖父のオランジュリー商会長だった。
目を覚ましたポールを見て涙目になったのは一瞬で、すぐに、連れて来た男達に大声で命令すると、有無を言わさず、ポールを部屋から連れ出した。
「ナタリーは家でお前が帰ってくるのを今か今かと待ってるんだぞ!急いで帰るぞ!」
「い、いや、母さんに心配かけたのは悪いと思ってるけどさ!いくらなんでもこれはないだろ?!」
「……ひとまず、私達も一緒にオランジュリー家に移動しましょう。オランジュリー商会長、よろしいですね?」
アンソニーの冷静な声に、皆が頷いた。
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「では、エラリー、クラリス嬢とポールを頼みましたよ」
「ああ、任せてくれ」
ドタバタと騒がしい引っ越しが終わり、ポールとクラリスは無事オランジュリー家の離れへと移った。
事件が解決したこともあり、いつまでも王国を留守にするわけにもいかず、クラリス以外の面々はすぐに帰国することが決まった。
「俺は残る」
皆が帰国の準備を進める中、エラリーが宣言した。
「何言ってんだよ、エラリー。学園の休暇はとっくに終わってるんだろ?俺のことはいいからさっさと帰れよ」
オランジュリー家の離れのベッドの上で、少しずつでも体を動かそうと、汗を流しながらポールが言った。
「そうですよ!エラリー様にご迷惑をおかけするわけにはいきません」
クラリスも驚いた顔で言う。
「いいんだ。いずれにしろ俺は学園を辞めるつもりだったから」
「……もしかして、あの話を受けるつもりなのか?」
「あの話って……ああ、アルセー辺境伯の養子になる話?」
事情を知るウィルとアンソニーが確認する。
「そうだ。俺は辺境伯の養子になる。のんびり学園を卒業している時間はないからな。準備が整い次第、アルセー辺境伯領へ向かうつもりだ。だから、今更学園をどれだけ休もうが問題はない」
「……エラリー、本当にいいんですか?」
アンソニーが気遣わし気に尋ねる。
「ああ。もう決めたことだ。だが、今の状態のポールを置いていくのは気がかりだからな。ポールが王国に帰れるぐらい回復するまでは俺もここに残る」
エラリーがきっぱりと言い、アンソニーを真っ直ぐに見た。
「……わかりました。オランジュリー商会長、彼もここに滞在させていただいてよろしいでしょうか?」
「もちろん構わんぞ!離れとはいえ、十分な広さがあるからな!」
「お友達がいてくれるなら、ポールもクラリスちゃんも心強いわよね」
ポールの祖父と母が快諾し、エラリーの残留が決まった。
「セベール殿とトマス、それにハートネット公爵家のミミを残していく。万が一何かあれば、すぐに私達に連絡して欲しい」
ウィルがエラリーに念押しする。
「ああ。大丈夫だ。毎日報告をあげるようにしよう」
「……エラリー。くれぐれも無理はしないように。私は君に『役目』を引き継ごうとは思っていませんから」
心配そうなアンソニーの言葉にエラリーが破顔する。
「わかっている。これは俺が好きでやっていることだ」
「全く……」
アンソニーも口角を上げた。
「あの、アンソニー様……!」
アリスやイメルダとの別れの挨拶を済ませたクラリスがアンソニーに声をかけた。
「クラリス嬢?どうしました?」
アンソニーが久々のとびきり甘い顔と声で振り向いた。
「あ、あの、私、アンソニー様にたくさんお世話になって……ご迷惑ばかりおかけしたのに、何もお礼もできなくて……申し訳ございません!」
クラリスが勢いよく頭を下げる。ふわふわと柔らかそうな金髪がキラキラと光った。
「迷惑など何も。……クラリス嬢、私はあなたの側にいられたならそれでいいんです……たとえそれが短い間だったとしても」
「アンソニー様……」
アンソニーの言葉にクラリスの目には涙が浮かんだ。
「……クラリス嬢」
アンソニーがクラリスの手を引き、一瞬だけ強く抱き締めると、すぐに身体を離した。
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