27 / 45
連載
閑話② 走馬灯4(カーライル・ネスト・ヘイシス)
しおりを挟む
一目惚れだのビビッと電流が走り抜けただのということはない。
その時はただなんとなく『似ている』と、そんな気が少し、ほんの少しだけしたけだった。
面影があるというわけではなく。
髪の色も、瞳の色も違う。
顔の造作という点ではマリアの方がずっと似通っている。
叔母と姪の間柄なのだから当然といえば当然だが。
ただその笑顔は、似ているように思った。
絵本を読み聞かせた後で。
兄に連れられて時おり見舞いに訪れたベッドの上で見せられたおだかやな、優しい笑みに。
彼女が従妹であるマリアとその幼馴染みのティオネの二人と友人になったことで、彼女の周りはわずかだが変化を始めたように見えた。
二人のファンクラブを中心に少しずつ周囲に他人が増えていく。
以前なら他人を見下すような笑いしか見たことのなかった彼女が(もっとも、挨拶を交わす程度でまともに話をしたこともなく遠目に見かけた程度ではあるが)楽しげに声を上げて笑い、親しげに下位貴族の令嬢に話しかける。
密やかに囁かれる噂を彼女は知っているだろうか。
『まるで、別人のようだ』
ーーと。
その噂が実のところ核心を付いていたということを他ならぬ彼女に聞かされたのは、ある休日のこと。
「私、本当はエリカ・オルディスではなく日生楓という人間なんです」
この世界が彼女のいた世界ーー日本とかいう国のゲームをモデルに創られた世界で、そのゲーム『恋愛クライシス戦乙女』をやりこんでいた彼女はこの世界の未来を知っていると。
そのゲーム知識(?)によると、彼女ーーエリカ・オルディスは悪役令嬢で、同級生で同じく聖女候補である少女、カノンは後の聖女でありヒロインなのだという。
作り話にしてももう少しマシなものがあるだろう。
しかもそのゲームで、カーライル・ネスト・ヘイシスはヒロインの隠れ攻略キャラであり、カノンと恋人になれば皇帝になるらしい。
ただし、兄上の命と引き換えに。
彼女の話はあまりに馬鹿馬鹿しい荒唐無稽なもので。
けれど。
ただの作り話にしては『できすぎ』なもので。
知りすぎている。
秘匿されているはずの自分の素性。
ヘイシス皇国の事情。
彼女はおそらく気づいているだろう。
それでも口にしている。
自身が害される可能性があることをわかった上で。
どうすべきか。
曖昧な笑みを浮かべながら、頭の中ではいくつかの答が目まぐるしく巡っていく。
頭のおかしい妄想癖のある娘と捨て置くか。
その場合はマリアたちにも関係を改めるように一言伝える必要があるか?
いや、マリアはともかくティオネはーーあの天使の顔をした性悪が一度懐に入れた者を簡単に捨てることに頷くことはないだろう。
なんといっても、彼女はティオネたちの熱烈なファンだ。
自身の身近な大事なものと演劇だけを何よりを重きにおくティオネのこと、多少難があろうが頭がアレだろうが自身のファンである限り表面的には『お友だちごっこ』を続ける。
もちろん自身の大事なものーーマリアや演劇部の部員たち、演劇そのものに害が出るとなれば容赦なく切り捨てるだろうが。
そもそもあのティオネが多少頭のおかしい女の妄想に巻き込まれてどうこうされるものか?
そう考えるとそのティオネに大事なものーー演劇のパートナーであるマリアも大丈夫だと思える。
彼女の言う自称神さまとやらも、キャスティングを間違っている。
ヒロインがティオネなら、カノン等よりずっと上手く完璧な聖女を演じるだろうし、今のエリカ・オルディスの立場ならなんの迷いもなくとうにカノンを踏み潰し断罪するだろうに。
身分が違うのだ。
方や侯爵令嬢で方や父親は男爵位にあるとはいえ自身は平民にすぎないただの聖女候補。
未来の聖女とはいえ、現時点でいまだ暗黒竜の復活が認められていない以上、カノンはあくまでもただの聖女候補であり、所詮皇太子のお気に入りなだけでしかない。
デマカセでもなんでもいい。
未来で断罪され破滅するというのであれば、その前にアチラを先に破滅させてしまえばいい。
ティオネであればそうするであろうし、たとえば二番目の兄ーーサナム・ネスト・ヘイシスであってもそうするであろう。
幼い頃の俺に散々毒を盛ったり刺客を差し向けてきたように。
彼女は甘い。
彼女は甘くて優しすぎて愚かしい。
こんな馬鹿げた作り話としか思えないーーけれどおそらく彼女自身は、真実だと思いこんでいる話を、他人に話してしまうほどに。
利用すべきか。
ただの作り話、嘘。
もしくは妄想と断じるには彼女の話はできすぎている。
彼女が知るはずのない過去。
彼女が知るはずのない事実。
そういったものがいくつも含まれている。
ならば、彼女の記憶を利用すれば。
きっと数多くのものが手に入るのかも知れない。
「……まったく」
ーーやっぱり彼女は甘い。
聖女だから、そう告げたのに。
彼女自身でなく、聖女のエリカ・オルディスを手に入れる。
そのことにメリットがあると。
それでも尚、怪我をしたとなると大慌てで治癒するのだから。
彼女を利用するために近づいていたのだと、気付いただろうに。
甘くて優しい。愚かしくて、危なかしくて、見ていると面白い。
懐かしいあの女性たちにどこか似た彼女。
穏やかな笑顔は産みの母親に。
荒唐無稽で妙なところでやたらと行動力がある、放っておけないところは、二番目の母親に。
「一番愚か者なのは俺かな?」
利用するために近づいたくせに。
いつの間にかすっかり囚われている。
「……もうはっきり言うたったらええやん!」
「なにを?いまさら?」
「俺マザコンやねーんって。そんであんさんはかーちゃんによう似とるから好きになってもうたんやってーっ!」
「いや、それは……」
さすがに、見も蓋もなさすぎだろう。
まあ、事実ではあるのだけれど。
その時はただなんとなく『似ている』と、そんな気が少し、ほんの少しだけしたけだった。
面影があるというわけではなく。
髪の色も、瞳の色も違う。
顔の造作という点ではマリアの方がずっと似通っている。
叔母と姪の間柄なのだから当然といえば当然だが。
ただその笑顔は、似ているように思った。
絵本を読み聞かせた後で。
兄に連れられて時おり見舞いに訪れたベッドの上で見せられたおだかやな、優しい笑みに。
彼女が従妹であるマリアとその幼馴染みのティオネの二人と友人になったことで、彼女の周りはわずかだが変化を始めたように見えた。
二人のファンクラブを中心に少しずつ周囲に他人が増えていく。
以前なら他人を見下すような笑いしか見たことのなかった彼女が(もっとも、挨拶を交わす程度でまともに話をしたこともなく遠目に見かけた程度ではあるが)楽しげに声を上げて笑い、親しげに下位貴族の令嬢に話しかける。
密やかに囁かれる噂を彼女は知っているだろうか。
『まるで、別人のようだ』
ーーと。
その噂が実のところ核心を付いていたということを他ならぬ彼女に聞かされたのは、ある休日のこと。
「私、本当はエリカ・オルディスではなく日生楓という人間なんです」
この世界が彼女のいた世界ーー日本とかいう国のゲームをモデルに創られた世界で、そのゲーム『恋愛クライシス戦乙女』をやりこんでいた彼女はこの世界の未来を知っていると。
そのゲーム知識(?)によると、彼女ーーエリカ・オルディスは悪役令嬢で、同級生で同じく聖女候補である少女、カノンは後の聖女でありヒロインなのだという。
作り話にしてももう少しマシなものがあるだろう。
しかもそのゲームで、カーライル・ネスト・ヘイシスはヒロインの隠れ攻略キャラであり、カノンと恋人になれば皇帝になるらしい。
ただし、兄上の命と引き換えに。
彼女の話はあまりに馬鹿馬鹿しい荒唐無稽なもので。
けれど。
ただの作り話にしては『できすぎ』なもので。
知りすぎている。
秘匿されているはずの自分の素性。
ヘイシス皇国の事情。
彼女はおそらく気づいているだろう。
それでも口にしている。
自身が害される可能性があることをわかった上で。
どうすべきか。
曖昧な笑みを浮かべながら、頭の中ではいくつかの答が目まぐるしく巡っていく。
頭のおかしい妄想癖のある娘と捨て置くか。
その場合はマリアたちにも関係を改めるように一言伝える必要があるか?
いや、マリアはともかくティオネはーーあの天使の顔をした性悪が一度懐に入れた者を簡単に捨てることに頷くことはないだろう。
なんといっても、彼女はティオネたちの熱烈なファンだ。
自身の身近な大事なものと演劇だけを何よりを重きにおくティオネのこと、多少難があろうが頭がアレだろうが自身のファンである限り表面的には『お友だちごっこ』を続ける。
もちろん自身の大事なものーーマリアや演劇部の部員たち、演劇そのものに害が出るとなれば容赦なく切り捨てるだろうが。
そもそもあのティオネが多少頭のおかしい女の妄想に巻き込まれてどうこうされるものか?
そう考えるとそのティオネに大事なものーー演劇のパートナーであるマリアも大丈夫だと思える。
彼女の言う自称神さまとやらも、キャスティングを間違っている。
ヒロインがティオネなら、カノン等よりずっと上手く完璧な聖女を演じるだろうし、今のエリカ・オルディスの立場ならなんの迷いもなくとうにカノンを踏み潰し断罪するだろうに。
身分が違うのだ。
方や侯爵令嬢で方や父親は男爵位にあるとはいえ自身は平民にすぎないただの聖女候補。
未来の聖女とはいえ、現時点でいまだ暗黒竜の復活が認められていない以上、カノンはあくまでもただの聖女候補であり、所詮皇太子のお気に入りなだけでしかない。
デマカセでもなんでもいい。
未来で断罪され破滅するというのであれば、その前にアチラを先に破滅させてしまえばいい。
ティオネであればそうするであろうし、たとえば二番目の兄ーーサナム・ネスト・ヘイシスであってもそうするであろう。
幼い頃の俺に散々毒を盛ったり刺客を差し向けてきたように。
彼女は甘い。
彼女は甘くて優しすぎて愚かしい。
こんな馬鹿げた作り話としか思えないーーけれどおそらく彼女自身は、真実だと思いこんでいる話を、他人に話してしまうほどに。
利用すべきか。
ただの作り話、嘘。
もしくは妄想と断じるには彼女の話はできすぎている。
彼女が知るはずのない過去。
彼女が知るはずのない事実。
そういったものがいくつも含まれている。
ならば、彼女の記憶を利用すれば。
きっと数多くのものが手に入るのかも知れない。
「……まったく」
ーーやっぱり彼女は甘い。
聖女だから、そう告げたのに。
彼女自身でなく、聖女のエリカ・オルディスを手に入れる。
そのことにメリットがあると。
それでも尚、怪我をしたとなると大慌てで治癒するのだから。
彼女を利用するために近づいていたのだと、気付いただろうに。
甘くて優しい。愚かしくて、危なかしくて、見ていると面白い。
懐かしいあの女性たちにどこか似た彼女。
穏やかな笑顔は産みの母親に。
荒唐無稽で妙なところでやたらと行動力がある、放っておけないところは、二番目の母親に。
「一番愚か者なのは俺かな?」
利用するために近づいたくせに。
いつの間にかすっかり囚われている。
「……もうはっきり言うたったらええやん!」
「なにを?いまさら?」
「俺マザコンやねーんって。そんであんさんはかーちゃんによう似とるから好きになってもうたんやってーっ!」
「いや、それは……」
さすがに、見も蓋もなさすぎだろう。
まあ、事実ではあるのだけれど。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。