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エリカ入れ替わり大作戦?
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私の様子が切羽詰まって見えたのか。
御者は慌てて馬車を道の脇に止めた。
それを見た先導の兵士が馬車に近付くと御者と話し始めて。
周りを囲んでいた兵士たちも何事かと馬首をそちらに向けた。
私はその隙にこっそりドアを僅かに開く。
ほんの10センチほど。
その隙間から私の影から出て三毛猫の姿になったフィムがするんと外に出ると馬車の下に隠れた。
口に先ほど返された依頼料の入った巾着袋をくわえて。
私はそっとドアを閉じて窓ごしに周りを窺う。
(……セーフ)
気づかれなかったっぽい。
逆のドアから外を覗くと、反対側から馬車の下を抜けたフィムが道を横切って狭い路地に入ったのが見えた。
フィムの姿が消えて、すぐにその路地から見覚えのある女性が出てくる。
茶色の髪に、金茶の瞳。
白いブラウスに黄色いフレアスカートのその女性は窓ごしに私と目を会わせ小さく頷いた。
すぐに視線を逸らして足早にその場を離れていく。
と、その背が近くの服屋に入っていった。
私がその姿を見送っていると、コンコンと馬車のドアがノックされる。見ると先導していた兵士がドアの側に立っていた。
「……貴方、もしかしてドアの前で立ってるつもりじゃないでしょうね?」
真新しい雰囲気のスイーツ店の入り口を入ったところで、私は後ろを振り返って着いてきた兵士に声をかけた。
「いや、その……護衛ですので」
「だからって店の中にまで着いてくるなんて!私に恥をかかせるつもりなの?」
「そのようなつもりは……」
ツン、顎を反らして言うと、兵士はあからさまに狼狽えて視線を脇に逸らす。
馬車が止められた場所から二軒ほど奥にあったスイーツ店に「あそこがいいわ!」と強引に先に立って歩いてきて、さっさと一人中に入った。
「いらっしゃいませ」
とウェイトレスが声を上げるカウンターの前で、店の中にまで着いて来ようとしていた兵士に抗議中。
ここを選んだのは都合がいいから。
二階建ての可愛らしい外観のスイーツ店。
買い物途中に若い女性が休憩に立ち寄るのを狙って作られたのだろうこの店なら、店内に目的の場所が設けられているはずだ。
服屋や雑貨屋では店の奥にあるだろうからね。
「……あら、美味しそうね」
入り口のすぐ横手にはレジカウンターがあり、その下部は沢山の種類が並んだケーキのショーケースになっていた。
色とりどりの果物が飾られたケーキは、お世辞抜きにキレイで美味しそう。
「お持ち帰りもできますよ」
にっこり笑顔のウェイトレスがここぞとばかりに乗ってくる。
「なら邸の皆の手土産にしようかしら。貴方、ここから適当に20個ほど買っておいてちょうだい」
そう兵士に告げる私の後ろを、店に入ってきた女性が追い抜いていく。
茶色の髪に白いブラウスのその女性は、近くにいたウェイトレスに声をかけると、二階への階段を上がっていった。手に大きな布の袋を抱えて。
「化粧室はどちらかしら?」
とはウェイトレスに。
「二階の奥にございます」
答えたウェイトレスに「ありがとう」と声をかけて、私は女性の背を追って階段に足を向けた。
慌てて追いかけようとした兵士にナイスタイミングでウェイトレスが「20個というでしたらこちらとこちらが特に人気の商品ですのでこちらを入れてあと二種類か三種類お選び頂けばよろしいかと」と言って微笑む。
女性なら誰だってトイレの前で立っていてほしくない。
そう思っての援護射撃だったのだろうけど、なかなかできたウェイトレスだ。
私は心の中で彼女に礼を言って、階段を上がった。
大勢の若い女性たちがテーブルに着くフロアを横切って奥に向かう。
衝立で仕切られた奥に小さな手洗い場とトイレらしいドアがあった。
私が衝立の奥に入ると、ドアから私が出てきた。
正確には私に模倣したフィムが。
相変わらず本物の私よりも可愛らしい気がする。
ふんわり笑みを浮かべるのが可憐だ。
手には何も持っていない。
ちら、とドアの奥を覗くと、先ほどまでフィムが手に持っていた袋はドアの脇に置かれていた。
「私はチロさんの宿にいるから、後はよろしくね?」
「はい。先にクロさんに向かってもらいますね」
「……クロ、来るかしら」
なんか面倒そうだから家に残るとか言い出しそうな気もするのよね。
「もちろん。行くに決まってますよ」
「だといいけど」
短い会話をすれ違い様にした私とフィムは、ゆっくりとした足取りでフロアを歩いていく。
私はというとトイレに入って、フィムが残した袋を開いた。
御者は慌てて馬車を道の脇に止めた。
それを見た先導の兵士が馬車に近付くと御者と話し始めて。
周りを囲んでいた兵士たちも何事かと馬首をそちらに向けた。
私はその隙にこっそりドアを僅かに開く。
ほんの10センチほど。
その隙間から私の影から出て三毛猫の姿になったフィムがするんと外に出ると馬車の下に隠れた。
口に先ほど返された依頼料の入った巾着袋をくわえて。
私はそっとドアを閉じて窓ごしに周りを窺う。
(……セーフ)
気づかれなかったっぽい。
逆のドアから外を覗くと、反対側から馬車の下を抜けたフィムが道を横切って狭い路地に入ったのが見えた。
フィムの姿が消えて、すぐにその路地から見覚えのある女性が出てくる。
茶色の髪に、金茶の瞳。
白いブラウスに黄色いフレアスカートのその女性は窓ごしに私と目を会わせ小さく頷いた。
すぐに視線を逸らして足早にその場を離れていく。
と、その背が近くの服屋に入っていった。
私がその姿を見送っていると、コンコンと馬車のドアがノックされる。見ると先導していた兵士がドアの側に立っていた。
「……貴方、もしかしてドアの前で立ってるつもりじゃないでしょうね?」
真新しい雰囲気のスイーツ店の入り口を入ったところで、私は後ろを振り返って着いてきた兵士に声をかけた。
「いや、その……護衛ですので」
「だからって店の中にまで着いてくるなんて!私に恥をかかせるつもりなの?」
「そのようなつもりは……」
ツン、顎を反らして言うと、兵士はあからさまに狼狽えて視線を脇に逸らす。
馬車が止められた場所から二軒ほど奥にあったスイーツ店に「あそこがいいわ!」と強引に先に立って歩いてきて、さっさと一人中に入った。
「いらっしゃいませ」
とウェイトレスが声を上げるカウンターの前で、店の中にまで着いて来ようとしていた兵士に抗議中。
ここを選んだのは都合がいいから。
二階建ての可愛らしい外観のスイーツ店。
買い物途中に若い女性が休憩に立ち寄るのを狙って作られたのだろうこの店なら、店内に目的の場所が設けられているはずだ。
服屋や雑貨屋では店の奥にあるだろうからね。
「……あら、美味しそうね」
入り口のすぐ横手にはレジカウンターがあり、その下部は沢山の種類が並んだケーキのショーケースになっていた。
色とりどりの果物が飾られたケーキは、お世辞抜きにキレイで美味しそう。
「お持ち帰りもできますよ」
にっこり笑顔のウェイトレスがここぞとばかりに乗ってくる。
「なら邸の皆の手土産にしようかしら。貴方、ここから適当に20個ほど買っておいてちょうだい」
そう兵士に告げる私の後ろを、店に入ってきた女性が追い抜いていく。
茶色の髪に白いブラウスのその女性は、近くにいたウェイトレスに声をかけると、二階への階段を上がっていった。手に大きな布の袋を抱えて。
「化粧室はどちらかしら?」
とはウェイトレスに。
「二階の奥にございます」
答えたウェイトレスに「ありがとう」と声をかけて、私は女性の背を追って階段に足を向けた。
慌てて追いかけようとした兵士にナイスタイミングでウェイトレスが「20個というでしたらこちらとこちらが特に人気の商品ですのでこちらを入れてあと二種類か三種類お選び頂けばよろしいかと」と言って微笑む。
女性なら誰だってトイレの前で立っていてほしくない。
そう思っての援護射撃だったのだろうけど、なかなかできたウェイトレスだ。
私は心の中で彼女に礼を言って、階段を上がった。
大勢の若い女性たちがテーブルに着くフロアを横切って奥に向かう。
衝立で仕切られた奥に小さな手洗い場とトイレらしいドアがあった。
私が衝立の奥に入ると、ドアから私が出てきた。
正確には私に模倣したフィムが。
相変わらず本物の私よりも可愛らしい気がする。
ふんわり笑みを浮かべるのが可憐だ。
手には何も持っていない。
ちら、とドアの奥を覗くと、先ほどまでフィムが手に持っていた袋はドアの脇に置かれていた。
「私はチロさんの宿にいるから、後はよろしくね?」
「はい。先にクロさんに向かってもらいますね」
「……クロ、来るかしら」
なんか面倒そうだから家に残るとか言い出しそうな気もするのよね。
「もちろん。行くに決まってますよ」
「だといいけど」
短い会話をすれ違い様にした私とフィムは、ゆっくりとした足取りでフロアを歩いていく。
私はというとトイレに入って、フィムが残した袋を開いた。
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