(私が)酔って襲った氷の貴公子様にいつの間にか外堀を埋められてました。

黒田悠月

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第一回 ルーディン・ルールー脳内会議 

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「…………うにゅにゅにゅにゅ~、っん」

ゴロゴロゴロゴロ。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。

自室の、自分の慣れ親しんだベッド。
その上を掛布を身体に巻き込みながら右へ左へゴロゴロゴロゴロ。
転がって転がって、ぱたん、と仰向けに大の字で止まった私。

ルーディン・ルールーうら若き乙女な18才。

ただいまおおいに混乱中。



「……うぬぬん」

ガバリと両腕と両足ではだけてぐちゃぐちゃになった掛布を抱き込んで呻いた。

わかんない。
わかんない。
もうなんだかよくわからない!

あれだ。
使用人が主家の御曹司のお茶になんかわからん液体を混入したのだ。
結果的に飲むまでは未遂に済んだとはいえ、普通、速攻クビだよね?
クビどころかお縄頂戴して獄門打ち首待ったナシ、でも全然おかしくない。
だって相手はお貴族様なのだ。
私みたいななんちゃって貴族な男爵家ーーヨソの男爵家様ごめんなさい。全部がそうとは思ってません。ちゃんと貴族らしい男爵家もいますよね、はい。でもうちはそうなんですぅ!!とは違う。
候爵家なんだよ。

コ・ウ・シャ・ク・家!!

国全体でも公爵家、候爵家合わせて12しかないレアものです。
お国の規定で12と決まっている。
となるとどこかの伯爵家辺りが上に上がるとなった場合、現存するどこかの家が降格することになる。
よほどでないとない話だけど、歴史上これまで6家ほどの入れ代わりがあったらしい。
が、ハルトバレル家は建国以来ずっと候爵家である。
特にここ何代かは商会で儲けて税金たっぷり払ってるから国の覚えもよろしい。

そんなハルトバレル候爵家の嫡男で跡継ぎ様なお方のお茶に異物混入した私。


ーー何故、ベッドの上で呑気に転がってるんだろうか。

しごく当たり前な疑問を頭で呟いて、私はまたぱったりと仰向けになった。
実家と違いシミ一つない白い天井をボンヤリ見つめていると。





ふと、頭の中でちょっぴり冷静っぽい部分の自分が囁いた。

「まずは、何が起きたのか、事件を洗い直してみては?」

すると、
また、少し違う私が、

「なるほど!イイね!!」

と頭の中でグッジョブする。

しているのはミニチュアな私だ。
明るい栗色の胸の上あたりまでの髪に、輪郭はミニチュアだから丸っこく、手足は短く、茶色の目は大きめに。
ちょいとお腹ポッコリなのはご愛嬌。
……よいよい。
よし、そちを…………とりあえず第一号と名付けよう。

何を始めたのかというと、一人脳内遊びである。
よくわからんことをウダウダ一人でただ思い悩んでいるよりも、少々遊びが入っているくらいの方が案外頭が整理できそうな気がする。
ただのやけっぱちとも言うが。


頭の中にミニチュア第一号をスタンバイさせ、まずは宣言から。

「これより第一回ルーディン・ルールー脳内会議を始めます!!」

パチパチパチ。

第一号「意見のある方はまず挙手をお願いします」

「はいっ!では私からっ」

と、ボワンと出てきて手を上げたのは頭に赤いリボンをした私。ニ号だな。

第二号「やはり状況を整理するべきだと思います。まずこれまでに起きた出来事を思い起こしてみましょう」
第一号「イイね!!」
第二号「アル様に捕まったあたりからでしょうか」

第二号が考え込むように顎に手をあてる。
するとまたボワンと出てきた三号が「はい!」と挙手した。今度は私が仕事時によくしているお団子頭である。

第三号「それよりも前の段階から。具体的に言うと今朝起きた時点から検証すべきだと思います。それと言うのも、私が思うに大きな疑問点が3つあるからです」

短い指を3本立てて、三号ははふん、と鼻息を吐いた。

第一号「なるほど、イイね!!」
第二号「疑問点とは?」
第三号「はい、まずは何故私は今朝メリーの庵に行ったのかと言うことです」
第二号「薬をもらいにでは?」
第三号「そこが2つ目の疑問なのです。お嬢様のお世話をしている時点では私はメリーの庵に『薬をもらいに行った』と認識していました。ですがその後……こほん、アル様とのムニャムニャな夢を思い出した時には『夢について相談しに行った』となってから、とってつけたように『ついでに薬ももらいに行った』になりました。何故このような認識の違いや変化が起きたのでしょう?そもそも本当にそれらの理由で私はメリーのところに行ったのでしょうか」
第二号「なるほど1つ目が何故メリーの庵に行ったのか。2つ目が何故奇妙な認識の変化が起きたのか、ですね。あと1つは?」

私はムフムフしながら、脳内会議を続行していく。
いいよっ!なんかいいね、それっぽいよ。
特に三号。ちょっと推理っぽい。

第一号「ふんふんイイね!!」

一号、一番ダメな子の気配がするよ。

第三号「はい。私は何故アル様のお茶に小瓶の液体を混入したのでしょうか。それにあの液体はいったい何だったのですか?」
第二号「疑問が4つになってませんか?というか、あの液体の小瓶は何故私のポケットに入っていたのでしょう。そういえばメリーにもらった薬もあります。あれも何の薬なんですか?」

一号ニ号三号「「「…………う~ん」」」

ダメじゃん!
結局それっぽく疑問を並べただけだった。
しかもいっぱいあり過ぎて余計混乱してきた!


第二号「ひとまず疑問は横に置いておきましょう」
第三号「そうですね。では時系列で今朝の出来事を思い起こしてみましょうか」
第一号「イイね!!」

第三号はどこからか黒縁眼鏡を取り出して掛けた。
クイっと指で縁を持ち上げてみせる。

三号、恰好だけのような気がしてきた。
あとの砦は二号だけか。
頼むよ!二号!!


ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー

ーーーーー

結果。
わからん。

疑問ばかりが増えるだけであったよ。

私自身のこともわかんないし、アル様のこともわからない。
私は何故アル様の姿を見て逃げ出したのか。
何故急にお茶を飲ませなくちゃって思ったのか。

アル様はあの後、黒い笑顔ではあったけれど、私を責めはしなかったのだ。
思い起こしてみても、アル様は一言だって私を責めはしなかった。
もしかしたら私が入れたものは毒だったかも知れないのに。ただ私から小瓶を取り上げて、くるんと私を回して正面から私を見下ろして優しく頬に触れただけ。

「疲れてるんだろ。だからこういうおかしな真似をする」

そう言って、なんでかこめかみに軽く唇で触れてきて、「寝てろ」ってベッドに促されて、アル様は部屋を出て行って、今に至る。

「それってチュ~されたってこと?」

頭の中で、ミニチュアルーディンが言う。
って一号!脳内で変なこと言うなっ!
オマエさんの出番はもう終わりなの!!
「イイね!!」だけ言ってろ!!!

アル様は近頃スキンシップが激しいのだ。
それだけなのだ。


「ーーはあぁ……」

もう、全部なかったことになったらいいのに。


それは、ふいに頭の中に訪れた誘惑だった。

頭の中で、私が作り出した私のミニチュアたちがグニャリと歪んで、三人いたのが、一人の私になった。
でも少し違う。
顔は私。

だけど私の瞳の色は茶色。
なのに頭の中のミニチュアルーディンは赤い瞳をしている。

どこかで見たことのある瞳だと思った。

「全部夢にしたらいいんだよ」

赤い瞳の私がしたり顔で言った。

「わからないこと、疑問なこと、都合の悪いこと」

なんだろう。
ぐわんぐわんする。
頭の中でミニチュアルーディンの声がぐわんぐわん反響してる。

赤い瞳が私を見てる。

「ルー」

あれ?声が、

「ゆうべあったことは全部夢だったのよ」

私の声?なんか違う気がする。

「いいじゃない。都合の悪いことはすべて夢で。何が悪いの?人間なんて皆そんなものよ?覚えていて都合の悪いことは忘れるの。なかったことにするの。別に悪いことなんかじゃない」

ミニチュアルーディンの髪が、赤い。
いつの間にか、赤い。

赤い瞳、赤い髪、赤い唇。

「私は今朝メリーの所になんて最初から行ってないよ?ゆうべはお酒を飲んで、寝て、起きて、いつも通りの朝。ただちょっと体調が悪くて、部屋に帰されたの。その後も、誰とも会ってない。ここで寝ていただけ」

今度は私の声だ。
赤い瞳、赤い髪、赤い唇の私が言う。

「都合の悪いことは全部夢なのよ、ほら、邸に帰って、部屋に帰って、眠るの。ぐっすりと寝たら、ルーが困ることは全部夢になるから」

あぁ、また違う声。
でも聞いたことのある声。


眠い。

私、考えごとをしてると眠れない方なのに。
すごく、眠い。

「いいんだよ。寝ちゃおう!寝て、起きたらわからないこと、都合の悪いことは全部夢になってくれるんだから、だから、寝ちゃおう?」

また私のものに戻った声が私を甘く誘惑する。

「ルー、ルーディン。おやすみなさい。いい夢を」

赤い魔女が私を誘惑する。
私はうん、うんそうだね、と頭の中で頷いてーー寝た。






















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