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「しかし、目が覚めてからまだ一月足らずだなんて信じられないな」
オランジュリー家の食堂で夕食を取りながら、ウィルが感心したように言った。
ポールが目覚めてから四週間近くが経とうとしていた。クラリスとエラリーの献身的な支えもあってか、ポールは目覚ましい回復を見せていた。
今は自力でベッドから起き上がり、ゆっくりなら一人で歩ける所まで回復していた。食事も、最初は薄いスープだけだったのが、すぐに肉を食べたいと言い出し、今では周囲と全く同じものを食べられるようになっていた。
ジャンとイメルダは週末毎にやってきては、クラリスに授業の内容を教えたり、ポールのリハビリに付き合ったりしてくれていたが、ウィル、アンソニー、アリスの三人は公務に加えて生徒会の仕事も溜まっており、なかなか時間を作ることができていなかった。
そんな中、ようやく時間の空いたウィルとアリスは久しぶりに公国を再訪したのだった。
「本当に……一月も完全に寝たきりだったんですから、普通なら日常生活に戻れるまでに半年かかってもおかしくないところなんですが。全く驚きですわ」
アリスも驚いて、目の前で普通に食事をしているポールをまじまじと見つめる。
「アリス、私以外の男をそんなに見つめるなんて、悪い子だね」
「これは……!もう、言いがかりですわ!」
「あー、いちゃいちゃするなら王国に帰ってからにしてくれよな。ったく」
ウィルとアリスのやり取りに、ポールがうんざりした声を出す。
「ポールお兄ちゃんたら。せっかくお見舞いに来てくださったのに失礼よ!」
ポールの隣に座ったクラリスがたしなめる。
「そうだぞ、ポール。お前はもう少し礼儀作法を学ばんとな!さあ、みんな、遠慮しないでバンバン食べてくれ!」
オランジュリー商会長が大声で言った。
「けっ、どの口が言ってるんだか」
目の前に座る人間を隣国の王太子だと認識しているとはとても思えない、いつも通りのざっくばらんな祖父の口調に、ポールが悪態をつく。
「あ、メル、これ美味しいよ。食べてごらん」
「まあ、こんなに美味しいお魚は初めてです!」
「この白ワインとよく合いますわね」
「うん、料理もお酒も最高だね。トニーも来られたら良かったのにな」
四人が口々に料理を褒め称える。
「……アンソニーはそんなに忙しいのか?」
ウィルが何気なく発した言葉に、エラリーが反応した。
「ああ。公務は私と手分けして終わらせたが、トニーの場合は公爵家嫡男としての仕事もあるからね。私よりも余程忙しいよ」
「あの、アンソニー様は、体調は大丈夫なんでしょうか?公国にいらした際もかなりご無理をされていたと思うのですが」
クラリスが心配そうに首をかしげる。
「まあ、ああ見えてトニーも常人とは鍛え方が違うからね。大丈夫だと思うよ」
ウィルはにっこり笑うと、優雅な仕草でグラスを飲み干した。
=======================
コンコン
夜も更けた頃、ウィルの泊まる部屋をノックする者がいた。
「ウィル、俺だ、ポールだ。入ってもいいか?」
珍しく遠慮がちなポールの声に、ウィルは躊躇わず扉を開けた。
「ポールもようやくノックの意味を学んだようだな」
いつもの王子様スマイルでポールを出迎えると、ポールがソファに座るのをさり気なく手助けする。
「いや、万が一お取り込み中だったらと思ってな。俺はまだ死にたくないんでな」
「ふふふ。さすがに人様の屋敷で婚約者に手を出すほど馬鹿じゃないよ、私も」
「なら良かったけどな…………遅い時間にすまない。アンソニーの様子を聞きたくてな。あいつは、その……大丈夫なのか……?」
ポールが真面目な顔になって聞いた。
「『大丈夫』という言葉の意味が『生きている』ということであれば、『大丈夫』だな」
「……」
「元気かどうかという意味であれば、まあ、元気なんじゃないかな、体は。何かを忘れようとするかのように、ひたすら仕事で時間を埋めて、自分を追い込んでいるよ」
「……俺が眠らされていた一月の間、クラリスの側でずっと支えていてくれたと聞いた。アンソニーがいなければ、クラリスは壊れてしまっていたかもしれないともな」
「そうだな。それは間違ってはいないよ」
「あいつは、もう……クラリスのことを諦めたのか?」
「さあ。それは本人に聞かないとわからないけどね。ただ……」
「ただ?」
「目覚めないポールを心配するクラリス嬢の姿を見たら、クラリス嬢の想い人はポールで間違いないと誰もが思っただろうね」
「そうか……ふっ、俺にとっては嬉しいことのはずなんだがな」
ウィルの言葉に、ポールが自嘲気味に微笑んだ。
「私としては大事な側近が幸せになってくれたらいいと思ってはいたが、だからといって、ポールとクラリス嬢が二人で幸せになることが嫌だとは思わない。むしろ、祝福したいと思うよ。そして、それはトニーも同じだと、ね」
「ウィル……だが、俺はアンソニーに何て言えばいいんだ?」
「何も。何も言う必要はないと思うが。トニーは君の友人だろう?」
ウィルが優しく微笑む。
「……そうだな」
ポールは自分を納得させるように何度も頷くと、ソファの背もたれを支えにしてゆっくりと立ち上がった。
「明日も早いってのに、悪かったな。ゆっくり休んでくれ」
「水くさいな。部屋まで送るよ」
ウィルはにっこり笑うと、扉を開け、ポールが歩いて来るのを待った。
オランジュリー家の食堂で夕食を取りながら、ウィルが感心したように言った。
ポールが目覚めてから四週間近くが経とうとしていた。クラリスとエラリーの献身的な支えもあってか、ポールは目覚ましい回復を見せていた。
今は自力でベッドから起き上がり、ゆっくりなら一人で歩ける所まで回復していた。食事も、最初は薄いスープだけだったのが、すぐに肉を食べたいと言い出し、今では周囲と全く同じものを食べられるようになっていた。
ジャンとイメルダは週末毎にやってきては、クラリスに授業の内容を教えたり、ポールのリハビリに付き合ったりしてくれていたが、ウィル、アンソニー、アリスの三人は公務に加えて生徒会の仕事も溜まっており、なかなか時間を作ることができていなかった。
そんな中、ようやく時間の空いたウィルとアリスは久しぶりに公国を再訪したのだった。
「本当に……一月も完全に寝たきりだったんですから、普通なら日常生活に戻れるまでに半年かかってもおかしくないところなんですが。全く驚きですわ」
アリスも驚いて、目の前で普通に食事をしているポールをまじまじと見つめる。
「アリス、私以外の男をそんなに見つめるなんて、悪い子だね」
「これは……!もう、言いがかりですわ!」
「あー、いちゃいちゃするなら王国に帰ってからにしてくれよな。ったく」
ウィルとアリスのやり取りに、ポールがうんざりした声を出す。
「ポールお兄ちゃんたら。せっかくお見舞いに来てくださったのに失礼よ!」
ポールの隣に座ったクラリスがたしなめる。
「そうだぞ、ポール。お前はもう少し礼儀作法を学ばんとな!さあ、みんな、遠慮しないでバンバン食べてくれ!」
オランジュリー商会長が大声で言った。
「けっ、どの口が言ってるんだか」
目の前に座る人間を隣国の王太子だと認識しているとはとても思えない、いつも通りのざっくばらんな祖父の口調に、ポールが悪態をつく。
「あ、メル、これ美味しいよ。食べてごらん」
「まあ、こんなに美味しいお魚は初めてです!」
「この白ワインとよく合いますわね」
「うん、料理もお酒も最高だね。トニーも来られたら良かったのにな」
四人が口々に料理を褒め称える。
「……アンソニーはそんなに忙しいのか?」
ウィルが何気なく発した言葉に、エラリーが反応した。
「ああ。公務は私と手分けして終わらせたが、トニーの場合は公爵家嫡男としての仕事もあるからね。私よりも余程忙しいよ」
「あの、アンソニー様は、体調は大丈夫なんでしょうか?公国にいらした際もかなりご無理をされていたと思うのですが」
クラリスが心配そうに首をかしげる。
「まあ、ああ見えてトニーも常人とは鍛え方が違うからね。大丈夫だと思うよ」
ウィルはにっこり笑うと、優雅な仕草でグラスを飲み干した。
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コンコン
夜も更けた頃、ウィルの泊まる部屋をノックする者がいた。
「ウィル、俺だ、ポールだ。入ってもいいか?」
珍しく遠慮がちなポールの声に、ウィルは躊躇わず扉を開けた。
「ポールもようやくノックの意味を学んだようだな」
いつもの王子様スマイルでポールを出迎えると、ポールがソファに座るのをさり気なく手助けする。
「いや、万が一お取り込み中だったらと思ってな。俺はまだ死にたくないんでな」
「ふふふ。さすがに人様の屋敷で婚約者に手を出すほど馬鹿じゃないよ、私も」
「なら良かったけどな…………遅い時間にすまない。アンソニーの様子を聞きたくてな。あいつは、その……大丈夫なのか……?」
ポールが真面目な顔になって聞いた。
「『大丈夫』という言葉の意味が『生きている』ということであれば、『大丈夫』だな」
「……」
「元気かどうかという意味であれば、まあ、元気なんじゃないかな、体は。何かを忘れようとするかのように、ひたすら仕事で時間を埋めて、自分を追い込んでいるよ」
「……俺が眠らされていた一月の間、クラリスの側でずっと支えていてくれたと聞いた。アンソニーがいなければ、クラリスは壊れてしまっていたかもしれないともな」
「そうだな。それは間違ってはいないよ」
「あいつは、もう……クラリスのことを諦めたのか?」
「さあ。それは本人に聞かないとわからないけどね。ただ……」
「ただ?」
「目覚めないポールを心配するクラリス嬢の姿を見たら、クラリス嬢の想い人はポールで間違いないと誰もが思っただろうね」
「そうか……ふっ、俺にとっては嬉しいことのはずなんだがな」
ウィルの言葉に、ポールが自嘲気味に微笑んだ。
「私としては大事な側近が幸せになってくれたらいいと思ってはいたが、だからといって、ポールとクラリス嬢が二人で幸せになることが嫌だとは思わない。むしろ、祝福したいと思うよ。そして、それはトニーも同じだと、ね」
「ウィル……だが、俺はアンソニーに何て言えばいいんだ?」
「何も。何も言う必要はないと思うが。トニーは君の友人だろう?」
ウィルが優しく微笑む。
「……そうだな」
ポールは自分を納得させるように何度も頷くと、ソファの背もたれを支えにしてゆっくりと立ち上がった。
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